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戦場に愛された領主の息子  作者: かかと
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セドウルの防衛戦前夜

 カールは自室にいた。カールは作戦を自分なりに煮詰めながら詳細を記入していく。この走り書きが使われることはないだろうが、それでも何かあった時に思い出すかもしれないので、カールは全ての記述を残すようにしている。カールにとって、戦争とは簡単に割り切れるものではなかった。目の前で仲間が大勢死んでいくのを何回も見ているのだ。好きになれるわけがない。それでも仲間を守るために戦ってきた。目の前で仲間が死んでも先程まで話をしていた友人が死のうとも後ろの仲間が殺されないようにするために必死に戦ってきた。

反対に戦争が面白いと思う人間は英雄となれる。この時代ではだが。ただ、そのような狂人はなぜかすぐに命を落としてしまう。大抵は理性がなくなり、気が付いたら敵のど真ん中にいるということがあるらしい。さすがに仲間であっても敵の真ん中にいる仲間を直ぐに助けることなどできない。戦争の中では名も知られない英雄が生まれては消えていく。

カールは英雄と周りから言われるが、それは多くの人間を殺めているからだ。殺した人間全員を覚えていないが、千人以上の人間を殺している。カールの両肩には千人の亡霊と生きる使命が与えられている。別に人の命を背負う人間になったとしてもやはり攻めてくる相手に容赦することはできない。反対に手を抜いてしまうと大きな失敗につながる。仲間が死ぬ可能性がある以上、カールが反撃の糸口を見せることはない。

同時に戦争では普通なら許されない強盗や強姦、殺人などが横行しやすい。ミクトラン帝国はましだが、別の国では追いはぎなどが行われており、その度に犯罪した人間の首をはねてきた。義憤でやった行為だが、他の国ではその行為は認められなかった。カールが処刑されなかったのは戦争で戦果を挙げていたからである。しかし、階級などは上がらず仲間も少なかった。正義がないと思ったのが原因でミクトラン帝国軍に入った。

ミクトラン帝国の王は偽善であるとは言え、戦時中の犯罪行為の禁止は高潔で感謝されるものであり、軍規に入れるべきであると提案もしてくれた。自国の領土になったとしても兵士の横暴から、恨まれるようなことをしては統治などうまくいくはずもない。カールがようやく認められるようになったときに今の王が規律を改定してくれた。貴族も犯罪行為を見て見ぬふりをしていたので反対も出来なかったらしい。けしかけたのがカールだったせいか、一部の貴族には嫌われている。

 しかし、長年経験してきた住民は略奪行為が普通であるとも思っている節がある。住民の戦争に対する認識を変えたいというのもカールの願いである。そして、カールは上を見た。空には多くの星が輝いている。戦争が始まるのは早くて明日である。ザラマノス帝国はすでに領地に侵入し、セドウルまで数キロのところまで来ている。戦争が始まればまた多くの人間が死ぬ。そして、カールの息子も戦争に参加し人を殺すことになるだろう。5歳という若さで戦争を経験するなど不幸である。

王からアルシュタ将軍の軍勢が来ているものの、兵数は相手の半分以下である。できるだけ早い撤退をさせるのが被害を少なくすることにつながる。王はヴァーニルに行っており、そう簡単には戻ることができないだろう。セドウルの攻防戦は撃退をしなければならなくなった。撃退の命運を握っているのはヨハンである。今はちょうど1か月目になるだろう。どのように采配するかはヨハンに任せている。

カールも戦争が始まればヨハンのことを考える余裕もない。妻も娘も後方で支援をしてくれている。住民もカールに非常に協力的である。セドウルの住民が一丸となってこの戦いに臨んでいる。住民が協力しているの負けることはできない。勝つことだけを考え、カールは愛用の剣と槍、盾を取った。

 軍議では最終確認が行われている。主に指揮官の配置、兵士の補充の仕方、重点的に守る場所、相手を攻撃する場所と多岐にわたる。アルシュタ将軍はこちらを見て少し心配そうにしていた。カールがこのような大きな戦いに参加する時には前日の体調がよくないことはアルシュタ将軍にはわかっている。少し不安なところはヴァルターがいないことだろうか。カールが前線を押し上げる時にはアルシュタ将軍が代理を務めて指揮を執ることになっている。

ヨハンにはヴァルターをつけている。ヨハンの部下も優秀ではあるが年が若い上に経験がない。補佐できるような人材がヴァルターしかいなかった。本当ならばヴァルターに代理の指揮を任せたかったところである。ヨハンが推挙した少女は経験が足りていないから護衛としてはいいだろう。しかし、それ以外の能力に関してはまだ成長途中である。いずれはヨハンの代わりに指揮が執れるまでに成長するだろう。

 すべての確認を終わり、全員で握手をする。同志であり仲間だ。戦争後も同じように握手をしたいが何人か死ぬだろう。カールは不思議と手が震えるのがおかしいとは思わなくなった。アルシュタ将軍も頷いている。カールは自然と背筋が伸びていた。


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