第2話
……玲楓がクラスのカラオケ大会に誘われたというので、俺は同じクラスの陰キャ仲間にも「誘われてる?」と聞いたら「誘われてないぞ」という答えだったのでクラスでも誘われてない奴も多いんだ……どうも女性ばかり誘われていると確認できた。俺一人が誘われてなかったら少し泣いていたかもしれないので安心した。
帰宅すると珍しく俺の姉、鳴海 燕だけがいた。
「ただいま、姉さん珍しいね。こんな時間に」
「たまには玲楓を見て目の保養に……と思ったのに今日はいないのね……」
燕 姉さんは女性にしては背の高い、すらりとした美人だ、胸の辺りもすらりとしてるのは母さん譲りだがその話題に触れると死亡する。父さんは姉さんのことを「天使だ」って言うけど……俺は「魔王」だと思っている。最近は父さんの友人の道場に通って武術を習っていると聞いたのでもうすぐ「大魔王」に進化するだろう。
「玲楓はクラスのカラオケ大会に行ってるよ」と言ったら「……あんたは……誘われてないのね」って可哀想な何かを見る目で俺に言う……放っておいてくれ。
「……そういえば、あんたのクラスに五十嵐っている?」
「いるぞ、今日のカラオケ大会はその五十嵐主宰だ」と言ったら姉さんは少し顔を歪ませた。
「……五十嵐って兄貴がいるんだけど、あんまり良い噂を聞かないのよ……」
と言って
「創、あんた玲楓を迎えに行きなさい」と姉さんは言った……これは命令だった。魔王様の言うことを聞かないとどんな目に遇わされるか身をもって知っているので逆らえない。
「……仕方ない、行ってきます。母さんには言っておいてよ?」
母さんが心配しないように伝えておいてと言って外出した。
携帯を取り出し、玲楓にメールを送る。とりあえず現状の確認をと思ったら
『創ちゃん、クラスの集いだと思ったら……五十嵐君のお兄さんとか……知らない人達が合流してきた』
と文面からも戸惑っているようなメールが届いた。姉さんの悪い予感が当たりそうだ……慌てて姉さんに連絡したら
『わかった、助っ人を頼んでおくから』
と言う、魔王が召喚する助っ人って……どんな化け物だ?とりあえずそちらは放っておいて俺は玲楓と合流すべくカラオケ店に向かう。
カラオケ店はチェーン店のようなしっかりした店ではなく、どう見ても怪しさ100%な店だった。
「クラスのカラオケ大会に来ました」と言ったら入口の男に
「今日は貸しきりだ。残念だったな、野郎は入れないんだ」と脅すように言うので大人しく引き下がる。
とりあえず裏口に回り、建物を観察すると二階の窓から入れそうなので隣の雑居ビルを上手く使って登り、窓から侵入に成功した。
「さて、玲楓はどこだ」
と部屋を探す、幸い貸しきりにしていると言っていたように他の客がいなかったようで音の鳴る部屋は数部屋だったので忍び寄り扉を開ける……男三人が一人の女性に集団で覆い被っている姿が見えたので
思わずスイッチが入ってしまい、掛けていた黒縁眼鏡を放り投げてしまった。
野郎どもがこちらを確認する間も無く拳を振るう。一撃で全員を仕留め、女性を確認する……玲楓じゃない。
「な、鳴海君!?」
その女の子に「玲楓はどこだ」と端的に聞く、俺の表情にその子は怯えながらも「二つ隣だと思う」と答えるので急いで向かう。
扉を開けると上着が破られた玲楓と覆い被さる一人の男がいたのを見た瞬間から記憶が飛んだ。
「……創ちゃん!もう、大丈夫たから!もう、これ以上は死んじゃうよ!」
……気がついたらその男をボコボコにしてしまったらしい。馬乗りになる俺を背中から玲楓が止めてくれた様だ。
「……創ちゃん、来てくれたんだね」
と上着が破られ、水色のブラジャーが露になった玲楓は俺を背中から抱き締めてきた。俺は自分の表情を見られないようにした……多分、鬼のような表情をしていたから。
「……玲楓、大丈夫だったか?キスされなかったか?」
そう尋ねたら玲楓は少し不思議そうな顔をして「だ、大丈夫だよ!」と言うので安心した。
他の部屋でも同じ様になっていて更に店もグルだと脱出に手間取るかもな……と考えていたら。
「あら、燕さんの弟さん?」
いつの間にか目の前に着物姿の女性が現れた。
「ど、どこから現れたの?」
と慌てる玲楓、俺はひょっとしてと思い
「姉さんが頼んだ助っ人さんですか?」と尋ねた。
「はい、神宮寺家の当主、紅花と申します。燕さんは私の家に武術を教わりに通ってるんですよ」
「それに、燕さん達のお父様にもご縁があるんですよ?」と頬に手を当て顔を赤らめて言う。
……父さん、こんな美人と何処で知り合った?母さんが怒るぞ!?母さんが怒ったら俺達は飢え死にするんだからな!?
「とりあえず、他の部屋も入口の男達も片付けたので安心して帰って大丈夫ですよ?」
そんなことを言う紅花さんに玲楓は驚いていたが、俺はこの人は化け物の臭いがすると思い他の部屋の女の子達も任せて帰ることにした。
「……玲楓、俺の上着を着ろ」
と言って見えていた下着を隠させる。
「……創ちゃんのエッチ」
しっかり見てしまったが……それは不可抗力だ。そんなやり取りをしていたらこちらをジッと見ていた紅花さんが
「……鳴海 創さん。どうか今度、我が家に遊びに来てくださいね?うちにも娘がいるので仲良くして欲しいの」と言う。
本当は化け物の住む処なんて行きたくないが……今回はお世話になったし、何より姉もお世話になっている……
「……気が向いたら伺います」と社交辞令な返事をした。
「それじゃ、他の部屋の女の子達もお願いします」と玲楓の手を引き歩き始めた。
「あっ、創ちゃん……」
と玲楓は何かを言おうとしたが大人しく家まで着いてきた。あとは心配していた母さんと姉さんに玲楓を任せて部屋に戻り
久しぶりにスイッチを入れたので少し疲れたとベッドに突っ伏した。