第149話 誰も葬列しない最期
連合国軍の地下基地を空から圧倒的兵力差で踏み潰しに来たレヴァーラ達。
よもやな古典的AI戦闘機に寄る囲い込みと特攻迎撃という、中々の離れ業的大歓迎を受けてしまう。
然も戦闘機のうち1機は、エルドラ・フィス・スケイルの遺体から取り出した人工知性体が接続してあるという念の入れ様。
だがそちらは元々Meteonellaに消させる手筈。先に殺るか後で墜とすか。それだけのこと。
「──ファウナよ。エルドラの人工知性体、量産していると思うか?」
先程の勢いとはうって変わったレヴァーラから現実的な質問。余り想像したくない話、声が冷ややかに落ちる。
「Master……それは恐らくないわ。やれるとしてもフォルテザに来た天斬の出来損ない位。そもそもあれはゼファンナ姉さんの手引きだから」
天斬の遺体から取り出した星の屑と同質のもの。これを固めて使える様、精製したのはゼファンナだと断定している。そのゼファンナ、今や此方の手の内。
浮島戦に於けるエルドラ機は1機のみ。その後、アテネ戦では天斬機、エルドラ機共に温存であった。量産が既に進行形だったなら、温存する意味が不明だ。
「──成程、了解した。ハッチ開放! レヴァーラ・ガン・イルッゾ、Meteonella出る!」
Meteonella専用の巨大ハッチから黒猫が勢い良く飛び出す。それにしても何とも至れり尽くせりなチェーンの化けた白い竜。
敵が空から襲撃して来る算段が初めから在ったなら、迎撃システムも強化していたことだろう。今から追加の変身を指南するのは至難の業。
「アル・ガ・デラロサ、グレイアードカスタム。空で敵を撃墜するッ!」
空を自由に駆ける者。それは戦闘機だけに非ず。滑走路要らずで離陸可能なデラロサ機が出陣する。それにしてもグレイアードカスタムとは初耳。
グレイアードは、あくまで膝関節の流用のみ。アルのグレイアード愛、周りが引く程深いかも知れない。
ズキューーンッ! ズガーンッ!!
レグラズ機とディーネ機が未だ苦戦する中、AI戦闘機の1機が突如爆散。
驚いた甲板上の2機が振り返る先。敢えて格納庫から出撃せず、黒光りする超電磁砲だけを引き出してる蒼白いEL97式改。
最早狙撃手と呼称して過言でないマリアンダ機である。彼女の地味でかつ恐ろしい狙撃術。
兎に角敵機に悟られない様、甲板上に自機を晒さない。さらに超電磁砲と自機を固定するのに格納庫の方が都合が良いと踏んだ。
わざと最小出力の狙撃を繰り出し、敵戦闘機が避ける方向を見越した上で本命を叩き込む。未来視能力は寧ろマリアンダの持ち味かも知れない。
「──次、右斜め上。その1200m後方にも潜んでるわ」
「了解」
加えて己の超感覚を大いに活かし、マリアンダに射撃指示を送る同乗者のアビニシャン。性格も職業もまるで接点の無い両者。これ程までにかみ合うとは……当人達でさえ想定外であった。
夫デラロサ機の飛行形態が追い回す先へも照準を送るマリアンダ。これに真っ向勝負を挑もうとする馬鹿。流石AI、目前の敵を墜とすのが最短という当然の判定らしい。
例え経験値を積んだAI機と言えど、そこは百戦錬磨のマリアンダ少尉。AIの動作加減を逆手に取るのだ。力押しだけのレグラズとディーネ……これには唖然。
『──おっとそこの二人。俺様のマリアンダがイカしてるからといって熱くなんじゃねぇ。特に事務方、手前の輝きはアテにしてんだ』
やる気は充分な2機。それは買うが無駄遣いは此方側の命取り。流石デラロサ隊長、人心掌握術にも秀でている。
なおこの無線通信、リディーナが手間暇掛けた特別回線で通じている。敵側から傍受され無い様、回線自動で変える仕組みを今回新たに採用している。
尤も超上位な周波? 敵の親玉から発せられた通信は一方的に受けてしまった。
『グッ!? ……了解』
意外なデラロサ隊長の申し出。これは血の気の多いレグラズでも歯向かう訳にいかなくなった。レグラズ機、一歩後退して様子を窺う。
『地上の残存部隊が手ぐすね引いてお待ちかねの筈。俺が司令官なら最後の手駒を残しとく。此処で本気出されちゃ困んだよ』
アル・ガ・デラロサの脳裏に浮かぶ、スペイン基地にて例の司令官殿と将棋を指した思い出。仕事を外した処に於いてそれ程の間柄であった。
『ディーネ機、お前さんの水圧銃。俺の指示する方角へ叩き込め。フィルニア機は出撃。お前の嵐でこす狡い蝿共を黙らせてやれ! 後は俺とマリアンダが叩く!』
ディーネ機の超高圧な水圧銃。これはディーネ機そのものを動かす以外の電力を必要としない有意義なる攻撃だと隊長は踏んでいる。
『ぶぅ……了解』
隊長から『お前は撃ち落とすな』と言いつけられたディーネ。19歳成りたての少女。『つまんなぁい』とばかりに頬を膨らます。
要はマリアンダ機が1人でやっていた牽制射撃をディーネ機に担当させるつもりの隊長。そして風を切り裂く飛行機なら、風の自由を奪えば良い。
『了解した、フィルニア・ウィニゲスタ。迎撃行動に打って出る』
事実上の一時撤退を言い渡されたレグラズの代打。男よりも余程頼りになる赤髪の姫君。高潔なる風の谷の名前と共にいざ参る。
ガッ! ガガガッ!
それはそれとして未だ鳴り止まぬ嫌な雑音。一刻も早く止めねば此方が墜ちる。
こんな時に絶望の守り手、実は使い処が存在しない。何故なら味方機の撃ち出す光線の類までも絶対防御する。寄って最後の切り札なのだ。
第一今度の目標は衛星軌道上という遥か彼方などではない。此方側の直下に居るのだ。本物の黒猫には決して存在しない背中の羽根達4本を飛ばせば済むだけ。
レヴァーラ・ガン・イルッゾは出撃以前に閃光による緑の輝きを放ち、ファウナ・デル・フォレスタでさえ『Target lock』と告げた後。
嘗てその4本が輝き放つ上昇する緑色の流れ星が、パルメラ・ジオ・アリスタのエルドラを奪い去った。
エルドラを護ろうと命懸けで立ちふさがったパルメラを擦り抜けた光。今回はチェーン・マニシングが化けた白い竜の背中を同様に貫けば良い。
『Target lock.Eldora・Fiss・Scale』
ファウナの言葉の意味。目標捕捉してない者が例え覚醒者であり、この光を浴びようとも人工知性体が暴走しないのは、そういう理屈だ。
『──Master? この期に及んで一応聞くけど、アレはもう不要って理解で良いのよね?』
もう光の速さでエルドラ機を屠れる半歩手前で、ファウナが突然レヴァーラに進言する。ヴァロウズ最強と謳われた男の能力を廃棄処分する最終承認。
『要らぬッ! アレは既に死んでいるッ!』
『Yes Mum』
全く以って躊躇ない母親の叫び。娘もただの冷たき端末へ還る。ファウナを想像させる金色の光とレヴァーラの閃光の輝きが一つと為りて、AI戦闘機を覆い尽くす。
エルドラ機の信号途絶、機能を完全に停止し静かに地上へ落下する。星を墜とせし者……見送る者が独りも居ない虚しい最期をこれで迎えた。




