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怪異喫茶  作者: 如月 羽藺葉
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出会い

 人間ドロップアウトするなんて案外簡単で理由なんてものも割と単純だ。

 俺の場合それが大学生のタイミングだっただけだ。結局のところ本人の意志の問題だと言われれば俺は人間失格なのだろう。二度の留年に加えて勝手な自主退学によって自宅からは勘当同然の扱い。将来にも特に希望もなく生きるために生きる。目標がなければ、目的もない。そうやって死んだ魚の目をしていたところを拾われて今は喫茶店でバイトをしながらフリーターをしている。

 だからと言って代り映えのしない日々を過ごしているかというとそうでもなく、むしろ普通に卒業していった同級生よりも刺激的な日々を送っていると思う。いや絶対に刺激的だ。これはあくまでもそんな俺の日記のような記録をつづった話である。ワトソン博士のようだと思ってくれていい。

 取り留めもなく書き始めたのだがどこから話すのが正解かは不明だが話を始めるのにこれを忘れると話が話として成立しない。

 少し前の話だ。そのあたりは皆の想像に任せる。二度目の留年が決定し無気力に無気力が重なり気が付けば退学をしていた。記憶が定かではないが実家からも二度と帰ってくるなと電話があり今後のことを頭に浮かべては一寸先の闇に頭を抱えていた。そして口癖のように「死にたい」とつぶやいたのは一度や二度ではなかった。それどころか交差点に差し掛かるたびに自殺が頭をよぎるような日常だった。大学入学から務めていたバイト先は不況の煽りで閉店。新しいバイト先を探すも募集をしていなかったりしていても自分の無気力が邪魔をして応募にすらたどり着かない日々が続いていた。家賃の支払いも何か月か滞納をし始めていた。

 そんな時だったふと立ち寄った公園で「君いいね、おもしろい。おいで」と声を掛けられた。今にして思えばかなり危ないことをしていた。見ず知らずの人にフラフラとついていくなんていくら男と言えでも危ない。今どき幼稚園児でもそんなことはしない。ただ少なくともその時の俺はそれすらも判断がつかないくらいに精神的に弱っていたように思う。声を掛けてきた人物が目を引くような美人だったのも理由の一つだったのかもしれない。

 目を引くような美女は俺を喫茶店に連れて行きカウンターに座らせた。呆然としていた俺の目の前にコーヒーを一杯置く。

 「俺、金なんてないですよ」

 美女に向かって投げた初めての言葉がそれだった。実際その時の俺の全財産は数十円だった。

 「いいよ、奢ってあげる。君が納得できないならツケでもいい」

 一切の誤解もなく俺の言葉を受け取った美女はそう答える。その言葉に俺は美人局なんて考えすら浮かばずにコーヒーを啜った。美味かった。その一言に尽きる。人生で味わったことの無いような味だった。今まで飲んできたコーヒーが泥水のように感じるほどだった。

 「君、袴度谷の廃墟に行ったでしょ。」

 最初彼女の言っている意味が分からなかった。少ししてから思い出す。半年ほど前に友人と面白半分に県内では有名な心霊スポットに遊びに行った。だがどうしてこの人はそれを知っているのだろうか。

 「なんで知っているんですか?」

 「うっそ、当たった?まじか、半分予想だったんだけどな。」

 俺はここでようやく怪しげな宗教勧誘の可能性を考えた。情けないことに。

 「ああ違う、違う。そういう勧誘じゃない。ただ君に物凄いのが憑いてるって教えたくて」

 俺が身構えたことで悟ったのか先回りして言い訳をするが怪しさは一ミリも薄れず、警戒心だけが上がっていく。

 「どうする?君。一つこのまま放置、もう一つは私が解決する。どっちがいい?」

 「俺、金なんてないですよ」

 再び俺はそう言った。

 「知ってる、お金を払えなんて言わないからさここでバイトしない?」


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