第90話 占い師が語るJustice(判断)
エルドラ・フィス・スケイルが大気圏外から降り注ぎし星屑。
そしてパルメラ・ジオ・アリスタの絶対防御壁と言える守りの星屑。
これらは同質であると言い張るファウナ・デル・フォレスタの見解に驚きつつも、認めざるを得ない雰囲気に包まれてゆく一同。
ではエルドラの蛍の如き矮小なる星屑達が、如何にして軍事基地をこれ程まで崩壊に追いやったのか?
話題の河はそちらへと向かい流れ往くのだ──。河の行き着く先には既にファウナの答えを湛えた人造湖が存在している。
「──無数の星の屑が世界各地を既に覆ってて、これらがパルメラの星屑の様に好きに振る舞い破壊の限りを尽くすとしたら?」
ファウナの自信帯びたるこの蒼き瞳。会議室にどよめきが沸き起こる。尤もア・ラバ商会から来たリイナの端正な容姿は崩れていない。彼女に取っては予想の範疇である。
あと語るまでも無いが議長と首謀者の二人は、事前に嫌と言う程聞かされていた。勝ち誇った18歳の早熟過ぎる悪酔いと共に。
「成程、確かにそれならあの神がかった破壊活動も一応の合点がゆくな」
「──好きに振る舞う? あの屑それぞれに意志が在るっていう訳ぇ? ちょっと飛躍し過ぎな気もするけど」
フィルニア&ディーネ、いつもの仲良しがキマイラみたいな白猫の影に追い詰められた辛みを思い出す。
計3体も異質なる創で創り、それらを操りながら自身の攻勢さえ緩めなかったパルメラである。だけども守りの星々が勝手に衛星軌道を周回していたのなら、あの苦労とて少しは報われた気がした。
「──あのパルメラって術士が自分の術式だけに集中出来るのも確かに頷けますね。何よりあの二人、相思相愛らしいですから」
武術家ラディアンヌは、姉と共に創造の雲を消した側だ。結局消し去るまで化け雲だと確信に至れなかった。エルドラとパルメラの仲を考えれば意外と納得しやすい。
「あのNo1も同じ理屈か──撃墜地点さえ指示しときゃ、後は星クズ共が勝手にやってくれる」
「途轍もなく酷い兵器よ。AI兵の方が余程可愛げがある」
この面子で最も同胞達を失ったアルとマリーが悔しさに身体震わす。まさかそんな塵屑により、仲間達が生命散らしたかと思うと腹立たしい事この上ない。
「──全くふざけた手品だぜ。俺の罠の方が余程マシってもんだ」
こうして文句を垂れてる今もなお、フォルテザの街至る場所に糸の結界を張っているジレリノが独りボヤく。
初対面にてその理不尽から生命を奪われかけたラディが思わず浮かべる苦笑い。
「──んでファウナ。この理不尽が過ぎる塵達を駆逐するアテ何てあるのかよ?」
「オルティスタ、相手はこんなに小さな屑だ。増してやそんなふざけた奴が世界中に散らばってやがる。こりゃ21世紀初頭に大流行りしたウイルスの除染並みに無駄くせぇ……」
デラロサが人差し指と親指を浮かした間は、指関節1つ分すらない。
元凶の正体が知れた処で、その対処法が発見されてなければどうにもならない。幾らやってもキリないウイルス除染消毒か、はたまた放射能除染位、終わりが見えない無駄話に為り果ててしまう。
「あの星落しが狙っているのは軍事基地だから、先ずはそれらを優先的に……」
「──そう簡単に話は運べない。そうでしょ? ファウナ先生」
マリアンダ、苦肉の暫定案。これに待ったを掛けるは意外中の意外。透き通った甲高い声。視界を取り戻した占い師、アビニシャンだ。
ついこの間まで敵方だった者に口を挟まれ、マリーの鋭さが増々斬り込む。なれど全く意に介さずファウナだけをジッと見つめ応えを求め心躍らす少女と化す。
──え? 私まだそれについて何も伝えてないのに?
ファウナ・デル・フォレスタは、またしてもこの占い師に見透かされたかと思い、僅かばかりの狼狽えを見せてしまった。
視界を捨てていた頃のアビニシャンは、見えないその目で何もかも診ていた。
彼女を此処に引っ張り出したのは何を隠そうこのファウナの独断──未だファウナにすら見切れてない事柄をひょっとしたら引き出す切欠をくれそうな予感が走ったのである。
「──な、何の話だ? 此奴は一体何を言おうとしている?」
あの剛毅なオルティスタが背の低い少女な様相の女一人に怯えている。
何せ水の都では、ファウナが危険に晒される処を指咥えて見てるしかない屈辱を味わったのだ。
ファウナが態々アビニシャンの席まで近寄り、しかも屈んで碧眼同士を直線上に繋いでみせた。
ゴクリッ。
「──アビニシャン、貴女ひょっとしてこの間、襲って来た天斬の偽物達がエルドラの星屑達と接点が在るって判った上で言ってるのかしら?」
ファウナですら想像の域を未だ出られず、それを他人へ委ねる悔しさを交えつつも、正解を降ろしてくれるやも知れぬ事に思わず期待を込め喉を鳴らした。
エルドラの落とす星 = パルメラの守りの星屑 ≒ どうやって天斬に転じたのか理由不透明。
後半の答えはファウナの憶測にこの間、日本領連合国軍へキレ散らかしたNo1が論より証拠を見せてくれた事による確信でしかない。
レヴァーラとリディーナ以外、≒以降を聴くのは初めての面々。余りに面喰い過ぎて最早声帯を震わす余裕すら無い。
ファウナの真意──未だ正解を求め彷徨う姿をそこに見たアビニシャン。少々意外そうに口を開けてから、さも嬉しそうに微笑む。
『──ファウナお姉ちゃんにも判らないことあるんだね』
そんな空耳すら聴こえた気がするファウナである。今はちっぽけなる意地よりも占い師のお告げだけでも欲しているのだ。
「ウフフッ……占い師が言うの不自然だけど、これは『Justice』だって賭けてもいいわ。No1を始めとしてNo10に連なる者達の力の根源って何だったか忘れたかしら?」
──嗚呼!! 判った……すべからず理解出来た。
ファウナの内にに潜む『The STAR』が煌めきを放つ。寧ろ何故その答えに自力で辿り着けなかったのか愕然とせざるを得ない。
ファウナが円卓上を不意に操作し始める。映像しかなかった場所に現れたスクリーンキーボード。輝きのみで入力してゆく。
エルドラの落とす星 = パルメラの守りの星屑 = 知性体を秘めたナノマシンを固めた粒子。
「──ファウナ!?」
円卓へ映し出された文字を見て驚きでその緑の瞳をこれまでになく見開いたレヴァーラ。リディーナの方へ流し目すると同様の目をしていた。
「嗚呼……何てことなのかしら。エルドラの星屑で天斬を錬成する行為ばかりに目移りして、肝心な処を見落としてしまうなんて」
ガクッ。
アビニシャンの膝の上へ項垂れ落ちるファウナ先生。その金髪を湛えた頭を独り占め出来ることで大いに喜ぶアビニシャンである。
「──まあ無理もないわ。だって私イギリスでアレを直に見た瞬間、なかに居るモノの疼きを感じたのが切欠だもの」
「──ッ!?」
次に自分の腹へその手を流し妖さを帯びた微笑みをひとつまみ。
その余りに意味ありげな台詞を耳元で囁かれたファウナが顔を朱に染め思わずビクリッ!
やはり大人女性はアビニシャンの方で在り、ファウナはだいぶ無理して背伸びしてる少女であると思い知らされた。