第五十三話[覚醒シ、銀ノ雷]
更新がだいぶ遅れたぁぁぁぁぁーーーー!!(涙)
零牙「うるせぇぇぇぇ!! ならさっさと更新すればよかっただろうが!!」
しょーがないでしょーが! 前の更新から色々と忙しかったんだから!
とりあえず、本編をどうぞっ!!
さて、派遣部部員一同は、グラウンド中央に落下してきたものを調べる為、クレーターへと向かっていた。
「そろそろ、着くと思うんだが・・・」
「て言っても、目視で計測した距離だけどな」
零牙の独り言に、殊日が突っ込む。
「ま、こっから見えてるなら、もう少しなのは間違い無いな」
炎人が目を細めながら、先にある物を見る。例の落下物が見えてきている。
「・・・嫌な予感がするな」
直感が当たり易い狼牙が言う。狼牙がそんなことを言うと、嫌でも何か起こる気がするとは、零牙の言葉である。
「そんなこと言わないでよ・・・。本当に何か起こるかもしれないじゃない」
またその事を、幼い頃からの付き合いである明も知っている。
「とにかく、行ってみないと分からんことだろう。さっさと歩く」
他の皆より、先を歩いている霧が、急かすように言う。さっきから、皆と同じように歩いているにも関わらず、霧はかなりの距離を開けていた。
「お前が異常なんだよ!」
零牙が霧にも聞こえるように言った。そうだとたら、霧の後ろに付いて歩いている、光と影も異常ということになる。
そんなやりとりをしながらメンバー達は、目標の落下物まで歩いていった。
「こりゃまた、デカイな」
零牙が落ちてきた物を見上げながら言う。やはり両脇には明と零がいる。
「見たところ、金属製みたいだけど・・・・こんな金属見たことないわ」
「結構硬いみたいね」
明は落下物の表面を擦りながら、マジマジと見つめ、零は手の甲でコンコンと叩きながら言う。
「フム、私もこんな金属は見たことが無いな。地球外の金属か、悪霊が新たに作り出した金属と考えるのが妥当だろうな」
後ろでのその様子を見ていた霧が顎に手を当てながら言う。微妙にニヤけているが、零牙はあえてスルーした。
「可能性的には、後者の方が高いな」
零牙達より少し離れていた場所で調査をしていた、狼牙が戻って来て言った。隣には、一緒に調査していた由美もいる。
「フム、さすが狼牙君。優秀だな」
霧は、一度狼牙を見た後、零牙を見て言った。
「それは何だ? 俺に対する当て付けか?」
零牙は振り向き、引きつり笑いをしながら言う。その言葉には、殺気が込めてあるようにも聞こえる。
「さて、そろそろ炎人君達が帰って来るはずだが」
その言葉を受け流し+スルーしながら、そっぽ向いて言った。
向いた方向からは、丁度調査を終えたらしい炎人と未来、殊日に影が戻って来ていた。
「炎人君、どうだった?」
「ちょっと不自然な点が多かったな。地面がかなりの熱で熱されてたらしい。コイツの半径五メートル以内は、コゲてやがる」
「フム、着地直前に対ショックの為に、火でも逆噴射したようだな」
「そう考えるのが妥当だな。逆に半径五メートルより外はまったくコゲてねぇ」
炎人と霧が議論を交わしている。零牙は頷くだけで、意見を出すつもりは無いらしい。とゆうか、出せないらしい。
「それと霧様。地面が沈んだ深さについても・・・」
「どうかしたのか?」
「殊日の計算より出たものですが、大気圏内から落下してきたとしては深すぎるのです。それこそ、ジェットエンジンなどが付いていればの話ですが」
「フム。確かに深すぎるな。ノズルらしきものは見当たらんし、大気圏外からの落下と考えたほうが妥当だな」
「つーことは何だ、宇宙からでも落ちてきたのか? コレは」
零牙は、疑いの眼差しを二人に向けた。
「・・・一応、この外面部分も調べてみたところ、地球上には存在しない金属であることが判明しました」
影は、零牙の言葉をスルーし、霧への報告を続けた。
「フム・・・・。この金属は、持ち帰って調査する必要があるな」
「どうやって持ち帰るつもりだよ。こんなにデカイもん、どうやって運ぶんだ?」
「うむ、転送魔術を使ってもいいのだが、メンドクサイな。上手い具合に砕けでもしないだろうか?」
「おいおいおい・・・・」
霧の言葉に零牙は呆れた様子で頭を抱える。
「とりあえず、千達が帰ってきたらこれを移動させて撤収するぞ」
零牙は顔を上げて、この場にいる全員に言った。丁度その時、千達が戻ってきた。
「おーい、回収し終わったよー!」
千が歩きながら手を振り、零牙達に向かって叫ぶ。
「おー! ご苦労さん!」
零牙も手を振りながら答えた。
千、千里、光は散らばっていた魂を回収する為にこの場を離れていたのである。
「・・・よし。これをどかしたら撤収するかぁ」
『ワシを倒さずにかぁ?』
どこからかそんな声がしたと思った瞬間、クレーターの中心にある落下物が爆発した。
「っ!?」
零牙は咄嗟に、目を腕でかばった。
「ったく、なんなんだよ・・・」
目の前から腕をどかし、服などに付いた土埃などを落としながら零牙は言った。
零牙が辺りを見回すと、落下物が会った筈の場所には何も無く、代わりに元々は落下物の物であったであろう金属質のものが辺りに四散していた。
「みんなー! 大丈夫かー!?」
辺りが煙で見えない為、零牙は声を張って、仲間の応答を待った。
「ケホッ、ケホッ・・・・こっちは大丈夫よ!」
「零牙君は大丈夫!?」
「あぁ、なんともない!!」
零牙は返事をしながら、声がした方向へと向かった。
零牙と明達の距離はさほど無かったらしく、少し歩いただけで、零牙は明達に会うことが出来た。
「無事そうだな」
「爆発自体にダメージは無かったみたいだから・・・」
「ようするに見せかけってことよ」
多少、土埃がついているものの、明と零は無事であった。
零牙はとりあえず安心したが、その安心は束の間のものであった。
―――ブオォォォォ!
強い風が吹いたかと思うと、煙が一気に吹き飛んでいく。
「な、なんだ・・・!?」
零牙は吹き飛ばされないように踏ん張りながら、辺りを見る。
どうやら、皆は無事だったらしい。
ちょっと前には炎人と未来に殊日が居た。
零牙達のすぐ左には霧に光、影の三人が居る。その近くに狼牙と由美も居た。
少し後ろを振り返ると、銃雷姉弟の姿も見える。
そして、零牙は風が吹き付ける方向を見る。そこは落下物があった筈の場所である。そこに立っているのは巨大な―――零牙達を襲った鬼達とは比べ物にならないほど巨大な黒鬼が立っていた。背中には武器という武器を背負っている。
「まだいたのかよ・・・」
零牙はその黒鬼の姿を確認すると同時に呟いた。
いつの間にやら風は収まり、辺りには使い手達と黒鬼しかいない。
「ふはははは! ワシの存在に気が付かないとはな!」
「気が付かなかったなんて・・・」
「こんなに強力な霊気は始めてだわ・・・・!」
この霊気は上位よりは上であることは確かである。だが、いつか零牙達が戦った―――実際、一方的に攻撃されていただけだが―――四天王よりは下であることは、四天王と戦った零牙や明達が良く分かっていた。
「ワシは黒鬼のゴゥグ。階級はエンフィリル!」
「エンフィリル・・・・・。霊気が上位と四天王の間であることから、最上位とでも呼ぶべきかな?」
「のん気に言ってる場合じゃねぇ!」
落ち着き払って階級をどうするか考えていた霧に零牙が素早くツッコミを入れる。
「全員散開! 敵をかく乱して、一気に決めるぞ!!」
零牙の指示と同時に、それぞれに別れ、黒鬼ゴゥグに向かってゆく。
ゴゥグは向かってくる使い手達を見ると、背中に手を回し、大筒を取り出す。それを構え、撃つ。
弾頭は着弾こそしたものの、零牙達に当たることはなく、爆発した。
その様子を見た影は足を止め、背負っていたスナイパーライフルを構え、スコープを覗いた。
それに気付く事無く、ゴゥグは大筒を乱射する。
ドォン、ドォンと二発程弾頭が大筒から放たれる。・・・が、それは空中で爆発する。影による狙撃だ。だが、黒鬼はそれにも関わらず大筒を乱射する。さすがに数が多すぎるのか、二、三発ほど落し損ね、運が悪いことに、明の方へと一つの弾頭が向かう。
「明っ!!」
「えっ!?」
近くにいた零牙は、咄嗟に明に向かって横飛びに飛ぶ。少々乱暴だが、明に体当たりし、地面に伏せる。
なんとか間に合ったようで、明がさっきまで走っていた辺りは爆発し、地面が焼け焦げていた。
「大丈夫か?」
零牙は素早く立ち上がり、明を立たせる。
「大丈夫よ・・・」
明はちょっとムッとしたような表情で返事をする。
(・・・アイツ、ちょっと厄介だな。他にも武器を色々と持ってるみたいだしな。一気に勝負を付けようにも・・・いや、無いことはないか・・・)
零牙は空を見上げる。空は灰色の曇空。どうやら、雲は雷雲のようだ。
「・・・もう少し様子をみるか」
そう呟いて、零牙は再び黒鬼に向かって駆けた。
「ちょっ、零牙!?」
明は零牙にもうちょっと何か言われると思っていたようで、急に零牙が駆け出したことに驚いているようだ。
大慌てで魔術陣を作り、それに乗って追いかける。
一方、他のところでは、霧が走っていた。傍らには光もいる。
「御主人、予測より早く最上位が来ちまったが、どうするつもりなんだ?」
「フム、私はせいぜいサポート程度だな。私がでしゃばり過ぎて、アッサリ終わらせてしまったら、これからに支障が出るのでな。・・・それに、予測はあくまでも予測だ。大体、私はここにアレが落ちてきた時点で気が付いているぞ」
光はその言葉を聞いた瞬間、深い溜め息を付く。
「だけど、派遣部がアイツに潰される可能性だって・・・」
「大丈夫だろう。零牙君がいるじゃないか。彼はこの世界やあらゆる次元に存在する、英雄の一人だ。いわゆる、ラグ君や雅輝君と同じ存在だよ」
「だが、あの状態になる確率は低いんだぞ? もう片方の状態になったらなったで助かるかもしれないが、英雄以外の奴は命の危険だってあるし、『裁きし者』である影や『暴きし者』である俺は勿論、『監視者』である御主人だって、無事では済まない!」
「光、君の目は節穴か?」
霧はそう言って、空を指差す。光はつられて空を見る。
空は灰色の曇空。見たところ雷雲のようだ。
「・・・なるほど。考えたな、御主人」
「まぁ、零牙君が気が付いていなければ意味が無いんだがな」
二人は相変わらず、走りつづけていた。
炎人はチャンスだと思った。ゴゥグは撃つことに夢中だ。二、三発ぐらいは不意打ちで攻撃を当てれるんじゃないか? と。
「よっしゃ、ちょっと言ってくるぜ!!」
炎人は未来にそういうと、ゴゥグに向かって駆け出した。
「えっ、炎人!?」
驚く未来を尻目に、炎人は空高く飛び上がり、自身の得物を振り上げる。
「甘いっ!!」
だが、ゴゥグは炎人は気が付いたようで、素早く背中に左手をまわし、数ある武器の中から巨大な刀を取り出すと、降りてくる炎人に向かって刀を振った。炎人はその攻撃を、【龍炎刀】で受け止める。
「おぉっ!?」
攻撃を受け止めたはいいが空中だったので、青鬼戦時のリプレイよろしく、そのまま吹き飛ばされる。だが、これまたリプレイよろしく、キレイに着地する。
「やっぱ、アイツの背負ってるたくさんの武器は厄介だな・・・」
炎人の言う通りである。ゴゥグの背中には、まだまだ武器がある。大筒のように強力な重火器や、拳銃のような銃器に、刀や槍といった近接武器も持ち合わせていることだろう。
「壊していくか、弾切れ狙うしかねぇってか・・・」
炎人は再びゴゥグに向かって走り出す。
「未来! サポート頼むぜ!!」
「りょっ、了解!」
途中、炎人は振り返り、未来に指示を出す。未来は急な指示に慌てながらも、矢筒から矢を落としそうになりながらも、弓を構える。
そして、二、三本程の矢をゴゥグに向かって放つが、ゴゥグの皮膚に突き刺さることは無く、刀で弾かれてしまた。
だが、そのお陰で隙が出来、その隙に炎人が攻撃を加える。が、先程のように吹き飛ばされ、着地。これが二、散開ほど続いていた。
「ふぅん!」
「どわぁ!!」
これで四度目。結果は失敗であることは言う間でも無い。
途中、未来が炎人に【四季風・虹】を使うことを提案したが、青鬼との戦闘でだいぶ魔力を消費したようで、強力な奥義が放てない状態であった。
ちなみにゴゥグは、炎人を吹き飛ばしながらも大筒を乱射していた。が、炎人が四度目の失敗をしたと同時に、弾が切れたようなので、大筒を捨てるように放り投げていた。その証拠に、ゴゥグの背後数十メートル付近に先程まで右肩に担がれていた大筒が落ちていた。
(やっぱ、青鬼が使ってたのより硬いな。残ってる魔力も技をニ、三発使ったらもうほとんど残らないし・・・・)
炎人は得物を構えたまま、考え込んでいた。目線は黒鬼ゴゥグ。・・・そんな時。
―――ズザァァァァァ!!
大きな音を上げながら、ゴゥグへと向かっていく一筋の光。それは地面を砕きながらも、確実にゴゥグへと向かっていた。
「ぬぅっ!」
回避が間に合わないと判断したのか、ゴゥグは刀を自分の前に構え、防御の体制を取った。
―――ガキィン!
光の刃とゴゥグの刀がぶつかる。炎人は光の刃が飛んできた方向を見た。霧だ。地面が砕けた跡をたどっていくと、霧がいた。
霧は先ほどまで腰の鞘に収められていた、細剣をいつの間にやら右手に持っていた。
どうやら、先程の光は霧の細剣から放たれた斬撃のようだ。
―――バキィ!
そんな音がしかので、炎人は素早くゴゥグの方を向く。
「くぅ・・・刀が!」
どうやら、霧の斬撃がゴゥグの刀を破壊したらしい。
「おぉっ! これで勝機が・・・・!」
ゴゥグの刀が破壊され、喜んだような声を上げた炎人だが・・・。
「まだまだぁ! ワシにはまだ武器があるわぁ!」
ゴゥグはそう言うと、両手を背中にまわし、次の武器を取り出した。
「・・・・って訳にも行かなさそうだな」
炎人の顔に見えていた、希望の光は一瞬にして消え去った。ゴゥグの取り出した武器は巨大なトゲ付き棍棒。更にそれを両手に持っていると、鬼に金棒以上の恐ろしさだ。
背後では、未来がゴゥグに向かって、矢を未だに放ち続けていた。
「うわ・・・何あの随分と凶悪そうな武器」
ゴゥグの武器を見て、げんなりとしていたのは炎人だけではなかった。ここにもう一人いる。両手に拳銃を持った少年、銃雷千である。
「・・・少なくとも、一撃でオレ達は死ぬな」
嫌な事を言うのは殊日である。
「あの武器の餌食になったら、潰されて体中が穴だらけになるのは確実ですね」
「怖いよ、お姉ちゃん」
かなりグロテスクなことを言い出すのは千里、千の双子の姉である。
「・・・とりあえず、大筒は弾切れみたいだし、僕はもうちょっと近づいて攻撃するよ」
「頑張ってね、千」
千は、千里からの応援を背に、ゴゥグに向かって走り去っていった。
「・・・・禁断の姉弟愛?」
千里は、殊日がなにやら恐ろしいことを言ったように聞こえたが、余りに気にしないことにし、空耳だと言い聞かせた。
まぁ、そう言われていたとしても仕方無い、と千里は思っている。銃雷姉弟は普段から仲が良く、休日に街へ一緒に出かけることもある。・・・まぁ、その度に姉弟では無く、カップルとして見られてしまい、千里や千は困っているのだが。
また、学校でもそんな感じなので、そんな風に見られていても仕方無い・・・という訳だ。
「・・・千里、どうした?」
「えっ? いや、何でもない」
千里はちょっと考え事をしていたが、殊日の言葉によって、我に返った。
「ならいいけどさ。戦闘中にボーッとしてたら危ないと思うけど?」
「そ、そうよね。もう大丈夫」
「本当に大丈夫か?」
「ぴゃぁ!?」
急に声をかけられ、妙な奇声を上げて驚く千里。慌てて振り返ると、
「お前、驚いたら変な声上げるのな」
先ほどまで、霧と一緒に走り回っていた光がいた。
「え、えと、なんで光さんがここに? たっ、確か霧さ・・・いや、会長さんの方が・・・」
「どっちでもいいと思うんだけど・・・」
混乱している千里に殊日が突っ込む。
千里は光の急な登場に驚き、慌てながら光に質問をしようとするが、テンパっている為、頭が回らない。
「とっ、とにかく、霧さんと一緒じゃなかったんですか?」
「あぁ、他のとこに護衛しに行けって言われたからな。とりあえずここに来たわけだ」
(・・・実際、『ここは私だけで充分だから、千里君や殊日君の護衛にでも行ってやったらどうだ?』と言われ、渋々やって来ただけなんだけどな。何でこの二人なんだ? しかも何か微妙にニヤけてたような・・・)
「どうしたんんですか? 光さん?」
光が考え込んでいると、様子が何か変だな、と思った千里が光に声をかけた。
「ん? おわっ!!」
「えっ? ・・・・・。―――!!」
光の目の前に千里の顔があったのだ。光が俯いて考え込んでいたので、千里が光の顔を覗き込みながら、話かけたので、光が我に返る。すると目の前に千里の顔。
光は驚いて声を上げ、後ずさった。すると、千里は今更ながら顔の近さに気付き、赤面した。
「禁断の姉弟愛+一人の騎士・・・三角関係?」
そんな様子を見ていた殊日がそんなことを呟いた。それを聞いていた千里は、更に赤面し、また空耳だと自分を説得した。光もその呟きを聞いていたが、何のことか分からなかった。
「あの武器、厄介そうだな・・・」
一方、狼牙達も遠めにゴゥグが武器を構えて、辺りに振り下ろしていたをの見ていた。よくみると、炎人や零などの姿が見える。
「どうして?」
一緒に行動している由美が、狼牙に対して質問をする。
「ああいうトゲが付いていたら、受け止めることも出来んし、二つもあるから、中々隙が出来ん」
「確かに、貴方や甲斬零牙のようなタイプの使い手じゃ、あの武器は少し厄介かもしれないですね」
「そもそも、敵自体が巨大だからな」
狼牙はゴゥグを見ていた。どうやって倒すのかを考えているのだ。だが、あの巨体では、零牙や狼牙がトドメに使うことが多い、【稲妻流星落し】のような、打ち上げるタイプの強力な奥義等が使えない。
他の奥義を使うにしても、【稲妻流星落し】ほど強力な奥義が無い。
「それに、上位より階級が上です。並大抵の奥義や技で、余りダメージは与えられないと・・・」
「あぁ・・・」
こう考えていると、次々と勝てる確率が減っていく。何か手は無いかと、狼牙は頭を捻る。そして、一つの答えに行き着いた。
(零牙が、昔なったことがあるあの状態になれば、勝てるかもしれん・・・。だが、確率は・・・)
そこまで考えて、狼牙はふと、空を見上げる。空は灰色の曇空。そしてその雲は雷雲。
「・・・確率は、さほど低くない・・・か」
「・・・? どうしました?」
「いや、何でも無い。とりあえず、悪霊の近くまで接近する」
「了解」
二人はゴゥグに向かって、駆けて行った。
目標に向かって、振り下ろされる棍棒。
―――ドォン!
目標の少女―――零はそれを間一髪で避ける。
次の攻撃が来る。左手の棍棒が持ち上げられ、振り下ろされる。
―――ドォン!
またもや、間一髪で避ける零。
ゴゥグが繰り出してくる攻撃は、両手の棍棒を連続して振り下ろすもので、中々隙が出ない。
また、零は先ほどの戦闘で、魔力をだいぶ消費しており、あまり強力な奥義が使えない。たとえ、隙を見つけて、奥義を放ったとしても、大したダメージは与えられない。
(ここは、一旦退いた方が良さそうね・・・)
零はそう考えをまとめると、後ろを振り返り、一気に駆けた。だが、その間にも、ゴゥグは攻撃を仕掛けてくる。
―――ドォン!
三発目。
―――ドォン!
四発目。だが、そのいずれも、零に当たることは無かった。
零が、ゴゥグの攻撃範囲から逃れ、更に距離を取ろうとし、進む方向から、誰か来ているのが見えた。
「えっ!?」
「危ねぇ!」
零とこちらに来ている誰かは、互いに猛スピードで進んでおり、ぶつかりそうになる。
誰かは急ブレーキをかけ、止まる。・・・が、零はブレーキが上手くかからず、ぶつかる。
「っと・・・。大丈夫か?」
だが、かなりスピードが落ちてたようで、相手に受け止められるような形で止まった。
「一応、大丈夫だけど・・・。有難う、零牙君」
「いや、こっちも悪いんだ。何事も無くて良かったよ」
相手――零牙は、謝ってくる零に謝り返す。
「れぇ~い~がぁ~~・・・・!!」
と、零牙の背後から声。どことなく殺気を含んでいるようにも聞こえる。
零牙は錆付いたロボットのように、首を後ろへ向ける。『ギッ、ギッ、ギッ』という効果音が聞こえてもおかしくなさそうだ。
零も、零牙の肩越しに零牙の背後の方を見る。
その場には、魔術陣に乗って中に浮かんでいる、明がいた。背後に般若と陽炎を背負いながら。
「いい加減離れたらッ!?」
怒気を含む明の声で、二人はようやく気が付いた。半分抱き合うような格好になっていたことに。
「すっ、スマン!」
「ごっ、ゴメン!」
二人同時に言い、同じ極の磁石のように離れる。そして、二人して顔を赤らめる。
・・・そして。
―――ガツン!!
「ごはっ!?」
零牙の頭に、【封印書】が落ちてきた。―――否、頭を【封印書】で殴られた。しかも角で。
「イッテェ! 何すんだよ、明!」
「自分の胸に手を当てて聞いてみなさい!」
下がったら丁度、明が乗っている魔術陣の隣だったのが零牙の不幸。零牙と零の姿を見て不愉快になった明が、零牙の頭に【封印書】を殴りつけたのだ。しかも角。角でだ。
一方、当の本人は、明が何故怒っていて、殴られたのかが全く分かっておらず、頭の上に、クエスチョンマークを浮かべていた。
「つーか、かく乱しても駄目だったな・・・」
「あ、そういえば、みんなもそう思ったみたいで、みんなこっちに向かってるみたいで、ここに来てるみたい」
それを聞いて、零牙が辺りを見回すと、派遣部の部員達が、こちらに近づいてきているのが見えた。
「さて、どうしたものやら・・・・」
零牙は考え込んでいた。戦闘中に気を抜いていいものかと思うところだが、ゴゥグの相手には、光と影を向かわせるので、その間に作戦を考えておこう、という霧の案だ。
「まず、単体での攻撃は余り効果が無い、ということが判明したな」
「あぁ。しかも基本的に攻撃の要になる、炎人や俺が魔力をかなり消耗してる上、強力な奥義を放ったとしてもほとんどダメージが無いと思える」
「奥義をまとめてぶつけても、アイツ、耐え抜きそうだしな・・・」
炎人が、光と影と戦っているゴゥグを見て言う。
「そうね・・・」
その言葉を聞いて、明が落ち込むように言う。霧以外の他の皆もどうしたものかと落ち込んだように俯いた。
「・・・一つ、一つだけ、勝てる見込みがある作戦・・・というか、方法がある」
零牙は下に向けていた顔を勢い良く上げ、言った。
その言葉が皆の耳に届くと同時に、皆は顔を上げた。
「零牙、まさかその方法は・・・」
狼牙が向ける視線に、零牙は黙って頷く。
「・・・明、お前も見ただろう? あの状態を」
零牙の問いかけに、明はハッとする。
―――マンションの屋上
―――激しい雨と雷の音
―――覚醒した零牙
この光景が、明の脳裏に浮かんだ。
「うん・・・。でも、今は雷が・・・」
明と狼牙以外の、事情を知らない皆は何のことだかわからないといった様子だった。ただ一人、霧は口の端をつり上げていたが。
「大丈夫だ。そこら辺は考えてある。・・・・それじゃあ、皆に少し頼みたいことだある」
「光! 影!」
ゴゥグと交戦している、光と影に、霧が近づいていく。
「御主人、どうしたんだ?」
「彼があの状態になるようだ。二人はもうしばらくヤツの相手をしていてくれ」
「御意」
用件だけを伝えると、霧はバックステップでその場を去った。
いつの間にか、辺りには派遣部の皆が散開してゴゥグの注意を反らすかのように、一人攻撃しては下がり、攻撃しては下がりを繰り返していた。
近接攻撃を得意とする、炎人や零はゴゥグに近づいて攻撃しては下がり、攻撃しては下がりを繰り返している。
遠距離攻撃やサポートの役割を受け持っている、明や千里は遠くから味方のサポートや攻撃をしている。
だが、その中に零牙の姿は見えない。零牙は一人、明達よりも離れた場所で、魔力を高めていた。
その魔力は右腕に溜まっており、右腕に溜まっていた魔力が銀色の雷へと変換され、時折『バチバチッ』と鳴る。
「もうちょっと・・・もうちょっとだ。まだ暴走して、爆ぜるんじゃねぇぞ・・・」
零牙はそう呟きながらも、集中力を途切れさせない。そして、更に魔力を高める。
「・・・うし、こんなもんか。頼むぜ、上手くいってくれ・・・・!」
魔力が一定の高さで落ち着いたようで、零牙は一瞬、右腕を見ると、空に掲げた。そして、空を見上げる。
「フルパワーでいくぜっ! 【雷招】!!」
零牙はそのまま、右腕の雷を空へと放った。零牙が放った【雷招】は、そのまま灰色の空へと吸い込まれた。
そしてその雷は、雷雲の雷を集め、更に強力な雷として、零牙へと落ちてゆく。
その銀の雷は、零牙へと吸い込まれ、零牙の力として変換される。
覚醒状態。零牙の理性を極限まで引き出した状態で、強力な力を秘めている。零牙自身での制御が効かない暴走状態と違い、零牙の理性を保った状態である。本能で突き動かされる暴走状態とは全く逆の状態であると言える。ただ、力の細かな調整が出来ないというのが難点である。
ともかく、零牙は覚醒状態となったのだ。ゴゥグを打ち破る術として。
「ふぅ・・・・」
零牙は一つ溜め息を付く。そして、ゴゥグを見据える。
「これで終わらせる・・・!」
そう呟き、ゴゥグに向かって駆けていった。
―――ビー、ビー!
青い、半透明のディスプレイから、ブザーがなる。
「んっ? おい、何だよこの魔力!?」
そのディスプレイを操作している殊日は、驚きの声を上げた。
「どうしたの?」
「とてつもなく高い魔力が近づいてるんだ!!」
近くにいた明が、殊日に聞く。そして、近づいてくる魔力に気が付く。
「これ・・・多分、零牙だわ!」
「零牙って・・・・オイ、まさか、アイツを倒す方法って、コレかよ!?」
殊日の問いに、明は黙って頷く。そして、後ろを振り返る。
すると、銀色の光がこちらに近づいてきていた。
「何だよ、あれ!」
殊日も同時に振り向いたようで、銀色の光に驚いていた。
「あれが零牙よ」
「嘘!?」
その銀色の光―――零牙は二人をすぐ横を横切って、そのまま行ってしまった。
「・・・あれなら、本当にアイツを倒せるかもしれないな」
「えぇ・・・」
二人は、ゴゥグへと向かう銀色の光を見ながら言った。
―――ドォン!
棍棒が地面に叩き付けられる。それを素早く避ける狼牙。
「パターンさえ分かれば、どうということはないな・・・」
「むぅ、ちょこまかちょこまかと!!」
―――ドン、ドン、ドン、ドン、ドン!!
何度も何度も棍棒が叩きつけられる。だが、狼牙の素早い動きで全て避けられる。
狼牙はその動きでゴゥグを翻弄するかのように注意を引きつけ、攻撃を避けつづける。
(さっきから近づいてくる気配は零牙だな・・・。魔力の大きさからして、あの状態になることは成功したようだな。・・・後は零牙がコイツに近づくまで、俺達がコイツの注意を引きつけるだけ・・・・!)
狼牙は攻撃を避けながら、そんなことを考えていた。
すると、狼牙の後方から斬撃が飛んできた。
「狼牙、そろそろ交代するぜっ!!」
「あぁ、頼むぞ炎人!」
狼牙は棍棒が振ってくるのと同時に、バックステップをし、その場を離れる。すると、狼牙と入れ替わるように、炎人が前に出た。そして、再び斬撃。
「次は俺だぜ、潰せるもんなら潰してみな!!」
炎人はゴゥグに向かって挑発の言葉をかけると同時に、斬撃をゴゥグに向かって放つ。
「えぇい、いちいち入れ替わりおって!」
ゴゥグは怒ったように言い放ち、棍棒を振り下ろす。
「うおっ! 当たったらマジでヤバイな・・・・!」
炎人はギリギリそれを避けながらも呟く。
あれは・・・・・炎人達か。
俺は黒鬼の悪霊に近づきながら思った。俺が覚醒状態になるまで気をそらしていてくれてたみたいだな。
早めに決着を付けないとな。この状態には時間制限がある。限界になったら、それこそ終わりだ。この状態は持てる限りの魔力を全て使って保っている。元に戻ったら魔力はこれっぽちも残らない。戦う事だって無理だ。
早く、早く終わらせなければ・・・! ―――もっと速く、速く、速く!!
俺は力一杯に地面を蹴った。
「炎人! そこをどけ!!」
後ろの方から叫び声が飛ぶ。炎人は振り向き、近づいてくる銀色の光に驚く。
「うおぉっ!? 何だアレ!? 零牙の声ってことは零牙なんだろうけど・・・」
「いいから早くどけっ!」
炎人はとりあえず、その場を離れた。
その瞬間、炎人の横を銀色の光が通り抜ける。炎人はすれ違いざまに銀色の光を見る。
「零牙っ!?」
「後は任せてくれ!」
「あ、あぁ! 了解だ!」
俺は炎人とすれ違った後、すぐに飛び上がった。
「むぅ? お前は・・・!」
黒鬼がうめくが、気にせずにそのまま殴る。
「ぐふぅ!」
そしてそのまま着地。俺は黒鬼を見上げて睨む。
「銀色の光・・・・お前、甲斬零牙だな!」
「あぁ」
黒鬼は腕で口を拭いながら言う。俺はそれに答える。
「お前には済まないが、次で終わらせてもらう」
「何を・・・。っ!?」
・・・大方、先程から右腕に溜めている魔力に気が付いたといったところだろう。
右腕に溜めている魔力を雷へと変換する。そして、雷の形を細く、鋭く、巨大に形を変える。それはまさに牙の如く。
「行くぞ・・・! 究極奥義【雷牙突破撃】!!」
俺は飛び上がり、黒鬼の胸にぶつける為に、左手から変換したプラズマを推進力として出す。
「やらせは・・・!」
「遅いッ!」
黒鬼は俺の攻撃を防ごうと棍棒を俺にぶつけようとしたが、そんな攻撃、今の俺にはスローモーションに見える。
「ぬぐぅ!?」
攻撃を掻い潜り、黒鬼にぶつける。
「風穴をっ、開けてっ、やるぅぅぅぅぅぅぅ!」
―――ジジジジジジジジッ!!!!
突き抜ける。銀色の牙が。その牙は得物を切り裂き、魂へと変える。
零牙は着地した。黒鬼の背後に。黒鬼の胸には大きく風穴が開いている。
「馬鹿な・・・! このワシが! 最上位であるこのワシが!」
零牙は喚く黒鬼の方に向き直る。覚醒状態の制限時間が来たようで、銀の雷を纏った姿から、いつもの黒髪の黒い目に戻っている。
「・・・スマンな。この状態じゃあ、どうも力の制御が利かねぇみたいなんだわ、これが」
「ぐうぅ・・・おのれ! おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
黒鬼は最後に学園中に響く叫び声を上げて、魂へと変わる。
零牙は無言で魂を拾う。
「ったく、この後の説明が面倒臭くなりそうだな・・・」
魂を見つめながら、零牙はそう呟いた。
次回、[戦い終わったその後は]に続く。
・・・またもや一万字超え。
とりあえず、次回からはいつも通りの長さに戻ります。
あぁそれと。中三に進学したら、パソコン取り上げられるかもしれません。
取り上げられなかったら取り上げられなかったで、塾に行くかもしれないんで、それこそ更新遅れるかも・・・。
あ、あと三日で一周年です!! それじゃっ、次回をお楽しみに!!