4・テンプレがすべて万能だと思ってた?
門番と少し話をしたのち、ギルドへと案内され、いつものように歓待を受けてしまう。
「だから、僕は男だって」
美少女然としたその容貌からむさい野郎どもが集まって来るが、残念ながら、男である。もちろん、そっちの気はないノーマルだ。
「ほらほら、妖精様が困ってるぞ」
などと、ワザと言ってるのが居るから人が集まるんだけどね?
「ここの飯は旨いぞ」
と言って、ギルドに併設された酒場へと連れていかれ、常連らしく「いつもの」とか言ってドカッと座るバンアレン。
ちなみに、先ほどまで連れていた冒険者たちは、今日の講習は終りという事で、依頼達成証明を受付から貰って解散している。
「あ、これは見た目がご飯だけど、違う奴だ」
僕の前に置かれたそれは、チキンライスの様な見た目をしている。
チキンライスといっても、日本のケチャップご飯の事でなく、鶏肉と共に炊いたものの方。
独特の色味は麦を湯通しして乾燥させた食材のソレだった。よく見れば麦の形をしている事も分かるし、食べれば明らかにジャポニカ米の様なもちもちふわふわな食感とは異なる。
「なんだ、『ごはん』とかいう奴の見た目もこんなのか」
などと言っているが、たぶん分かってない。
「僕の国で食べていたご飯はこうやって肉や豆を添えなくてもイケるんだよ。ピクルスとはちょっと違う漬物だったり、ラディッシュとは違う大根の漬けものを煮込んだ奴さえあれば三杯イケる」
そう、熱く語ると不思議そうに見てくる。
「見た目は可憐なのに、変わってんな。ピクルスみたいな漬物だけでこんなのが三杯って、何モンだ?」
いや、そもそもすべてが違うのだが、きっと理解してくれない。
そして、どうやらマスターが僕の容姿をみて、エールではなくクワスを出してくれているらしい。独特な酸味があるが、アルコール度数の低い飲み物を口にする。
この召喚された地域はまさしくナーロッパだった。
中世と近世の中間なのか、それとも古代ローマ時代辺りなのか、魔法によってそこそこ生活水準が高い生活をしている。
だが、やはり地質や気候がヨーロッパ風味なためか、生水をそのまま飲める地域は少なく、大体の場合酒類を主に飲んでいる。そんな中で、麦を主として使った飲み物であるアルコール度数の高いエールと、パンから作るらしいアルコール度数の低いクワスがある。ただ、なぜかクワスも冬の仕込み分は度数が上がるという話を聞いた。
そんなナーロッパは何故だか食物についてはご都合主義が通用していない。大豆も稲もない。もちろん、イモ類もない。ジャガイモなんてありゃしない。
その分、魔草の類が存在し、魔素を含むらしいひよこ豆やらレンズ豆に似た豆類がやたら収量が多く、主要食物になっていたりする。
麦類も人為選択によって、中世や近世レベルではない収量が多い麦が栽培されているという。
ちなみに、勇者召喚は二百年前にも行われており、その時の勇者がラノベテンプレである千歯こきや唐箕を伝えている。
この世界においては二百年のズレがあるが、召喚された勇者はだいたい同じ年代であるらしい。五百年前になるとちょっとマトモな記録がない。
勇者召喚は行われているらしいとしか分からない。
さて、テンプレ農具のその後についてだが、唐箕は普及し、今では風車や水車と組み合わせた日本で言うコンバイン······は違うか。自動で脱穀や選別が可能な機械が存在している。
ただ、千歯こきに関しては普及せず、今ではドワーフ達が腕を競うための道具と化している。というか、各国を巡っていく中で、唐箕に関しては目にしても、千歯こきは見なかったので、過去の勇者がテンプレ農具を提供している事にすら気が付かなかった。
なぜ、千歯扱きが普及していないかって?
だって、麦の脱穀なんて唐竿でやった方が楽だから。
千歯扱きはあくまでジャポニカ米の脱粒のしにくさであったり、米粒へのキズや割れに気を遣う日本人の考え方から生まれた道具であって、世界的には乾燥して脱穀しやすくなった麦やイネは唐竿で叩いて脱穀したり、丸太や壁に打ち付けるのが一般的だというじゃないか。
そんな所に、キレイな実を得られるからと千歯扱きを持って行っても、繊細な力加減を要する精密器具過ぎて話にならなかった。効率だけなら唐竿で十分だったらしい。
しかし、モノ作りが生き甲斐のドワーフは、いかにキレイな歯並びを実現できるか、いかに力加減によらない脱穀が実現できるかと、腕を競って二百年。千歯扱きを作り続けている。いや、正確には千歯扱きから発想した千歯扱きの様なナニカを。
そうした技の競い合いとは別に、多くの人族は、便利な選別農具である唐箕に興味を持ち、より便利に、効率よく使えるように、風車や水車と連結して、自動で動く唐竿も取り付けて、ハーベスターみたいな機械を作り上げている。
なぜドワーフが唐箕に興味を示さなかったか?
だって、あれは既に完成された道具だから。少なくとも、日本に伝わり普及した18世紀ごろから21世紀に至るまで、基本構造は変わらないらしい。
食事を終えた僕は今日の宿を探し、泊まる事にした。
この世界では日本の様な風呂がある。いや、正確には銭湯が。
なので、古代ローマ時代という表現が出てくる。これも勇者がひろめた文化であるらしく、一定規模の町であれば、相応の魔術や魔導を用いた入浴設備が稼働し、住民や冒険者が気軽に使える料金で運営されている。
でも、こういうところ、僕はちょっと困るんだよな。だって、脱衣所では好機の目で見られるし、入浴中もショタっ気があるのか、いろんな人に結構見られている。でも、やっぱり風呂には入りたいから仕方ないんだよ。
こうした風呂がある関係で石鹸も一般化している。まさか一人がすべてをやった訳では無いと思うんだけど。
そうそう、その石鹸の名産地がもう少し南にあるという話を聞いた。
魔力だったか魔素だったかの影響で、年間を通して実をつけるオリーブの木が栽培され、年中収穫できるもんだから、勇者が開発したのか、勇者の名前を使ったのか、勇者ブランドの固形石鹸が大量生産されている。




