表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/234

第134話 真実を欲する覚悟

 もう語り尽くした感が否めない勝敗であるが、ほぼ異能者で構成されたアル・ガ・デラロサ特殊空挺部隊は、連合国軍最強であった金色(こんじき)の特殊空挺部隊を圧倒せしめた。


 とはいえ大破2・中破1・他にもやられた箇所は数知れず。リディーナとア・ラバ商会から派遣された整備士達の眠れない夜が続いたのは言うまでもない。


 その上、未だ改修中であるレヴァーラ・ガン・イルッゾ機とレグラズ・アルブレン機という宿題も残っている。まあこればかりは『仕事だから仕方ないよね』と無心で取り組めば良い話。


 ただ肝心な話がある。それは余りに強さを世間に知らしめ過ぎたというごく当たり前の話だ。


 先ず普通の人間だけが搭乗するEL97式部隊。これはもう相手にならないのは敵味方双方理解している。どれだけ改修(カスタマイズ)を重ねようがデラロサ隊に勝てる気がしない。


 もう馬鹿みたいな話と化すが兵器はタダでなく、それ処かとんだ金食い虫だ。寄って改修だけで拮抗(きっこう)出来ないのなら、もっと数を量産し対抗すれば……良い訳がない。


 ただでさえ軍に対する世界の目は冷たく厳しい。軍縮と無駄な戦乱を極力避けたいのは()()()とて同じ事。


 ──もっとハッキリ言おうか。デラロサ隊が修復&さらなる改修を進めた処で敵がいないのだ。


 正規軍──これはあの妖怪眼鏡拭き(ようかいめがねふき)が先導してない連合国軍を指す言葉だ。


 では秘密の地下基地に潜伏(せんぷく)しているゼファンナ・ルゼ・フォレスタと、実験自体は成功を収めた天斬(てんざ)機、エルドラ機。これで編成した部隊はどうだろう。


 彼等には予算がある。もう他の軍部を削った分さえ此方に流れる。寄って天斬機、エルドラ機の量産自体は不可能でなく、これらが(そろ)えばデラロサ隊に唯一対抗し得る部隊になれる。


 だが此方の場合、これ以上戦争を(けしか)ける為の大義名分が世間的に成り立たない。何しろ彼等、本物のファウナ・デル・フォレスタを偽り(いつわり)、世界を混乱の渦へ巻きこんだ張本人。


 さらにシチリアで待ち構える真実のファウナ。まさに悪の組織をやっつけた正義の女傑(じょけつ)。悪の組織が正義のカリスマを殺しに征く作戦を誰が好んで応援するのか? 


 作り話の様に悪の救世主(カリスマ)など誰も欲しくはないのである。折角(せっかく)互いの威信(いしん)を賭けて用意したまでは良かったが、何れも役どころがないのでは話にならない。


 尤も(もっとも)互いの(ヴィラン)ならば未だ存在する。然もレヴァーラ、連合国軍両陣営に取っての()むべき存在。


 シチリアのエトナ火山を吹き飛ばし、この異常な三竦み(さんすくみ)を創造した存在。ヴァロウズのNo2、爆発と暗転(ヴァンシオネ)のディスラドである。


 しかしレヴァーラ、軍、共に揃って何故だか腫物(はれもの)の様に、彼に対する徹底抗戦を避けている感が(いな)めない。


 特にレヴァーラ陣営に取っては目と鼻の先。ディスラドの暗転(ヴァンシオネ)は確かに脅威(きょうい)だが此方には多大なる戦力と何より覚醒者の天敵、Meteonella(メテオネラ)が在る。


 Meteonella(メテオネラ)は覚醒者の中に潜む人工知性体(ナノマシン達)を探し当て、これを誤動作させることで宿主を死に追いやる。


 対ディスラド戦で始めて見せた時の様に物理的攻撃熱線に変えることも可能。何れにせよ躊躇(ちゅうちょ)さえなければいつでもあの芸術を履き違えた男を(黄泉)にいつでも葬送(おく)れる。


 先程『()()()()()には敵がいない』と書いた舌の根乾かぬうちに、いきなり理屈の合わぬ話。EL97式改で編成したデラロサ隊だけでは敵がいないのが真実。


 Meteonella(メテオネラ)を前面に押し出し、天斬とエルドラの人工知性体(ナノマシン達)の成れの果てを探し出しレヴァーラ側から打って出る。これなら充分やり様が在る。だがこれもおくびにも出さない。


 一方、連合国軍がディスラドを攻めきれない理由──。これは実に判り易い(やすい)理屈。


 ディスラドの()はレヴァーラ()()()()()()。同じシチリアに居を構えている。軍が大手を振ってディスラド攻略に動き、剰え(あまつさえ)レヴァーラ軍との戦闘に発展すればいよいよ立場が危うくなる。


 或る(ある)意味、渦中のディスラドは哀れとも言える。


 この世で一番戦乱を欲する男が、それを治める側に()しくも回った。後は彼自ら、イタリアのミラノを落とした時の様に出向く以外、台本(シナリオ)が動かないかも知れない。


 ◇◇


「──Master(レヴァーラ)No2(ディスラド)No4(パルメラ)。今日も両者の動き認められません」


「御苦労、もう上がって良いぞファウナ」


 Meteonella(メテオネラ)専用格納庫では後部座席に搭乗したファウナ・デル・フォレスタによる索敵(さくてき)が日夜行われていた。


 依然(いぜん)としてファウナ自身が黒猫に騎乗すると、まるで電子部品の一部と化す口調に変わる。報告を聴いたレヴァーラが無表情で応対する。


「ふぅ……ねぇ、一体何時までこんな無駄(行為)続けるつもり?」


 レヴァーラを敬愛するファウナは勿論のこと、現人神(あらひとがみ)に従う(ほとん)どの者が己が主人の言動に疑いを持たなくなった。


 実際言いたい事を飲み込んでいるのは恐らくあるのだ。人が他人を心の底から信じられるものではない。要は結束がより硬くなったという話だ。


 そんな最中、()()のよしみでファウナが切り出す。浮島への出撃以来、毎日ディスラドとパルメラの動きを探るのに骨を折っているのはこのファウナだ。


「動きがあるまで……今はそうとしか言えんな」


 レヴァの何とも他人行儀(たにんぎょうぎ)な返しに森の女神候補生が(ほお)を膨らますだけの抗議(可愛げ)。ファウナ自身が『ディスラドは最後にしたいのよね?』と確かに告げた。


 しかし実の処、歳の離れた恋人の意図(いと)は判っておらず、こうもはぐらかされては面白い訳がない。『私にすら言えないことなの(秘め事)!?』声を荒げたいのを抑えている。


 身近な者(恋人判定した相手)に対する女の顕示欲(けんじよく)。これは『まあいいや』で流せる男とは格段に異なる。尤も(もっとも)全てが該当するとは言い難いが。


 ファウナ無言の抗議(可愛げ)を目に細めたレヴァが()れ過ぎた珈琲(コーヒー)を飲んだ様な顔で口角を挙げた。


「済まん赦せ(ゆるせ)……我にも正直な処、そうとしか応えられんのだ。──いやこれでは我が女神に対して無礼であるな。何の脈絡(みゃくらく)もない戯言(ざれごと)だと思ってくれ」


 ようやく固い口を愛する自分だけに割ろうとしている。ファウナ、食い入るように二回も頷く(うなずく)


 このどうしようもなく可愛い()()()に対し、口を閉ざし続ける事など到底適いそうもない。半ば諦めの境地(きょうち)なレヴァーラなのだ。


「総ての事象を反転させるディスラドの暗転(ヴァンシオネ)。そこへ形ばかりとはいえ、不死を操りし存在である不死鳥(フェニックス)の力を呼び出そうとするパルメラが合流した」


「──う、うん?」


 笑みを絶やさず組んだ長い脚を入れ替えレヴァーラの語り部(かたりべ)が始まる。ファウナは未だ話の掴み(つかみ)処を得られてない様子。


「この二人の繋がり、我は偶然ではないと考えている。歴史に於いて奇跡を起こし名を残した英傑(えいけつ)達。結果それらは全て必然で在った」


 とうとう歴史の授業を始めたレヴァーラ()()(あや)しい魅力に(あふ)れた美人教師の個人授業。少し昔の盲目な(思春期男子みたいな)ファウナであればこれだけで喰らい付いたに違いない。


「え、えっと……ディスラドとパルメラの邂逅(かいこう)でレヴァの期待してた何かが起きる。貴女はそう考えている訳ね。で、でもそれって貴女に取って都合の良いこと?」


 だけども既に心身共に繋がりを持った今のファウナではそう易々(やすやす)と落ちやしない。少し頭を捻れば出てくる疑問を積み重ねる。


 トクンットクンッ……。


 ファウナが自席を降りてレヴァーラの膝上に自らの頭を乗せ、勝手に膝枕と成し両目を閉ざす。もしレヴァーラが自分を危険視し首を跳ね落としても構いやしない。


 自分を心根(こころね)から愛してるという自信の表れと、愛するレヴァにならばいっそ預けても(殺られても)本望という覚悟。


 そこまでしてもこの妖艶(ようえん)なる女の本音を引き出したい。もうファウナの欲はそこまで来ていた。姉に『(だま)された方が悪い』と告げた言葉に偽りはない。


 ──それはそれとして、顔を赤らめ違うモノも欲せずにはいられない少女(若さ故)の抑えきれない強欲(衝動)


「フフッ……無論不都合が生じるやも知れんな。ならばいっそ()苗木(なえぎ)と化す前に()み取るべき。流石我の認めた女神である」


 自分に心身(しんみ)(ささ)げた可愛くも(さか)しき少女(ファウナ)の滑らかなシルクの如き金色(こんじき)の髪。これに指通しする愉悦(ゆえつ)に浸りながら、黒い女神(レヴァーラ)も全て打ち明ける覚悟を決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ