第121話 初出撃! 新デラロサ特殊空挺部隊
浮島に近づいている黒い輸送機。
紛れもなくファウナ姉率いるEL97式空挺部隊に相違ない。世間的には自軍の基地へ入港することを装い、浮島の占拠が目的なのは明白。
問題はこれを如何にして防ぐかである。今からレヴァーラ軍の輸送機を準備していては到底間に合う訳がない。
しかしリディーナの導き出した答えが余りにも陳腐というか意図不明が過ぎるのだ。
『──ちょっと待てリディーナさんよぉ。まさか俺とマリーだけで黒海まで走れって言ってんのかッ!?』
アル・ガ・デラロサ必然の声高文句に顔を顰め思わずヘッドセットを外すリディーナである。
『いいから"L"のボタンを押して! それが私からの回答よ』
『ア”ア”ッ? "L"のボタン? 此奴かぁ?』
ヘッドセットを外したまま騒がしさの不快を顔に浮かべるリディーナ。マイクだけに話し掛ける。
言われるがまま"L"のボタンを見つけたデラロサ。隣に"F"も存在している。"L"と"F"の間に"+"の文字が彫り込んである。何とも意味深、然も従来のエル・ガレスタには存在しないものなのだ。
『うぉッ!?』
想定外の縦揺れとは実に気持ちの悪いもの。続いて『倒れる!?』と思える程、デラロサの座席が背中側に約90度向きを変える。このままなら真上を向く。
しかし大変奇妙なことに気がつけば、しっかり前方を向いている。なお視線の高さが半分程下がってしまった。
──い、一体何が起きやがったっ!?
先ず自機の腰から下を映せるモニターに切り替えてみる。エル・ガレスタの膝から下が前方向へ曲がっているではないか。
『隊長! 隊長の機体上部が……』
『ア"ッ!? 俺の機体がどうしたってんだ?』
マリアンダが客観的に見たデラロサ機の状態を報告しようと無線を入れたが、適当な説明台詞が思いつかず二の句が告げずに困惑している。
百聞は一見に如かず。
マリーが言葉に寄る説明をサッサと諦め、自分の機体が捉えた映像をデラロサのモニターへ流し込む。
──こ、これはもしや……飛行形態!? 此奴変形しようってのか!?
銀色の機体の腰上が前方へとお辞儀をしている。両腕が真っ直ぐに伸び、胸部に張り付いたかの如く動こうとしない。
さらにエル・ガレスタ共通である頭部が半分程胸部に沈み、その背後に存在する尖った何が包み込み、如何にも機首を連想させる。
まだある──。
背中から脚部を覆っていた後方向け盾の役目を果たしていると思われたものが、真ん中から2つに割れて翼を成しているではないか。
『おぃッ、リディーナ! 此奴まさかッ!?』
もう察してることをくどくど聴くのは少々デラロサらしくない。しかし理解出来る感情の起伏でもある。信じ難いことが起きると無駄な確認をしたくなるのが人の癖というものだ。
『私に質問せずとも勘の良いデラロサ大尉には理解出来てるでしょう? 早く麗しの妻を上に載せてFを押しなさい。その機体にありったけの反重力装置をつぎ込んだのよ』
リディーナが丈の短過ぎるスカートから伸びる脚を組み、立て肘を付いて自身の卓越した技術をさも偉ぶる。
だが実の処、アイデア勝負な簡易変形機構。機首代わりの飾りか或いは盾代わりの羽根を撃たれてしまえば一挙に破綻をきたす。
加えて頼みの綱である反重力装置の仕組みをリディーナでさえもまるで知らない。重力を反転……夢物語が過ぎる機械。何でも地球ではなく空に輝く月の引力を求めているものらしい。
ニヤッ。
『聴いたなマリー! 俺様の背中にお前の機体を乗せろ! 急げッ!』
『こ、了解!』
アル・ガ・デラロサ会心の笑み。
マリアンダ・デラロサのホバリングが強化されたエル・ガレスタで軽々と跳ね、ガシンッと機体同士のぶつかりを反響させた。
さらに吹き飛ばされない様、素早く前傾姿勢に移行する。初めての試みとは思えぬ無駄のない動き。
ブンッ!
『──ッ!?』
銃器の砲身らしきものが不意にマリアンダへ向けて飛んで来た。この無造作を咄嗟の判断で受け取れる彼女。流石生え抜きといった処。
『リディーナからの餞別らしいぞ。お前の神憑り狙撃を連中にも見せてやれってさ』
罷り間違えばマリーかアルの機体に当たり、大惨事を招く処。その行動を起こしたのは迷彩色のオルティスタ機だ。彼女のことだ、恐らく配慮ゼロである。
『よっしゃァッ! いっちょかますぜぇッ!!』
LからFへ移行する隊長機。
常時離陸&着陸を可能にすべく、無駄と思えたED01-Rの脚部転用。脚部が折り畳まれ完全に地上から離れた。同時にホバリング用のブーストが飛行移動用に置き換わる。
デラロサ夫妻が空を斬り裂き飛んで往く。
『ちょっとぉッ!? アレ凄く格好良いけどさぁ? 私達はどうやって追いかけんのよっ!?』
ロボアニメさながらの光景を見送りつつ、青いディーネ機が指差し怒る。顔こそ無表情だが意外な程、情緒豊かだ。
『いや……私は判った気がする。風が全てを教えてくれた──吹けよ嵐ッ!』
『え、えええ……嘘ン』
此処で相棒だと信じていたフィルニアがまさかの裏切り。風姫の巻き起こした風が両肩のフィンを強制駆動させてゆく。
この風車、見た目通りターボチャージャーの役割がある。尤もそこいらのそよ風位じゃ如何にも出来ない。
されどそこは大気使いフィルニア様の面目躍如。あっという間にフィンから供給されたエネルギー。それらを搭乗者が脚力へ集約させる想像を膨らませてゆく。
『舞えッ!!』
操縦士の良い中低音ボイスと共に、両脚によるジャンプ1発──と一言で言い表すには余りにも飛距離と勢いが在り過ぎる。
だがこの跳ねた際、自然に巻き起こる風が再びターボフィンを掻き回して飛行にさえ匹敵するジャンプ移動を続けられる。然もこれがエネルギー回生にも連動する二重構造。
「───い、行っちゃったよ……」
無線に載せない声で独り呟くディーネ。
しかしながらこの結果にて、ヴァロウズの系譜であるディーネだけでなく、ファウナの御付きでしかないオルティスタとラディアンヌも重要な事実にようやく気付く。
EL・Galesta "LydinaModel" + 戦闘服 ≒ 自身の能力を機体再現可
まさに目の覚める思いの残された三人組。
──ひょっとしたら……。ううんっ、他に考えられないよ!
ディーネの脳裏に浮かんだのは、この機体が背負っている謎のボンベ。
執拗い説明だが、エル・ガレスタは内燃機関もジェットエンジンも積んではいない。
それはディーネ機も同様。しかしそれでは背中の噴射口の説明がつかないのだ。ディーネは勝手に悟った。あのタンクの中身は恐らく空。但し何処にでも在る水蒸気は別の話。
「このエル・ガレスタは僕そのもの……」
今度はディーネが水使いとしての能力を自身に転化すべく集中を高める番。
水の精霊を嗾ける存在がハッキリしてれば何もないよりイメージしやすい。自分で在るなら尚更だ。
『噴き出せッ! 水の精霊達ッ!』
この解釈も大正解。ディーネはタンクの中身を空っぽと解釈したが実の処、1/4ほど水が溜められている。
それが発端となり、タンク内に潜む水蒸気達にも呼び掛ける。行き場を失った水圧達、噴射口だけに集約し一挙に噴射。地中海上の青空へディーネ機が飛び出す。
霧を含んだエネルギーが空高く舞い上がる。それが七彩を構築し、美しき架け橋を創造しながら飛んで往く。
これでフィルニアとディーネもリディーナ指令の思うがまま、黒海へ向け出撃を始めた。
因みにディーネの水圧。これらも回生エネルギーとしての役割も兼任出来る。リディーナ様の細工、手抜きはあれど抜かりなし。
──此処までは計算通り。後はうちの女神とその御付き二人をどうやって浮島へ運ぶかよね……。
ファウナ・デル・フォレスタは自分へ充てがわれた機体に乗り込み、蜘蛛の糸による電子回路接続を既に終え準備万端。
後は飛び出すだけなのだが、飛行形態に変形し自力飛行出来る機体は隊長機のみ。相手はファウナ妹と実力伯仲の魔導士が率いている。たった4機では流石に心もとない。
「───機械兵器相手にこの僕を忘れるなんて失礼じゃないか?」
第1格納庫中に広がる僕ッ子な少女声。アル・ガ・デラロサの文句が可愛く思える程の声量。その場に居る誰もが圧倒された。