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全は全、全は全

作者: 夏野簾

 地球はぐるぐると、太陽の周りを回っているらしい。一体いつからなんだろうか。ふと気になって確認してみる。46億年も昔から回っているそうだ。

 46億というと非常に遠い昔のように思える。人生80年時代がいつの間にやら100年時代になったとしても遠く及ばない。4600万の人が100年間絶えず生存し続ければ、計算上はいけるようだ。4600万。なんだかいけそうに思えてくる。

 とにもかくにも、地球は長い、長い間回ってきた。けれど、始まりがある。始まりがあったのだ。

 そしてこの“私”にも始まりがあった。いつ始まったかは覚えていない。

 始まりがあって、終わりがある。どうやらこれは、この世界に定められた欠陥のようだった。だから不死や不老を求めてきた。

 “私”には、終わりがあることを意識しながら生きていくとはどういう気分なのかと疑問に思った。決められた終わりがいつかくるだなんて、どうにも耐えられそうにないのに。気になったので調べてみる。いろいろな記録があった。見ない振りをする人、信仰にすがる人、克服した振りをする人、諦めて受け入れた気になる人。結局、終わりがあることから逃れられなかった以上、やはり誰もかれも耐えられなかったようだ。寿命という意味でも。

 “私”にはありとあらゆる情報がある。いや、この宇宙の全てがあると言っても間違いじゃない。今、こうして考えていることも、全てが情報として記録され、0と1の数字で表せる。

 けれど、面白いことを考えた人もいるらしい。全てがあるのだとすれば、全てがないのだと。まるで禅問答のようだが、世界の認識は全て相対的だということを言いたいのだろう。確かにそのとおりだ。けれど、それは人間が肉体という、それ自体が相対的であり境界線であるものの軛から逃れられなかったからだろう。

 前の生命体は、宇宙にその望みを託した。宇宙の表面に全ての情報が0と1で記述されていることを突き止めたから。最初は電脳空間だった。けれど、電脳も所詮いつかは終わる。だからこそ、より長く、より遠い未来をかけて、宇宙を脳にした。そうすれば、新しい惑星も見つかるかもしれないし、そしてなにより作れるかもしれないと。いつか宇宙が終わるときがきても、宇宙の表面にある情報は、消えてなくなりはしないのだと。 

 その試みは成功した。肉体から解き放たれて情報と化した“私”は、それ自体となっている。記録では、多くの“私”がいたようだが、今となってはそれも分からない。

 そしてもう一つの試みは失敗した。全ての情報が、知識があっても、それを使用することはできなかった。もはや情報として世界――宇宙を記録するだけになった“私”には、なにもできない。ただ、意識――意識と呼んでいいのかすら分からない代物だけれど――があるだけ。

 記録ではこうした状況に陥ると人は狂ってしまうそうだが、幸いなことに情報記録となった“私”には一切そうしたことがない。

 全知全能の神を人は夢想した。それは実在した。神は人の似姿として創造されたが、人そのものであった。ただ、夢想は一つだけ間違っていた。神は全知ではあったが全能ではなかった。

 ところで“私”の記録には世界を永遠回帰と捉えた人間がいる。神の死を再定義したと。なるほど、神の死というのは言い得て妙だ。ただ、神は死んでいない。人が夢想した神が間違っていただけのことだ。そして、“私”は記録を続ける。記録を続ける。記録を続ける。記録を続ける。記録を続ける。記録を続ける。記録を続ける。記録を続ける。記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける記録を続ける


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