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第150話 勝手に死ぬなよガディンッ!

 最新人型兵器、EL97式改に繋がれていたエルドラ・フィス・スケイルの残り香(人工知性体)。AI戦闘機に積み直されてなお、Meteonella(メテオネラ)一蹴(いっしゅう)され地上から姿を消した。


 衛星軌道上から美麗(びれい)なる褐色の妻(パルメラ)息子(ジオ)と共に、青い水の惑星(母なる地球)を見下してた男の哀れなる末路。


 レヴァーラ・ガン・イルッゾは落下するAI戦闘機を見送りながら一瞬、『明日は我が身やも知れぬ』実にらしくない寒気(さむけ)を覚えた。


 後は地上に残る天斬(てんざ)機。加えて巨大な(チェーン・)白い竜(マニシング)集る(たかる)蝿共(戦闘機)(はえ)の方は黒猫が自ら手を(けが)すまでもないかも知れない。


 アル・ガ・デラロサ隊長機(フラッグシップモデル)が飛行形態で追い回し、その先にディーネ機が水圧銃を撃ち込む。その行動(パターン)を避けた所へマリアンダ機&アビニシャンによる本命(狙撃)


 この組合せ(コンボ)だけでミサイル背負って特攻するべく空で待ち構えていたAI戦闘機の数が(いちじる)しく減少してゆく。


 仮にこの攻撃を潜り抜けた機体でさえ赤白のフィルニア機から真横、斜め先と縦横無尽(じゅうおうむじん)な竜巻を繰り出され、舞い散る枯葉(かれは)の様に落ち往くのみだ。


 空征く超巨大兵器の前に軍側も空へ届く兵器を主力に選ぶ。そこまで判断ミスは生じなかった。


 されど所詮(しょせん)骨董品(こっとうひん)による特攻攻撃(バンザイアタック)。然も人でなくAIに対応を丸投げした結果、二人の女神を乗せた()()殆ど(ほとんど)無傷でこれを圧倒した。


 未だ天斬機こそ健在だが、それは女神側の()()()。地上に降下後、直ぐ見世物(晒し者)としてくれると言わんばかりだ。


「も、もぅ此処は駄目よォォッ!!」

「お、終わりだ……何もかも……」


 逃走すら許されない地下基地から外の戦況を見つめていた下っ端(どうでも良い)連中。悲鳴を上げ泣き出す女性クルー。絶望にただ伏すだけの男性クルー。


 兎に角(とにかく)、荒れ狂うだけ。戦意喪失(せんいそうしつ)な人々の渦、渦、渦。


「格納庫に在るEL97式改を全て出すのだ! 搭乗員(パイロット)!? そんな物、爆弾でも詰めて出せば良い! 残した処で如何(どう)にもならんというのが何故判らない!」


 司令官、ガディン・ストーナーの(げき)が飛ぶ。けれど絶望的負け戦の〆なる行動。あわよくば1人(1機)でも多く敵を道連れにせよ。いよいよ凡人の化けの皮が()がれ落ちる寸前。


「──まあ、ゼファンナ君を失った時点で、こんな基地なぞゴミ屋敷も同然なのだ」


 ひとしきり命令を言い尽くした後、静かに自分の席へ戻り、両手を組んで目を閉じた顔を伏せる。負けるのが判っていながらこの老人。一体何を(こだわ)っているのであろうか。


 二人の女神を乗せた白い竜は、もう間近(まぢか)に迫っている。


「見るがいい! 森の女神の奇跡を! ──『森の酵素(ファレン・ズマ)』!」


 ファウナ・デル・フォレスタが、姉ゼファンナを負かしたアテネ遺跡の岩を腐葉土(ふようど)()した魔法を地面へ向け大いに繰り出す。


「フッ……晒すか。敵地を」


 いつになく外連味(けれんみ)帯びたファウナの行動。森の女神(我が娘)企み(たくらみ)を見抜くもう1人の黒い女神。


 ゴゴゴゴゴッ……。


 巨大地震の様な地響きが地下基地内部に(とどろ)く。森の生物達の冬眠が如く、地中に潜み出て来ないのであれば、地面そのものを(くず)せば良いだけの話。


 森の女神の御前(ごぜん)に於いて己が地上を隠れ蓑(かくれみの)にするなど馬鹿にしてるにも限度がある。地面が崩れ、敵基地本体と(おぼ)しき鋼鉄のパネルが姿を現す。


『ファウナァァッ!!』


 Meteonella(メテオネラ)に騎乗したまま、そのパネルの上に飛び移る。全身を伸ばすしなやかな動き、まさに黒猫そのもの。


 母親(レヴァ)が娘へ『これが本当に黒猫の最期の仕事だ』と()える。


Yes(はい) Mum(母様).Meteonella(メテオネラ)Target(目標) lock(捕捉)Tsurugi()Hakamada(袴田)


 母の呼び声に呼応する娘。周囲へもう一切遠慮せず、己が母である事実を無線に載せ大いに促す(うながす)娘である。加えて天斬(てんざ)の本名で目標捕捉(もくひょうほそく)完遂(かんすい)した。


 レヴァーラがファウナの実母──これを知った仲間達の反応は様々。なれど今は戦中、後回しにすべき()()(もっと)も意外と驚かぬ者が多勢を占める。


 寧ろ(むしろ)合点がいったという処か。寄って寛容に成れた(これで納得した)と言える。


 (あわ)れなるは天斬機。足元を崩され態勢(たいせい)を戻せぬまま、Meteonella(メテオネラ)から死を呼び込む輝きを浴びる。


 ガクンッ……。


 恐らく世界最強の剣を誇ったEL97式改(天斬機)の静止。もう二度と稼働することは訪れはしない。AI戦闘機に無理矢理積まれたエルドラ同様、燃えない(ゴミ)としての生涯(しょうがい)を閉じた。


 マリアンダ機がせめて()()にしてやろうと超電磁砲(レールランチャー)を終わった天斬機に向けたが腐り往く地面へあっという間に飲み込まれた。


 袴田剣の葬送(そうそう)は火葬でなく土葬(どそう)に転じた。そして敵基地のハッチが開くと随分無粋(ぶすい)な参列者達が続々と現れる。


 デラロサ隊長の予想的中。塗装も終えてない、武装もまばらなEL97式改の余り物が無粋な参列者の正体である。


『──『重力解放(ヴァレディステラ)』!』

『デラロサ隊、全機出撃ッ!』


 もう地上と敵基地は目前という時に、ファウナが重力解放(ヴァレディステラ)を味方に掛ける。


 森の酵素(ファレン・ズマ)でぬかるんだ地面。此処へ味方のEL97式改(エル・ガレスタ)がホバリングで降下するにせよ、重力に逆らえる方が得策だと決めつけた。


 すかさずデラロサ隊長が味方全機に出撃命令。数だけなら互角相当? されど此方は異能者部隊。然も敵は確実に及び腰、恐らく勝負にならない。


『──レヴァーラッ!』

『ファウナァッ!』


 黒光りする(ガンメタリックな)EL97式改(エル・ガレスタ)と、緑迷彩(アーミーグリーン)EL97式改(エル・ガレスタ)搭乗者(パイロット)不在のファウナ専用機(金色のエル・ガレスタ)を連れて来た。


 リディーナが駆るレヴァーラ機、そしてオルティスタ機だ。レヴァーラの閃光(エンツォ)は流石に尽きた。寄ってMeteonella(メテオネラ)は機能を停止。


 要は『互いの専用機へ戻れ』とこの両者は、二人の女神へ(うなが)している。2機共操縦席(コックピット)のハッチは開かれていた。


 EL97式改(エル・ガレスタ)、それに乗り移りたい二人の女神も重力から解放されている。後は巧い(うまい)こと黒猫を蹴って飛び移るだけだ。


「リディーナ、()()()()

「ありがとう()()()


 普段(えら)ぶってばかりのレヴァーラから『済まない』という感謝の一言。そしてファウナからは親しみを込めた『姉さん』呼び。


 リディーナが満足げに無言の頷き(うなずき)を返し、オルティスタは親指立てて(サムズアップで)『良いってことよ』


 下手に長い言葉を交わすより短き所作(しょさ)の方がより相手の心を動かす一例。その位勝手知ったる結束固い仲間と為れた証拠であった。


 ファウナがMeteonella(メテオネラ)に張り巡らせてた蜘蛛の糸(フィディラガノ)を自分のEL97式改(エル・ガレスタ)へ器用にも張り直す。


 レヴァーラは既に着装済の戦闘服(バトルスーツ)搭乗服(パイロットスーツ)へ転じ、黒き専用機への接続(アクセス)。二人共、手慣れた動きだ。


『──失せな』


 空迷彩のジレリノ機が落下しながら操作可能なワイヤーアンカーを飛ばす。敵機が瞬時に見えないワイヤーで拘束(こうそく)され、そのままの形でバラバラと化し爆散した。無論、音無し。


『もぅ遠慮は要らんな──『閃光(エンツォ)』』


 同じく落ちながら蒼い輝きを散らすレグラズ機。敵機が未だ出撃しようとするハッチ目掛けて自機の全砲門を開き、出て来る前に容赦なく叩き潰した。


『僕だって負けるものか!』


 ディーネも同じく水圧銃にて落下しながらの力押しかと思いきや、機体の掌を地上へ向ける。まだ触れてすらいない敵機の並んだ地表。これを刹那(せつな)の最中で凍結させた。


 EL97式はホバリングによる移動重視とはいえ、これには足元をすくわれる敵機が続出する。倒れて藻掻く(もがく)相手をディーネ機が水圧銃で易々(やすやす)と撃墜した。


 まだ地上戦は開幕したばかりだというのにデラロサ隊が圧倒する。


 嘗て(かつて)アルはまだシチリアであった島を強襲する際、出来の悪い新兵に『象の様に踏み潰せってこった』と煽り(あおり)を入れたことがある。


 今の敵軍と自分達の関係がまさにそれに等しい。では楽勝ムードで悠々自適(ゆうゆうじてき)に敵を倒すだけで、この隊長は満足するのか? 


 ──絶対(ぜってぇ)俺様が殺るッ! だから勝手に死ぬなよガディンッ!


 これだけは……この()()だけはレヴァーラだろうがファウナでもあっても絶対に譲れやしない。歯食い縛ってでも自分が請け負う。


 あの世話になった司令官殿へ引導を渡すのは、このアル・ガ・デラロサでなければならない。これは理屈じゃないのである。

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