第13話 正真正銘最新鋭の白い機体
──成程。あの蒼いポニテの女、確か触ったモノの音を消せる能力だった筈。巧いこと考えたものね。
連合軍の攻略方法を目の当たりに独りほくそ笑むファウナである。
「あ、あの……ファウナ、様?」
小声で慎重に声を掛けるラディアンヌ。こんな戦闘中、さも楽し気な主人へ声掛けするのに腰が引けている。それは敵中という緊張より優先順位が上なのだ。
「よぉし──此方も始めるわよ。ラディ、あんな装甲、貴女なら素手で充分よね?」
ラディと愛称で呼んできた我が愛しの妹君。そんな笑顔で煽られたら、普段以上の力を発揮出来ると過信すら抱く。
「ハァァァァッ!!」
最早返答なんて必要ない。瞬間移動したかの如く、敵兵との距離を詰めるラディ。掌底打ち※を敵兵の首根っこから上へ向けて叩き込む。
※拳ではなく掌の手首に近い部分を打ち込む技。拳で殴るより攻撃する方のダメージが小さくて済む。
ゴキッ。
鈍い嫌な音を立て、首が在り得ない方向へ曲がった相手が崩れ落ちる。殺ったラディは瞬時でその場を離脱、他の瓦礫へ身を潜ませた。
「な、何だ今の奴!? 殆ど動き……」
驚愕を吐こうとした兵士が続いて冷たい骸と化す。これはどさくさ紛れに、ヴァロウズのNo8ディーネがやった結末なのだ。
ディーネにやられたと思しき連中の遺体。良く見るとやたらとゲッソリやつれているか、或いは真逆に穴という穴から、水分を噴き出した感じだ。
何故か無音で迫り来るディーネ。派手に地面を蹴り叩いた音と共にやはり瞬殺するラディアンヌ。
一体どちらへ注意を払えば正解なのか判別出来ない敵陣営。この2人が入れ替わりの攻撃するだけで、壊乱し始めた。
「──そしてオルティ、此処は外よ。その二刀──遠慮なく振るえるわね」
「お前に言われるまでもないッ!」
オルティスタの腰元に差してある長く刃の丸い武器と、月の様に曲がった鞘へチラリッと視線を送るファウナ。
この間の襲撃では、主兵装である長い方を屋内という制限で振るうことを諦めたオルティスタ。瞬時に両刀を抜き、長い方を普通に握り、三日月刀は逆手に構えた。
長い方の剣──。通常この形態の武器はレイピアの様な突による扱いをするものだ。
しかしこの刃、抜いた途端、真っ赤に染まり、周囲の空気が熱さで揺れる。
単身オルティスタが敵中のど真ん中に堂々と推して参る。長いヒートソードと三日月刀で美麗なる演舞を始めた。
そのヒートソードで相手を焼き斬れればそれで良し。だが敵の装備している強化服は最新鋭だ。関節部など柔い部分でなければそうもいかない。
けれども女とは到底思えぬ力にかち上げられ、少しでも脚が地面を離れたが最後。宙に浮いた鈍重な兵士など彼女の敵に非ず。
三日月刀かヒートソードの先端、後は良い様に殺られ、血飛沫上げるだけの能無しと化す。
派手に暴れるオルティスタ。最小限の動きで敵を翻弄するラディアンヌ。忍びの如く敵を屠るディーネ。
この3人だけの女によって味方が良い様にやられてゆく様を、何故か黙認してしまうデラロサ隊長。
隊を指揮する者としても、そもそも味方を見殺しにする人間として失格なのだが「Hermoso……」と母国語で呟きつつ見惚れているのだ。
デラロサとてただ茫然としている訳でない。改めて白いビルへ電磁砲を見舞ってみる。これも凄まじき風に阻まれてしまった。
次は少々的外れな位置へ撃ち込んでみる。今度は何も起こらず電磁砲の一撃が当たる物全てを吹き飛ばしていった。
要は守っている駒の守備範囲を推し量っている次第だ。この争い……王将さえ撃墜出来れば良い。互いの雑魚同士の生き死になぞどうでも良いのだ。
「──『輝きの刃』」
そして遂にファウナ自身が動き始める。ただのお飾りかと思われた杖。その先端に彼女の瞳と同じ色をした蒼き宝玉。
これが渾然たる輝きを放ち、1m程伸びると光の刃を形成した。ただファウナ自身、身体を使っての戦いはズブの素人。
なので此処はプロフェッショナルなラディの背中を出来得る限り追う様に出現すると、その蒼き刃を大いに振るい、強化服毎両断してゆく。
武器の純然たる攻撃力だけなら、この4人中最強なのだ。強化服も瓦礫とて、彼女の武器の前では紙切れも同然であった。
「おぃ、そこの美少女っ!」
その様子を見ていたアルに潜む少年心が一挙に湧き上がる。32歳の隊長でなく、ただの男の子が目を覚ました。
「──ハァ?」
「な、何て綺麗で威力のある武器なんだ! まるでビームジャベリンじゃないかッ!」
──ちょっと何言ってんだか判らないわ。
不意に敵の親玉らしき野太い男の声に呼び掛けられ、首傾げるファウナである。正に興奮の坩堝といったテンションで意味不明な言葉を叫ぶ敵。
一瞬で真顔と化したファウナであったが、動きを止めては自分が死ぬ。もう気にするのを止めにして戦闘へ戻った。
──兎に角だ。
最新鋭の強化服を装備している兵達は敵に非ず。加えて巨人の様に仰々しい試作機ですらも、乗り手がこのザマでは話にならない。
今の処ファウナの語った『紀元前からの歴史』を持つ連中が圧倒的に押していた。
ズギューーンッ!!
そんな刹那、ファウナやジレリノ達が守っている筈のビル側から途方もない砲撃が轟いた。これには敵味方関係なく、誰もが驚き動きを止めた。
デラロサが放った電磁銃と同様の砲撃で在りながら、砲弾が潜り抜けた後に残る線の太さがまるで異なる。
掠っただけの瓦礫ですらも誘爆させる程の威力だ。これには装備品としてはまるで頼れないものを着ているファウナ&ジレリノ側に戦慄が走る。
白いビルの後ろ側、誰もが一斉に視線を送る。デラロサがグレイアードなどと勝手に名乗った人型兵器。
それより巨躯の白き機体が近づいて来る。それも徒歩ではなく、ホバリングしながらだ。
一挙に距離が縮まる。ただでさえ大きいのに、遠近感が狂って増々その全容が掴み辛くなってしまった。
「フフッ……一体何をそんなにモタモタしているんですか大尉」
「そ、その声!? まさかそいつに乗ってるのはまさかァァッ!?」
余裕のある声が敵味方関係なく、全通信回線に響き渡る。明らかに女の声だ。しかもデラロサが良く知っている人物。
ただこんな上から目線な声、長い付き合いのデラロサですら聞いた事がない。
「フゥ……。だから私言ったでしょう? 『そんな骨董品に興味はありません』ってね。しかも私のコレ、正式採用決定済。文字通りの最・新・型なんですよ、ウフフッ……」
「な、何だとソレッ! ず、ズルいぞマリーィィィィッ!!」
この街を守ろうとしている輩に取ってはとんでもない新手の出現という大ピンチな場面なのは違いない。
だがそんなことよりも試作機を最新式だと思い、テンション爆上がりであったアルと、その愚かぶりを影で笑っていたマリー。
子供同士の様なやり取りと在り得ない緊張感のミスマッチが戦場を包むのだ。
ズギューーンッ! ズギューーンッ!
ホバリングを停止、地に足を踏ん張ってまたも電磁銃の2連射。
一撃目はヴァロウズのNo7、フィルニアがこれに反応し、またしても竜巻を起こしてこれを弾いた。
だが二連射目には反応し切れない。狙いは明白、ファウナ達4人が争っている辺り。
このままでは皆、塵も残さず消失する。死体が残らないという理由で意味不明な戦闘中行方不明と化す。
「ハァァァッ──『戦、乙、女』!!!」
何ということか。
跳びあがったファウナが輝きの刃を大きく全身で振りかぶってから振り下ろした。二射目の砲弾を斬り裂こうとしているのが明白。
されどただの可憐なる美少女。そんな大それた真似出来得るのか!?




