第五十五話[その力、憎しみの為に その1]
え~、二日ほど過ぎてしまいましたが、この小説が一周年を迎えました! 喜ばしいことです。
これからも、頑張って更新していきたいと思います。
それでは、本編をどうぞ!!
体育祭から三日。日曜と月曜の休日が過ぎ、再び元の学校生活に戻ろうとしていた。
・・・ちなみに、体育祭が終わった日にあった出来事(前話参照)で、明との仲が険悪になりかけたが、なんとか許してもらった。未だに怒ってはいるが。
零とは・・・まぁ、何となく話しづらい。学園に来て数時間経っているが、一度も話していない。
派遣部のこととかで話があるのだが、話し掛けても、声が詰まって言葉が出ない。あちらも同じようで、話し掛けようとしてはいるみたいだ。しかも、顔を見ていると、土曜のことを思い出してしまうので、顔を背けてしまう。
さて、今は何をしているのかというと。
似顔絵である。美術の授業で、先生が決めた生徒同士で互いの似顔絵を描くと言うものである。
ちなみに、相手は零。気まずい事この上ない。
「・・・・・・」
似顔絵を描く手を止め、チラと零を見る。
「―――ッ!?」
相手も同じく相手の顔を見ようとしたらしく、目が合ってしまう。
だからといって零さん、一瞬で描いている絵の影に隠れないでください。結構ツライです。
今までも早く授業が終わってほしいと思ったことはあったが、こんなにも早く終わってほしいと思ったのは、多分始めてではなかろうか。
「ぶっはぁ~・・・」
俺は机に突っ伏す。いろいろとツライ思いをした美術の時間も含め、ようやく全ての授業が終わり、HRも終わった。これから放課後・・・・・・な訳なのだが、まだ学園からは出られない。
放課後は派遣部に集合だ。土曜日の件もある。だが、俺は早いところ帰りた・・・・・・・・・
「零牙、そろそろ部室に行くわよ?」
「・・・・・・そうだな」
もう少し、物思いに耽させてほしかった・・・・・・・・・。
~派遣部 会議室~
ようやく、(仮)ではなくなったらしい。(仮)じゃなくなったこともあってか、会議室内は以前より立派になったようだ。
「それでは、早速始めたいところなんだが、まずは新しい仲間を紹介する」
木戸先生が(ドアから入って)右側にある黒板の前に立って言う。
俺達は、それぞれ椅子に座っている。机もある。俺は何故か皆より立派な椅子に座って、高級そうな机を前にしている。机の上には、黒い三角形のものに【部長】と書かれたものが置いてある。
副部長である炎人も俺の左隣に座っている。同じく【副部長】と書かれたものが置いてあるが。何故か明も俺の右隣に同じように座っている。
他のみんなも、机を向かい合わせにして座っている。まるで、何処かの会社のオフィスのようだ。
「入ってくれ」
木戸先生が言うと、この会議室の出入り口であるドアから『ガチャリ』と音を立てて、誰か入って来る。
「先日の戦いで仲間になることとなった、遊桜零だ。年組は零牙達と同じく三組で、学級委員長を務めてもらっている」
「遊桜零です。改めてよろしくお願いします」
木戸先生から紹介を受け、礼儀正しくお辞儀をする零。
「零の階級は【魔道騎士】。近接戦闘が得意だ。予想外の戦力だが、まだ戦力的に足りない事には変わりない。これからも仲間を増やすことを当面の目的とする」
木戸先生は淡々と告げると、ふと思い出したように顔を上げた。
「それと、忘れかけていたが、後三人仲間になることが決定した。入ってくれ」
――ガチャ
再びドアが開く。ぞろぞろと入ってきたのは、生徒会三人組。
「せ、生徒会長!?」
零が驚いた様子で言う。そして黒板前から逃げるようにそそくさと移動する。
「生徒会長の一条凛水だ。・・・・・・コードネームは霧。階級は『世界を監視する者』ということになっている。フフフッ・・・・・・これからも宜しく頼むよ?」
「生徒会副会長闇影孤助。コードネーム影。階級は『裁きし者』と『暗殺者』。御主人共々宜しく・・・・・・」
「生徒会書記の陽光内人だ。コードネーム光。|階級は『暴きし者』と『騎士』。いろいろと迷惑をかけるかもしれないが、よろしく」
まぁ、一度元の姿を見てるので、そう驚くことは無い。零が驚くのはあたり前か。何やら硬直してるみたいだし。
「とりあえずは仲間を増やす為の会議でもしておいてくれ。俺はこれからやることがあるのでな」
木戸先生はそう言いながらもドアを開け、部屋を出て行った。
「さてと、どうする? 部長」
炎人が俺に聞く。
「そうだな・・・。とりあえずは現状況での戦力の確認ってところだな。狼牙、まとめてくれるか?」
「了解だ」
狼牙は席を立つと、黒板の前までスタスタと歩いていき、スラスラと書いていく。
近・中・遠・全・サポートに分けられている。
近距離には俺、狼牙、炎人、由美、零、内人。
中距離には未来、千。
遠距離には千里、孤助。
全距離には明、凛水。
サポートには明、殊日。
「補足だが、炎人は中距離からの斬撃、千は近距離からの射撃も出来るはずだ」
炎人と千の二人は頷く。
「口を挟んですまないが、私も一応、サポートは出来るぞ」
「そうか。・・・・・・・・・それぞれを補ったとしても、中・遠・サポートがちと少ないな」
「あぁ。確かに」
「・・・・・・とりあえず、このメンバーでの戦術を考えたらどうですか?」
孤助がそう提案をする。
「そうだな。狼牙、いいか?」
「大丈夫だ。ある程度固まっている」
狼牙はそう返すと、再び、黒板にスラスラと何かを書き始めた。
しばらくすると、狼牙が書き終わり、説明を始めた。
「まず、階級が【魔術武道士】である俺と零牙は、スピードで翻弄しつつ攻撃。【魔術武士】である炎人も近距離での白兵戦を基本に中距離からの攻撃も担当。【魔道騎士】の遊桜も近距離での白兵戦を基本にして、場合によって武器を変えて戦ってくれ。俺、零牙、炎人、零。この四人を中心にして戦う。そして、隙を見て【魔術戦士】の由美の重い攻撃を入れていく。光は後方へ敵が行かないように、守備を担当してくれ」
狼牙はふぅ、と軽く息をつく。すかさず、由美がどこから出したのか、コップに注いだ水を狼牙に手渡す。
その水を狼牙は一気に飲み干すと、コップを再び由美に渡した。その後、由美は皆に見えないようにやったつもりだろうが、小さく右手の親指を立てて、グッとした。目線は明。
俺は右隣の明を見ると、明も小さく親指を立てて、グッとしていた。・・・・・・何となく理解は出来た。
「続けて、中距離担当の【魔道弓兵】の未来は中距離から矢を射て攻撃。【魔術銃兵】の千は中距離からの攻撃で応戦。場合によっては近距離での戦闘を頼む。遠距離担当、【魔術砲撃士】の千里は敵が大勢で攻めてきた場合は、固まっている場所に砲撃。単体の場合は、周りに被害が出ないように注意して砲撃してくれ。影は敵にピンポイントでの狙撃だ」
「次に全距離・サポートの【魔術師】の明は魔術を使って、全距離からの臨機応変な攻撃、サポートをしてくれ。霧も基本的に明と同じような感じで頼む。サポートの役割を担う、【魔術情報士】の殊日は、サーチ能力を使って、敵の軍勢を皆に報告だ。・・・・・・まぁ、こんなところだろう」
再び、狼牙が溜め息を付く。するとすかさず水が入ったコップ。勿論、差し出したのは由美。
――ピンポ~ン
そんな時、派遣部部室の備え付けの呼び出しチャイムが鳴る。
「フム、客人のようだな」
「俺が行くよ。もしかしたら依頼者かもしれないから、明、炎人、凛水の三人は応接間に行っておいてくれ」
俺は席を立って、客人が待っているであろう、部室の出入り口へと向かった。
――ガチャ
ドアを開けると、そこには昴が俯いて立っていた。そういえば、頭を怪我したらく、頭に包帯を巻いている。
「なんだ、昴か。依頼者かと思って焦ったぜ。んだ? 遊びにでも来たのか?」
俺はからかうように昴に話し掛ける。だが、昴は返事一つしない。様子がおかしい。
「・・・・・・おい、どうしたんだよ? 何かあったのか?」
「・・・し・・・い・・・た・・・てく・・・・・・」
「・・・・・・? 何だよ、聞こえねぇぞ」
「真一を助けてくれ!!」
~派遣部 応接間~
俺達が座るソファの前には昴が俯いた状態で座っている。
「・・・・・・それで依頼内容だが、『入江真一を助ける』ってどういうことだ?」
俺はいつもテンションが高いはずの昴に問い掛ける。
「あぁ・・・・・・土曜日に体育祭があっただろ? その後、俺と真一は部活を終えてから一緒に帰ったんだ。もう暗かったから、真一が使ってるっていう近道を使おうとしたんだ。ほら、最近ガタが来て、三月辺りに取り壊し予定になったマンションがあっただろ?」
「あぁ、その話は知ってるぜ。確か、商店街の付近だったよな?」
「そうだ。でよ、そこの壁に二箇所穴が開いてるから、そこを使って通り抜けようとしたんだけどさ、反対側にある穴まで行こうとしたら、途中で誰かいたんだ」
「誰かって?」
「・・・・・・なんか、鎧みたいなの着込んでて、両手に刀みたいなのを持ってたんだ。それに顔とかの皮膚が青かった」
「それって・・・・・・!」
明が言葉を続けようとするのを、俺は右手で制す。・・・・・・多分、殊日を攫った悪霊と同じ、悪魔タイプだろうな。
「・・・・・・続けてくれ」
昴は明が何か言いかけていたのを気にしているようだが、早く続けるようにと諭す。
「それで、そいつが真一に襲い掛かったみたいに見えたんだが、その後、そいつは真一の中に吸い込まれていったんだ、多分。その後、俺は襲われかけたんだけど、ギリギリ逃げ出せたんだ」
「・・・・・・そんな芸当が出来るのは、悪霊ぐらいだろう」
今まで、ソファにも座らず、俺達の背後でひっそりとしていた凛水が口を開いた。
だが・・・・・・・・・!!
「凛水!お前、一般人にその単語は!」
「なに、問題無いだろう。・・・・・・気付いて無いだろうが、彼、昴君から微弱な使い手としての波長を感じるぞ?」
そう言われて俺達は意識を集中して、昴から発せられる波長を調べた。
なるほど、たしかに微弱だが、使い手としての波長を感じる。これなら問題も無い・・・・・・か。
俺は、聞きなれない単語を聞いて、クエスチョンマークを浮かべている昴に向かって口を開いた。
「・・・・・・昴、確かお前は体育祭での戦闘を見ていたな?」
「―――!!」
昴が驚いたような表情をする。
「・・・あれ、夢じゃなかったんだな」
「あぁ。そして、今から話すことに驚かないでほしい」
「・・・・・・そういう訳だ。そして昴、お前には俺達と同じ、使い手としての能力が目覚め始めている」
「・・・そうか。あんな光景を見た後だから、信じるしかねぇよな、そりゃ。それで、その悪霊ってのは何で真一を・・・・・・」
未だに落ち込んでいる様子の昴は、何故悪霊が真一に取り憑いたことを不思議がっていた。
「確か、入江真一君は剣道部所属だったね? 噂じゃかなりの実力と聞く。大方、その高い身体能力を利用しようとしたんだろう」
「だろうな。そのパターンは度々あったから、その可能性は高いんじゃないか?」
「だな。この依頼、受けるしかないな」
「本当か!? 有難う!」
俺の言葉を聞いた瞬間、昴は顔を上げ、身を乗り出した。
「それじゃあ、いつ実行するの?」
「真一のことを考えると、早い方がいい。炎人と明は全員に、今夜十時に昴が襲われたっつー廃ビルに集合って伝えといてくれ。それと、先生にも報告な」
「あぁ、分かった」
「・・・・・・今回の依頼、昴君にも同行願いたいんだが、どう思う?」
「理由は?」
「昴君が声をかけることで、真一君と悪霊を引き剥がすことも出来るかもれん。それに、能力が完全に目覚めるかもしれんしな」
「・・・・・・昴はどうする?」
俺は昴の様子を伺うように問う。
「俺が行って、真一が助かるなら、俺も行く」
「なら、頼むぜ。動き易いような服で来てくれ」
昴は力強く頷いた。
その2に続く。