第139話 意外なる実力伯仲!
暗雲立ち込める中を降下して来る敵の輸送機毎、チェーン・マニシングの荷電粒子砲狙撃で射墜とす作戦。結果輸送機自体の撃墜には成功したが、敵のEL97式改は既に出撃の後であった。
それ処かゼファンナ・ルゼ・フォレスタ率いる部隊の猛攻を受ける。ゼファンナの魔法で底上げされた敵機が地上から撃破を狙うデラロサ隊の激しい銃撃を空で避ける。
浮島の一戦にてゼファンナ隊長以外、全て灰燼と化した他の隊員達。要は補充部隊による再編成であるにも拘わらず思いの外、動きが秀逸なのだ。
これはゼファンナの魔法に寄る底上げだけでなく、世界中数多の施設を撃破した彼等の経験値も恐らく高い。再編成前の人員はゼファンナの能力による傘に隠れ、己の能力を過信していた。
兎に角デラロサ隊の射撃は巧みに空でいなされ、逆に上からの超電磁銃に寄る追従を許す羽目に陥る。事態は混沌と化した。
『──地上からの狙い撃ちが駄目というのなら』
『こっちも空に上がれば良いだけのことぉッ!』
赤白のフィルニア機が両肩のタービンを回すべく、自分へ向けて嵐を起こす。貯め込んだエネルギーをふんだんに使い高々とジャンプ。
水色のディーネ機も背負ったタンクの水圧を急速に上げ上昇を開始。
重力任せで落下しつつも、ゼファンナの重力解放で宙を舞うという逆さの操作をしているゼファンナ隊各機。自分達が落ちるよりも速く上がられ、かなり戸惑う。
ゼファンナ部隊よりも機体2つ分程、上昇した処で機体を器用にも捻らせ向きを変える両機。
『斬るッ!』
『墜ちなさいッ!』
フィルニア機が素の時と同じ様なレイピア二刀で敵の赤いEL97式改に狙いを定め襲い掛かる。このレイピア、キングハリド基地仕様と同じくヒートソードを兼ねている。
ディーネ機の方はもっとシンプルなる動き。左腕部に取り付けた電磁銃から超高圧水圧銃を撃ち出す。
何れも敵機にしてみればいきなり宙で背後を取られる恐怖に苛まれる。こればかりは無抵抗で2機同時に撃墜された。
『ふぅ……』
『よっしゃあぁぁッ!』
思い描いた攻勢が上手く機能し溜息を吐くフィルニアと、操縦席で独り両手をバチンッと鳴らして歓喜するディーネである。ようやく異能者部隊の面目躍如だ。
──そういうことならッ!
デラロサ機が隊長機の機能を活かしLモードからFモードへ変形し、此方も空へ急上昇。然もこの機体、飛行形態でも電磁銃が撃てる様になっている。
運用試験からでは熟せなかった実力を遺憾なく発揮出来る機会がようやく訪れる。尤もこれについては最初からそうすべきといった処。
地上を這う人型が突如戦闘機に転じ、元を辿れば同じな機体群が空で泳ぐのを容赦なく追い回す。これは敵に取って中々な理不尽と言える。
『グヌッ! 玩具が図に乗りやがってぇッ! 見えなくても後ろに居んのは知ってんだよッ!』
これはデラロサ機に追撃されてる敵の文句だ。背面センサーにより、デラロサ機の存在は見えずともしっかり捉えてはいる。
『喰らいやがれッ!』
『何ィッ!?』
バシュッと敵機の背後側の肩が開くと、そこから4発のミサイルがデラロサ機目掛け一斉発射。EL97式は暴発の危険を伴うという理由で火器類の内包を初期型から排除している。
それにも拘わらずミサイルが発射された為、驚き慌てるアル・ガ・デラロサ。追う立場から一転、追われる立場へ。
『しかも御丁寧に熱源反応追尾式かよぉぉッ! クソがッ!』
かなりヤケクソなアル。何が腹立たしいって、フィルニアやディーネの様に自分も良い処、見せようって時、このみっともない様へ落ちてることである。
デラロサ機、そして追尾するミサイル。その狭間に緑迷彩のEL97式改がホバリング全開で割って入る。それも二刀のアサルトナイフを握りしめた上でだ。
──な、何の真似だオルティスタぁ?
オルティスタ機が割って入った位置関係は実に微妙。
仮にデラロサ機の盾代わりになろうという行動であったとするなら、その位置ではNG。ミサイルはデラロサ機の熱源反応を覚え追従している。
『炎舞・『輪燃』ぇ!』
久しく見せてなかったオルティスタの編み出した独自の炎舞。
嘗て油を染み込ませた鞘に納刀している三日月刀と炎舞で滾る剣を擦り合わせることで二刀の燃える刃と為し、多勢を無勢に変えた技。
実父で在り、炎舞の師匠でもある焔聖に『人殺しの剣』と罵られて以来、繰り出す気になれなかった業でもある。
それを12m級のエル・ガレスタで戦線復帰させようとする不可思議。刃渡り6mはある巨大なナイフが真っ赤に燃える。
ミサイル達──この滾る炎を標的と再認識。オルティスタ機のアサルトナイフへ身投げを敢行。哀れにもオルティスタ機の類稀れなるナイフ術に斬られ無駄な爆発に終わった。
『お、オルティスタッ! 手前、格好つけやがってぇッ!』
救って貰ったにも関わらず、無線で態々文句を垂らすデラロサ隊長が何とも痛々しい。『フッ……』と鼻で笑う男勝りな女の顔が見える気がしたのだ。
もしかしたら過去に焔聖を失い途方に暮れた自分を救ってくれたデラロサへの恩返し『これで貸し借りゼロだ』などと笑っているかも知れない。
そして遂に地上へ降下を果たしたゼファンナ隊の面々。次はホバリング移動による作戦を敢行する。
ザシュッ!
そこにすかさず敵機の足元から、伸びる影の如くナイフ二刀でホバリング機構を斬り割くアノニモ機。その後斬った敵機の先に在る影へとまるで潜んだかの様に消え失せた。
『消えてねぇんだろうがこのペテン師めッ! ぶっ壊してやるッ』
アノニモ機の影から影へ移る行動を、実は光学迷彩を使ったトリックだと知った上で敵機が足場の良さげな前に進み超電磁砲を構えた刹那。
全身バラバラと化し、爆砕する哀れな末路を示す敵機。No9の誘いにまんまとハマり、No10が事前に仕掛けたワイヤートラップへ飛び込んだ次第である。暗殺仲間、一連の流れ。
「──はぁぁぁッ!!」
遺跡から落ちた敵機が瓦礫に転じた処へ、文字通り息を潜めていた黄緑のラディアンヌ機。次なる敵機が迂闊にも重力任せで落ち往く瞬間。
この機を見逃す道理がないラディアンヌ機が本物の女武術家さながらの見事な手刀を繰り出し敵機の操縦席付近を一挙貫く。無線で声を晒すヘマなどしない。
重量の在る機体同士のナチュラルカウンターアタック。一子相伝の呼吸術すら操る女武術家を体現した機体の動き。この程度ならさも普通の結果なのだ。
『──『火焔』!』
此方も御馴染になりつつあるオルティスタが飛ばす炎の燕達からの陽炎による視界封じ狙い。
この後、巨大過ぎる燕が陽光と成りて、敵の目を潰すのが大抵の動き。敵機とて知り尽くしてる故、目潰しされぬ様、メインカメラのバイザーを降ろす。
『グワッ!?』
燕はそのまま敵機へ飛び込み、相手を押さえる役目を果たす。さらにその背後より迫るオルティスタ機。摂氏3500℃の黄色い刃『牙炎』情け容赦なく中枢へ叩き込んで爆散させた。
「──未だ撃墜数5機か? そして何より金色がファウナ機の封じ込めに見事成功しているな」
これは戦況を少し後ろから俯瞰で見ているレヴァーラの発言。味方は善戦しているが、浮島の時ほど圧倒的ではないのも確かだ。
「やはりファウナ機を敵の金色から解放せねば、アテネ市街が火の海と化すな?」
レヴァーラは一体誰相手にこの台詞を説いているのだろう。この独り言を嫌でも聞かされるリディーナは思う。
──良い加減素直に『我のファウナを助ける』って言えないのかしら、いい歳して……だからこそ言えないのか。ま、どうでも良いけど。
ついこの間まで『私のファウナ』『我の女神』と耳蛸になるまで聞かされてたのが懐かしくさえ思えてきたリディーナである。