表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

プロローグ


「――――係長、大資本商社との契約取れました。例のプロジェクト、これで進められます」


「おおっ、そうか! お前ならできると思ってたぜ! これは俺が上に報告しとくわ。お疲れさん」


細身の男が提出した契約書とプロジェクト企画用紙の束を嬉しそうに受け取る係長。


男は黙って頭を下げると自分の席に戻って行った。






「中林主任! いいんですか? またあの係長、主任の手柄を横取りするつもりですよ!」


隣の席で声を潜めながらも口に手を添えて忠告してくる女子社員。

だが、中林と呼ばれた男は苦笑いを浮かべるだけだった。


「仕方がない・・・、いつものことだ」






中林凍夜(なかばやしとうや)、28歳。

中堅どころの機械メーカーの営業職に就いている男であった。

細身のわりに学生時代運動部だったのか力強く、クセっ毛ながらさらりとしたヘアーと銀淵の細メガネがインテリ感を際立たせている、いわゆる「デキる社員」である。

一浪での大学院卒ということで、25歳での就職。現在28歳となる。

3年目の若手ながらすでに主事を通り越して主任に抜擢された有望株であったが、3年目になって上司に配属されてきたのが今の係長であった。


係長は社長一族の次女と結婚している、いわゆる経営者一族の末席に滑り込んだ外様であった。

ちなみに社長一族には長男も次男もおり、長女と結婚して現在部長職に就く婿もいる。間違ってもこの使えない係長がこの会社の重要ポストに就くことはない。


そう、使えないと烙印を押された係長がやってきたのは使える中林のいる部所の上司としてだったのである。


対面だけでもとりつくろわせて、仕事をやっている気にさせているのである・・・中林の実績を横取りさせて。


凍夜は正直この会社に信頼を置くことができなくなっていた。

主任に抜擢されて給料も少々上がったが、今後の評価はどうなるのだろうか・・・。

正直なるようにしかならないと思いながらも、今の係長より出世することはないだろうと溜息を吐くが、それも納得できることでもなく、胸に常に不満と不安を抱えているような状態だった。




部署内でも、

「アイツ、また中林主任の企画を自分の名前で上に出したらしいぜ?」

「部署の営業成績もオレの手腕だって会議で威張っているみたいよ?」

「ばっかじゃねーの? ぜ~んぶ中林主任の差配じゃん」

「凍夜先輩マジすげーし!」


と中林への評価ばかりではあった。

それでも会社自体が「使えない係長」の処理に困って送り込んできたのだとしたら、この先どのようになるかわからない。


主任の中林自身も、その同僚も部下たちもがみなそう思っていた。






ある日の夜。

今日も企画書を提出し、自分と部下たちの営業先への訪問スケジュールを割り振った管理表を作成、それも提出した凍夜は一路帰宅へと足を速めていた。


凍夜の勤める会社から自宅へは電車で数駅。駅からは徒歩20分程度の立地にあるアパートで独り暮らしをしていた。

小学生のころにある事故に巻き込まれ両親と死別。親戚もなく、小さかった妹も病気で亡くした。

中林凍夜に家族はなく、天涯孤独であった。

それだけに何をやってもどこか冷めた雰囲気の凍夜は常にクールだと友人や周りの人たちからの評判ではあったのだが、実際凍夜自身は大きく自分が生きる意味を見いだせていたいことが原因だと考えていた。


コンビニに立ち寄り、夕飯の弁当とお茶のペットボトルを買う。

ついでに缶コーヒーを買い、帰る前にコンビニの前で一気に煽った。


「ふう・・・」


微糖のコーヒーであったが、疲れた凍夜の体には心地よくしみわたるような甘さがあった。


「さて、帰るとするか・・・」


弁当の入ったビニール袋とカバンを片手に下げコンビニを出て歩道を歩く。

すでに夜遅くもうすぐ日付が変わりそうな時間だというのに、交通量は多く、人もまばらながら歩いている。



その時だった。



「よーよー、ねーちゃん俺たちと遊びにいこうぜぇ!」

「いい店知ってんだよ、俺」

「いいホテルの間違いじゃね?」


若い3人の男たちがこれもまた若いOL風の女性1人に絡んでいた。


「ふう・・・」


溜息をつく凍夜。

面倒なシチュエーションを避けるべきか、何かアクションするべきか。

だが、その判断をするより早く事態が動いた。


「フゥゥゥゥゥ!!」


子猫の威嚇する鳴き声が聞こえ、次の瞬間3人の男たちに子猫が飛び掛かった。


「―――――ちゃん!」


「なんだ!? このバカ猫!」

「イテェ! ひっかきやがった!」

「チクショウ!」


OL風の女性が猫の名前を叫んだようだが、凍夜には聞き取れなかった。

そして、


「このクソ猫がぁ!」


子猫が3人のうちの1人につかまって車道に放り投げられた。




「チッ―――――」





凍夜は弁当の入ったビニール袋とカバンを放り出すと、素早くガードレールを飛び越え、車道を蹴った。


子猫が道路にたたきつけられる瞬間、右手でキャッチする。


だが、その瞬間右からものすごい光に照らされた。

凍夜が見たのは大きなトラックの放つ眩しいヘッドライトだった。



完全見切り発車の作品です・・・。

もしよろしければ応援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ