1・旅を続けてはや1年
「ご飯食べたい」
口を突いて出るのはその願望ともいえる一言だった。
と言うか、これまで散々、「ご飯」を探し求めて来たが、ソレに合致するものに出会っていない。今日も食事は堅パンである。と言っても、北の魔国で主流のクリスプブレットだ。
それを歩きながらかじる。
「ん?」
どうやら近くに潜んでいる存在が居るらしい。
気付かないふりをして歩を進めると、その正体が分かった。
「ゴブリンっぽいな」
人間の盗賊ではないらしい。消去法で、集団行動をとり人を襲うとなれば、真っ先に候補に挙がるのはゴブリンだ。
注意してみていると、それらしき姿を発見した。
「実包生成」
マジックパックのクリップを手にしてそう唱えると、5発の弾薬が生成される。
そして、担いでいた銃を降ろし、ボルトを引いて、弾倉にクリップを差して弾薬を押し込んでいく。
弾を押し込み終わればクリップをマジックパックへと戻し、ボルトを押し込み、ハンドルを倒せば装填完了だ。
さて、何匹居るのやら。
しばらくすると、「グギャグギャ」とゴブリンの鳴き声が聞こえて来た。
「あちゃー、5匹以上か」
そこには明らかに5匹以上いる。仕方がない。まず、飛び出してきた棍棒を持つ一匹に狙いをつけて引き金を引いた。
パンという乾いた音が響くと、少し後に体に穴の開いたゴブリンが倒れる。
「グギャグギャ!!」
他のゴブリンたちが騒ぎ出してこちらへと注目した。
「おっと」
さらに、少々低速で矢が飛んできた。どうやらアーチャーが居るらしい。
矢の飛んできた方向を探すと、居た。集団の少し後ろにそれらしき個体が居る。ボルトを操作して次弾を装填し、ソイツを狙う。スコープで確認すると、確かに弓らしきものを手にし、二の矢を番えている所らしい。
そこへ狙いをつけて撃つ。
パンと言う乾いた音の後、アーチャーの体へ着弾したのを見届け、スコープから視線を外し、銃のスパイクを返し、着剣状態にする。
その頃には棍棒を持ったゴブリンどもはあと数メートルの位置である。
「アサルトライフルならこのまま引き金引けば終わるのに、なんでボルトアクションなんだろうね?」
何度思ったか分からない、口にしたか分からない愚痴をこぼしながら、棍棒を振り上げるゴブリンへと銃剣を突き立てる。返しも何もない、ついでに言えばスパイク形状なので斬れる訳でもないソレを引き抜きざまに、迫ってきたもう一匹へと再び突き立てながら、回り込もうとする一匹へと、スパイクを抜いた勢いのまま、銃床を叩きつける。
その勢いのまま体を回転させて、振り下ろされる棍棒を回避し、銃床の打撃から回復していない一匹の背後から刺す。
「グギャ!」
先ほど空ぶった二匹が棍棒を振り上げながら叫んで突っ込んでくる。
一匹を足払いし、一匹は銃床で胴を叩いて遠ざける。出来た隙に装填を行い。倒れたゴブリンへと一発お見舞いし、体勢を立て直した生き残りへと銃剣を突き立てた。
「終わりか?」
辺りを警戒する。
どうやらもう一匹いるらしい気配。
警戒しながらボルト操作を行い、更に探る。
「隠れながら魔法は撃てないよ。メイジ」
隠れているつもりであるらしいゴブリンの杖らしきものがひらひらと見えている。
道から少し逸れてやれば、隠れたつもりのゴブリンは丸見えであった。
「ハイ、おしまい」
そう言いながら引き金を引く。
少し距離があるとはいえ、スコープを覗けばすぐそこだ。こちらを見失ったらしいゴブリンは無警戒に身を晒しているので、何の迷いもなく引き金を引いた。
訳も分からず倒れ伏すゴブリン。
さて、ボスっぽいのは?
と、警戒していると、状況を察したらしい一匹が逃げていくのが見えた。
「逃がす訳ないじゃん」
最後の1発を装填し、逃げるゴブリンを狙い撃つ。
パンと言う乾いた音の後、ゴブリンは一度のけぞり、慣性に従い足を縺れさせてスライディングした。
ハンドルを起こし、ボルトを引くと薬莢が飛び出してくる。弾倉はこれで空になっている事を確認。
辺りを見回すと、どうやら人の集団が走ってきている様だ。一応警戒してみるが、その中の一人はよく知る冒険者で間違いないだろう。
程なくして向こうもこちらを確認したらしい。そして、ちょうどそこに倒れ伏したゴブリンも発見したらしい。一度、そのゴブリンへと注意が向くが、死亡を確認するとこちらへと声を掛けて来た。
「おい、爆発音みたいな音がしたが、お前か?」
冒険者の一人が声を掛けてくる。
「そうだよ」
そう返す頃には、双方の容姿もはっきり見える距離となった。
「火槍か」
声を掛けたのとは別の冒険者が、手に持った銃についてそう言った。
この世界では、銃の事を火槍と呼んでいるらしい。
そして、目前まで来た2人がこちらを見て少々驚いた様子だ。
「小柄だとは思ったが、女か。火槍術の少女と言えば・・・・・・」
などと言い出した。
「・・・・・・鮮血の妖精」
ゴブリンを見聞してから追い付いた女の人がそう口にした。
「僕は男だよ。・・・・・・鮮血の妖精?知らない人ですね」
顔を引きつらせながらそう言った。
ゴブリンを見聞してから追い付いたのは女性だけではなく、さらにもう1人。
「召喚勇者の一人、妖精の様なかわいらしい顔立ちをしながら聖槍アリサカを容易く扱い、対魔大戦では同じく召喚された剣士や魔術師を凌ぐ功績を残した。大戦終結後は各地を放浪して『ごはん』なるものを探し求めているとか?」
さらに顔がひきつる。
「やあ、バンアレンさん」
そういえば、この辺りの街を拠点にしているんだっけ、聖斧と呼ばれる冒険者が。デッカイ斧を軽々と担ぐその巨躯に、そう答えるしかなかった。