表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

2・出会った以前の戦友の人

 聖斧バンアレン。


 対魔大戦に参戦した冒険者の最高殊勲者と言われる人物で、召喚勇者を除くと最高の戦功を挙げた人物と言っても良い。

 そんな人物が偉ぶるでもなく、戦後はこうして普通の冒険者へと戻っている。


 もちろん、中には戦功による栄達で自分の地位を勘違いし、戦後に転げ落ちた人物も居るし、冒険者からギルドへ入り、ギルドマスターをやったり、仕官して兵団長や騎士爵を得て領主となった者も居る。


「あとの勇者二人は元気か?」


 挨拶もそこそこに、彼はそう聞いてくる。


「元気にイチャついてるんじゃないのかな?もう。子育て真っ最中かも?」


 と、ちょっとおどけて言う。


 そう言うと、バンアレンは笑った。


「ハッハッハ、あの二人ならおかしくはないな。召喚以前からそう言う仲だったと聞いたしな」


 そう、同時に召喚された勇者二人は元々恋人同士であったという。


 そんな、僕とバンアレンの話に付いて来れないほかのメンツはポカンと口を開けている。


「ああ、悪い悪い」


 彼はそう言って、他のメンツに僕を紹介?する。


「鮮血の妖精こと、勇者ユウだぞ、コイツは。なんでも、異世界から召喚された勇者で、元の世界の『ごはん』とかいう食い物を探し回っているそうだ。別に世直し旅をしてるわけじゃない。アレは単なる風聞にすぎん。コイツはそんなマメな奴じゃない」


 と、褒めて落とす紹介をされた。 なのでお返しをする。


「そういうバンアレンさんこそ、連合の誘いを断って冒険者に戻ってるじゃない。あの頃は何人も騎士や冒険者を侍らせていたけど、逃げて来たの?」


 すると、ニヤリと笑う。


「俺は聖斧バンアレン。女から逃げるなんざぁあり得んよ。五人とも仲良くやってるさ。そう言うお前さんこそ、巫女はどうした?」


 などと返された。


 ああ、そう言えば、召喚された後、回復術師の巫女さんが僕達勇者パーティーに着いたんだけど、あの肉食獣さんはなぜか僕に言い寄って来た。ちょっと僕を見る目が怖かったので常に避けていたんだけど、今はどうしてるんだろう?孤児院で荒い息をしながら孤児たちを見てるんだろうか。


「巫女が結婚したら巫女じゃなくなるんだもの。彼女も役目は忘れて無かったんだよ」


 目を逸らしながらそう言った。


「そうか、それは大変だったな」


 と言いながら豪快に笑う。


 全くついて来れない冒険者たちを促してゴブリンを片付け、討伐証明部位を僕が貰った。


 もちろん、これから向かうのは彼らが拠点にしている街だ。


 多くの戦功があった冒険者たちが仕官したりギルド側に転職した中で、バンアレンは何故、未だに冒険者なのだろう?

 そんな疑問をぶつけてみた。


「ああ?俺が冒険者でいる理由か。そりゃあ、お前。あの5年間で常識がガラッと変わっちまったからだよ」


 と、説明してくれた。


 僕たちが召喚されたのは既に戦いが始まって3年が過ぎ、境界領域にある国々が危機に瀕した頃だった。

 バンアレンは対魔大戦の始まりから戦っていたそうだが、平時の冒険者が主に出身地周辺地域で魔物や魔獣を狩る事を生業とする慎ましやかな存在なのに対し、魔物や魔獣が溢れた対魔大戦においては、魔の領域近くに行けばいくらでも魔物が居たので、わずか半年や1年すれば、初心者が中堅ランクの冒険者になっていたそうだ。


 もちろん、平時では考えられない死傷率なので、生き残り組が強いのは当然の事ではあるが、外から見ればそんな実態は分からない。


「大戦中は冒険者になれば貴族の命令に従わずに金も地位も手に入るとか錯覚した連中が押し寄せた。大半は死んでいったが、生き残った奴らは、マジで金や地位を手にしてしまう。戦後の騒ぎを見てるだろ?大戦が終わってまだ1年だ。あの狂った状況を正気だと思って冒険者を目指し、無茶をやる連中が未だに多い」


 そう、あくまで戦いの中で得たモノでしかないのに、終結後も同じように栄達や金儲けができると錯覚した人々がいる。

 確かに、生き残った冒険者たちの暮らしぶりを一見すればその通りだろう。その姿を目標にするのは分かる。


「だが、もう、あんな氾濫の最中にやったような腕も何もない連中を魔物や魔獣の群れに突っ込ませるバカげたことはやっちゃいけねぇ」


 そう、とにかく森へ入ってゴブリンやらオークと言った、地球でいう猿やゴリラの類を襲ったり、イノシシやシカ、熊の類を狩りまくる必要はない。


 21世紀の地球でならば、威力のある銃を持っていれば可能なのだろうが、この世界には剣や槍、弓しかない。


 剣や槍ですばしっこくて数が多く、中には魔法を使ったり道具を使う猿や熊を相手にするなんて、技量の怪しい冒険者には無理がある。

 だが、つい最近まではそれが当たり前に行われていた。そうしないと町や村が狂って暴れ回る魔物や魔獣に呑み込まれてしまうから。


「俺がやってるのは、以前のようにちゃんとした知識と技量を新米どもに教える仕事だよ。ギルドに入っちまうと、そんな指導も無暗に金がかかるし、何より、新米を毎日連れ歩く事も出来やしねぇ」


 そう、ギルド職員は冒険者と一緒に冒険をすることが仕事ではない。冒険をするなら、自身も冒険者である必要がある訳だ。


「そうだったのか」


 そんな話をしているうちに、街へと到着した。


 この世界は凶暴な魔物や魔獣がそこら中に徘徊しているので、人の居住区は壁や柵で囲まれた区域内に限定されることが多い。


 森を切り開いて草原にしてしまえば良いと思うだろうが、土木機械がない時代に山を切り開くのは限界があるし、どういった原理か、ところを選ばず、湧水が湧くように魔力だか魔素だかの影響で魔物が湧いたり獣が魔獣化する事がある。


 結局、そうした魔力湿原を克服できないので、マダラに魔物の領域が点在し、人間の生活圏は壁や柵の中が主となっている。


 もちろん、周囲数十キロや百キロ単位で魔力湿原がなく、魔物や魔獣が居ない様な所に有力な国が出現している訳だ。

 なので、人族もひと塊ではない。


 そんななかで、魔力湿原の魔力と親和性の高い人種が魔族。その人たちの国を魔国と呼ぶ。


 まあ、氾濫の電波は彼らも受信していたらしく、彼らによる侵略も起きていたことから、スタンピードではなく、対魔大戦なんて呼ばれているんだけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ