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奥羽越建国戦記  作者: 穴沢賢次郎
第一章:出逢い
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三話:山川重英~出会い~

穴澤十兵衛は猪苗代校の中で頂点に立つほどの文武両道の才を持っていた。


もともと現代人であった彼だが、会津藩士が読んでいたであろう中国文学作品は網羅していたのだ。

そのため素読は優秀。


武芸に至っては家に帰った後に時間を作り、素振りなどを行い、父からも槍術と剣術の手解きを受けていた。

弓術は少し苦手ではあるものの、それ以外の支障は特にない。


また少しやんちゃなところはあるものの、礼儀作法は徹底していた。


農民たちにも評判がよく、いざこざがあった時は十兵衛が間に入って止めに入り、苦労している者がいればそれを手伝うということをしていた。それに加え武芸に励み、家事を手伝うという、まさに働き者だった。


足軽という武士の身分に置くのは惜しい存在であったため、講師たちは若松城下にいた方がよろしいと口にするほどであった。


猪苗代校に来ていた山川重英はしばらく授業や校内を視察し、後に講師たちに尋ねた。

「ここの生徒で誰がこの藩のために多大な働きをしてくれるだろうか。」


講師たちは言った、

「某が思うに、それは穴沢十兵衛ではないかと。」

「そうだなし、まさに文武両道に生きている子だな。」

「我々は穴沢十兵衛に期待を寄せています。もっと学を深めれば昌平坂学問所に行くこともできましょう。」


「しかし山川様、なぜそのようなことを聞くのですか。」と講師の三瓶が尋ねた。


山川が、「その子の一家ごと、わしの家来として迎えたいのだ。」と言うと皆が驚いた。


「わしが松平家家臣として召し抱えられてから、家来が必要となった。家来として迎えるからには若松城下に来てもらうことになる。そうすれば日新館本校に通うことができ、学びを深めることができる。」


「そういうことでございましたか。しかし彼が元服するまでは、夫が家来の職を致さねば。あの子の家柄は足軽でありますが、ふさわしいのでしょうか。」

「心配することはねぇ。十兵衛の父、次郎兵衛には学があり、幼き頃は唐詩選を暗唱するほど。現在は組頭を務めているほどだ。心配はなかろう。」


「それで結構。それに向き不向きなどというのは後の判断。わしがすべての責任を取る。」

山川は満足げだった。彼は幼き頃の自分と十兵衛が重なっているように思えた。


山川家も足軽ほどではないが身分は低かった。家老にまで取り立てられたのは山川重英の時である。

彼は力があった故に家老になれたのだ。


一日の講義が終わったとき、十兵衛は三瓶に呼ばれた。


連れてこられた部屋の中には、山川重英がいた。


十兵衛はその場で礼をした。彼には目の前の男が何者かはわからなかった。ただ分かる事は紐が紫色、つまり上士の家であることだ。


武士にも階級があり、下から順番に下士(足軽)、中士(寄合)、上士(家老や奉行など)がある。

会津藩では色でその身分を明らかにしていた。


この二人の対談が始まる。


会津藩の藩校、日新館には「会津論語」と呼ばれる書物があった。その名は「日新館童子訓」。


そもそも「論語」とは儒学の祖、孔子の言葉を綴った書物で上下関係において大切なことや、人として生き方など道徳的な話が詰まっている。

そして「日新館童子訓」は会津藩主5代目・松平容頌の直筆によって会津の民や楠木正成などの者たちの逸話や教訓などが、人の生き方、道徳として綴られている。


これが会津論語と呼ばれる理由なのである。なんと話の数は75話で、日新館に入学した者たち全員に渡される書物だ。日新館に通っていた白虎隊、東京帝国大学初代学長となる山川健次郎などの多くはこの「日新館童子訓」を読んで育ったのであろう。


会津藩士の根端の一つとしてこの存在はとてつもなく大きいのである。

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