第3話
五十嵐やその兄貴達はきちんと警察に引き渡された、紅花さんは警察にも顔が利くんだと姉さんが言っていたので詳しく教えて貰えたらしい。調べたら同じように女性を集め、女性を傷つけ、動画に残し、脅して警察に知られないようにしていたという余罪が出てきたらしい。
「……玲楓が最悪なことにならなくて本当に良かった」
俺はそう思っていたのだが……最近、玲楓が俺に対しよそよそしくなった。
無理もない……俺が鬼のような表情で暴力を振るう姿を見られたんだ、距離を置かれても仕方ない。
……そう思うのだが、玲楓は俺の家に来ることは止めなかった。それより何故か最近は母さんと仲が良い、何やら母さんから料理を教わっているらしい。
母さんも玲楓に嬉しそうに教えている。母さんは一度、燕 姉さんに料理を教えようとしたことがあったのだが……駄目だったらしい。どうやら料理の腕は父さんに似て壊滅的だったらしく……
「……お母さん、私は料理のできる旦那をもらうから」
と言って姉さんは真顔で包丁を置いたらしい。
台所を覗くと小柄な母さんと背の高い玲楓が並んで料理している、最近、うちで目にする玲楓は何故か長いスカート姿だ、昔はパンツ姿ばかりだったのに、それに最近の玲楓は胸が大きくなった気がする……成長期なのだろうか?
「……は、創ちゃん。もうすぐできるからね」
「……あぁ、わかった。部屋で待ってる」
玲楓にそう言って部屋に戻り、ベッドに横になる。ぼんやりしていたら少し眠くなってきた……
「は、創ちゃん……起きないとチューしちゃうよ……」
そう呼ぶ声に目を覚ましたら、玲楓が真っ赤にした顔を俺の顔に近づけていた。
「……あっ、起きちゃった。でも……いいよね?」
そう言って目を瞑った玲楓の唇が近付いてきたので慌てて玲楓の肩を掴み留める。
「な、なにやってるんだ玲楓、落ち着け!」
キス顔の玲楓を止めると、玲楓は
「……創ちゃんは私のこと嫌い?迷惑だった?」と泣きそうな顔で尋ねる。
「……そんなことはないけど、駄目だろ!キスなんかしたら……赤ちゃんが出来ちゃうだろ!!」
俺が当然の様に言ったら玲楓は茫然とした顔で
「……創ちゃん、本気で言ってるの?」と聞いてきたので
「……昔、姉さんが『赤ちゃんはね……好きな人同士でキスをしたら出来るのよ!』って言ってたんだ!母さんにもそうなのかって聞いたら『……そうよ』って言っていたんだから間違いないだろ!」と言うと
「……ねぇ、創ちゃん。昔っていつ?」と玲楓が更に尋ねるので
「……小学校低学年の頃かな?」と俺が答えたら
玲楓は太陽のような満面の笑顔で
「……創ちゃん、可愛い!」って抱きついてきた。
「お、おい!止めろ」と俺は言うのだが玲楓は「創ちゃん、可愛い!好き!」と言って離さない。
「……とりあえず落ち着いてくれ、玲楓。最近、よそよそしかったから……玲楓に嫌われたと俺は思っていたんだぞ?」と言ったら
「そんなことはないよ!」と大きな声で言う。暴力を振るう姿は怖かったけど、私を助けるためだったんだから嫌いになるわけないと言うので俺は一安心した。
「……寧ろ、惚れ直して……好きだってアピールしていたのに……」って玲楓が言うので「……どこが?」と俺が聞いたら玲楓はがっくりと肩を落とした。
「……女の子らしい格好したり、おば様から料理を教わったりしてたのに……」と言うのでずっと気になっていた
「……なぁ、玲楓。その胸はなんか詰め物してるのか?」って聞いたら玲楓は胸を両手で隠し、ジト目で
「……創ちゃんのエッチ!違うもん!今までが中性的に見られるように目立たないようにする下着を着けていたんだもん!」と言う。
……そうか、玲楓は母さんや姉さんの仲間じゃなかったんだなとぼんやり思った。それはそうと、もう一つ気になったことを尋ねる。
「……なぁ、俺はずっと赤ちゃんはキスをしたら出来るって信じていたんだけど……違うのか?」
と、おずおずと玲楓に聞いたら玲楓は真顔で
「……創ちゃん。今度、私が教えてあげるから……他の誰からも教えてもらっちゃ駄目だからね!絶対だよ!」って念を押してきた。怖いくらい真剣な玲楓に「……うん、わかった」としか返事できなかった。
「創ちゃん、お義母様が待ってるから下に行ってご飯食べよう?私も頑張ったんだから!」
と玲楓は俺の手を引く。嬉しそうな玲楓の表情に嫌われてなかったんだなと一安心した。
その後、俺の部屋でゲームをやるときに玲楓は矢鱈と近くに座る様になるのだが、ゲームもそぞろに顔を赤らめて俺をぼんやり見てたりする。そんな玲楓に時折、赤ちゃんの作り方を尋ねるのだが「ま、まだ……心の準備をする時間をください……」って保留されている。口頭で説明するだけなのになんでだ?
あとは、カラオケ大会の際に助けた女の子が俺の連絡先を聞いてきたり、紅花さんの娘と名乗る女の子が現れたり……なんか賑やかになった。賑やかなんだが……玲楓は不機嫌になったりしている。何故だ?
……よく分からないが玲楓の料理の腕は上がっているようだし……ご飯が美味ければ幸せだ。
世は並べて事も無しだな!
お読みいただきありがとうございます。
拙作『腫れ物扱いの先輩が、私には優しい』の後日談のようなものです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。