日常の変化《1》
ヒュウウウウ…
冷たい風が吹いている。空は曇り、今にも雨か雪が降り出しそうだ。
南翔は、ビルとマンションがそびえ立つ、東京の中心部の街を歩いていた。
別に、目的があるわけではない。近くにデパートがあるが、買い物をしたいわけでもない。ただ、一度こういうところに来てみたかった。だから来た。それだけだった。この街には活気がある。こんな天気でも、たくさんの人々が行き交っている。
元気なもんだな…翔は微笑んだ。
そして、翔は後ろを振り返った。もう充分だ。この街の雰囲気と活気は、存分に味わった。そして、駅に向かって歩き出した。帰ったら、あいつにこの様子を伝えてやろう。改札口を通り、ホームに向かった。電車はすぐ来た。少し混んでいるが、別にどうでもいい。早く帰って、あいつにここの様子を伝えたい。この、活気のある様子を…
「ただいま」
翔は、玄関の扉を開けた。まだ新築で、きれいな黒だ。でも、そんなことを気にしてはいられない。寒い。早く家に入りたい。
翔は靴を脱ぎ捨て、リビングに向かった。リビングは暖房が効いていて、暖かかった。
「ただいま」
翔はもう一度言った。だが、返事はなかった。どうかしたのだろうか…?
翔は、リビングに続いている母の部屋に近づいた。そして、ドアをノックした。返事はなかった。悪い予感がした。その考えを、必死で打ち消した。そんなはずはない、ただ眠っているだけだ!
翔は、ドアを勢いよく開けた。ドアは壁にぶつかり、ゴンと音をたてた。 そこにあったのは、母の姿だった。床に横たわり、目を閉じていた。そして、腹からは血が流れ出していた。
「う…!」
翔は膝をついた。
驚きのあまり、涙も出なかった。母の異様な姿を、ただ見つめていた。
ヒュルルルゥゥ…
強風で、窓がガタガタと音を立てた。静かな空間に、その音が響いた。
翔は、そっと母の手に触れた。血の温かみは感じられなかった。しかし、柔らかかった。もしかしたら、まだ助かるのではないか!?
しかし、母の息はなかった。もう助からない…そう感じた瞬間、少しずつ涙が出てきた。
「母さん…母さん!おい!しっかり…しっかりしろよ!おい!母さん!」
勿論、返事はなかった。
翔は、ゆっくり立ち上がった。そして警察に連絡をした。
警察に事情を説明している内に、次第と心が落ち着いてきた。しかし、電話を切った後、底のない不安と怒りが込み上げてきた。
一体誰の仕業だ…そして、母さんを失って俺はどうやって生きていけばいいんだ…
その二つの感情が、翔を取り巻いた。