ボロアパート21
「それだけじゃないってどういう事ですか?」
「こちらです。」
そう言って警察の人が見せたのは鍵だった。
「はい?鍵が何か?」
「この鍵、この部屋の物ではない事が分かりました。」
私は上手く事態が飲み込めない。
「え?じゃあ、どこの…」
そこまで言って思い当たる。
「…もしかして、私の部屋ですか?」
「その可能性が高いと思っています。」
気持ち悪い…何これ。
怖い。心臓の辺りがザワザワする。
なんで?なんで私ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの?
「今はどちらへ外出されていたんですか?」
「食料品を買いに。さっき、出張から戻った所なんです。」
「その時、部屋には入られました?」
「はい。」
「何か取られた物があるとか、いつもと置き場所が変わっているとか気づく事はありませんでしたか?」
「いえ、荷物を置いてすぐに家を出たので。」
「では、一緒に部屋へ伺いますのでご確認をお願いします。」
「わかりました…。」
何とも言えない気持ち悪さと不気味さで、自分の部屋なのに足がすくむ…。
未だに頭の中は混乱していて気持ちがついて行かない。
警察の人が例の鍵で試しに開けてみる。
ガチャッと鳴る音でまた背中がヒヤリとした。
「やはり、合鍵を作られていたようですね。」
「…は、はい。」
喉がカラカラだ。上手く声が出ない。
いつもの自分の部屋なのに、汚されたような貶められたような気がして息を吸いたくない。
この空気を吸ったら自分まで同じ目に遭うようで。
一通り部屋の中を見渡す。
「あ。写真…。」
茜の写真が入った写真たてが倒れていた。
何かの衝撃で倒れる事もあるかもしれないが、今までそこに置いていて倒れた事はない。
「写真、見たんだ。」小さく呟く。
「何かありましたか?」
「いえ。何でもありません。」
「特に窃盗の被害があった訳では無さそうですね。」
「はい。」
でも、物ではない別の物を壊された気がする。
「覗かれていた件と写真を貼っていたあの状況は、ストーカーの被害があったとみて間違いないと思います。改めて、被害届等の手続きについてご連絡させて頂きます。」
「よろしくお願いします…。」
「では、失礼します。戸締まりをしっかりお願い致しますね。」
そう言って警察の人は帰っていった。
ドアが閉まった瞬間、膝から崩れ落ちる。
ガタガタと震えが止まらない。
「覗かれてた。…何、あの写真。鍵まで作って。」
自分で血の気が引くのがわかるが、ズルズルと重い体を引きずるように立ちあがる。