36 不穏な手紙 1
大々的に発表されることはなかったが、エリックが妻を迎えたと少しずつ広まっていった。
ある日、シャルロットのもとに一通の手紙が届けられた。
差出人はジェラルドだった。つい最近もあったというのに何だろうとシャルロットは封を切った。
内容に目を通した瞬間、体が震え足の力を失い床にくずれてしまった。
その手紙は、ジェラルドからではなかった。
ずいぶん昔の夜会でシャルロットがある男性と一夜の関係を楽しんでいたのを知っていると書かれていた。シャルロットのことを噂通りのふしだらな女だとののしり、王家にふさわしくないからすぐに出て行くよう書かれていた。
あの日のことはよく覚えている。父のジェラルドが参加できず、シリルが名ばかりのエスコートをしてくれた日のことだ。体調を崩してしまったが、あの日を境にシリルとの関係が好転した。
体調が悪くなったからと宿で休んだとシリルには聞かされたけれど、夜会の途中から朝に宿で目が覚めるまでの記憶がなかった。そして全身に心当たりのない痛みも確かにあった。
もしかして、誰ともわからない男に乱暴されて、意識を失いでもした私をシリルが介抱してくれた・・・?私は恐怖でその記憶を無くしてしまった?
シリルはそれを知っていて哀れに思い、優しくなった?
「そんな・・・嘘・・・いや!!」
シャルロットは自身を抱きしめ泣き崩れた。
「おかえりなさいませ。」
「ただいま。」
王宮で執務を終えたエリックを出迎える。
結局一月が経っても実家には帰らず、離宮で暮らしている。昼や週末に時々帰りながら早くエリックとの生活に慣れようと頑張っているところだった。
「あの・・・エリック様。明日から、少しの間モーリア家に行ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。少し寂しいけれど。」
そう言ってシャルロットの手の甲に唇を寄せる。
いつもなら顔を真っ赤にして恥ずかしがるシャルロットが、顔色を無くし少し手が震えている。
「どうしたの?今日、何かあった?」
「いいえ、何でもありませんわ。やっと生活になれたところで少し疲れたのだと思います。今日は申し訳ありませんが自室で休ませていただきます。」
逃げるように自室に戻るシャルロットを見てエリックは影を呼び出した。
「何かなかったか?」
「シャルロット様宛のお手紙が届きました。その後、どこか沈んだようなご様子でございました。」
「手紙?」
「はい。モーリア侯爵様からのお手紙ということでしたが、詳細まではわかりません。」
「・・・そうか。明日からもしっかりと守ってくれ。」
「かしこまりました。」
翌日、王宮にてジェラルドの執務室を訪れた。
「シャルロットが今日、実家に帰るそうだ。」
「聞いておりませんが・・・」
「昨日、シャルロットに手紙を出したか?」
「いいえ、先日顔を合わせたばかりですし。」
「そうか・・・すまない、時間をとらせたな。」
出て行こうとしたエリックを呼び止めて何かあったのか聞いた。
「わからぬ。ただ・・・何か悩んでいるかも知れない。まだ日の浅い私には相談しにくいこともあるだろう。シャルロットの事を頼む、お義父上。」
「・・・かしこまりました。」




