第142話 実の姉と悩める姉貴
レヴァーラ・ガン・イルッゾ&リディーナの閃光全開によるEL97式改がゼファンナ隊に与えし絶望。
加えてファウナ・デル・フォレスタが森の女神としての覚悟を大いに見せつけ、実姉ゼファンナに完全勝利。
アル・ガ・デラロサ特殊空挺部隊、隊長以下の連中が正直白け顔の結果である。
黒き女神、そして愛を失っても護りの矜持は寧ろ昂ぶりをみせる森の女神。
この2機さえいれば自分達は御払い箱だったのではないか? 周りがそう思える程、二人の女神の能力は常軌を逸していた。
そんな最中、連合国側でただ独り生き恥を晒したゼファンナ・ルゼ・フォレスタはレヴァーラ側に拘束される。
ゼファンナさえ押さえてしまえば例え、天斬とエルドラの亡霊が攻めてこようと此方は勝てると踏んでいるのだ。
「──実に良くやったゼファンナ君。素晴らしい仕事だったよ」
この間の浮島戦といい、ゼファンナへの当たりが厳しかった眼鏡吹きの司令官。今回の戦果をモニター越しに褒め称え、あまつさえ拍手を贈る。
この老人の変貌ぶり、一体どうしたことか?
何れにせよこれで連合国軍特殊空挺部隊は瓦解したも同然。
───実に良くやっただぁ!?
───私達、一体何をしていたっていうの?
これは司令官の声を聴いた基地のとあるクルーの気分。
妖怪眼鏡拭きから『これも世界を救う大義の為』と耳元で囁かれ大いに励んだ軍人達。ゼファンナという支柱を失い、いよいよ自分等の行いの意義が解せなくなる。
此方の金色を敵へ堕とすことが真の目的? そんな事の為に途方もない数の世界を巻き込み多大な犠牲を生み出した。
恐らくこの中から戦争の加害者側として闇に堕ち往く者達が次々と現れることだろう。一国処じゃない、国境すら巨人の如く潰して回った。過去の戦争とは比較にならぬ大罪を生涯背負う。
ゼファンナは捕虜と化しても気丈を止めない。「シャワーとお風呂のある部屋を用意して頂戴。その代わり暴れたりなんてしないから」平然と言い放つ。
ファウナ・デル・フォレスタは魔法を唱える際、時計型携帯端末を使っているのは以前触れた。ではゼファンナの方はどうだ?
このカラクリが判明しない事には何処へ隔離しようとも魔法を使ってどうにでも出来よう。時計の様なものは見つからず困り果てた看守へ彼女が堂々妖しい身体を見せびらかす。
「隅から隅までお気に召すまま調べ尽くせばぁ? だって私、戦争犯罪人なんでしょ? なら好きにしたら良いじゃなぁい」
18歳の少女からこうまで言われ、その通りに熟せる程、非情になれる者は此処にいない。同じ年で然も同じ顔をしたファウナが居るから猶更気まずい。
スルリ……。
「あっ! こ、こらっ!」
「姉さん……。余り皆を困らせないで」
ファウナが自分のよりも大きい胸の谷間から、ペンダントの様な物を蜘蛛の糸で引き摺り出す。成程──蓋を開くと術が出せる仕組みであった。
それにしても妹の方が大人の女性として随分毅然と振舞える様になった。裏腹的に無理してやいまいか?
これはファウナから例の寂しい話を直接聞いたデラロサ。そしてレヴァ×ファウナの絡みがめっきり激減したことを知るリディーナでなくとも、感じ取りつつある。
あれ程愛を育んでいた二人の間に生じた亀裂。
理由こそ知らなくとも、見てれば判る周囲の大人達。増してやそういうのに過敏な女所帯。惚れた腫れたな話があれば、耳に入れずとも空気で粗方判る。
特に13年もの時を共にしているラディアンヌ。そして三姉妹のまとめ役であるオルティスタはそれが顕著だ。
しかし今回ばかりは話をどう切り出すのが正解なのか? 近い立場に居たが故、かえって距離感が掴めず困っているのだ。
可愛い妹が幸福に満ち足りているなら『おめでとう』と祝福すれば良いだけのこと。けれど恐らく最愛と離別した。『頑張れ』はおろか『大丈夫?』すら言い出せない。
しかしながらこうも思う姉貴分二人。
──レヴァーラは決して良い女ではないから寧ろ良い落し処になりはしないか?
それでも森の女神候補生から森の女神へ格上げした妹のブレない強さが未だ黒い女神に付き従うのを辞さない。これでは悲哀の未来しか訪れやしないかも知れない。
こんな想いがメビウスの如き堂々巡り。今日もファウナを遠巻きに見ているだけの二人だ。格納庫で自分の機体を見上げているファウナ。一体何を想う?
ポンッ!
「──何やってんのお前等?」
気軽な声と仕草のアル・ガ・デラロサ。背中を弾かれ心臓が飛び出すかと思った姉貴分二人である。
「な、何でもない。不意に女へ声を掛けるな不埒な奴。ファウナが良くああしてEL97式改を眺めているから少し気になるだけだ」
デラロサに声を掛けられ何故だか弾む心と気恥ずかしさで少々顔を赤らめるオルティスタである。
「嗚呼……アレな。確かに俺様も気になる。もうEL97式改なんて御払い箱だと思うがな」
敵の特殊空挺部隊が沈んだ今、此方の空挺部隊とて遂に出番を失った。デラロサはそう考えているがファウナはそこまで楽観的になれていない。
恐らくゼファンナが敵中へ飛び込んできた事実にファウナ様は悩みを抱えていらっしゃる。
──しかしながら今、そんな事はどうでも良いのだ。
「──にしてもらしくねぇぞ良い姉ちゃんが二人して妹を草葉の陰が覗いてるってのはよっ」
此方がデラロサ本来の用事。いつも仲良しフォレスタ三姉妹が、こうして袂を分ってるのは傍から見ていて気分が良くない。
「で、ですが近頃のファウナ様。増々何を考えてらっしゃるのか……しょ、正直判らないのです」
幼気なしょぼくれ顔で意見するラディアンヌ。戦場を駆ける豪傑とは別人の様。
「──うーん……まあ判らんでもない。だがな……」
デラロサ、美しい女性二人の肩を躊躇なくガシリと掴むと森の女神へ無理矢理向ける。
ニヤリッ。
「だがな、ファウナに取って良い姉ちゃんだからこそだ。何て声を掛ければ良いか? 要らねえんだよ、そんな上辺は。良いから近くで一緒に居てやれ」
近しい者程、ただ寄り添ってやれば良いのだ。それが判らぬ程、この良い姉ちゃん達は耄碌している筈がない。
「──っ?」
「そ、そうか……た、確かにそうだな。彼奴がレヴァーラへそうしてると同じ様に」
目が覚める想いのラディアンヌとオルティスタである。フォレスタ家を知らぬ部外者からよもや気付かされるとは思わなかった。
「ファウナっ!」
「ファウナ様ぁぁ!」
草葉の陰を飛び出し、大好きな妹へ目一杯の笑顔を向ける二人の姉。傷心の妹を勇気づけるのは本物の姉なんかじゃ決してない。自分達だ!