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第177話 真実のマーダ生誕の刻

 マーダによる太陽神ディスラドに対する精神汚染は、最早(もはや)止める(すべ)を持ち得ない……。


 ファウナ・デル・フォレスタは悔しさ(にじ)ませながらも、姉ゼファンナへ風の精霊術『言の葉(ことのは)』によるフォルテザで帰りを待つ仲間達への注意伝達を依頼するのだ。


 ゼファンナは此処までの戦いに於いて余りに飛ばし過ぎた。魔力(マナ)が底を尽きそうである。魔力(マナ)が完全に失われた者は思考停止──即ち(すなわち)脳死を意味する。


 それにも(かか)わらず魔力(マナ)に余裕の有るファウナ自身ではなく、危険な状態にあるゼファンナへ依頼したのは何故か。以後の戦闘に於ける自分の魔力(マナ)消費への備え?


「ふぅ……OK。取り合えず伝達し終えたわよ。()()の出撃準備だけは、か・な・り怪しいけどね」


 優秀たる魔導士のゼファンナが、流石に一息つき、操縦席の背もたれへ後ろ側から寄り掛かる。


「ありがとう姉さん、無理言ってごめんなさい」


「ンッ……良いのよ。そうね、落ち着いたら三毛猫亭(みけねこてい)(おご)ってくれたらチャラにしてあげる。それより……」


 ファウナ、顔は向けずとも誠心誠意を込めた労い(ねぎらい)の言葉を姉へ送る。


 姉の方、実の処冷汗モノだが笑顔混じりの冗談(Joke)……というより『必ず生きて二人一緒に帰るのよ』といった誓いを含んだ応答。加えて太陽を背にした白い天使(ディスラド)へ厳しい視線を送る。


「……」


 此方の心配の種についてファウナは無言で応えるだけ。──と思いきや左腕部に装備した軽量重視の超電子銃(レールガン)太陽(ディスラド)目掛けて照準合わせを始めるではないか。


 パチン。


『エス・ポロ・シエーネ・ルクエアーニ。現世の人間共に巣食う混沌(こんとん)よ……』


「──ッ!?」


 不要な筈のファウナの詠唱。然もこの術、姉ゼファンナを模倣(もほう)した威力最強呪文(スペル)原子の連鎖(ディスディ・ラトーン)相違(そうい)ない。


 これを態々(わざわざ)拡声器(スピーカー)全開で狙った獲物に対する当て付けの如く紡ぎ(つむぎ)出す。


『──堕天使(ルシファー)すら飲み干せぬ知恵の果実を得た人の渇望(かつぼう)聖盃(せいはい)より(あふ)れ出す……』


 凛々(りり)()()()ファウナの声。間違いなく発射後、威力に耐え切れず破壊するであろう超電子銃(レールガン)に波動が溜る。詠唱が地獄への秒読み(カウントダウン)に聴こえる戦慄(恐怖)


『──悪魔(サタン)の地より来たれ破壊の衝動。人の創りし最大の禁忌(きんき)……』


 森の女神(ファウナ)の詠唱が淡々(たんたん)と機械仕掛けの様に間もなく終わりを告げる。


 これはまさしく自分が神の化身だと驕り(おごり)昂る(たかぶる)様子に映る。人に向けて決して撃ってはならぬもの。天罰(てんばつ)を与えるかの如く冷淡(れいたん)貫く(つらぬく)のだ。


「ま、待ってファウナッ!! アレはレヴァーラでもあるんじゃないのッ!!」


 ゼファンナがファウナの細腕を横から強く握り締め止めようとする。ゼファンナ自身、愚かな行為だと理解している。詠唱を終えた魔法を止める術など在りはしない。


『──『原子の連鎖(ディスディ・ラトーン)』』


 最強術の名称を告げるのに無感情が過ぎるファウナ。嘗て浮島での一戦にて姉ゼファンナと相殺した術の火花がマーダ(レヴァーラ)混じるディスラドへ向け、無慈悲(むじひ)にも放たれた。


 ズギューーーンッ!!


 壮絶(そうぜつ)たる火柱が白いディスラドへ一目散。地上から様子を見ているオルティスタ、ラディアンヌ、パルメラ母子も言葉が出ない。


「──ぬんッ!!」


「避けたッ!?」


 間もなくマーダの意識で塗り潰されるディスラドが最後の最期に見せる抵抗。光速の如き火柱が迫り征くのを背中の翼羽ばたかせ、紙一重で(かわ)したのだ。


 ファウナ・デル・フォレスタ、独りほくそ笑む。実母の血縁を形にした冷笑。


「フフッ、成程……まだ望みは在るのがこれで良く判ったわ」


「──ファウナッ!?」


 肩を僅かに揺すり嗤う(わらう)ファウナの様子に、俄か(にわか)には信じ難き顔のゼファンナ。妹と揃い(そろい)の蒼き瞳を大きく見開く。ファウナ自身は真逆に目を細める。


「ゼファンナ姉さん、もしアレがPerfect(完璧)なる太陽なら私の撃った核攻撃(ディスディ・ラトーン)()()、真正面から受けて立つわ間違いなくね」


「──ッ!? 試し撃ちだったというのッ!?」


 ファウナが紛い(まがい)物の太陽神を見下す声と視線。ゼファンナとて妹の真意を理解した。


 理解こそしたが、もし当たっていたなら白い天使(ディスラド)元・黒(レヴァーラ)の女神(・ガン・イルッゾ)が揃って消滅したかも知れない。キレたファウナの本質(サガ)を大いに見せつけられ背筋が凍る。


 ディスラドが暗転(ヴァンシオネ)を用い、完璧な太陽を己の元に落としたのであれば、確かに原子の連鎖(ディスディ・ラトーン)はマッチの火を燃え盛る焚火(たきび)へ落した愚かな行動とみなされる。


 太陽に限らず自ら光り輝く恒星(こうせい)ならば星の()()そのものが核の嵐に等しき存在。


 ファウナの放った核攻撃。だいぶ言葉に語弊(ごへい)こそあるが、さくりと言えば超巨大なる核融合炉(かくゆうごうろ)()()()()()()()()だけだ。


 そんな()()()攻撃を歯を食い縛り決死の覚悟で避けたディスラド。陽光こそ危険な太陽なれど存在自体まで染まり切ってはいなかった何よりの証。


 現時点では避ける以外の選択肢がなく、やがてさらに能力がさらに開花し、偽り(いつわり)が真実へ昇華(しょうか)する可能性も否定は出来ない──だが光明(こうみょう)は見えた!


 ──それに種は既に仕掛けてあるのよ。これなら充分やれるわ(戦えるわ)


 ファウナ秘中の秘。溺愛(できあい)するレヴァーラの意識こそ消えはしたが、勝利への道筋、確実に捉えた確信がある。後は味方をこれ以上失わぬ様、万全を尽くすのみ。


「く、クククッ……試したなファウナ・デル・フォレスタ。やはり()()()あることをする」


「──グッ!?」


「あ、嗚呼……つ、遂に()()()()しまったのね」


 見た目真っ白であったディスラドの髪の毛が()()()()黒に染まる。加えて鋭き碧眼(蒼い眼)翠眼(緑色の瞳孔)転嫁(てんか)を遂げた。


 されどそんな見た目よりファウナ必死の行動を『可愛げ』と言葉緩ませるのが紛う(まごう)ことなきマーダ(レヴァーラ)だと知る。『ククッ』と笑う辺りレヴァーラの(くせ)が目立つのが余計に辛い。


 声音は男性──ディスラドなのに何とも形容し難いレヴァーラ時代が端々(はしばし)に見えては霞む(かすむ)


 始めて恋慕(れんぼ)した女性の面影(おもかげ)()()()の内に見るなどファウナに取って苦痛以外の何物でもない。


「我は遂にこの手に本物を握った。此処から全ての道が開けるというもの……」


 陽光の力と屈強(くっきょう)たる剣士の力を手に入れた歓喜に浸るマーダが()()()


 他人より体幹優れる踊り子の剣などという小賢(こざか)しい力と比較しようがない超越的な力漲る(みなぎる)。身体中の細胞総てに流れる血液すらも滾る(たぎる)愉悦(ゆえつ)


「さあファウナよ、我の灰色(半端)を知るお前達をこれより一掃(いっそう)してくれるッ! お前は一番最後(メインディッシュ)に取って置く。仲間が消え逝く(さま)を、絶望と共に見せつけてくれようぞッ!」


 金色に輝くファウナ機を紛い(まがい)なメッキの光だと口角上げ指差すマーダの嘲笑(ちょうしょう)


 造られた人工知能プログラムが偽りの身体でなく、然も嘘で塗り固めた現人神(あらひとがみ)でもない絶対を手にした生まれ変わりの瞬間。


 剰え(あまつさえ)これが頂上ではない。他人を意識毎、根こそぎ奪える力を用い天上で人間を嘲笑う(あざわらう)神すら超え得る奇跡の人生(ショー)の幕開けなのだ。


 ──レヴァ?

「そ、そうだレヴァはッ!?」


 レヴァーラが意識を失って以来、余りに急転直下が過ぎた。マーダの意識抜け落ちたレヴァーラの存在(遺体)にようやく気回しの猶予(ゆうよ)が出来たファウナ。必死に周囲を見渡す。


「──黒い機体ッ!」


 地上に落ちてたレヴァーラ専用機成れの果てを見つけたファウナ。涙流しながら暫し(しばし)機体を離れ重力解放(ヴァレディステラ)で宙を舞う。


 奇跡的にも黒い塊は、地面に()いつくばる感じでうつ伏せに倒れていた。


 レヴァーラ機の操縦席(コックピット)ハッチはファウナ自身が吹き飛ばしてしまった。ハッチで遺体を守れていない。けれど地面に接していたのであれば希望は在る。


「レヴァ、レヴァ、レヴァ、レヴァァッ!!」


 ファウナ、泥だらけになるのも構わず地面に接した操縦席(コックピット)付近を文字通りの手探りで母と恋人の混じる名前を嗚咽(おえつ)しながら吐き出し続ける。


 姉ゼファンナも心底手助けをしたい。されど彼女には重力解放(ヴァレディステラ)で地上に降りる余裕すら無い。


「──居たァッ!!」


 ファウナが遂に黒い戦闘服(バトルスーツ)姿の愛しき母を見つけ操縦席(コックピット)から引き摺り(ずり)出した。


 これぞまさに不幸中の幸い。綺麗な死に顔、陽光の力による火傷(あと)無く、ファウナが幼き頃から敬愛(けいあい)し続けた美麗(びれい)な女性の姿を保ってくれてた。


 ファウナ、思わず天に十字を切り両手を合わせて、奇跡を手繰り(たぐり)寄せてくれた()()()()()への感謝を伝える。


「レヴァッ! レヴァァァッ! アァァァァッ!!」


 森の女神などと偉ぶっているが所詮(しょせん)少女の細腕。それでもありったけを込めて抱え上げると、己が膝枕の上にレヴァーラの遺体を寝かせた。


 綺麗な顔を見てるだけで満足出来る訳もなく、末期の接吻(キス)を交わすファウナ。当然此処も冷たい。接吻(キス)だけじゃ足らず、濡れた顔を至る場所に擦り(こすり)付ける。


 切なさで増々溢れるファウナの()。枯れ果てた冷たき()()に注ぐ森の女神恵みの涙雨。降り続く場所だけ命を分け与えられたかの如き温かみと瑞々(みずみず)しさを帯びて往く。


 レヴァーラ・ガン・イルッゾ、享年32歳という余りにも短過ぎた人生。されど愛娘の膝上という、これ以上ない()()()()()を安らぎの内に見つけた。


 ── 第13部 陽堕ちる(とき) 完 ── 

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