表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/234

第105話 エルドラだかディス"ドラ"だか知んねえ

「──ファウナッ!」

「ファウナちゃん!」


 ファウナ姉の介入という異常事態(イレギュラー)こそ在ったものの、無事ヴァロウズのNo1、エルドラ・フィス・スケイルを撃破しシチリアの我が街(フォルテザ)帰還(きかん)を果たしたMeteonella(メテオネラ)


 No7(フィルニア)No8(ディーネ)がさも心配顔で出迎える。他の連中も(けわ)しい表情には変わりない。ようやくエルドラ(頭痛の種)が1つ取り除かれたと思いきやの展開。


 自分達に取って心の()り所であるファウナ・デル・フォレスタの何ともやるせない負けっぷり。これまでも彼女は若さと理知に頼り過ぎた結果、敗北を背負(せお)った経歴が在る。


 しかし今回の黒星は色々な意味で未来(希望)を絶たれた感じが凄まじい。正確に勝敗を論じるのなら敗退した訳では決してない。特に魔法勝負(爆炎の打ち合い)なら互角であった。


 けれども(むし)ろ森の女神候補生と同列な時点で酷く辛いものが在る。この連中を無条件で支持してくれる女神が向こう(連合国軍)側にも居たという痛恨事(つうこんじ)だ。


「──だ、大丈夫よ。ただ疲れてるだけだから」


 黒猫の猫額(ハッチ)を開く。どうにか意識を取り戻したファウナがレヴァーラに身体を支えて貰いながら弱々しくも手を振り応えた。


「ファウナよ、無理をするな」


 愛しのファウナの肩を支えているレヴァーラに伝わる(はかな)げ。下から見上げる周囲の者達も動揺(どうよう)の色を隠せていない。


 身勝手な話、絶対神(信仰する神)は独り居れば後は要らないものだ。複数存在すると迷い(弱さ)を生む。


 増してや似た神が敵対するとなれば、いよいよ困ったものだ。(God)が転じて悪魔(Satan)を成す。

 神なら愛する信者からの我儘(わがまま)とて多少なりとも受け入れてくれるやも知れぬ。だが悪魔に意見した処で嘲笑(ちょうしょう)され、()になるだけだ。


 現人神(あらひとがみ)などと持て囃(もてはや)されてるレヴァーラだが、身内に於ける女神は間違いなくこの少女だ。彼女自身(レヴァーラ)がそれを認めている。


 今、敬愛する女神が弱り切ってるというのに自分に出来得ることが全く以って浮かばない。

 戦の女神(ワルキューレ)が大敗を(きっ)した途端(とたん)魔女呼ばわり(ジャンヌ扱い)されるのだけは、どうにか(かば)ってやりたいものだ。


兎も角(ともかく)4人共お疲れ様。何はともあれ今日の処はじっくり休みに(てっ)しなさい。後始末くらい此方でやるから」


「リディーナ──済まない」


 仕方のない状況とは言え、あのレヴァーラ様が長年連れ添う相棒(リディーナ)に本気の謝りを返している。頂点が揺らぐのは見てる方も辛いものだ。「皆も済まない」とレヴァーラが締め(くく)った。


 ◇◇


 フォレスタ家三姉妹とレヴァーラ・ガン・イルッゾが深い休息へ落ちてる最中。うつらうつらしながら後始末とやらに精を出してるリディーナである。もうすっかり格納庫に根を生やした生活。


「──お前さんも、ちったあ(少しは)休め。美女にこんな味気(色気)ねえ場所で倒られてはこっちがかなわん」


 アル・ガ・デラロサが首振りだけで『そこを退()け』と告げて来た。後ろには夫人(マリー)(したが)えている。


「で、ですが……」


 デラロサの申し出を聴き、Meteonella(メテオネラ)を心配げに見上げるリディーナである。


「この黒猫ちゃん、小難しい整備(トリミングサロン)が必要だってんだろ? だがな……俺達だって手前(テメェ)の機械整備くらいやってのけてるんだぜ」


「そういう事です。せめて数時間の休息時間くらい我々が作りますから」


 ニカッと笑うアル。マリーの()(まゆ)も緩んでいた。軍に所属してた時分から、グレイアードとエル・ガレスタも簡単な面倒(メンテ)ぐらいは自分達で(こな)している。寄って手慣れたものだ。


「ご、ごめんなさい……じゃあ御言葉に甘えて。4時間後に起こして下さい」


 リディーナ自身も意識朦朧(もうろう)でこれでは進捗がすこぶる悪いと感じていた。どのみち休息は必須だった。後は誰かに止めて欲しいと正直思っていた次第である。


「「了解(Copy)」」


 ふらりふらりと幽霊(Ghost)が如く、格納庫を後にするリディーナ。それを緩い敬礼(けいれい)で見送るデラロサ夫妻である。


「──さてと可愛い可愛い黒猫ちゃん(メテオネラ)。この伯父(紳士)様が優しく診て(視て)あげるからねぇ」


 Meteonella(メテオネラ)の状態を映している(晒している)モニターを覗き込み、さもやらしい手つきでキーボードに触れようとしているデラロサ。


 あのリディーナが端末にLockを掛け忘れるとは中々の珍事と言える。この3人が互いに依頼し合ったのはあくまで()()()()なのだ。


「アル? 約束を(たが)えるのは絶対駄目(NG)ですよ」


 旦那の態度豹変(ひょうへん)に冷たい視線をマリーが送る。しかし彼女とて気にはなるのだ。アルの非礼を腕組みで非難しつつもチラチラ片目で様子を(うかが)ってしまうのだ。


 自由気ままに図面データを拝見(はいけん)していたアルの手が突然止まる。その不自然さにマリーも気を取られた。


「此奴、人工知性体とやらが融合(ゆうごう)した人間を探知(たんち)し何処までも追ってくんだろ?」


 アルが(とが)った(あご)にゴツい手を添え、考えを(めぐ)らせに突っ走る。


「だがそれでも嬢ちゃんの(から)め手と態々(わざわざ)此奴を世間に(さら)して仕掛けて来る瞬間を狙うしかなかったのは何故だ?」


 彼の疑問は(もっと)もだ。Meteonella(メテオネラ)を製作した意義を問われる内容である。


「相手は衛星軌道上に居たと聞きます。例え黒猫の探知能力が優れていようと、地上全体を含む宇宙にすら手を伸ばすのは無茶が過ぎるという話では?」


 マリアンダの冷静なる受け答え。人工衛星による探索(たんさく)に掛からなかったのだから住居(コロニー)そのものを迷彩化(めいさいか)してるのかも知れない。


 如何にMeteonella(メテオネラ)が優れていようと所詮(しょせん)ただの機械。ファウナ・デル・フォレスタの魔力に寄ってレヴァーラの閃光(エンツォ)を増大させることで、その能力を最大限発揮出来る。


「流石俺様のマリアンダ。大方(おおかた)そんな処だろう。──にしてもあの嬢ちゃん、No4(パルメラ)との負け戦の最中(さなか)、あのジオって化け猫に()を付けてやがっただなんて、とんでもねぇ策士だな」


 魔導師(ファウナ)とインド神話の神々から力を引き出す神聖術士(パルメラ)壮絶(そうぜつ)なる衝突(しょうとつ)をこの夫妻も良く見知っている。あのファウナがこうなることまで予見してたとは思っていない。


 要はこんな事もあろうかという一応の仕掛けであったのだろうとこの二人は予想している。


「これからあの踊り子様は此奴(黒猫)をどう飼い馴らす気だ? 流石に味方殺し(裏切り)をするとは思えねぇが。──それにこれも司令官殿()に見られたのは不味(まず)いんじゃねぇか?」


 アルの脳裏に何とも嫌な想像が2つも浮かぶ。


 ファウナという女神の寵愛(ちょうあい)さえ引き寄せればヴァロウズ全てを根こそぎに出来る。次に浮かんだのは軍上層部で唯一信頼を置いていた司令官の悪巧(わるだく)み顔である。


「レヴァーラの考え、こればかりはいい加減なことを外野の私には言えません。ですが軍の方は当然良くはないです。(もっと)も同じ物を作れる技術と予算が在るか怪しいですが」


 マリアンダが思いつく限りの常識想像論を返す。特に後者は元生粋(きっすい)の軍属としての意見。大方当たっているに違いない。


 ギリィ。


「しっかしとんでもねぇクソ狸だよなッ!」

「──何のことです?」


 アル・ガ・デラロサ、音が聴こえる程の歯軋(はぎし)りと拳を握り怒りに我を震わせる。


「あの金髪姉ち(ファウナ姉を名乗る)ゃん(存在)に決まってんだろ? ヴァロウズの連中も魔法少女も知らぬ存ぜぬ的なこと言ってやがった(くせ)して、あんな奴後生(ごしょう)大事に隠し持ってやがった」


 (アル)の激怒が(マリー)にも達する。


 ダンッ!


「エルドラだかディス()()だか知んねえ。だがあんな化物の正体をあの狸爺(司令)、実は良く判っていたに違いない。何で知らぬ存ぜぬを通してやがった?」


 地団駄(じだんだ)を踏むデラロサ。ワザとNo2(ディスラド)の名を言い間違える。

 信じていた存在に裏切られた喪失感(そうしつかん)。そして何より自分が気付けなかったどうにもやり切れない思いの矛先(ほこさき)。これには哀しみの顔で首を振るより他ないマリー。


「判りません。何か言えない事情が存在する。そうとでも思わなければ此方が路頭(ろとう)に迷い込みます」


 やはりマリアンダ・デラロサは理想の妻だ。実の処、もうあの司令官の正義の在処(ありか)などどうでも良い。されど正義は我等に在った。夫の行動(これまで)肯定(こうてい)するべく演技している。


「それに──」


 端末を離れ工具の(たぐい)を取りに走るマリー。工具の入ったカートを押し、Meteonella(メテオネラ)に取り付こうと近寄る。


「この機体を4時間で調べて我々の機体へ転用する(技術)を調査するのが現在すべき行動(ミッション)ではありませんかデラロサ()()


 ワザと昔の名で呼ぶマリアンダ()()(いき)な計らい。多忙を極めるリディーナにこれ以上任せておけない。自分達でやるしかない。そこに愛情も同情さえも不必要。


 ニカッ。


「へッ! だなッ! やるぞ()()。1秒たりとも時間が惜しい」


 その為に態々薄汚れたツナギでやって来たのだ。そして恐らく尊敬している司令殿も同じ(たくら)みを狙っているに相違(そうい)ない。


 量産化された正式採用機(エル・ガレスタ)がそんな改装(カスタム)で襲来するのは時間の問題。本当に時間がないのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ