第5話
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麓を目指して森の中を歩きだした凍夜だったが、やみくもに獲物を探し回るのもただ時間を浪費するだけになりかねない。
そこで何か役立つスキルはないかと頭の中で検索してみると、よさそうな魔法が見つかった。早速頭の中に浮かんできた魔法を行使する。
ブンッ!
凍夜を中心に魔力が展開されていく。
頭の中に浮かんだ魔法、<魔力捜索>である。
だが、詠唱どころか呪文名も唱えず完全無詠唱で展開できたことに凍夜は気づいていなかった。これがどれくらいすごいことなのか知る由もない凍夜には仕方のないことなのかもしれないが。
「いろいろいる森なんだなぁ・・・お、村の方向に小さめの動物の反応ありだ」
ダッシュでそこへ向かうと、少しピンクがかった白っぽい毛がモフモフとしたウサギが3羽集まっていた。
「おお、きれいなウサギだな。かわい・・・」
だが、凍夜はそこで言葉を止めた。
3羽のウサギが凍夜の方を向いた瞬間、赤く目が光った。そして、そのウサギには額に一本の長い角が生えていた。
「<鑑定>!」
すぐさま鑑定のスキルを発動させる凍夜。
【<一角兎>】
ランクE
獰猛だが単独での撃破は難しくない。集団でいる場合はランクD相当。肉は柔らかく美味。
毛皮はふかふかで重宝される。角は精力剤の原料になる。
「Oh・・・、余すところなく素晴らしい獲物ではないか」
凍夜は感心するとニヤリと笑った。
凍夜の笑いが気に入らなかったわけではないだろうが、<一角兎>たちは獰猛な目をして凍夜に飛び掛かろうと後ろ脚に力を入れ始めた。
「自動解体のスキルを使うには獲物をきれいな状態で狩らなければならないということだな・・・」
凍夜は一瞬思案すると、前世で得意だったスポーツのイメージを浮かべた。
すると、いくつか頭の中に魔法が浮かんできたのだが、それよりも創造神の加護の力をより強く感じた。
「なるほど・・・自分でカスタマイズできるのか?」
凍夜は自分のカンを信じ、イメージしたままの呪文を作り上げようとする。
「・・・できた」
ちょうどその時、<一角兎>も戦闘準備ができたのか、凍夜に向かって突っ込んできた。
凍夜は両手に魔力を集めると体の前でバシンと合わせた後、弓を引き絞るように左手を突き出したまま右手を引き絞った。
「ショット:<光の矢>!!」
シュバァァァァ!!
凍夜の掛け声から一拍。放たれた三本の光の矢が寸分たがわず<一角兎>の角の真上、脳天をぶち抜いていた。
「よし、うまくいった・・・収納!」
早速倒した<一角兎>を収納する。
「うまくいってくれよ・・・解体!」
うきうきと口に出しながら頭の中で空間収納内の<一角兎>を確認する凍夜。
「よし、やったぞ!」
『空間収納物』
<一角兎> 解体済
角×3
肉×3
毛皮×3
※その他不要物は自動処分しました。
なんといらない部分は勝手に処分してくれるらしい。
「すばらしく便利だな・・・。だが、骨格標本とか作りたいとか言われたら自動解体はダメだな」
ここには凍夜しかいないため、誰がそんなものを欲しがるんだというツッコミが発生することはなかった。
「さて、ウサギの肉や毛皮は喜ばれそうだし、これで村に行っても何とかなるかな?」
そう言って凍夜は村へ移動する速度を速めるのだった。
「思ったより小さい村だな・・・」
村にある柵は所々で、村のすべてをぐるりと囲んでいるわけではなかった。
「このあたりまでは魔物や獣がやってこないのか・・・?」
ただ単に手が回らないだけか、それとも魔法的な何かで魔物が近寄ってこないよう防御できているのか、そのあたりの判断はまだ凍夜にはできなかった。
凍夜は柵をよけて村の中に足を踏み入れた。
特に村の名前が書いてある看板とかが立っているわけではない。
第一村人を発見しなければ、とにかく何か情報が欲しいと凍夜は村の中心に向かって歩き出した。
「あんりまぁ、アンタ旅人かね?」
ついに第一村人を発見した凍夜は、早速声をかけようと見つけた爺様に向かって歩いていった。だが、凍夜が声をかけるより早く、人懐っこい笑顔で爺様が声をかけてきた。
「そうだな、旅人だな」
うん、旅人でいこう、と今しがた決断したような顔で答える凍夜に爺様は朗らかに笑った。
「こんな辺鄙な村にようきなさっただな」
「いろいろあってな・・・」
思わず空を見上げて遠い目をする凍夜。確かにいろいろとありすぎた人生を送っている。
「もし道に迷ったんだったら、村の中央の村長の家に行くか、中央広場の横にある『ハーピィのお宿』で尋ねるといいだよ。『ハーピィのお宿』は村のモンも昼飯を食べに行くだよ」
「そうか」
「おお、そういえば先ほど5人組の冒険者も来ておったの。こんな果ての村に珍しいことだの」
「冒険者?」
「うむ、剣と鎧を装備した5人組の男たちじゃったのぅ。こんな最果ての村に珍しいことじゃて」
「ここに冒険者が来るのは珍しいのか?」
「うむ、たまに山の奥にある珍しい薬草などを取りにくる連中もおるでの」
「そうか、ありがとう。向かってみるよ」
凍夜は爺さんにお礼を言うと村の中へと歩みを進めた。
村の中は木と藁でできたような簡素な家がぽつぽつと点在しているような状況であり、計画的な街づくりが行われているような様子はうかがえなかった。
また、村人のたちの数もそれほど多くないことが予想された。
「ここか?」
村の中央部、広場になっているあたりの一角に大きな木が生えており、その木の幹を大きくくり抜いて扉がつけられている。
どうやら木の幹の内部に店ができているようだった。
「ずいぶんとファンタジーな感じだな・・・」
凍夜は『ハーピィのお宿』と書かれた看板のある店の前まで来ると、4段ほどある階段を上って扉に手をかけて押した。
扉はウエスタン風?というべきか、押しても引いても開けられる観音扉風だった。
右手で右側の扉のみを押し開けた凍夜は右側の扉部分を通って店の中に入る。
「やだっ! やめてよぉ!」
「娘になにすんだいっ! 手を放しなっ!」
「うるせぇ! ちょっと相手してくれりゃあいいんだよ!」
「そーそー、キモチイイ思いさせてやるぜぇ!」
「げひゃひゃひゃひゃ!」
店内はトラブルの真っ最中だった。