第126話 劇団黒猫の華麗なる独り芝居
熾烈を極めるかに見えたアル・ガ・デラロサ率いる特殊空挺部隊Vsファウナ姉の新連合国軍第一特殊空挺部隊の争い。
だが魔導という反則を自分で好きに扱えるのがファウナ姉しかいない軍に対し、デラロサの部隊は隊長と副長以外、全て異能と兵器の合わせ技で倍加させるという絶対差。
しかもそのファウナ姉を抑えているのが同じ魔導士のファウナ・デル・フォレスタ本人。連合国側のジリ貧加減は避けようがない。既に残機4となった。
連合国軍側の人型兵器、ファウナ姉以外の動きがさらに緩慢さを増す。確かにアル・ガ・デラロサ隊長の指示など無用の長物なのだ。
「──クッソ! アンタ達何してんのよッ!」
因果応報な文句を垂れるファウナ姉。所詮力に頼るだけの存在。互いの供給が断たれたら終わるが必然。後は己の力に頼るのみか。
ファウナ妹が執拗に輝きの刃しか使わないのだ。ほぼ詠唱不要の両者とはいえ、新たな魔法を発動する際、どうしてもそちらへ集中を必要とする。
ファウナ姉は腹立たしくもホバリングを逆噴射させ間合いを稼ごうと幾度も試みる。しかしまるで記録動画を観てるかの如く、伸びる輝きの刃に叩かれる。
パチンッ。
『何でよッ! 何で妹のアンタがあんな中年婆の言いなりなんかになってる訳ぇッ!?』
ファウナ姉。次は無線を全チャンネルに合わせた上で、精神的揺さぶりを狙う。
『私達は同じ選ばれた人間なのッ! あんな出来損ないの味方をするとか意味判んないわッ!』
ファウナ姉──。これは実に痛々しい行動であるのを自分で気付いていない。心底付いて往きたい人間がいる幸福。実は妹が羨ましい。その嫉妬が判らずにいる。
『何で? ──うーんっ、判らないわその理屈。ただレヴァのことが愛しいだけ。何故愛してるのか問わないで。全てとしか言えないから』
姉の悲痛な質問に淡々と応じる妹。『愛してる』を無表情で言える程、ファウナに取って必然過ぎる。最早レヴァは自分の一部。自分の腕を切り離せと言われた処で答えようがないのと同じだ。
『何て憐れな子ッ!! アンタ彼奴に騙されてんのよッ!!』
『騙される? 別に良いわ、だって騙された方が悪いのだから』
今度は一転。ホバリング全開でファウナ機の胸元まで迫る大立ち回りを演じるファウナ姉。この一言には流石の妹も顔色を変えると踏んだ。されど恋は盲目で虚しく終わる。
──クッ!
ファウナ姉、実はもう1つ殺し文句を秘めている。然しそれを言うのだけは何故か気が引ける。自分で負けを認める様なものだからなのか? 聡明な彼女自身、答えを見出せずにいた。
『──吹けよ嵐っ!』
赤白のフィルニア機が機体の手を空へ翳す。依頼通りの吹き荒れる暴風。ファウナ姉以外の3機が途端に成す術なく飲み込まれてゆく。約12mの巨体が木の葉の様だ
『──炎舞・『昇緋』!』
オルティスタが立ち昇る炎を繰り出す。やはり生身でやるとのではスケールが違い過ぎる。真っ直ぐ上がった炎がまるで熱線の如く親衛隊機の1機を貫き破壊した。
『ディーネ様の一撃を存分に喰らえッ!!』
ディーネ機の銃身からまたも水圧の刃が飛び出す。火事の次は火消しの水とは何とも洒落が効いているが、手も足も出ない敵機に取っては何れも地獄。あっけなくさらに1機が地獄の沙汰へ堕とされた。
「………」
親衛隊最後の1機が宙で乾燥機の中の洗濯物の様に未だ虚しく回り続ける。先程まで有頂天だったアル・ガ・デラロサが打って変わり白けた顔を向けている。
やはりこの部隊、余りにも強いが過ぎる。これでは誰が部隊を率いても同じ。隊長をする意味がない。
『デラロサ隊長! あの敵の処分をお任せします!』
『デラロサッ、漢らしくドデカい花火を見せてくれッ』
愛しの新妻と男よりも男らしいオルティスタがデラロサの男振りに期待の声掛け。男という生き物は虚しくもあり、単純なものだ。
俗に言う黄色い声援。劇団黒猫に入団して以来、初めて漢を期待されている。これで燃えねば男じゃない。此処は敢えてド派手に馬鹿をやらかすのが最上。
アル・ガ・デラロサの銀色に輝く機体がホバリング全開で宙に舞う。それは別に良い、何とデラロサ機までフィルニアが呼び出した嵐の中へと飛び込んだではないか。
一体何を仕出かすかと思いきや空中のでの飛行形態変形。なおこの方法、隊長機を設計したリディーナ様非推奨。
あくまで地上からLModeで離陸してからのFModeが使用上の御注意。アルの性格からして恐らく説明書を読まずにプラモデルを組んでいたに違いない。
さてさて飛行形態で嵐の最中、風に機体を乗せるデラロサ。対する敵は未だ、同じ嵐の中で溺れる様に藻掻いている。
──ヘッ! さあ、当たれよ……。
両手の甲からアンカーワイヤーを飛ばす。無論、風で揺らぐ敵機へ向けてだ。当たる確率? そんな下らぬことはハナから考えちゃいない。『俺様が当てると言えば必ず当たる』そんな処だ。
──果たして……それは見事に敵機にぶち当たった。これでデラロサ機と敵機の間に一筋の道が開拓される。
『ま、まさかあのまま特攻する気ィッ!?』
『うおぉぉぉぉッ!! 喰らいやがれぇぇッ!!』
このメンバーの中では比較的能天気派なディーネが驚き悲鳴を上げる。『頭部の突起物を壊せば二度と変形出来ない』リディーナ博士の但し書きよりも、この機体から無限を引き出そうと躍起なのだ。
ズガガーーンッ!!
2機のエル・ガレスタ同士が激しく衝突し、宙で渦巻く爆炎。
その火達磨から銀色だけが打ち勝って出現した。沸き立つデラロサ空挺部隊の女兵士達。空からニヤリッな漢がその歓声に親指立ててで応えたみせた。
──ふぅ……機首代わりになんだから硬えとは思ってたがな。正直冷や汗もんだったぜ。
格好付けてる裏でこんな様子のデラロサ隊長。敵機の装甲が此方よりも薄いのは計算に入れてない良い加減ぶりなのだ。
『さあ俺様の可愛い子猫達! 俺達の姫を救うぜぇッ!!』
結果OK、切り替えるデラロサ隊長。残る争いはファウナ姉妹の攻防ただ1つ。ファウナ姉相手に袋叩きで悪いなどとは思わない。
『──やはり毒は同じ毒、いや違うな。さらなる猛毒を用い制す……か』
突如敵味方関係ない回線から響く初老男性の濁り声。
『──なっ!?』
『ま、間違いえねぇッ! この声を聴き違える訳がねぇッ!』
勝ちに傲りつつあるデラロサ隊の空気が一挙に乱れゆく。中でもデラロサ夫婦──この濁り声の元部下二人。その顔色が急変した。
『おぃッ司令官殿ォッ! 何処にいやがる? 何を仕出かす!?』
エル・ガレスタの頭だけでなく身体毎、周囲を見渡すアル・ガ・デラロサ。無駄な事を承知な上で足掻かずにはいられない。
『久しいなデラロサ君。探した処で戦場に私は居ない、この役立たずが居る訳ない。君が1番良く知ってる筈だ』
未だ勝手に喋るだけで何も手を汚してない老人。それでも絶望が空と共に堕ちて来た如何にもならない嫌な感触をデラロサ隊に被せてゆく。
『ファウナ君、まさかこれ程早く切り札を切る羽目になろうとは。正直少し失望している』
恐らくこの男、またしても眼鏡を磨きながら文句を言っている。浮島に於ける戦いに視線すら送っていまい。
『うっさいわねッ! 勿体つけないでとっと出しなさいッ! 私が死んだら困るのアンタじゃないッ!!』
妖怪眼鏡拭きの指摘──。
ファウナ姉自身が最もこの屈辱の意味を肌で感じている。自分より出来の悪い筈の妹に、こうも好きにあしらわれた。
しかしもっと腸煮えくり返るのは、あの黒髪の女率いる連中に届かなかった自分にである。