第125話 本物が魅せる争いの手解き
浮島に於けるファウナ姉とファウナ妹による熾烈なる争いの幕開け。
何れも浮島の所有権を譲らぬ戦争。正確には浮島自体の処遇に余り価値は無い。
全く同じ顔、同じ声、ほぼ同じ能力で『自分が本物』と主張する双子の姉と妹。
ファウナ姉が妹と同じ魔導を操ることで主導権を優位に運ぶのかと思いきや、次は姉の乗機である金色のエル・ガレスタと同様の機体で、妹が追い縋る。
遠目で見る分には、いよいよどちらが本物なのか判らない沼地。
レグラズ・アルブレン率いる連合国軍の成り損ね部隊から、ア・ラバ商会の人質達を解放し浮島の所有権まで手に入れたレヴァーラ・ガン・イルッゾとその際、傍らにいたファウナ妹。
寄って本物のファウナであるなら、この浮島を好きに出来る存在の筈。そんな大変陳腐な話の流れ。もういっその事、発言でなく行動で示せ。この舞台で勝利し、自分が本物であると証明せよ。
双子──一卵性双生児。
別に珍しくもない存在。それが御伽噺の様な魔法をそれぞれ有してるのが、世界を惑わせている根源。もしこの二人が赤の他人であったのならば、こんな馬鹿げた話に至らなかった。
人が余剰を刻して愉しんでしまうが故の知的生命体である為、こんな無駄を極稀に欲するのやも知れない……。
◇◇
「これが私の機体であるのは明白。ならば今すぐ使い熟して見せるだけの事。そんな単純な話が何故理解出来ない!」
背中にバズーカ砲2門を装備した超武装型と言うべきエル・ガレスタ。
その前で整備員と不毛な議論を続ける青づくめの男。たった今、騒乱を呼んでいる浮島の元司令官。要は所有権を声高に言いたくなる存在。
「何度言われようが此奴は未だ改装中! 整備不良で勝手されて挙句の果てに死なられちゃ、こっちが商売あがったりなんだよッ!!」
一方ア・ラバ商会からこの機体の整備担当を任された偉丈夫。女で在りながら普段からの多忙な肉体労働で、男も黙らせる程の筋張った筋肉が全身に行き渡っている。
アル・ガ・デラロサから『この事務方上がり』と揶揄されがちなレグラズでは力づくで言う事を聞かせるなどまず不可能。逆に骨の1、2本を持ってゆかれるかも知れない。
「クッ! アレは誰のものでもない、私の所有物だッ!」
取り合えず何かに当たり散らしたいのか手袋を脱ぎ、床に叩き付ける。ペシャッと、何とも情けない音だけが応答したが、格納庫の喧騒に掻き消された。
まあこの男の誇りを思えば判らなくもない。
既にレヴァーラから接収されたといえ、彼の地には自分の軍人としての歴史が積まれている。この状況を指咥えて見てろというのは余りに酷だ。どれだけ逆上しても足りない。
「──ククッ、不服かレグラズ・アルブレン?」
怒りをぶつける場所を見失っているキレ者の背後から踊り子様が煽りを入れる。
「当然だッ! 同じ軍属のデラロサ達は出撃して私だけ残れで話が通るかッ!」
仮にも今の雇い主というべき黒髪の神へ、高い背を大いに活かし詰め寄ってゆく。「貴様、そんな顔を見せるのだな」正直な思いを吐露するレヴァーラ。
「だが済まんな、お前の機体を今すぐという話は聞けぬ。──が出るだけで良いなら機会を与えてやらんでもない」
「なにッ!?」
実に意外な現人神からの譲歩。これには襟を正し、普段の生真面目さを取り繕うと躍起になるレグラズであった。
◇◇
『ファウナ、そこをどいてソイツとの距離を取れッ! 援護してやるッ!』
未だマリアンダ機を載せているアル・ガ・デラロサ。マリーの狙撃による共戦を無線で伝える。ファウナ達に先んじてた筈の自分達が追い抜かれたのは言及しない。
『いいえ、決してどきませんッ!!』
これはファウナがただ意地を張っているだけではない。最早、魔装兵器と化した自分が、敵最強の金色を押さえきる。
これでデラロサ隊は自由に動ける。対する敵兵達、要石の援護を受けられず、戦力半減以下となるのだ。
『了解したッ! だが無理すんじゃねぇぞッ!』
デラロサの気遣いに、ファウナ妹が声にならない笑みだけを返す。この若過ぎる癖に人一倍の責任感と若さ故の危うさが同居している魔法少女をデラロサなりに案じているのだ。
ヒューッ、ズガッズガンッ!!
空からの情け容赦ない爆撃。敵には無遠慮、味方は良いから勝手に避けな。これ程適当かつ凄まじき援護が出来るのは紛れもなく犬鷲化したチェーンである。
『ふぁ、ファウナ隊長ぉぉぉっ! た、助けてくださぁぁいっ』
キングハリドであれだけ好き勝手に暴れた紅の親衛隊の1人。情けない悲鳴でファウナ姉に助けを請う。他の連中も本物の圧倒的な力を、機体越しに感じていた。
『不細工の泣き言なんて聴きたくないわッ! アンタ達ファウナ・デル・フォレスタの親衛隊でしょッ! 少しは意地見せなさいよねッ!!』
妹からの想定外な卓越した剣捌き。銃身で創造した輝きの刃。しなやかなに背後まで伸びる大蛇と、間合いの読めぬ伸縮具合の組合せで追い詰められる。
逸したと思えた剣に仕掛けようと迂闊に動けば、途端に刃を差し向けられる。やりにくくて仕方がない。
『チィッ! 何て生意気なことするのよッ!』
それでも破綻しないファウナ姉。彼女は軍のエリート、素人剣術に遅れを取るヘマはしない。しかし魔法を使う隙を作れず舌打ちする屈辱。
『クッ!? クッソオォォォッ!!』
紅き親衛隊機の1体が重力開放の残りカスで宙を舞いつつ手ぶらな緑の機体へ超電磁砲の射線を合わせた。ほぼ背中を捉えている。
──迂闊が過ぎます。
ラディアンヌ機が神速を以って正面きって右の手刀を突き出す。生身の彼女と違うのはただ一つ。手首が伸びて親衛隊機の動力部をいとも容易く貫いた。
「凄いです……これは本当に私の動きそのもの」
適当に空を飛んだ敵を倒した喜びなど微塵もない。それより自分の反応速度にほぼ呼応している機体に満足した。
その落とした敵の裏側に潜む敵がラディ機へ仕掛けようとした矢先。鉄も貫く超水圧の水鉄砲がその敵さえも一撃で仕留めた。然もそのまま凍結させるオマケ付き。
『弱い弱いなあ! ──違う、この僕が強過ぎるんだぁぁ!』
解説不要な水使いディーネ機による一撃。左腕に装着した電磁砲の電力を一切消費せず敵機を墜とす意外なる周到ぶり。
『おぃッ、手前等ッ! 隊長の俺様を差し置いて、大層御機嫌に殺ってんじゃねぇかッ!!』
マリアンダ機を地上へ降ろし飛行形態のまま上陸。
手甲の上からフックワイヤーを伸ばし、敵を雁字搦めにしてから悠々と人型へ戻り、敵の首を鷲掴みにする隊長機。
そのまま敵機を身体毎吊し上げる。藻掻いて逃れようとしている処をグシャリと潰す。空いた手も用い、装甲の薄い相手の手足を猟奇殺人者の如くバラバラに引き裂いた。
『このアル・ガ・デラロサ隊長様の命令を何一つ聞かず、好きにやらかしてくれたもんだぜッ! ──がッ、それで良いッ! 精々ド派手に蹂躙してやれッ!』
この漢、命令違反など気にする処か寧ろ気に入っていた。優秀たる兵士とは態々命令せずとも己が手足の様に勝手に動く。デラロサは今、充実の極みに居た。