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海を渡った蝶 (父子迷路)  作者: 山口 浄
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坊主よ何処に

 年が明け、1月も半ばとなった頃に、六度目となる姫路裁判所へ向かった恒太。

 担当調査官が、年明け早々に、児童相談所の担当職員と共に、事前に担当調査官が涼太に聴き取りをする内容を、手紙で報せた後に、涼太が収容されている児童養護施設に赴き、詳しい本人の意思確認を行ったとの報告を受けた。


 戸嶋涼太君ヘ


     姫路裁判所◯◯◯◯


 突然のお手紙、失礼します。

 私は、姫路市の家庭裁判所で「調査官」という仕事をしている◯◯といいます。調査官とは、いろいろな人から、話を聞く仕事です。

 いま、涼太君のお父さんとお母さんは、家庭裁判所で、涼太君の「親権者」を、お母さんからお父さんに変更するかどうかについて、話し合いをしています。私は、話し合いのお手伝いをしていて、お父さんのこともお母さんのことも知っています。

 「親権者」という言葉を知っていますか?「親権者」というのは、子供が成長するまで、責任を持って子供を育てる人のことです。

 涼太君のお父さんは、涼太君が施設で暮らすようになったことを大変心配していて、お母さんに、涼太君の親権者をお父さんに変更して欲しいと話し合いを持ちかけました。

 お母さんも、涼太君との間で起こった出来事についてきちんと考えて、これからも親権者として責任を持ちたいと考えているので、今は、お父さんとお母さんの意見が違っています。

 ただ、お父さんもお母さんも、涼太君の気持ちを大切に考えて話し合いを進めたいという気持ちは同じです。

 そこで、私が中立の立場で涼太君にお会いして、お話を聞くことになりました。

 1月◯日火曜日の午後1時頃に涼太君が暮らしている施設に伺います。当日は、1お母さんとの生活のこと、2お父さんと会っていたときのこと、3施設や、中学校での生活のこと、4これからの生活についての希望などをお聞きしたいと思っています。

 涼太君からお聞きしただけで、何かが決まる訳ではありません。

 涼太君の今の気持ちをきちんと分かった上で、お父さんとお母さんが、これからのことを考えようと思っています。

 急にこんな手紙が届いて、戸惑っていらっしゃるかも知れませんね。

 私と会うことについて、心配なことや、前もって知りたいことがあれば、施設の先生に伝えてくださいね。

 それでは、涼太君と会うことを楽しみにしています。

 寒い日が続きますが、体調に気をつけて過ごしてくださいね。


 以上のような内容の手紙を、前月、十二月の半ばに涼太に送ってくれ、その面談内容が記されている。


 神戸に住んでいた頃は、お母さんは優しかったが、今の家に引っ越して、新しいお父さんが来てからは、お母さんが恐くなった。春休みのときには、月曜日から金曜日までは、五日間のお昼ご飯代として、千円を手渡され、近くのディスカウントスーパーに行って、安くて量のあるオニギリや、タコ焼きなどを買っていたが、一日二百円ではお腹がいっぱいにならないので、公園で水を飲んだりして紛らわせていた。早く家に帰ったら、新しいお父さんに叱られたり、叩かれたりするし、次姉に買い物に行かされるので、門限ぎりぎりまでは帰りたくなかった。


 神戸に住んでいるときは、本当のお父さんと、週に一度か二度会っていて、よく一緒に遊んだり、ご飯を食べに行っていた。いつも何かを買ってくれたりしたが、たまに、買ってくれないときがあったのが残念。神戸から引っ越して、新しいお父さんが来てからは、本当のお父さんに電話をしたり、会ったりしたらダメだと言われて辛かった。また一緒に、遊んだり釣りに行ったりしたい。


 今の中学校では陸上部に入って、長距離走を頑張っている。施設にも慣れてきたけど、やっぱり寂しい。


 これからの希望は、どうしたら良いのか、今はまだ、全然分からない。


 担当調査官から補足説明を受けながら、以上のような報告を受け取った。

 そして相手方である元嫁からは、やはり涼太を手放すことは考えられず、戸嶋恒太の仕事が、夜遅くなることもあり、育児には向かない。

 そして全員が深く反省しているので、もう一度、涼太と向き合って行きたいと主張しているとのこと。


 「この相手方からの申し立てには、お父さんは、如何お考えでしょうか?」


 「はい。先ずは、反省も何も、涼太に包丁を突き付けたような男が、いったい何を反省したのでしょう。私は調理師でありますから、包丁の危険さは熟知している積りであります。例えて言うならば、野球選手がバットで人を殴りますかと言ったところではないでしょうか。

 親権者移転に関しましては、今まで通り、一切妥協したり、手を引くつもりはございません。

 以前、此方に報告させて戴いた通りに、相手方は、私には涼太との交流は遮断せず、涼太が私に会いたいと言えば、いつでも会ってやって欲しいと申しておりました。しかし、事が公になって、すべてが露見してしまった今では、その話しが、まったくの出鱈目であった事が分かりました。

 そのように、すべてを嘘で塗り固めるような相手方に、涼太を健全に育てて行くことは不可能だと考えます。


 「これはもしもですが、相手方が、加害者である男性と別れるので、涼太君を引き取りたいと言われた場合は、お父様は如何お考えですか?」


 「まったく信用出来ませんね。この事件後も一緒に暮らしているんですよね?もしも、万が一。その考えがあるのならば、暴行があった時点。百歩、いや、千歩譲って、普通は事件が発生した時点で別れるんや無いですかね?子供が可愛いけりゃ。まったく都合が良すぎます。殴られて顔を腫らした涼太のことを、お腹が痛いから学校を欠席させますと、自らが学校に電話している母親ですから、そんなもん、信用できると思えますか?」


 「それでは、もしも涼太君を、お父さんが親権者として引き取った場合、涼太君から、高校や大学に進学したいと言われたら、お父さんは如何されますか」


 「本人が進学したいのであれば、どんなことをしてでも、それを叶えてやるのが親の務めでしょう。お渡しした支払いの流れの明細にある通り、現に次女の大学進学の借り入れも、私が払っているわけですし」


 今回の聴き取りを踏まえ、調査官達と立会人達が話し合い、精査をした上で、翌月の出廷時には、家庭裁判所の考えを伝えると言い渡されることとなった。

 

 



 

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