第三章2 穏やかで平和な時間
「大丈夫、大丈夫。絶対にだいじょ――、ぁ、ぁあーっ!」
懇願を匂わせる少女の叫びが室内を駆け回る。至近距離からの大声を浴びて、隣に座っていたラルズは僅かに顔を背けて被害を抑える試み。向こう側、対面に座っている二人の人物もそれぞれ反応を示す。
一方の人物は「だから言ったのに」とでも言わんばかりに肩をすくめ、もう片方の人物は「うるさい」とでも思っているのかやや苛立っているような気配すら覚える。
四者が一同に介しており、丸形の机の中心を見やる。その視界の先、先の少女の祈りは無情にも届かず、耳心地の良い落下音が連続して全員の鼓膜に流れ込んでくる。中には落下の勢いを殺しきれずにテーブルからこぼれ落ちる代物も多数見受けられる。この景色を何度見ただろうか。
「もうー! 何で落ちるのっ!?」
憤慨する少女の姿。目の前の結果に納得がいかず、地団太を繰り返して怒りが収まっていない。そんな様子に取り合うよりも先に、ラルズはテーブルの上に散らばった木片と、足元に落下した木片を拾い集める。
「だから言ったじゃないミュゼット。絶対落ちるって」
「だって……なんかいけそうな感じしたんだもん!」
「いいから早く拾い直せ、ど下手」
「ど下手って言わないでよっ!」
下手さ加減を指摘されて少女の怒りは尚も継続。一々相手するのも面倒くさいといった様子で一人の青年は顔を背けて歯牙にもかけない。そんな青年に少女は「訂正してー!」とぎゃんぎゃん喚いている。そんな様子を眺めながら、ラルズは足元に散らばった木片たちを回収し、取りこぼしがないことを確認して全てをテーブルの上へと戻す。
――テーブルに設けられた四つの椅子。その椅子に腰かけて遊戯に興じているのは、ラルズ、ミュゼット、グレンベルク、セーラの四名。
場所は慣れ親しんだ司書館の一階。もはや言う必要も無いだろうが、利用客はラルズたち以外には一人として存在していない、半貸し切り状態に近い位置付け。周りに人がいないので、先のミュゼットのように大きな音を立てたとしても、騒音の被害を受けるのは一堂に介して時間を共にしているラルズたち四人以外には誰もいないだろう。
悩みを一度奥底へと仕舞い込み、元気を取り戻してから次の日。全員の予定が重なり、今日も今日とて司書館に集って時間を共にしている。何やら大事な話があるとミュゼットが最初に口にしていたこともあり、内容が気になるところではあるが、まずは遊んでからとミュゼットが提案し、今が正にそれだ。
倉庫から勝手に道具を持ち出したと知られれば、司書館の管理人でもあるステラから怒られることは目に見えているのに、それでもミュゼットは遊具置き場として倉庫を見定めている。注意はされてるだろうし、何度も怒られている事実は残っているが、それでも彼女の行動を抑制すること叶わず。
ステラももはや注意することが億劫なのか、自分の目の及ばない範囲外であれば別に問題ないと放任している。引きこもりの毛色が如実に強く反映されている彼女であれば、咎められる現場に遭遇する事態の方が数えるくらいになるであろう。
「はいミュゼット。・・まだやるの?」
「当たり前でしょ! せめて一度はグレンが最下位になるまでは辞めるつもりないっ……!」
「多分無理だと思うけど……」
目的が勝利とは別の方向に軌道変更しているミュゼット。すり替わった本懐は叶えられないだろうと、ラルズは暖かい目線をミュゼットに送る。
今ラルズたちが遊興に励んでいるのは「バンボレオ」と呼ばれているテーブルゲームの一つだ。土台となる支柱の上にコルクを乗せ、その上からプレートを設置して土台完成。開始前に用意したプレートの上に、大小様々な形の積木を倒れないように配置。実際に配置できればゲームスタート。
ルールも単純であり、プレイヤーが交互にプレートの上の木片を取っていき、崩した人物がいたらその時点で試合終了。最終的に持ち駒……ならぬ持ち木片が多い人物から順に勝者が確定する。たったこれだけの、シンプルでかなり面白味のあるゲーム。
一見簡単そうに見えるが、いざやってみると意外と難しい遊戯なのだ。倒れないだろうとたかを括っていると、一発目の時点で倒れるケースも何度か。最初に触ってみたラルズも、思いのほか奥深い代物だと認知する羽目に。何度か繰り返すうちにコツを掴んだのか、最初以降は倒す頻度も少なくなっていた。
そんな順調そうなラルズとは逆に、ミュゼットは敗戦に敗戦を重ねている。自分で持ってきたゲームなのに負け続けとは、彼女の心境を考えれば面白くないことは相違ない。
ちなみにグレンベルクとセーラはどちらもまるで崩れる気配を見せない。ゲーム開始時点から取ってはいけない危険な場所を大方捉えきれているのか、順調に勝ち星を量産。ミュゼットの手番で結果が前後左右するので、正確な順位は図れないが、一位と二位の座は二人以外に変動することは有り得ないだろう。
「次こそは絶対に勝つっ。あの余裕そうな鼻先、絶対に曲げてやるっ……!」
「何度やっても同じだと思うぞ」
「うるさいっ!」
子馬鹿にされた影響も相まって、ミュゼットはグレンベルクに遊び心の中の激しい敵意を抱いている。メラメラと燃え滾っている瞳には勝利の二文字以外見えていない感じだ。ゲーム開始から既に一時間半近く経過しており、合計敗北数はそろそろ二桁目を周りそうなほど。それでもめげずに奮闘するミュゼットは中々の胆力を備えている。
そんな敵愾心丸出しの視線を浴びてもグレンベルクは涼しい顔。負ける未来が視えないと言うか、恐らくミュゼットが勝手に自爆することが目に見えているのだろう。大概は彼女に手番が回った時点で各々ある程度察しが及ぶほどだ。
敗者の人物がゲーム準備に取り掛かるというルールのもと、ミュゼットが手早く準備に取り掛かる。一人では流石に可愛そうなのでラルズも協力して木片をプレートの上に並べる。
準備完了。次のゲームが開始されると思っていたが、
「――随分楽しそうねミュゼット。ちなみに聞きたいんだけど、その遊技は一体どこから持ち寄ったの?」
「普通に司書館の倉庫からだよ。先生が見ていないし、普段ずっと室内に閉じこもってるから持っていってもバレないもん」
「そう、それは良いことを聞いたわ。丁度叱る理由も生まれたし、一石二鳥」
「――え?」
気概たっぷりのミュゼットの瞳が、口から唱えた疑問と共に震える。瞳の動揺に続いて全身に震えが走り、恐る恐るミュゼットは後ろを振り返ると――、
「・・せ、せんせ、い……」
「また勝手に持ち出したのね。貴方の耳は飾り物?」
振り返った先、珍しい人物が珍しく室内を飛び出していた。司書館の管理者でもあり、ミュゼットが幼少の頃から知り合い、先生と呼んでいる人物。風貌と雰囲気から、魔女と形容しても差し違いがない大人の女性、ステラだ。
固まり尽くしているミュゼット。ステラは彼女の後ろ襟を掴むと、
「ごめんね貴方たち。この子、少しだけ借りるわ」
薄っすらと微笑んで時間をもらうと宣言するステラ。その発言を受けてグレンベルクもセーラも「どうぞどうぞ」と手を差し出して簡単に身柄を明け渡す。
「見捨てないでよ! ・・てか何で部屋から出てるの先生っ。普段は真面に部屋から出ない癖に!」
「室内で目当ての本を探そうとしたけれど、思いのほか室内が汚くて……。自分で掃除するのも面倒だし、誰かさんを確保して任せるのが賢いわねって判断」
「自分で掃除すればいいだけの話じゃん! しかもなんで私っ!?」
「怒る理由が明白に生まれて、その罰として部屋の掃除を任命。一切の隙も見当たらない、見事に道理が叶っている」
思うように事態が進んで気を良くしているステラ。・・もっとも、要はステラの部屋が暫く掃除をしていない影響もあり、汚部屋と化して探し物も探せない状況に陥っているので、誰か掃除の代替人を求めて部屋を出たみたいだ。
不運なことに、白羽の矢が立ったのがミュゼット。普段から道具を勝手に持ち出すなと注意されているにも関わらず、目の前で犯行現場を確認。加えて、反省の色も浮かばれないミュゼットに対して、お叱りと罰という関係性が見事に成立。
ミュゼットも確かに悪いが、そもそもの話ステラ自身が掃除すれば解決する話でもある。掃除に関しては他力本願な一面が強く生まれており、まず自分で掃除しようとする選択肢や気概は持ち合わせていないみたいだ。
ミュゼットの言い分が正しいと思うラルズであるが、それを口に出してしまえば自分にも毒牙が及びそうなので、だんまりを貫くことに。
「先生、離してよー!」
そのままミュゼットはステラの腕の中で納得いかず暴れ回る。が、捕縛の手から抜けられず、そのまま地面を引きずられながら室内へと連れ去られていく。
そのまま無慈悲にも本棚の向こう側――ステラの室内がある部屋へと連行。扉がばたりと閉められる音が聞こえ、その後は扉から大きな音は生まれず、暫くは解放されそうにないことをラルズは悟った。
「・・何だか可哀そうだったね」
「自業自得だろう」
「確かに遊戯を持ち出したのはミュゼットだけど、それを一緒になって遊んでいた俺たちだって……」
「きっと、倉庫から持ち出した点は建前。部屋の室内の掃除を任せたいって言うのが一番の本音のはずよ。あの人はミュゼットに掃除をさせる体裁が欲しかっただけで、この遊戯も回収していないのがその証拠よ」
持っていかれたのはミュゼットだけであり、興じていた代物には目もくれていなかった。様子から見ても本格的に怒っている気配も感じられなかったし、セーラの言い分は的を得ているだろう。
「ミュゼットの言い分も正論だけどね」
「そこに関しては同感ね」
「自分の部屋ぐらい、自分で掃除しろと言いたいところだ。そこの一点に関しては、あいつに同情だな」
みんな思うところは一緒なのだろう。ステラの掃除に対する意欲の無さは共通認識として、直した方がいいという解釈の元だ。もっとも、汚さ加減をグレンベルクは知らないのだろう。
「・・ところでラルズ」
「ん?」
そんな折、ふと名前を呼ばれてラルズはグレンベルクを見る。
「悩みの類は払拭されたのか?」
「え、それって……」
「ここ最近、随分と沈んでいた様子だったわよ。隠しているつもりなのか知らないけど、普段のラルズと全然様子が違ったわ。今日はそんな気配覚えないけれどね」
「・・ミュゼットにも言われたけど、そんなに分かり易いの、俺って?」
上手く隠していたつもりのラルズであったが、問い掛けにグレンベルクもセーラも揃って頷く。人前では――特に三人の前ではバレないように努めていたラルズであったが、その目論見通じず簡単に看破されてしまっていた。
「内容までは流石にだけどな」
「ちょっと、ね。色々考えちゃって、みんなにはバレないようにしてたんだけど、初めからバレてたんじゃ、馬鹿みたいだね……」
悟られまいと努めていたのに対して、努力空しく簡単に見破られてしまっている。てっきりミュゼット一人だけに見破られているものだとばかり思っていたラルズであるが、まさかグレンベルクとセーラもとは。
一番知られたくなかった三人全員にバレていると知ってしまい、気まずさを誤魔化すように頬を掻いて薄ら笑いを浮かべる。
「何でもいいわよ。踏ん切りがラルズの中でついたなら、それが一番よ」
「ありがとうセーラ。グレンも、心配してくれたんだね」
「柄じゃないのはわかっているがな」
他者を心配する気遣いなど似合わないと、自分に対してやや辛口な評価を口にするグレンベルク。だけど、差し向けてくれる優しさが、素直に嬉しくて仕方がない。
「踏ん切りがついたような、けじめがついたような。上手く言えないけど、自分の中である程度の区切りは付けられたと思う。解決とかはしてないけどね。・・折角だから、二人に少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「良いわよ」
「ああ」
二人から許可をもらい、まずはセーラに尋ねてみることに。
「セーラはさ、魔導書の解明を始めてどれくらいになる?」
「意外な質問ね。そうね……正確な日数とかは流石に覚えてないけれど、年換算で構わないなら、七年から八年近くに及ぶはずよ」
ラルズの見立て通り、セーラが魔導書の解明に勤しんでいる時間はかなりなもの。長い年月の間、一から手探りで情報を集めて謎を解き明かそうとする彼女の探求心は、学者のそれに類し、位置づけも同じか、超越しているといっても過言ではない。
「嫌な気持ちにさせるかもだけど、途中で諦めたりとか、考えたことは――」
「無いわよ」
きっぱりと、ラルズが言い切るよりも先にセーラは言葉を被せる。真っ直ぐな意志を備え、口にする彼女の言葉には一切の迷いも、躊躇も抱かれていない。
「私にとって魔導書の解明は人生そのもの。誰かに諦めろと言われても、途中でどんな障害が立ち塞がっても関係ない。私の心は折れないし、折れさせない。私が決めた信念を諦めることは、私自身を否定することと一緒。そんな愚行、絶対にするつもりはないわ」
自らが定めた信念を、芯に座った一本の柱を崩すことも、ヒビ入れることも想定していない。かなりな時間を解読につぎ込む中、目に見えた成果は得られていない現実でも、セーラは恐れも怯みもせず、一向に足を止めるつもりも無い。確かな意志が、語る姿と言葉に植え付けられている。
威風堂々、そんな言葉が今のセーラには相応しい。夢とは少し違うが、自身の目標をここまで素直に、真っ直ぐに言い切れる人物など、そうはいないだろう。
「ありがとうセーラ。・・グレンもいい?」
「いいぞ」
セーラへの質問は終わり、次はグレンベルク。
「グレンはさ、復讐を諦めるつもりはないよね」
「当然だ」
質問する必要も無かった。その上で、ラルズは改めてグレンベルクに尋ねた。返ってくる答えも、当たり前のことだ。
五年間という、けして短くない時間。彼も長い年月の間、友を殺された報いを受けさせるために、自分自身でその道を進み始めた。誰にも彼にも馬鹿なことだと言われても、命について悟られても、一度火のついた復讐心は、彼の中では絶えることなく一生燃え続けている。
「今の俺じゃ、仮にもう一度あいつと相対しても勝てる見込みは万が一にもない。認めたくない事実だけど、認めざるを得ない。お前たちがいたから、俺は本当の意味で敗北を飲み込むことができた」
友を失った一度目。何もできず無力な自分を嘆いて、友の仇でもある最悪の魔獣。眼獣を探し続け、並行して力を付けていったグレンベルク。そしてバルシリア小森林での一件で、二度目の完全敗北を記録した。認めたくない事実だとしても、認めざるを得ない圧倒的な力量の差。
常人なら折れても仕方がない。勝てないと見切りを付けて、復讐を諦める選択肢をとっても、誰に責められるわけでもない。それでも、彼は復讐を諦める判断には至らない。
「俺が始めた復讐の道。その果てに待ってる結果が、必ずしも報われる形で用意されていないかもなんて、百も承知だ。それでも、誰に何と言われても諦めるつもりは欠片もないっ」
拳を強く握り、強い意志を表明するグレンベルク。先のセーラと同じく、自身の言葉に弱音の類は一切確認されない。
「そのためにも……いや、これ以上は余計だな」
「?」
何やら続きが気になる言葉を残したが、今口にする内容ではないとして先は中断。気にはなるが、彼がそう判断したのなら、その判断を汲み取ろう。逸れかけた話題を一度呼び戻して、
「・・二人とも、ありがとう。聞けて良かったよ」
その気高くて、ある種の誇りを抱いている彼らの発言は、ラルズにとっては大きく、尊敬の念が生まれる。二人の抱いている決意に比べれば、ラルズの悩みなど取るに足らない小さな代物。先が見えない、などと口にし続けていたが、二人の進んできた道すがらに比べれば、歩き出したばかり。
小さくても、進み続けよう。道は――在り様は、彼らが示してくれている。うじうじと悩み続けていても何も進まない。意義だの大義だのを考慮して、自分の行動を否定する考え方は終いにしよう。
「何が解決したのかはわからないが。まぁ、ラルズが抱いている悩みに対して、俺らの答えが一役買ってくれたならそれでいいさ」
「そうね」
ミュゼットの一言然り、改めてグレンベルクとセーラにも少し話を伺って、暗く沈んでいた考え方とは決別することができた。
これでラルズの悩み事情は一時閉幕。根本的に根を断てたわけではないが、それでも良しとしよう。この手の話題とは一旦おさらばとして別の話題を模索する。
話題探しで隣に視線を向ければ、先程までミュゼットが座っていた椅子が目に入った。ステラに連れられた本人は返っておらず、相変わらずの空席具合。ミュゼットが座っていた椅子は座脚主がいないために、そのままの状態。
「ミュゼット、まだ掃除してるのかな?」
「戻って来てないところを見るにそう判断するのが妥当なんだろうが、あの人の部屋ってそんなに掃除しがいのある部屋だったか? 初めてあの人に会った……というより会わせられたって言い方が正しいんだが、それなりにまだ整われていた記憶なんだが」
半ば強引に近い形でミュゼットに連れられて面識を覚えているグレンベルクとステラ。セーラも多少形は異なるが、ミュゼットに連れられて互いに自己紹介は早い段階で済ませている。記憶を振り返っても、そこまで掃除に時間が及ぶとは思えないと彼は口にする。
もっとも、二人とも部屋を訪れた際にはそれなりに掃除の手が届いていた状態であるために、彼が疑問視してしまうのも無理はないが、ラルズの場合は話は別。
掃除しがいがあるのか、とやんわりとした表現を口にしたグレンベルクだが、本質は多少異なっている。なぜなら、ある程度汚れているぐらいであれば、ステラはそもそも気にも留めないはずだ。自分の部屋の状態にもかなり無関心な彼女に対して、アクションを起こさざるを得ない状況。
つまり……室内は惨状を通り越して破滅に近いのだろう。恐らく初めてラルズがステラの室内を訪れたときと同じか、それ以上に散らかされていると予想する。中々戻ってこないミュゼットが、その仮説を証明する片棒を担っているようにさえ考えられる。
「もともと、ミュゼットから何か大事な話があるって聞いてるんだけどね」
集まって直ぐに大事な話があると話していたミュゼット。ある程度遊戯を堪能したら話すと口にしていた彼女であるが、予想外の魔の手が及んでしまい、話はどんどんと先の時間に間延びしている。
「・・俺たちも、手伝いに行かない? 一人だけ掃除させるのもあれだし、やっぱり多少なりとは責任もあるしさ」
「そうね……。ここでいつまでも待ちぼうけ食らうのもあれだし、手伝いに行きましょう。ミュゼットが話そうとしている内容自体は、ある程度予想が付いているけど」
「え、そうなの?」
「気付いていないのか、ラルズ」
口ぶりから察するに、セーラのみならずグレンベルクまでもが、彼女が話すであろう内容について思い至っている。
「まぁ、そのお楽しみはあの子に直接話してもらいましょう。取り敢えず、私たちも行きましょう」
いずれ知れるであろう事柄。理解が及んでいる二人に置いていかれているラルズであるが、この後に知れる内容には違いない。先を知りたい欲もあるが、打ち明けたい少女の心に申し訳が生まれてしまうので、この話は一度封印しよう。
椅子から立ち上がるセーラとグレンベルクに続いて、ラルズも椅子から腰を上げる。そのまま三人は、今頃頑張って掃除に勤しんでいるであろう少女の応援に駆け付けに向かった。