32 お約束の悪役令嬢 1
その後も、シャルロットは今まで通りほとんど社交に出ることはなかったが、どうしてもという時にはシリルがエスコートをするようになった。
プロポーズ後はぎくしゃくし、気まずい思いもしたが、シリルの方が努めて普通に接してくれたおかげで元の姉弟の関係に戻ることが出来た。今日はシリルと王宮のパーティに参加している。
今日は第二王子の暗殺未遂事件が解決し、あの時に迷惑をかけた諸外国の有力者や国内貴族たちへの詫びと今後の関係を築くためのパーティだった。
これまでは限られた人以外を視界に入れないようにうつむき、楽しむことなどできなかったが、シリルがいれば少しづつ世界を広げることができるかもしれない。今でも怖いことに変わりはないし、周りを見渡すこともできないが、エリックがいつでも避難できるようにと部屋も用意をしたうえで招待された。
思わず、押さえていた想いがまた弾んでしまう。
そういう皆のやさしさ、気遣いにシャルロット自身も変わりたいと思い参加した。
「姉上、大丈夫ですか?何も見えませんか?」
シリルは、さりげなく大勢の客が視界に入りにくいように抱き寄せてくれる。痛みは伴わないと言っても少しでも死を見なくて済むように。
「ええ、大丈夫よ。ありがとう。」
ちょっと距離が近いわね、と思う。
プロポーズを断ってから姉弟の関係に戻りはしたが、以前より優しく、過剰に愛情表現してくる気がする。
「少し寒いのではないですか?」
シリルは自分の上着を脱ぐと肩から掛けてくれる。
「シリルが寒くなるじゃない。大丈夫よ。」
「最近鍛えているから大丈夫です。」
「ええ?あなた運動苦手だったんじゃ?」
「思うところがあって、鍛えています。」
エリックに負けていられないと、最近頑張っているのだ。
そうしてシリルがシャルロットに構い倒しているところに、3人の令嬢が声をかけてきた。
「シリル様、ご無沙汰しておりますわ。もしかしてお姉さまのエスコートを押し付けられましたの?大変ですわね、おいたわしい。あちらでお話いたしませんこと?」
赤いドレスに、宝石で身を飾り立て自信満々の表情で話しかけてきた令嬢の後ろには取り巻きと思われる二人の令嬢が立っている。
「・・・ああ、アルエ侯爵令嬢。」
「まあ、そんなよそよそしいですわ。ルイーズとお呼びくださいませ。」
シリルに抱き寄せられたまま身を固くしてしまったシャルロットを安心させるようにその背をポンポンとたたく。それを見てルイーズは眉を寄せる。
「あら、ルコント公爵令息の次は弟君にまで媚びを売ってらっしゃるのかしら?お盛んなのは結構ですけど、貴族のご令嬢としてはいかがなものでしょうか。家名に恥じないよう自重された方がよろしくてよ。ねえ、シリル様?」
3人がくすりと笑う。
シリルは、冷たい視線を3人の令嬢に向けると
「ええ、本当に。根も葉もないうわさを流し、一方的に他人を貶め嘲笑するような礼儀も持ち合わせてない令嬢は、家名を相当貶めていますね。」
「な!シリル様?!シャルロット様のことは皆がそう申しておりますわ!シリル様こそどうされたのですか?まさか、この女の甘言に惑わされたのでは・・・弟を誘惑して取り入るなんて、なんてふしだらな!」
「発言を取り消していただこう。噂はすべて間違いですよ。僕も、根も葉もない噂に惑わされた事を恥じております。姉上はそんな人間ではない。これからはそんなばかばかしい話をしないでいただきたい。」
「シリル様は騙されているのです。ルコント公爵令息と関係を持ちながら・・・モーリア侯爵とも・・・」
「黙れ!!下手に出ていればどこまで侮辱をするつもりだ。これ以上貶めることをいうならこちらもそれなりの対応をさせてもらう。」
「ですがこの女は御父上と・・・」




