表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/234

第112話 またしても揺れ動く女神と獣人の少年

 ヴァロウズNo4、インド神話に出て来る神々の力を具現化出来る能力を持つ存在。パルメラ・ジオ・アリスタ。そしてその連れ、白い子猫やキマイラの様な姿に自身を変化させる能力をもつジオの二人。


 ファウナ・デル・フォレスタが持てる限りの魔導を尽くしても、彼女独りだけでは勝てなかった強敵(ライバル)。最愛のエルドラを失った褐色(かっしょく)の美女が再びフォルテザに姿を現す。


 だがエルドラの仇討ち処か攻撃の意志すらない模様なのだ。何が目的か判らず不気味に感じていたレヴァーラ一派。


 しかしファウナの予想『あの神聖術士(しんせいじゅつし)は此方に何かを望んでいる』この言葉を受け止めたレヴァーラ・ガン・イルッゾは、疑問が一挙に氷解(ひょうかい)するのを感じ取った。


 元々2人──1人の(ファウナ・)魔法少女(デル・フォレスタ)少女の化けた白狼(チェーン・マニシング)の二人で応じるつもりであった処にレヴァーラが割り込む形に至る。


 (かつ)てファウナがパルメラと戦闘した際、このチェーンが自分には不要な座席をファウナの為に態々(わざわざ)用意したものだ。しかし今回は座席を2つ、用意してやる必要が在る。


「どうするんだ? あの例の黒猫みたいに前後式の複座にするか?」


 格納庫で寝ていた処を起こされたチェーンの軽い質問。正直どうでも良い話である。


「──いや横2列に並べてくれるか?」


 割と優しめな声によるレヴァーラからの願い(応答)。早い話、ファウナとのアベックシートを望んだのだ。まるでデートにでも行く気軽さ。緊張感が微塵(みじん)もない。


「……ま、良いけどさ」


 チェーンが言われるがまま、まるで車の前部座席の様に()()()()()()を用意する。「フフッ……」と緩んだ顔で運転側にレヴァーラ、その隣にファウナが乗り込む。

 そして互いに手を絡め、少し身長の低いファウナがレヴァーラの肩に自分の頭をユルリと載せた。実に幸せそうな二人に真顔の(白けた顔の)白狼(チェーン)が勝手に駆け始めた。


 ガシャンガシャンガシャン──。


「レヴァ……」

「んん? 何だファウナ」


 とても揺れ動く上、やたらと煩い(乗り物)なのに二人はすっかり緩み切っている。ファウナの金髪が自分の肩叩きをする度、心地良いと感じる踊り子様なのだ。


「二人で往くならどうしてMeteonella(メテオネラ)にしなかったの?」


「フフッ……そんな事か。大した意味はない。()いて上げればあの黒猫では(いささ)か礼に欠けると感じたのだよ。何しろ夫殺しの機械(エルドラ殺害の兵器)だからな。それにアレは狩りの道具──だから不要だ」


 さもドライブデートな両者の穏やかなる会話のやり取り。しかし『夫殺し』というレヴァの言葉(ワード)にファウナの蒼い大きな瞳がさらに丸みを帯びた。


「お、夫ぉ!?」


「何だ、お前のことだ。蒼いその瞳で気付いている(見透かしてる)と思い込んでいた。内縁らしいが()()すらいる」


 未だ18に過ぎない(思春期真っ只中の)ファウナに取って『夫』の次は『子供』という顔を赤らめる(妄想を膨らませる)に充分過ぎる途方もない話が胸に舞い込む。


「え……ええええッ!?」


「あの獣人(白猫)だよ。あの女、私には『籍を入れのが終わり(ゴール)だなんて古臭い』と馬鹿にしたが、ミドルネームに自分達の息子の名を(きざ)む辺り、大して変わらぬと思わんか?」


 ファウナ、叫ばずにはいられない内容。食い入る様にレヴァを見やる。


 対するレヴァは随分と落ち着いたものだ。彼女とて中身(意識)は大変初心(うぶ)少年(マーダ)である筈なのに。驚く愛しの少女(ファウナ)豹変(ひょうへん)ぶりをさも余裕の表情で楽しんでいる。


「……」

「──どうした?」


 不意にファウナの顔が曇天(どんてん)を帯び、すっかり(うつむ)いてしまった。これには流石のレヴァーラとて気に掛かるというものだ。


「わ、私……旦那様とダディ(お父さん)を殺……した」


 愛するレヴァとその仲間達を守る。その為なら敵は討たなきゃどうしようもない。


 そう割り切っていたつもりのファウナが愛する家族をこの手で殺めたという生々しさを今頃、実感し酷く落胆(らくたん)してるのだ。彼女の胸中(きょうちゅう)に育ての親と未だ見ぬ親の両方が浮かぶ。


「それは断じて(いな)! アレは我が殺害したのだ! ──ファウナ? まさかお前責任を取る為に名乗り出たのではあるまいな!?」


 平和(ファウナ)ボケしていたレヴァーラが立ち上がり、ファウナの身体を掴んで精一杯揺すり始める。

 ファウナ姉の呪縛から折角(せっかく)解かれたというのに、これでは元の木阿弥(もくあみ)。『私がパルメラの話を聞いてくる』あの言葉の裏腹を今さら感じ慌てるレヴァーラ。


「良いかファウナァッ! 我が女神に改めて誓いを立てるッ! もう二度とMeteonella(メテオネラ)同胞殺し(ヴァロウズ殺し)には使わぬとなッ!!」


 白狼の駆ける音さえ()き消す勢いでレヴァーラが(のど)(つぶ)して新たなる誓いを叫ぶ。


 それでもファウナは力なくダラリとしていた。『私に取っての女神(ファウナ)は未来永劫(えいごう)お前だけ…』あの時よりもこのファウナが、奈落(ならく)の底から帰って来ないのを感じてならない。


「れ、レヴァ……」


「聴こえなかったのかッ!! エルドラだけはアレに頼るより他なかったのだッ!! そうする様に仕組んだのはこのレヴァーラ・ガン・イルッゾであるッ!!」


 確かにMeteonella(メテオネラ)は、製作者のリディーナ。実質操縦士のファウナより助力を得て始めてエルドラ・フィス・スケイル最終決戦兵器足り得た(たりえた)


 されどそう仕向けた主犯は自分。お前は知らぬ間にこの犯罪(怪しき罪)に手を染めただけ。共謀罪(きょうぼうざい)すら適用しないとレヴァーラは力強く発しているのだ。


 この場への移動手段に()()を使わなかったのは単なる気まぐれでなく、寵愛(ちょうあい)する女神(ファウナ)をこれ以上失楽(しつらく)させない為の小細工なのだ。


 しかし幾ら理屈を並べた処で感情は別物である。ファウナ自身が『私が殺った』と自らの罪の意識に(さいな)まれている限り、何を言っても徒労(とろう)に終わる。


 ガシャン……。


 チェーン・マニシングの地面を蹴る音が止まった。目前に広がるメッシーナ海峡とイタリア本土。


 そのもっと手前に褐色(かっしょく)の美女が立っていた。インドの民族衣装サリー。ヘソ回り(下腹辺り)が透けて見える。着る者を選ぶ(なま)めかしさだが、パルメラ・ジオ・アリスタならこれでも足りない位に美麗(びれい)を成し得る。


 そして隣には背丈(せたけ)母親(パルメラ)の半分にも満たない少年が居た。


 彼はレヴァーラでさえ初見。さも獣人らしく金髪頭の上に猫耳が在る。目は黄色と緑色のオッドアイ。見慣れない獣人種故、年齢が判別しづらいが10にはまだ届いていないと予想出来る(おさな)い顔立ち。


「──なんやなんや、金髪の(魔法使いの)お嬢ちゃん。そないなこと悩んでおるん?」


 口論してる間に交渉相手(パルメラ達)の元に辿り着き、いきなり声を掛けられた。憤怒(ふんぬ)悲哀(ひあい)も感じさせない普段通りの声である。それ処か少し口角が上がっていた。


 言い争いの内容を聴かれていたと知り、ファウナを強く振り回していたレヴァーラも、哀しみにくれるファウナ自身も、どんな顔をすれば良いのか戸惑(とまど)いを隠せない。


「ウチのエルドラ様は独りで世界に戦争を仕掛けた凄い御人(おひと)や。せやからウチ()かて覚悟はしとった。それを気にするんはウチの()()()に対する冒涜(ぼうとく)なんよ」


 口は強気なパルメラ。如何にも強き者の元妻らしく毅然(きぜん)と振舞う。未亡人(みぼうじん)という痛々しさを一切感じさせない。


 ──だが、やはり此方も理屈では計れやしない哀傷(あいしょう)を内に秘めている。だからこそ恥を承知(しょうち)で此処まで来た。


 パルメラ親子が地面に膝を付き、恭順(きょうじゅん)の姿勢を取る。形振(なりふ)り構っていられないものをこれから現人神(レヴァーラ)御付きの女神(傷心のファウナ)へ吐き出すのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ