(2)
シロイナ王国とギザジュウ王国の国境沿いの山間まで来た。いかにも山賊が出そうな雰囲気だ。
「キーーーーーン」
「ドーーーン」
「ガシャーン」
「ギャーーーー」
「旦那様の馬車を守れ!!」
山賊が馬車を囲んでいた。
「あの人達を助けてあげたいのだけど?ヨハンは勝てそう?」
「そうですね。一歩早ければ私達が同じ目にあってましたから、助けに生きましょう」
「ごめんね。私は何の役にも立てないわ」
「お嬢様は私の側にいてもらえるだけでいいのですよ」
ヨハンは剣を抜くと数名を斬りそのまま真っ直ぐ図体の大きな男に向かって斬りかかった。男は油断していたようで剣を抜く前に首を刎ねられてしまった。
「お頭がやられたーーーー。逃げるぞーーーー」
ヨハンが追いかけたが頭を失った山賊は散り散りに逃げていった。
「血がついてるよ。ヨハン怪我はない?」
「お嬢様心配無用です。返り血です」
「よかった!」
「それよりあの者たちの剣筋は盗賊のものではありません。なるべく早くここから離れたほうがいいと思います」
商人の馬車は3台のうち、2台は幌が切られて数本の瓶が盗まれ塩瓶は数個がひっくり返っていた。旦那様と呼ばれていた人が腕を斬られていたが軽傷のようだ。
怪我をしているのに挨拶にこられた。隣には私と同じくらいの男の子が一緒にいる。
私の顔を見て「ニタッ」と笑って『ありがとう』といって私の荷車に乗ってきた。『これいいな。僕も乗せてよ!!』
変わった子だ。乗ってから許可を求めてきた。
「この度は助けていただきありがとうございました。私はタラソと申します。この子は息子のアダンです。あなた方が来てくれなかったら今頃あの首を刎ねられた男のようになっていました」
「気にしないでください。それよりお怪我は大丈夫ですか?」
「はい。ただの切り傷です」
気の毒だけど私達にできることはこれ以上無い。早くヨハンの実家まで行かなければならない。
「すみません。今日中に国境を越えてギザジュウ王国に行きたいのでこれで失礼します」
「それでしたらご一緒しませんか。ギザジュウ王国には私の屋敷があります。もしよければお礼もしたいので来ていただけませんか?」
「ぜひ来てよ。旅の話が聞きたい」
アダンが荷車から体を乗り出して私の方を向いて話す。
「ヨハン、どうしようか?」
「そうですね。私の実家のあるソトラシド辺境伯領まではあと4日かかりますからお世話になった方がいいかもしれません」
「是非来てください」
「絶対旅の話をしてよ。それに継ぎ接ぎの服の作り方も教えてね」
タラソさんはアダンと私を馬車に来るように手招きしたが、私はヨハンを離れたくないので荷車にそのまま乗っている。国境の検問所に着いた。入国審査官が私たちのところに来て、通行証明書を求めてきた。
「確かに間違いないですね。塩と……荷車の人は?」
ヨハンが入国審査官に
「自分と少女はオッカネ王国から来ましたが、証明書を無くしました。私は元々ギザジュウ王国の者です。こちらに出生証明があります。けっして怪しい者ではありません。私の実家までお嬢様と帰る予定なのです」
と答えた。
「ヨハン殿は出生証明がありますし実家に帰るということで通って構いませんが、そこの少女は通すわけにはいきません」
するとタラソが入国審査官に向かって
「この方は私の命の恩人です」
と答えたが、
「それでも規則に従っていただきます。通せません」
「では、これではどうですか?」
タラソは短剣を抜いて入国審査官に見せた。
「こ、これは……失礼しました。お通りください」
入国審査官は頭を下げたままだ。
検問を過ぎて振り返ると、入国審査官と兵士はまだ頭を下げている。
タラソは何者かわからないが偉い人であろうことは私でもわかる。
入国審査を終え1時間ほど歩いていると、人が行き交う町並みがあった。裏通りを抜けて大通りに出るとこれでもかというほど大きなお城が見えた。先頭の馬車はかまわずお城に向かっている。
やっとお城の入場門まで来た。城を目視できてから30分を要した。でかい。オッカネ王国の王城の数十倍はある。
門番がタラソの元まで来て
「お帰りなさいませ。その怪我はどうされましたか?」
「問題無い。気にするな」
「はい。ところで、そちらのみすぼらしい服装の少女はどうしましょうか」
「そこのお二人は構わない。通してくれ」
「ではそちらの方もお通りください」
お城に入ると一人の執事が出迎えた。
「タラソ様よくご無事で帰られました。それで、事はうまくいきましたか?」
「ああ、うまくいったが、物は山賊に盗まれた」
「そうですか。実はさきほどドバン伯爵から追加発注に応ずることができると連絡がありました」
「タイミングがよすぎるな」
「そうですな。怪しいですな」
「セドリック、やつが今回の直接の交渉相手だ。ドバン伯爵を調べてくれ。」
「はい、おまかせください。ところでそちらの方は?」
「ああ、私の命の恩人だ。くれぐれも丁寧な対応をしてくれ」
「では、お嬢様私についてきていただけますか」
「?」
「安心してください。お供の方も一緒でかまいません」
「はい、ではヨハン行きましょう」