37 事実(?)を知る
ジェラルドが仕事を手早く片付けて家に戻るとシャルロットが待っていた。
「お父様、しばらくよろしくお願いいたします。エリック様もゆっくりしてくるようにとおっしゃって下さったの。」
「そうか。慌ただしい輿入れだったからな。私は嬉しいよ。なにか、慣れない事や大変なことはないか?」
ほんの少しだけ顔を曇らせたが、すぐに笑顔に戻った。
「何もありませんわ、エリック様はお優しいですし。ただやはりこちらの方が気が落ち着きますわ。お父様とまた暮らせてうれしいです。」
「・・・。私もだよ。」
「シリルは忙しいのですか?」
「ああ、最近は学院が終わった後に図書室で官吏になるための勉強もしているようだ。」
「まあ、官吏ですか。大変難しいと聞き及んでおりますが・・・頑張っているんですね。」
お前の為にな、とジェラルドは心の中でつぶやいた。
王宮の敷地内に居を構えたシャルロットに会いやすくなるためには、信頼と立場が必要だと、父を同じく王宮で仕事につくことを目指すことにしたようだ。
「・・・もし・・・私が離縁なんてことになればお父様やシリルにご迷惑をおかけしますか?」
「何かあったのか?!・・・離縁したいのか?」
「・・・もしもの話です。その・・・エリック様に失望されたり、疎ましく思われたりすることがあるかもしれませんし。」
「・・・大丈夫だ。お前の婚姻が影響することはないから心配いらないよ。だけど、何か悩みがあるなら相談してほしい。おまえも心の準備もなく王宮に放り込まれたのだから心労も大きいだろう。しばらくうちにいるといい。殿下にはお伝えしておく。」
「・・・ありがとうございます。」
家に戻ってきたシリルはシャルロットを大歓迎した。
嬉しかったものの、時々表情が陰ったりあまり食事が進まない姿に心配はした。
「姉上が急に戻ってくるなんて何かあったのですか?」
シリルはジェラルドにきいた。
「わからん。殿下からも頼むと言われたが・・・何か悩んでいるようだが見守るしかない。」
「何か・・・見えてしまったとか?やはり僕が側にいたほうがいいのではないですか?」
「それはならん。お前の力が必要な時はあちらから要請があるだろう。もう殿下の伴侶となったのだ。弁えなさい。今は恐れ多くも第二王子妃なのだからな。」
エリックから、くれぐれもシリルとシャルロットを近づけないように言われている。護衛だけでなく、影も屋敷に送り込まれている。
「・・・・そうですね。よく里帰りを認めてくださいましたね。」
「それだけシャルロットを大切にしてくれているんだろう。だから・・・お前も分かっているな。」
「・・・もちろんです。」
それから3日間、憂いを見せながらも実家でゆっくり休めたようでジェラルドたちは安心していたが。
実家に戻ってきてからずっと勇気がなくて、行動できなかった。
三日目の夜、ようやく決心がつきシリルの部屋をノックした。
「姉上!どうしました?」
部屋に招き入れて、ドアは開けておいた。
「あの・・・ドアを閉めて。」
「え?それは困ります。姉上はもう王子妃なのですから。」
「お願い、どうしても内密に話したいことがあるの。」
「・・・・。わかりました。」
シリルはドアを閉め、ソファに座った。
座った後もうつむいたまま、話がし難いようだった。
「何か・・・見えたの?まさか殿下に?」
「違うわ。そうではなくて・・・・」
シャルロットは意を決したように
「昔、あなたと夜会に行って宿に泊まったことがあったわね。」
「・・・。」
シリルは思わず声を上げそうだった。なぜ今更あの日の事を?
「ああ、思い出しました。どうかした?」
シャルロットは今にも泣きそうな表情で
「あの日・・・何かあった?」
「・・・何かって?」
シリルは自分のしたことがばれたと思った。あの日の事を何か思い出したのかもしれない。
「私・・・エリック様に顔向けできないようなことをしたのかしら?」
シリルは思わずスッと目をそらせてしまった。そして視線がさまよいながら
「あの日は・・・具合が悪くなっただけで・・」
そんなシリルの態度にシャルロットは察した。
「・・・あなた優しいから・・・」
ポロポロ涙を流して声を震わせて泣くシャルロットに、シリルの胸は締め付けられた。
「私の醜聞を・・・黙ってくれてありがとう。・・・もう、いいの・・・。エリック様のお側にはいられないから・・・」
「えっ?」
自分のしたことがバレたんじゃないのか?シャルロットの言っていることがわからなかった。
「・・・もうエリック様の元には戻らない。」




