表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/234

第97話 このファウナ・デル・フォレスタを愚弄する気か!

 知られざる第2格納庫のハッチが開き飛び出したるは、黒豹──らしき(モチーフの)機械兵器。


 暫し突発的(とっぱつてき)()()()()()()に腰を抜かし休戦してた残り3名。飛び出してきた異様な影に、言葉はおろか感覚さえも失いかける。


「──それが貴様の答えかレヴァーラァァッ!!」


 呆気(あっけ)に取られた内の1人、外野(アウトロー)のディスラドが黒い刃を全身バネで振り上げて細い碧眼(へきがん)をカッと見開き飛び込んで往く。


「おぃこら手前(てめぇ)! 俺達放って勝手にいくんじゃねぇッ!」


 オルティスタが怒り沸騰(ふっとう)の声で止めるが既に聴こえない(届かきやしない)


 しかしまあ……もし自分がディスラドなら間違いなく同じ行動を取ることだろう。だって味方である自分自身がウズウズしてるのだから。


「──ふぅ。どうやら私達の出番、これで終わりの様ですね」


 ラディアンヌがひと息ついた。構えを解き肩の力を抜いている。但し彼女の場合、瞬時切り替えが(ノーモーションから)出来る(動ける)ので争いを放棄(ほうき)したとは言い難い。


「それは楽観が過ぎるわラディアンヌさん。()()、前にも空挺部隊(アル&マリー)の2機を相手取ってキリキリ舞いさせたのだから」


 2人の間に背後から割って入るリディーナが神妙(しんみょう)なる面持(おもも)ちだ。自分達がやられた(地獄)だ、忘れようがない。


「──いや確かにその様子、映像で観ただけだがこの黒…(ひょう)? 動きの次元が違い過ぎんぞ」


 オルティスタがゴクリッと息を飲む。それも無理からぬ事。

 あの黒猫みたいなのが早速二本の脚のみで立ち、前脚を両腕に転じて(ねずみ)の如く跳ね回る金髪(ディスラド)を鋭き指で引っ()こうと()()()()動く。


 空挺部隊の最新鋭機でも充分驚かされたが次元(レベル)が違う。次に比較対象とするのは、生物であるチェーン・マニシングの化けた白狼。


 これは流石に良い勝負──動きだけ見ればそう思える。されど目の前で金髪(ネズミ)とじゃれてるのはあくまで(機械)


 ゾッとしてきた。自分が代わりの鼠であるならあの爪の(既に屍を)餌食になってる(晒した憐れな姿)かも知れない。


 ギロリッ……。


「うわぁッ! 今絶対(此方)を見ましたよ! アレ本当にロボット(機械の類)何ですかぁ!?」


 あの頼れる女武術家が蒼く光る目の中に在る瞳孔(どうこう)に見られたと恐怖し(感じ)思わず科学者(リディーナ)の背中に隠れ小さくなる。


「ええ、アレは単なる機械よ。造り手(ビルダー)の私が言うのだから嘘はなくてよ」


 電動工具や整備AIだけに頼らず、自らの手締めでやり尽くした箇所が無数に存在するのだ。リディーナの両手には豆を潰して、なおも力を加えた痕跡(こんせき)すら残留している。


「だけどアレはもう造り手の理解を離れてしまった。実は以前、稼働確認だけ行ったの。但し正操縦士のみ(ファウナちゃん抜き)でね」


「「──っ??」」


 まるで笑みが固定(無表情)扱いなリディーナとは思えぬ程、表情豊か(変化に富む顔)だと姉貴分2人が感じた。2人の興味がこの怪しい科学者の発言へ一挙に(そそ)がれる。


「それはもう黒歴史にしたい位、散々(さんざん)な結果だった。動くには動いた。けれどね、まるで死に際の人間みたいに(うごめ)いただけだったの」


 言い終わりに企み(怪しさ)を明らかに(にお)わせる。もうその先の顛末(てんまつ)を聴かずとも結末が想像出来てる2人だ。


「貴女達にまた怒鳴られても仕方ないけど、その時咄嗟(とっさ)に複座式を思い付いたの。ファウナちゃんを通しレヴァーラの意志を伝達するやり方を」


 (かん)が鋭く、増してやファウナの家族同然な2人だ。リディーナとて最早、言わずと知れたを感じつつも最後まで畳み掛けた(言い切った)


 争いの喧騒(けんそう)すら()き消された勘違い(間違い)を生む程、(しず)まりかえる。この孤独(こどく)独り(リディーナ)論争(言い争い)がしたいオルティスタとラディアンヌ。けれどもそれは胸奥にしまい込む。


「──はぁぁ……。もう驚かん、と言いたい(とこ)だが流石に嘘だ。──けどな、俺もラディもアンタを殴るだけの馬鹿じゃなくなったつもりだ」


 深い溜息により振り上げたい拳を洗い流す(外へ吐き出す)姐御肌(あねごはだ)のオルティスタ。


「おっ、随分大人になりましたね()()。リディーナ様も、あの踊り子(レヴァーラ)様も言葉足らずで損してますよ。『あの中が1番安全なのだ』それだけでも私達、納得(満足)するのに」


 そんな長女を(あお)るラディアンヌとて清濁(せいだく)(あわ)()んでいる。


 何しろ命すら惜しまぬ無償の愛を三女(ファウナ)(ささ)げてるのだ。そのファウナ様がレヴァーラの端末と成り果て、この化け物(黒い塊)を動かしてる。この結果をどうにか前向きで(とら)えてみる。


「だな──あのNo10(お喋り女)トーク力(余計な喋り)をちょっとだけ分けて貰いな」


 オルティスタがこれほど冗談めかしく言えるのは圧倒的な力を見せ付けられ、発言(文句)が夜空の彼方(かなた)へ消し飛んだからである。


「ウフフッ……成程確かに。──ただ私、実の処ショックなのよ」


 リディーナが自嘲(じちょう)気味に笑った後、再び巨大な黒豹を首が痛くなるほど見上げる。


「だって想像(計算)(はる)かに(しの)性能(スペック)を初回から見せ付けられてるのよ。これは科学者(エンジニア)として失格の烙印(らくいん)を押された気分だわ」


 次はその場にしゃがみ込んで銀色の頭を抱えるリディーナ()

 短過ぎるスカートが(めく)れ上がり、ガーターベルトがさらに引っ張っる。女として余りに危なかっしい。


 ──全く、本当に困ったもんだわ。

 これだけ動かれちゃ、この後早速全駆動箇所の改修(オーバーホール)が必要じゃないのよぉ。閃光(エンツォ)のレヴァーラ×()魔導士ファウナの相乗効果(そうじょうこうか)()めた私が馬鹿だったわ……。


 またしても自分で要らぬ仕事を増やしたと落ち込むリディーナ。完璧主義だからこそ、人が望んでない仕事を拾い上げて意気消沈(いきしょうちん)するのである。


「ファウナ、そろそろ一気に決める! 遊びの(じゃれ合いの)時間はもう終わりだ!」


「Yes──!?」


 その瞬間、針の穴ほどの僅かな(すき)を突かれた──。


 ディスラドが黒豹の長い前脚を踏み台に駆け上がり、蒼き瞳同士の視線を絡ませる。さらに黒い刃を(かざ)し相手の目の中に潜むレヴァーラの黒いネグリジェ姿を映り込ませた。


「──『暗転(ヴァンシオネ)』!」


 レヴァーラとディスラドの位置が差し変わる(入れ替わる)。天地さえも反転するかに思われた──が、実際には何1つとして()()()()は起こらなかった。


「このファウナ・デル・フォレスタを何処まで愚弄(ぐろう)する気かッ! 俗物(ぞくぶつ)ッ!」


 この事象を知覚した誰しもがディスラドの暗転(ヴァンシオネ)が不成立であったことより、魔法少女(ファウナ)の台詞に(しび)完膚(かんぷ)なきまで(とき)を止められた。


 如何にもレヴァーラが吐き出しそうな高飛車(たかびしゃ)なる発言。間違いなくファウナが口を開き叩いたものだ。

 オルティスタがファウナの歴史(思い出)の教科書を紐解(ひもと)く。『コレは私の()、先にくたばるとかふざけるな』例の覚醒の一コマである。キレたファウナの本質を見た。


 このファウナは最早(さと)り切っていた。あの(金髪)は確実に暗転(ヴァンシオネ)で逆転を狙う。この黒豹(黒猫)を子供の様にただを()ねて必ず欲しがる。判りやすいにも程がある。


 ならば(あらじ)(流転)を仕掛けるだけ。ファウナはこの副操縦席(コックピット)に乗り込んだ直後、黒豹の両眼(りょうまなこ)流転(アルディビラ)付与(エンチャント)しておいたのだ。


「──目標(ターゲット)捕捉(ロック)Master(レヴァ)、何時でも()()()わ」


 自分の口から()れた言葉に驚くファウナ。『ディスラドは最後まで残したいのよね?』勝手な予言をしたのに自らそれを(くつがえ)した。


「な、何だこれはッ!? か、身体がまるで言う事を効かんではないかァァッ!!?」


 宙で藻掻(もが)(あわ)れなるディスラド。No10(ジレリノ)による糸の結界かと疑った。されど身体に触れるものなど何一つとして感じない。


「フフッ……ディスラド、心から礼を言わせて貰おう。お陰で最高の()()()()が出来た。──では消えろッ!!」


 ──どうせあの馬鹿の事だ。残りカスの暗転(ヴァンシオネ)を使い、此処から失せるに決まっている。


 このレヴァーラの裏腹なる計算。ディスラドは常軌(じょうき)(いっ)した男。しかし歴戦の強者という意味では、ヴァロウズ随一(トップ)言っても過言ではない。


 黒豹の背中から()本の(とげ)とも羽根とも取れるものが一斉に総毛立つ。さらに分離し捕捉した敵へ鋭利な方を向けて往く。

 その先端から発射された()()を混ぜた光の槍が幾重(いくえ)もディスラドを襲い尽くす。


「こ、これはッ!? よ、よくもこの俺様に()()も恐怖をッ!!」


 やはりディスラドは所詮(しょせん)ディスラドで在った。金髪の男が何時(いつ)の間にか独りの見知らぬ女に入れ替わり、()()は姿を消した。


「ふぅ……。ククッ、これは何とも面白きものよ。──だが、流石に初戦でこれは難儀(なんぎ)であった」


 まだ名もなき黒豹の初戦(デビュー戦)。慣れないことによる疲労を隠せない踊り子様。息をついて椅子にダラリと寄り添う。


「ファウナ、大丈夫か?」


 後ろこそ向かないが優しみ(あふ)れる声掛け。上からの物言いでもなく、下から支える恋人でもない。真横からの対等なる声。


 ガバッ!


「レヴァっ! (すっご)く楽しかったよっ!」


 複座を飛び出し、前の座席の背もたれから身を乗り出して親友(レヴァ)の両肩を(つか)んだファウナの笑顔。遊園地のアトラクションでも楽しんだかの様な満面の笑みである。


「そ、そうか──やはりファウナは若いな。此奴に良き名前を付けてやってくれぬか?」


 ファウナは若い──。当然過ぎるが正直な気分で緩む(安らぐ)


「名前ぇ!? ──流星を呼ぶ黒豹?。うーん……長いなぁ。いっそ黒き流(Meteora)(nera)で『メテオネラ』! ちょっと(ひね)りが無さ過ぎかしら?」


 ほんの僅か頭を捻った後、夜空を見上げたファウナ。ディスラドを撃った光の槍を星に見立てた。


「メテオネラ……悪くない。実に愛らしい名だ。私達の()()相応(ふさわ)しい」


 その後──。

 リディーナの手に寄って、その猫額(ねこびたい)に『Meteonella』と(きざ)まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ