森の女神ファウナ・森の魔法に関する解説①
イタリア・シチリア島(作中現時点ではアドノス島)。エトナの森の貴族階級として生まれ育ったファウナ・デル・フォレスタ。今作品にて欠かす事出来ない森の魔法。
ファウナの地元エトナ※(※作品冒頭当初の呼称)の森を護るべく、森の女神に成ろうと彼女が至った経緯について、操る魔法を検証する観点から解説してゆきたい。
尚、作中でも語られているので読み飛ばしても影響ないので安心して頂きたい。筆者が改めて森の魔法を考察し直した駄文と捉えて構わない。また数多い為、全2回とした。
1.森を守るべく自らを『森の女神』と定義した術式
森で魔法と言えば精霊術が思い浮かぶことであろう。実際彼女の呪文中、森の精霊ドリュエルに端を発したものが存在する。
然しながらそれらは少数派である。また『私の森を護りたい』といった目的の割、数多の攻撃魔法が存在する。
森を護る為には、そもそも賊を森に入れない事を重要視しているのだ。
だが森の精霊術だけで攻撃の術式を導き出すのは実に難しいと言わざる負えない。
そこでファウナは神聖術と精霊術の融合により、これを補う方法を編み出した。元来神聖術とは信仰する神へ祈りや供物を捧げ、力を引き出す。
一方、精霊術は火・水・風・土の4大精霊へ働き掛け、力を引き出すか。或いは精霊そのものを召喚して術を行使するのが一般的とされる。
けれどもファウナの場合、自身を神と定義している為、祈りの術式は皆無と言って過言でない。
彼女は何かに祈るのはでなく、森を発端にした事象を引き出す事を主目的としている。
寄って彼女の魔導書に記述されている呪文詠唱は、先ず起こしたい事象在りき。事象に関わる言葉を列挙し、そこへ必要なら精霊達も織り交ぜる良い処取りな形を成している。
2.詠唱は存在している
始めて扱う術以外、大抵の術式に於いて呪文の詠唱をしている様に見えないファウナ。然し先程の解説通り、実の処、呪文詠唱は全ての術式に於いて当然存在する。
実際彼女直筆の魔導書には全ての呪文詠唱が記載してある。魔導書を持ち歩くのを極力避けるべく、腕時計型端末に魔導書の呪文詠唱を移してある。
ファウナはこれを黙読するか、或いは詠唱が至極簡単で頭の中に入っている場合、考えるだけで成立可能。
魔法に取って本来、詠唱とは欠かせないものだ。何故なら事象を産む切欠になり得るからだ。要は心を込めるか音読という判り易い形にするかの違いしかない。
増してやファウナの様に自分独自の編み出した術なら猶更と言えよう。他の魔導士が書いた魔法を発動する際、魔導書を逐一確認せず、それ処か魔法名さえ言う必要がない術も中には存在する。
然し大抵の場合、魔導書が頭に入っているから故、引き出しているに過ぎない。特に人間より高い知能と長寿で知られるエルフ族などは、人間よりこの引き出しの優位性があるに違いない。
次は神聖術と精霊術の掛け合わせで事象を発生させている森の女神の術式から、代表的なものを幾つか列挙して解説したい。
2.森の刃
覚醒したファウナが初めて使った魔法がこの『森の刃』である。森の木の葉を木の刃と解釈。金属の刃の様な葉を幾重にも飛ばす少々洒落が効いた術。
実はこの術、ファウナが魔導書に初めて書き記した。然も5歳の頃である。発端が実にファウナらしいド天然。子供らしく葉と刃を解釈違いしたという笑えない冗談めいた話なのだ。
一応擁護するなら自然界にも草や葉が刃……攻撃性を帯びる例は存在する。草はススキ系等の葉に触れると切れるものが在る。またサボテンの中には周囲を流れる空気を感じ取り、針を飛ばす種類も在る。
だいぶ解釈に無理が在る感が否めない『森の刃』。
然しながら初歩級の魔法故、発動時間が非常に短く連射が可能。ファウナが『森の刃、森の刃』と繰り返す場面が良く存在する。これは音読詠唱が極めて短いから為せる。
また応用が利くのも利点。
雷の術式『雷神』を森の刃の渦中に打ち込み、電撃を拡散させた『森の雷鳴』が存在する。
3.雷神・爆炎・紅の爆炎
森に取って天敵というべき山火事。それにも拘わらずこの3つの呪文は天敵を呼び込む何とも矛盾を孕んだ術式である。
(1)雷神
落雷は山火事の呼び水に成り得る。ファウナはこの『雷神』構築時、山火事を拡散させないこと。さらに森に生きる者達が迷わず避難出来る様、森に道を築く事を優先とした。
『雷神』は雷雲からの落雷というより、術者自身を雷雲に見立て、そこから全方向へ雷撃を帯状に撃ち出す術である。
横方向へ幅にして約15mの雷撃の帯を撃ち出す事で山中に道を築く。同時に山火事の現況である火元を吹き飛ばすのだ。
(2)爆炎
爆炎──森を護るのに炎とは全く以って不合理極まる術式。
『爆炎』は、爆の方へイメージ特化した呪文。避難経路を確保せねばならぬ程、拡散した山火事でなく火元が小さい内にこれを爆散させる。
寄って『爆炎』の爆発力は小規模に抑えられる。但し術者が込める魔力の大小による火力調整が自在。姉『ゼファンナ』は、この爆炎の一撃で戦闘機を爆散させた。
また『爆炎』は、『森の刃』同様、呪文詠唱が極めて短い故、魔法の弱点である黙読を極めて短く出来る優秀な術式である。
(3)紅の爆炎
『雷神』や『爆炎』より矛盾極まる最大手の呪文。『爆炎』の上級魔法に位置している。その火力たるや護りを完全に蔑ろにした恐るべき威力を誇る。
これでは山火事を火元から吹き飛ばすのでなく、本来護るべき森そのもの全てを喪失させてしまう。『爆炎』の上位魔法で在りながら考え方が根底から異なる術式である。
『紅の爆炎』は、女神の力を世に知らしめる術式。
こんなげに恐ろしき女神に歯向かう愚を人民へ悟らせ『我が森に手を出すな、出したが貴様の最後』と無言の圧力を掛けるのだ。
寄って考案者のファウナ自身、ヴァロウズNo4の神聖術士『パルメラ・ジオ・アリスタ(初戦当時)』との戦闘時、冷汗もので初めてお披露目した次第。
まるで『兵器を所有してるから我が国土に手を出すな』と言う現代社会の自衛手段に似ている感覚といえよう。