表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/234

第101話 星の屑の終末

 ──じ、ジレリノ。貴女一体何を私に求めていたの?


 自他共に認めるヴァロウズNo1の実力者。エルドラ・フィス・スケイルとの決戦場。これまでにない緊張に身を置いているファウナ・デル・フォレスタ。


 それにも(かか)わらず、No10(ジレリノ)からの恐らく弱気と取れるらしくない台詞(メッセージ)がどうにも頭を(よぎ)る。


 それとなく言いたかった事をファウナは想像出来ている。『俺みたいな小さい奴は要らねぇ』アレは恐らく字面(じづら)通りの意味ではない。


 ヴァロウズ10人に能力を与えたレヴァーラ・ガン・イルッゾ。とても不器用なのだが『俺達の雇い主は何かがヤバい。俺の出る幕じゃねぇ』そんな主旨(思い)(うま)く伝える(すべ)がないのだと思っている。


 一見、強気一辺倒(いっぺんとう)に思える蒼い頭の小さな傭兵(ようへい)。しかしそれは身体を動かす事で不安を払い()けようとする裏腹(紙一重)の現れ。


 命さえも失い()ねない実験を敢えて受けた人間からの理屈だけで(はか)れない警告。


 音無しのジレリノは()()無駄口の多い女だ。けれどもお喋りが多い人間が必ずしも口達者とは言い難い。それ処か肝心なことを伝えられず、埋もれてしまうことも往々(おうおう)にして在るものだ。


 それに彼女はこうも告げた。『ファウナは案外良い奴だ。自分が気付いてないだけだ』誰にも明かせない雲の如く(つか)み処のない想い(不安)


 最年少で在りながら誕生日を皆に祝って貰える程、レヴァーラ配下の者共を損得(そんとく)抜きで自然とまとめあげつつある自分。


 人付き合いには朴念仁(ぼくねんじん)なファウナとて流石に気づき始めている。踊り子様率いるバラバラな()()()の心を引っ張っているのは自分の存在だという虚ろ(事柄)に。


 ──ハッ!?


 無駄に悩んでいる場合じゃない。このファウナの蒼い目が、大気圏外で地球に見立てた緑の球体を突こうとしている星屑を(エルドラ・)落とす男(フィス・スケイル)の気配を着実に(とら)えたのだ。


 ダンッ!


「エリッドゥ・デラッゼェッ! 陽光すら封じる絶望なる月影──」


 急にファウナが(複座)を立つ。そして元来(自分)の魔導書を開き、普段(とな)えること無い詠唱(えいしょう)凛々(りり)しい早口で告げ始める。右手に魔導書、不浄(ふじょう)を示す左掌を千切(ちぎ)れるほど開いている。


「──ファウナ!? ふ、降るのか星の(くず)がッ!?」


 驚くレヴァーラの声すら今のファウナに届きやしない。瞳孔(どうこう)(すべ)て蒼一色に塗替えられる。美しき金髪も着ている衣装(修復終えた一張羅)も全てが(めく)れ上がる。()るされているかの様だ。


 有無を言わせぬその迫真(はくしん)。近頃、携帯端末片手の気軽さがやけに目立っ(先行して)ていた。されど魔導とは未知なる力、そんな当然を改めて思い知らされるレヴァーラ。


「我が(まも)りし森の不変よ! 億すら越え得る森の(とき)よ、守りの障壁(しょうへき)を此処に示せぇ!」


 何しろ相手の星は輝いたら既に終末(終わり)を迎える。エルドラが仕掛けるほんの秒に満たない(わず)かが勝負だ。


「──『絶望の守り手(ラッジュレオーネ)』!!」


 これがイギリス(ロンドン)へ向かう航路の最中、白き満月を見て思い立ったファウナの新術。満月という真逆(明るみ)を見ながら皆既日食(かいきにっしょく)という全てを閉ざす(絶望)を連想する他人と()を成す発想力。


 トンッ!


 ファウナの新呪文完遂後、(まばた)き1つ分すら変わらぬ間を以って、エルドラからの仕掛けが落ち征く。


 黒海と(おぼ)しき辺りを指で(はじ)くだけという何とも恐ろしき気軽さ。

 たったこれだけの行動だけ(軽々しさ)で一体どれだけの命を消し去ったのか。仕掛けた当人が『星の数なんて数え切れないさ』と談笑するのだ。


 (しか)もこの男、人間という(よど)みきった(けが)れを星屑と成し宇宙へ上げる行為に祈りを込めて『救済(浄化)』と呼称するのだ。()る意味ディスラドより絶望なる特異者である。


「ば、馬鹿な? な、何も起きないだなんて!?」


 Meteonella(メテオネラ)で地上を往く2人には決して届く筈のない非常に稀有(けう)なエルドラの狼狽(うろた)え。しかしならば何故、ファウナはエルドラの弾き(行動)を手に取る様に感知出来たのか?


 此処でファウナがレヴァーラの背後から(ひじ)で強めの合図を送り付ける。これ迄はこの若き脚本家(きゃくほんか)台本(シナリオ)通りだ。


『フハハハハッ! 届いて(聴こえて)いるな我の傀儡(くぐつ)よ! もう()()と我には通じんのだ、そんな子供(だま)しなぞッ!』


 途轍(とてつ)も無い大言壮語(大嘘をつく)。オンラインを通じて全世界に吐き散らすレヴァーラ・ガン・イルッゾからの神直々(かみじきじき)なるお告げ。


「──ッ!!」

「な、なんやてぇ!?」


 地球衛星軌道上で驚愕(きょうがく)するNo1(エルドラ)No4(パルメラ)。両者に取って信じ難き台詞。けれども事実、浮島は静まり返ったままだ。本来なら星の屑が波を為して何もかも押し流す絵が届くのだ。


 ──()()()()()()などと。ククッ、我ながら片腹痛いな。


 無論、語るまでもなくレヴァーラ()の御告げは虚言(きょげん)である。


 愛しのファウナは『星の屑を2度防ぐ』と確かに言った。当たり前だが3度目は在り得ない。それ処かその2度目ですらも確証を得られていない。

 さりとてたったの一回だけでも実証を相手に見せ付けることに成功した。後は冷や汗モノな命の()けひき。要は敵の無力さをその脳髄(のうずい)に焼付け絶望へ()とせば此方の勝ちだ。


『──『閃光(エンツォ)』! さあッ、一挙にカタを付けさせて貰うぞエルドラッ!! 我に刃向かった愚かさを()いて()くが良いッ!』


『Yes Master(マスター) Revara(レヴァーラ)……Meteonella(メテオネラ)Target(目標) lock(捕捉)Eldora(エルドラ)Fiss(フィス)Scale(スケイル)


 これまでにない(たか)ぶりを声に載せるレヴァーラと対照的なファウナの冷たい目標捕捉(ロックオン)。つい今しがたまで魔導士としての矜持(きょうじ)を大いに見せ付けていた同一人物とは思えない冷ややかさ。


 感情を(めっ)した声が(むし)ろ聴く者の恐怖を(あお)る。死刑執行(しけいしっこう)が通常業務で在るかの様だ。


 数日前、実戦演習(ディスラド相手)で成果を見せた背中の羽根達4本が分離し、光速に匹敵(ひってき)する速度(勢い)で大気圏内ギリギリまで一挙に飛び交う。エルドラの隠れ家までは距離が在る。此処から狙い撃つ手筈(てはず)か。

 同時にレヴァーラの閃光(エンツォ)の光と思しき緑を連ねる。まるで流れ星が空へ向けて上昇する異様なる光景。


「や、止めてぇぇッ! ウチのエルドラ(ヴィシュヌ神)様を(うば)わんといてぇぇッ!!」


 愛しのエルドラを失う──。それは全て(世界)(いっ)するのと同義。そんなバルメラが両手を広げ決死の覚悟でエルドラの前に立ちはだかる。

 さりとてそもそもこの攻撃が、どの方位から襲い来るのか判別のしようがない。加えてエルドラ当人が身を(よじ)ることさえ(ゆる)されない。呼吸すらも苦しそうだ。


 パルメラ・ジオ・アリスタ、最期の愛情表現。全くの徒労(とろう)()する。


「パル……メ」


 末期の呼び掛けさえ叶わなかったエルドラの最後。信じられない位、傷一つとしてない綺麗な身体。服すら破れていない。それにも拘わら冷たきただの(むくろ)と化した。


 Meteonella(メテオネラ)がエルドラに放った光線。この二人の愛の巣(住居)であるコロニーも破壊せず標的(エルドラ)()だけを死神の如く刈り取った。


 この結果からも判る通り所謂(いわゆる)超高熱を帯びたビーム(光線)ではない。目標捕捉した相手に潜む例の自由意志を持った人工知性体(ナノマシン)を狂わせるのだ。


 しかもこれで影響が生じる人間は極めて僅か。人工知性体(ナノマシン)に寄って覚醒(かくせい)恩恵(おんけい)に辿り着いた者。


 対エルドラ・フィス・スケイル最終兵器──。


 この名称、決して間違いではない。見えざる敵を人工知性体(ナノマシン)を感知する事で発見。それを滅殺する。

 要はヴァロウズを始めとする覚醒者のみを喰らい尽くす『味方殺し』な()むべき存在なのだ。


Master(レヴァーラ)目標(エルドラ)沈黙(死亡)を確認しました。遺体はどうしますか?」


 やはり氷の様に冷たいファウナからの報告と確認の(Voice)。普段の愛らしいものとは掛け離れてるので、どうにも耳馴染(みみなじ)み出来ないレヴァーラである。


「気苦労を掛けたな──遺体か。捨て置け、何せコロニーの中だ。連合国軍とて手は出せんよ」


 ファウナは日本の天斬(てんざ)と同様の結末を案じている。愛する者を失ったパルメラや、そもそも宿敵とはいえ人の命を手に掛けたのだ。そんな『気苦労』よりも真っ先に次の適切(行動)へ走る。


「──『爆炎(フィアンマ)』」


 ズガーンッ!!


「な、何事かッ!」


 完全に気が抜けていたレヴァーラ。Meteonella(メテオネラ)の右脚元を突然の爆発で()らされ、危うく操縦席から滑り落ちる処だった。


「何者かが爆発を仕掛けた模様! ──え、う、嘘よ。あ、在り得ないわ」


 爆発の原因を究明すべく、足下に仕掛けたカメラに映像を切り替えた途端。抑揚(よくよう)の無いファウナの声が急変した。震える声、息も過呼吸の様に突然荒々しくなる。


「ど、どうしたファ……ウ……ナ」


 同じ映像を見たレヴァーラまで呼吸を忘れる程、仰天(ぎょうてん)する。相手はカメラの位置を完璧に把握してるが如く、長くて輝く金髪を()き上げつつ、蒼き瞳を細めて視線を重ねて来た。


 ()()()()()()()()()()()()()()(おちい)るその目──。ファウナ・デル・フォレスタと瓜二つの女性が威風堂々(いふうどうどう)二人を見つめ、青い口紅(ルージュ)に冷笑を(たた)えていた。



─ 第9部『エルドラ包囲網』 完 ─

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ