第119話 EL・Galesta "Type Lydina" A PART
かくしてアル・ガ・デラロサ隊長とマリアンダ・デラロサ副長は、戦闘服の着装を終え、威風堂々各々の専用機の前に躍り出た。
元々乗り気充分のアルは勿論、あれだけ嫌がっていたマリアンダもやる気溢れた良い表情でエル・ガレスタを見上げている。
戦闘服の色。それぞれの機体色と合わせてある。アルの方は基本色が銀色。関節部等に外装が付いており、それらは黒のツートンだ。
一方、マリアンダの方も元々の機体色。青みが混じる白の機体色に合わせてある。アルと同様、肩や足先などはこれまた機体色と揃いの青。機体の見た目だけなら代わり映えが少ない方だ。
だが戦闘服の派手さは別の話。胸元の大開きと色濃く判るボディライン。競泳水着並に無駄のない至適な衣装。腰に手をあて堂々してると寧ろ凛々しい。
これまで強化服兼操縦服としていた。これはパイロットの保護と機体を飛び出しても作戦行動に移れる意味合いであった。
勿論、空挺部隊として理に適っていた兵装。だが何ともゴテゴテしく、男女問わず品も華も欠けていた。
薄い生地だが防護として強化服に見劣りしない最高の素材を惜しみなく奢っている。動きやすさは言わずともがな。
ウィーン……。
クレーン的なワイヤーが操縦席から降りて来る。それに脚を掛け捕まり、操縦席に向かう両者。
『OSは既にNormalで起動してあるわ。最初の認証系はこれ迄と同じ。後は座席に着いてから勝手にやってくれるから安心して頂戴』
独りほくそ笑むリディーナ様。
実の処、Meteonellaの御披露目以上に、この瞬間を待ち侘びていた。
あの黒猫は言わば遊びの延長上的な代物。対して此方は信念秘めた仕事。納期迫る中、出来得る限りの結果を追い求める。これぞ正に仕事の醍醐味。
リディーナの言う『最初の認証系』とは静脈と虹彩認証。量産機のエル・ガレスタも採用しているので、軍出身の二人には説明不要の流れ。
『アル・ガ・デラロサを認証しました。これより操縦士の読取を開始します……』
『マリアンダ・デラロサを認証しました。これより操縦士の読取を開始します……』
「おぃッ!?」
「──ッ!?」
台詞的には何の変哲もない無機質なOSの声。これは何とも悪戯が過ぎる。アル専用機からはマリーと瓜二つな声。その逆もまた然りという念の入れ様。
互いに永遠の愛を誓った者同士が、これより全身を隈なく計測し、各々の躰に合わせる作業が始まる。或る意味当人からやられるよりやらしい。
「こ、これに私が乗るのか……」
「この水色のが僕のだね」
続いて来た生贄はフィルニアとディーネ。
フィルニアの機体色は顔は赤いが胸元辺りは白いペイント。如何にも普段着な彼女の格好をご丁寧に踏襲している。特有なのは両肩。航空機エンジンの様なターボフィンを内蔵してある。
ディーネが見上げる水色の機体。まるで潜水用の酸素ボンベみたいなものを背負っている。けれどもただのタンクに非ず。下方向に向けて噴射口が口を開けてる。水中戦でもさせるつもりか。
お互い自分の生き写しを見ている気分。羞恥と言いようのない不安で思わず溜息。それでも戦う以外の選択肢を此処では知らない二人。いざ操縦席へ。
「おぃおぃ……本気かよ。俺にロボットで二刀をやれってかぁ?」
「まだ良いです……私の何か武器処か黄緑一色ですよぉ?」
森の女神候補生の御付きであるオルティスタとラディアンヌコンビも着替えが終わり『まあ恐らくこれだろ……』と目星を付けた。何れも緑色が主体の機体色。
まるで常緑樹を思わせる濃い緑に黒い斑が混じる如何にもArmyなのが恐らくオルティスタ専用機。早い話、緑迷彩。
両上脚部が半開きになっており、そこからナイフと呼称にするには余りに可愛げないアーミーナイフ2本が飛び出している。
そして普段余り文句を言わないラディアンヌが意気消沈した黄緑の機体。
極ありふれたEL97式に見える。マリアンダの嫁入り道具と化した量産機より味気ない。さながら素組みのプラモデルを思わせる。
『読込・完了』
先に恥ずかしい儀式を終えたアルとマリー。途端にエル・ガレスタの目が輝き放つ。
エル・ガレスタのメインカメラの形状。両端の吊り上がったゴーグルの様な形をした所謂単眼。けれどもこの2機、明らかに様子が異なる。
そのゴーグルの中に2つの両目が浮かび上がる。尤もこれで視界が量産型より優れたのか定かでない。リディーナの過剰な仕事の成せる業。
『アル・ガ・デラロサ、本機の起動を確認! メインモニタが大きくなった位でパッと見変わらねぇな……』
その大きくなったメインモニターに向かい白い歯を見せつつ敬礼してみせるデラロサ。少し文句を垂れてる感じだが、新しい玩具を一刻も早く動かしたくウズウズしている。
『まさか全方向周囲モニターでも期待したの? 流石にないけど後部センサー類は充実してるし、そのモニターだって視力矯正なしで操縦士に合致させる優れものよ』
生体スキャンの賜物を説明するリディーナである。眼鏡要らずと言うが、機体の電子回路と戦闘服に埋め込んだ人工知性体を接続した故のオマケに過ぎない。
『マリアンダ機、起動を確認しました。──私の方はやけに照準機能が充実してる……?』
続いてマリアンダ機も起動手順を問題なく完了。外付けの武器を一切外してる割に、その手の計器類がやたら悪目立ちしているのを感じた。
『流石マリアンダ副長! 『AUTO』でも『MANUAL』ですらない『ORIGINAL』狙撃を期待してるわ。──さあ、ハッチ解放。これよりエル・ガレスタのテストを開始する!』
パチンッと指を鳴らしてリディーナが喜び昂る。
さらに艦長か指揮官になったつもりで右手をバッと広げ、良い声と共に翳した。軍の監視衛星にはダミーの映像を抜かりなく流し終えてる。
──ええ……。待ってぇ? その台詞まさか聴いてたの?
突っ込み処満載なリディーナの指令。
荷電粒子砲によるNo2を掠めたマニュアル射撃は、未だマグレだと言っておきたい。その上、心が全裸なあの会話を盗聴されたとしか思えないリディーナの完コピ台詞。
第1格納庫のハッチが開き、銀と白のエル・ガレスタが巨神の様な禍々しさで緩やかに地面に降り立つ。
『リディーナ、ちょいと聴きたいんだが此奴の残量やけに少ない気がするんだが……』
メインモニタ下部に映る電力残量が気になるデラロサ。改修前の量産機に比べ、やけに小柄な肩をしてるのが、乗る以前から気にはなっていた。
EL97式は完全な電気駆動方式。故にバッテリーは命に等しき存在。それにも拘わらずバッテリーを積んでる筈の肩が小さい。ファウナ姉の部隊が扱ってた太陽光発電も見受けられない。
『大丈夫な筈よ。試しに色々動かしなさい。マリアンダ機も同様よフフッ……』
バッテリー残量が少ないと報告してるのに『色々動け』と適当過ぎるリディーナ指令。この女、天才でなく鬼才に分類されがちな頭脳を使いたがるのだ。