第128話 ラディアンヌ・マゼダリッサの覚悟
最早壊滅同然であった連合国軍の新・特殊空挺部隊。未だ空挺部隊という大義名分的には息を吹き返したとは到底言い難い。
改修版EL97式は残りたったの3機。それも派手な金色の隊長機を除く2機については塗装すら施してない急増品である。
しかしその急増品がこの部隊の根幹を成してしまった。
空挺部隊とはそもそも空から地上に降下、作戦を遂行する部隊。しかしこの部隊、空から降下する必要性をもはや逸した。機体色通りのグレイな存在と化した。
色こそ同じ灰色であるがその内の1機は蒼く輝く光だけで固形物の刃を持たない剣の二刀流。あからさまに元ヴァロウズNo3の剣士、天斬の流れを汲んでいる。
さらにその背後、一見何の兵装もない様に見受けられる灰色のエル・ガレスタ。にも拘らず得も言われぬ雰囲気を醸し出している。
確かに手持ちの武器は何もないこのEL97式改。実は世界中の何処にでも存在する星の屑を自在に操り、その気になれば軍事基地の1つや2つ、星の瞬く間に荒野へ戻せる力がある。
元ヴァロウズのNo1、エルドラ・フィス・スケイルの死体から取り出した知生体を固めて結晶化したものをEL97式の電子回路に直結してある非人道な兵器。
このエルドラそのものと言って過言でない兵器だけでも充分理不尽が過ぎるのだが、それを門番の様に守っているのが同じ灰色の天斬機というこれまた理不尽。
一方、アル・ガ・デラロサ隊長率いる特殊空挺部隊。此方も異能者を中心という意味合いでは特殊でこそ正しいが空挺の意味は余り成していない。
まあ空挺部隊が元々何たるかはこの際、捨て置く。
デラロサ隊はディーネ機が大破。マリアンダ機が小破。この被害だけ言葉通り受け取るとまだ余力がある感じがある。
然し実際の処、今攻撃的な動きが取れてるのはファウナ姉の金色を完封すべく孤軍奮闘しているラディアンヌ機。
そして白き月の守り手と電磁銃の銃口から光を出した輝きの刃をフルに活かして灰色2機と遣り合えば如何にかなりそうなファウナ・デル・フォレスタの金色だけだ。
後の連中は、何の気まぐれか不明だがエルドラ機が偶々仕掛けて来ないので、蛇に睨まれた蛙の如く、何もしてないから生き長らえてるに過ぎない。
何しろエルドラの星落としの片鱗をその目で見るのが初めてなのだ。ファウナやレヴァーラですら星の屑を完封した上でエルドラに勝利したのだ。寄って戸惑うのも無理からぬ事。
ガッ、ガガガッ! ガガガガガッ!
「──グッ!?」
少し沈黙を続けていたエルドラ機による星の屑がファウナ姉の抑えを成してたラディアンヌ機の背後に刺さる。ラディアンヌ機は比較的装甲を薄くすることで機動性重視にしてある。
要は当たらず避けろというコンセプトだが流石の彼女も宿敵というべきファウナ姉を相手に集中し続けている。背中を少々穿れようとも、その手を決して緩めない。
ガガガガガッ! ガガガガガッ! ガガガガガッ!
「クッ! こ、これでは流石にぃ!」
次は各関節部をご丁寧に貫かれた。所詮ただの機械。どれだけ優れた改修と搭乗者であろうが稼働箇所を破壊されては抵抗のしようがない。
爆裂こそ奇跡的に避けられてる模様だが、ラディアンヌ機は完全に沈黙しその場に崩れ落ちる。デラロサ隊の他の誰よりも酷い損傷具合だ。
『ラディッ!!』
『ラディ、大丈夫なの!?』
フォレスタ家三姉妹の長女肌であるオルティスタと三女のファウナがその様子に酷く慌てる。
特にファウナは白狼化したチェーンに森の美女達の息吹による治癒を試みている最中だ。ラディアンヌが心配だが手が離せない状態。
なおチェーン・マニシングは、森の精霊ドリュエルの精気を分け与えることが出来る生き物だったと今さらながらに思い知る。
但し腕を斬り落とされた際、ショック状態に陥ったらしく無垢な少女の姿に戻り気絶していた。
『大丈夫です。機体こそ動きませんが、私自体に怪我などは一切ございません』
ファウナ姉を抑える役目が果たせなくなった所為か、声に覇気が感じられぬが、五体満足には違いない模様。取り合えずホッと胸を撫でおろす二人。
しかしこれでいよいよファウナ姉すら好きに動く恐怖の幕開け。自由を尊ぶ彼女のことだ。勝手に遊撃へ回るであろう。
ファウナ・デル・フォレスタは再び姉の抑えに回るべきか? 或いはNo3かNo1をまとめて抑え込む秘策を見出せるのか?
『──エルドラ君、真っ先に落とすべき敵はそんな雑魚ではない』
此処でまたしても連合国軍司令官の嗄れ声が全チャンネルを通して戦場に響き渡る。デラロサ隊に雑魚などいない。増してやラディアンヌはヴァロウズ組に全く引けを取らない実力者。
そんな事くらいこの司令官とて百も承知の筈。何しろ偽物の天斬を嗾けレヴァーラ配下各人の能力を数値化した。さらにこのラディアンヌはあのファウナ姉とサシで勝負している。
だから他の者よりなおのこと、ラディアンヌ・マゼダリッサは調べ尽くしている次第。それを『雑魚』と言うからにはもっと強者を指している。
『──ッ!?』
ファウナ・デル・フォレスタ専用機へ星の屑の輝きが流れ始める。加えて天斬機も例の蒼の剣から光だけをファウナ妹の金色へ向け集中砲火。
ファウナが輝きの刃を決死の覚悟で振るい星の屑に対抗する。
勿論それだけでは手数が足らず、打ち漏らしが機体に当たるが白き月の守り手の防御力で致命的ダメージだけは如何にか防ぎ続ける。
なお天斬の繰り出す光線の様な攻撃に関しては、金色のビームコーティングが功を奏した。いつまで持つか定かではないが、現状気にせず対処出来ている。
──クッ! やはりそう来るよな、俺様だって普通に選択するさッ!
『各機、ファウナ機の援護に回れ! 敵は本物のファウナ・デル・フォレスタ落としを最優先する気だ!』
ようやくアル・ガ・デラロサがこの隊の隊長らしい檄を飛ばす。此方のファウナを落とされたら総てが終わる。しかしそれなら守りも一点に絞れるという訳だ。
──ふぁ、ファウナ様が私の所為で敵の砲火に晒される?
この結果を独り、如何にも飲み込めない、納得する訳にはゆかない者が1名。
ファウナ・デル・フォレスタの為なら己の命さえも惜しまぬ御付き。ラディアンヌ・マゼダリッサである。
彼女は大変聡明な女性、ファウナ独りに攻撃が集中する方が実は有利に傾くこと位、判断出来ている。
──然し物事は理屈だけで推し量れるものではないのだ。
スゥゥゥ……。
「はぁぁぁぁ……」
ラディアンヌが一子相伝の呼吸術に一縷の望みを賭ける。それが例え余計な世話事だと知りつつも。




