第五十二話[零牙と体育祭その5]
ッ・・・・アアァァァァアァァァァァ!!!
零牙「っ!? どうした作者!」
全然進まねぇぇぇぇぇぇぇ!!
零牙「・・・それだけかよ?」
でも、そろそろこの小説、一周年です。
零牙「マジデ?」
うん。始めたのが去年の三月十日だったはずだから。
さて、そろそろ一周年の『ない日』。本編をどうぞ!
後編にお知らせ有リ
「クソッ・・・・本当にキリが無いっつーの・・・」
零牙は相変わらず減る様子を見せない悪霊達を吹き飛ばしながら言った。
「でも、確実に減っていってるわ。後もう少しで・・・」
鎧を纏った少女は手に持った槍で多くの悪霊を突き刺しながら言う。
「それにしても驚いたな。剣だった筈なのに、槍に変わっちまうなんて・・・よッ! 【雷招】!!」
蹴りで敵を飛ばし、その後に初級魔術である【雷招】を使い、多数の敵にダメージを与える。
「これは、あらゆる武器に姿を変えるっていう能力があるのよ・・・ハッ!」
少女は槍を横薙ぎに振り払い、悪霊を吹き飛ばす。
「それにしても、こっちも驚いたわ・・・私以外に使い手がいたなんて・・・」
「っつーことは、今まで一人で戦ってきたってわけか・・・」
「そうよ。貴方も一人で戦ってきたんでしょう?」
「いや、他にも仲間がいるよ。八人ぐらいなッ!!」
「・・・! 結構いるのね」
「まぁ、この戦いが終わったら会わしてやるよ・・・オラ、最後だっ!!」
「こっちも最後っ!」
零牙と少女は辺りにいる悪霊を殲滅したのを確認すると、移動しようとした。
「んじゃ、仲間と合流するか」
「そうね。私以外の使い手に会うのが楽しみだわ」
鎧を纏った少女は本当に楽しみそうに声を上げた。・・・だが。
―――ズシーン、ズシーン・・・・
何度か地響きが聞こえたかと思うと、二人に巨大な影がかかった。
「ん・・・? 曇ったか?」
零牙が不自然に思い、上を見上げると、棍棒を背負った巨大な赤鬼が見えた。
「悪霊!? しかも上位か!」
「ガハハ・・・お前達が最近俺達の仲間を葬ったっつー使い手か」
零牙の声に、赤鬼は腹をかきながら低い声で答える。
「ム・・・? 銀の雷を纏っているとゆうことは・・・。お前は甲斬零牙だな?」
「そうだったとしても答えねぇぜ?」
「まぁいい。どうにしろ、潰すだけ!!」
赤鬼は零牙の返答を聞くと、棍棒を振りかざし、一気に下ろした。
零牙と少女は咄嗟に避ける。が、少女の方は石か何かに躓き、足を捻って躓いてしまった。
それを見た零牙は、元の場所へ引き返し、武器をしまい、赤鬼の振るう棍棒を両腕で受け止める。
「ぐっ・・・・」
「んん~? 俺の攻撃を受け止めるたぁ、中々骨がある奴みたいだなぁ」
「うるッ・・・・せぇぇぇぇぇ!!」
零牙は両腕に力と魔力を込め、吹き飛ばすように一気に持ち上げた。
「ぬぅお!?」
その反動で、赤鬼はよろける。
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫・・・まだやれるわ!」
少女は立ち上がり、剣の姿に戻った武器を構え、踏み出そうとする。
「ッ!」
だが、足を捻った為に、踏み出した足に激痛が走る。かなり酷い捻り方をしたようだ。
「無理すんな」
「大丈夫よ・・・これぐらいどうってこと・・」
「ったく、無理に動いて余計腫れたらどうすんだ。座って休んでてくれ。・・・んじゃ、後は俺に任せろ!」
零牙はそう言い残すと、赤鬼に向かって走り出した。
まだ体制を整えている赤鬼に向かい、零牙はジャンプし、腹に一発パンチを入れる。
「トロイんだよ!」
「ぐうぅお!?」
更に続けて、回し蹴りを繰り出す。
「がはぁ!!」
零牙はそのまま後方に着地する。
「よくもやってくれたな・・・でぇぇい!!」
赤鬼は着地した零牙目掛けてまたも棍棒を振り下ろした。
だが、それを零牙は軽々と避ける。
「当たらなきゃ、どうってことはねぇんだよ!!」
その光景をみていた少女は何かを唱えていた。
(私にも・・・・何か出来ることを・・・しなきゃ!!)
零牙は避けては攻撃、避けては攻撃を繰り返していた。
(クソッ・・・ダメージ与えてるのはいいんだが、何か決め手になるような奥義がねぇ! あの巨体じゃ【稲妻流星落し】で打ち上げるのは無理・・・)
零牙が思考をめぐらせていたが、それは少女の声で止めることとなった。
「離れて!」
「・・・了解!!」
零牙は少女の声を信じ、その場を離れた。
「いくわよ・・・【大剣召破】!!」
少女は、零牙が離れたのを確認すると、叫び、赤鬼の頭上に魔術陣を発生させた。
そして、その魔術陣からは巨大な剣が出現し、そして落下。その剣は赤鬼を貫いた。
「やるな・・・」
零牙はその光景を眺めながら呟いた。
「ぃよう。大丈夫か?」
「・・・大丈夫そうに見える?」
「それもそうだな」
零牙は座り込んでいる少女を見て、苦笑いしながら言った。
「んじゃ、行くか・・・・っと、その前に自己紹介だな」
零牙は思い出したように言った。
「俺は一年三組の甲斬零牙。派遣部部長だ」
零牙は笑顔で手を差し出した。
少女は差し出された手を掴んだ。零牙は差し出した手を引っ張り、少女を立たせた。
「私は遊桜零。これからよろしくね、零牙君」
少女・・・もとい、零は今までかぶっていた兜を外し、笑った。
――ドキッ
零牙は心臓が跳ねた気がした。そして、その名前に聞き覚えがあると感じた。
「遊桜・・・? って、確か同じクラスの・・・」
「そうよ。まさかクラスメイトが使い手だったなんてねー」
零は笑顔を絶やさずに言った。
「俺も驚きだよ・・・。んじゃ、合流しないとな。だけど、その足で歩けるか?」
零牙は零の足を見ながら言った。
「無理よ。歩いて行こうにも、零牙君、絶対に駄目って言うでしょ?」
「言うだろうな。・・・・・・・はぁ、仕方無い」
零牙はしばらく考えた素振りを見せた後、溜め息を付くと、零に近寄り、抱え上げた。俗に言うお姫様抱っこだ。
「ちょっと、零牙君!?」
零は頬を赤らめながら驚いたような声で言う。
「我慢しててくれ・・・。それじゃ、兜落とさないようにちゃんと持ってろよ!!」
零牙はそう言うと猛スピードで走り出した。
~残された第一班の二名~
「まったく・・・無茶をするな、無茶を」
霧は服やマントに付いた土を落としながら呆れたように言った。
「でっ、でも、そのお陰で悪霊は全滅したじゃない!!」
明は頬を赤く染めながら言う。なるほど、辺りには魂が散布している。先程の【波動弾】の容量オーバーによる、爆発の影響だろう。
「私にあれほどのダメージを与えたのは君が始めてだよ」
土を落とし終わったシルクハットをかぶりながら、霧はさっさと行こうとした。
「あっ、待ちなさいよ!!」
明は急いでその後を追いかける。・・・だが。
「・・・ムッ!? 下がるんだ、明君!」
「えっ!? わ、分かったわ!!」
霧は異変を感じ、その場から、バックステップで離れる。明も同じく後ろに下がる。
―――ズドオォォォォォン・・・・・
先程まで明達が立っていた場所には巨大な白い鬼がいた。
「上位!?」
「・・・邪魔だな」
そう呟くと、霧は白鬼に向かって走り出した。
「フハハハ・・・たった二人で何ができ・・・」
―――ザシュッ・・・
霧は白鬼の腹辺りまで飛び上がり、斬りつけた。
「ぐぅおぉぉぉぉぉ・・・」
白鬼は倒れ、魂へと変わった。
「さ、行くぞ」
「え、えぇ・・・」
(たった一撃で・・・。やっぱり、霧は強いわね。でも、何故戦うことが少ないのかしら? 何か理由が・・・・)
明は驚き、思考をめぐらせながら、霧の後を追いかけた。
~第二班~
「これで大体だな・・・」
炎人が辺りを見回しながら言う。
「あぁ。辺りに悪霊の影も無い。多分この辺りは大方ケリはついたと思う」
「うーん・・・。それじゃあ、合流地点に行こうよぉ」
殊日が辺りに悪霊がいないことを確認し、未来が伸びをしながら言う。
「っと、待て! 猛スピードで何か向かってくるぞ!!」
「えぇ!?」
「どの方向だ?」
「向こうだ!」
殊日が指差すを方を見ると、何と砂煙を上げながら何かが猛スピードで近づいて来るのが分かる。
そして、空高く飛び上がる。
「嘘ぉ!?」
殊日が驚愕の声を上げる。
―――ドオォォォォォン・・・・・
そして、飛び上がった何かは炎人達の目の前に着地した。やはり、砂煙が上がる。
砂煙が晴れ、辺りが見えるようになると、一同は驚いた。
目の前に巨大な刀を持った、これまた巨大な青鬼が立っていた。
「うおぉっ!?」
これにはさすがの炎人も驚いた。
ちなみに、女子二人は声が出ない程、驚いている。
「ゲハハハ・・・お前ら使い手みたいだなぁ。俺と勝負しろ!」
青鬼は炎人達を見下ろすと、笑いながら刀を構えた。
「いいぜ、俺達と勝負だ!!」
炎人は楽しそうに言いながら、鞘に収めていた得物の柄に右手を置いた。
「気を付けろ! コイツ上位だ!!」
「分かってるって! 二人共、サポート頼んだぜ!!」
「うん、分かったよぉ!」
「お喋りは済んだかぁ? なら、さっさとかかってこい!」
「言われなくても分かってるッ!!」
炎人は青鬼に向かって走り、飛び上がる。
「紅葉よ、鮮やかに染まれ・・・紅色に!」
炎人はそう叫ぶと、得物を一気に引き抜いた。
―――ガキィン!
だがその攻撃は、青鬼の持っている刀で防がれた。青鬼はその刀をそのまま振り上げ、炎人を吹き飛ばした。
「のわぁ!?」
炎人は叫びながら、綺麗に着地する。
「【秋風・紅葉】を防ぐなんて、中々やるなぁ。けどっ、まだ終わってねぇよ!」
炎人は刀を再び鞘に収め、居合の構えをとった。
すると、炎人は冷気を纏ってゆく。
「隙だらけだなぁ、貰ったぁ!!」
青鬼は刀を思いっきり振り下ろそうとした。・・・・だが。
「そうはさせないよ! 【呪縛術】!!」
「ぐっ・・・だが、甘い!」
「動かさせねぇよ!!」
未来の【呪縛術】を振り払い、再び刀を振り下ろそうとするが、殊日がディスプレイを操作し、【呪縛術】の威力を上げる。
「ぬうっ!」
動きを取り戻そうとしていた青鬼の動きが再び止まる。
「未来の【呪縛術】の効果、威力を増幅させたのさ。これでしばらくは動けない!」
「サンキュー・・・お陰でコッチは準備完了だぜ!」
炎人は閉じていた目を開き、青鬼を見据えた。
「吹き抜けろ! 【冬風・吹雪】!!」
炎人は一気に刀を引き抜く。炎人が纏っていた冷気は刀をつたい、一直線の吹雪となる。
「ぐおぉぉぉぉぉ?!」
動きを止められている青鬼は、その攻撃をまともに喰らう。・・・だが。
「ハッハッハッ! 甘いな! その程度じゃ俺を仕留められん!!」
そう、【冬風・吹雪】は敵を一掃するための広範囲への攻撃である為、どうしても威力が拡散してしまう。
吹雪が止むと、青鬼は反撃をしようと、足を踏み出す―――否、踏み出そうとしたのだが・・・・
「ぬっ!?」
足が動かない。青鬼は足元を見る。何と、両足が凍っているではないか!!
「悪いけど、今のはトドメのための攻撃じゃないんだよな!」
炎人は得物を構え、魔力を増幅させてゆく。
「おぉ!? またメーターが振り切れそうだ! しかも、さっきの比じゃない!!」
「やっぱり炎人はあの秘奥義を使うつもりなんだ!」
「四季を司る精霊よ・・・我が刃に集い、その力を示せ・・・・!」
炎人は、二人の言葉など耳に入らないように言い、そのまま青鬼に向かって走り出す。
「くそっ、動けっ! くそっ、くそっ!」
青鬼は何かを感じたのか、必死に足を動かそうとする。だが、やはり動かない。
「竜崎流秘奥義! 【四季風・虹】!!」
炎人は青鬼に向かって走りながらそう叫ぶ。炎人自身の得物からは虹色の光が出、炎人が走った後には直線の虹が描かれている。
「【瞬光速】!!」
未来は炎人に向かって【瞬光速】をかける。
炎人の姿が見えなくなったかと思うと、一瞬の内で青鬼の頭上に移動した。
「喰らえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
炎人は刀を思いっきり振り上げ、青鬼に向かって落ちてゆく。
「や、やられてたまるかぁ!!」
青鬼はその攻撃を防ごうと、自分の頭上に刀を構える。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
炎人はその青鬼の刀に自分の刀をぶつける。・・・だが。
―――ピシッ
青鬼の刀にヒビが入る。そのヒビは青鬼の刀を侵食し、ついには砕ける。
「ばっ、馬鹿なぁぁあぁぁ!!」
炎人が振り下ろす刀はそのまま青鬼を両断する。
両断された青鬼の体からは光が溢れ、青鬼は魂へと変わる。
「凄いな・・・」
「炎人ぉ~!」
未来は着地し、刀を納めていた炎人に向かって走り出す。そして、炎人の所まで行くと、抱きつく。
「うおっ! 未来?」
「カッコイイよぉ~、炎人ぉ♪」
「おう、有難うな! さっ、魂回収して合流するか♪」
「うんっ!」
炎人と未来は魂を回収し、合流場所へと向かって行った。
殊日は呆気に取られたように二人を見ていたが、ハッとしたように気を取り戻し、
「あっ、ちょっ、置いてくなよ~!!」
殊日は急いで二人を追いかけた。
辺りには、いくつもの虹がかかっていた。
~第三班~
こちらも全ての悪霊が片付いたようで、狼牙達が辺りを見回していた。
「・・・辺りに悪霊の気配は無い。ここを移動しても大丈夫だろう」
集中して、悪霊の気配を探っていた狼牙が目を開けて言った。
「それじゃあ、行きましょうか? この後、合流地点に向かって、落下してきたものを調べる予定ですから」
「あぁ。他の班も多分、片付いてるだろうからな」
千里と光が言葉を交わす。その会話を聞いた狼牙は、合流地点に向かって歩き出した。
「・・・行くぞ」
「あ、待ってくださいよ!」
「注意しろよ。まだ悪霊が残ってる可能性もあるからな」
光が言ったことは正しかった。
目的地へと向かう狼牙達に向かって、一体の悪霊が近づいていた。
それにいち早く気が付いたのは狼牙であった。
「! 上位階級の悪霊が近づいてくる!!」
「何!? チッ、俺が気が付かないなんて!!」
「とにかく避けましょう!!」
千里の声に反応するように、狼牙と光は同時にその場から離れ、遅れて千里が離れる。
それを見計らったかのように、丁度砂煙を上げながら、緑色の何かが通っていった。それは狼牙達に避けられたと分かると、急ブレーキをかけ、光と千里から離れていた狼牙目掛けて飛んだ。
「こっちに来る・・・・!?」
狼牙は避けようとしたが、緑色の何かは狼牙の目の前に着地した。
(てっきり、踏み潰されるものかと思ったのだが・・・・)
予想外のことに驚きつつも、戦う為に身構える。
「・・・鬼?」
敵を見た瞬間、狼牙は呟いた。
そう。緑色の何かとは、零牙達も戦った鬼であった。その鬼は、今までの鬼と違い、武器を持たずに何やらトゲトゲしいモノ―――いや、それは本当に金属のトゲなのだが―――がついた、黒い腕輪をしている。
「でえぇぇぇぇぇい!」
狼牙がマジマジと緑鬼の姿を見ていると、突然緑鬼が狼牙に向けて右拳を振り下ろした。それを狼牙は咄嗟に回避する。
緑鬼は続けて左拳を振り下ろす。それをやはり狼牙はひょいと避ける。また、拳が下ろされ、それを狼牙が避ける。それが続いていた。
「まったく、何やってるんだ」
その様子を見ていた光が呆れたように言い、拳の雨が降る場所へと向かう。その途中、振り返りながら、千里へ指示を出す。
「お前はその大筒で遠距離からサポートしてろ!」
「はっ、はい!」
千里は驚きながらも返事をする。・・・・・その返事をしている千里の頬が赤く染まっていると光は思ったが、気のせいだと決め付け、余り気にしないことにした。
一方、狼牙は、降り注ぐ拳の雨を避けつづけていた。
その拳は避ける事は出切るが、間髪なく降り注ぎ、隙が無い。狼牙は隙を見つけられず、反撃することが出来ないでいた。
(せめて、一度だけでも、攻撃を止めることができれば・・・・)
狼牙のその願いは、早くも叶うことになった。
―――ガキィン
鈍い音がしたかと思うと、光が緑鬼の拳をその巨大な盾で受け止めていた。
その光景を、狼牙はしばらくボーッとしていたが、
「何してる! 早く反撃しないか!!」
「あ、あぁ!!」
光の声で我に返り、緑鬼に向かって走り出し、飛ぶ。
狼牙はそのまま緑鬼の顔の高さまで飛び、回し蹴りを入れる。
「があ!!」
緑鬼の顔は勢い良く左の方へ向く。そのまま三百六十度回ってしまいそうだ。
顔を正面に戻した緑鬼は、まだ着地していない狼牙に向けて、拳を振るった。
「空中では身動きが取れまい! 貰ったぁぁぁ!!」
だが狼牙は、その突きを身を捻って避け、緑鬼の手の甲の上へと着地した。
狼牙はそのまま緑鬼の腕を駆け、緑鬼の顔の目前までせまると、これでもかとグーの嵐をお見舞いする。
「あべぶぼげふぐぼっ!」
その為、緑鬼の顔があらゆる方向へと向く。
「・・・・・・」
狼牙は狼牙で無言だが、反撃できなかった事に対して相当怒っているようだ。そういうオーラが滲み出ている。
一通り殴り終え、狼牙は下へと降りる。
そして、緑鬼の足下では光が盾に付いている杭を伸ばし、地面に刺している。そして、右手に持っている槍の手元で、いくつかのスイッチを操作している。
しばらくすると槍の先端が開き、中からは、何か銃口のような物が伸びる。そして、発射。
―――ドオォォォォォン・・・・・・
爆発。それは、アクションゲーム『モンスターハンター』に存在する武器、『ガンランス』の【竜撃砲】そのものであった。
その【竜撃砲】と思われる攻撃による爆発は、緑鬼を巻き込み、煙をもうもうと立たせる。緑鬼が見え無くなるほどの煙だ。
「【魔道砲】命中・・・・っと」
【竜撃砲】のような攻撃は、【魔道砲】と呼ばれるものらしい。その攻撃をした後、銃口は槍の内部に戻り、先端は閉じる。
「中々の威力だな・・・」
光の近くにいる狼牙が【魔道砲】を見て、そう呟く。
「やったな・・・・」
煙の中から声がし、緑色の拳が光を襲う。
「ぐわっ!!」
光は咄嗟に盾で塞ぐ・・・・だが、反動で槍を落としてしまう。
拳を盾で受け止めている為、拾いに行くわけにも行けず、狼牙の目から見て、絶対絶命であった。だが、光には、まだ武器があった。
光はいそいで盾の裏側に右手を入れる。
―――ガコン!
レバーでも倒すような音がしたかと思うと、光は盾裏から何かを引き抜いた。
それは―――剣であった。小さくも無く大きくもなく、平凡的な大きさの―――いや、若干、普通のものよりは大きい―――剣であった。
光は剣を抜くと、すぐさま盾から伸びている杭を盾内に戻し、後ろに飛びのく。
一瞬の出来事に、緑鬼は反応できず、力を込めていた拳に全体重を任せていた為にそのまま前のめりで倒れる。
少し砂煙が立つ。緑鬼は咳き込みながらも立ち上がる。光は、それを待ってましたとばかりに剣を横薙ぎに振るう。
当たるわけが無い。距離は10メートル以上は離れている。―――だが。
―――シャアアァァァァ!
その剣の刀身はいくつにも分かれ、伸び、鞭のように撓る。そう、それは蛇腹剣である。
蛇腹剣。別名、鞭剣。その別名の通り、剣にワイヤー等の紐状の物を通し、伸ばすことで鞭、巻き上げ、連結させることで剣としての役割を併せ持つ武器である。ただ、あくまでも机上での架空の武器であり、過去にこういった構造が成功した例は歴史上存在しないのである。
そういった武器であることから、狼牙は蛇腹剣を見、驚いていた。
存在自体は知っていたが、実際にあるとは。現実するのは無理だと聞いていたのに。そういう風に考えていた。
その蛇腹剣は伸び、緑鬼の両足に巻きつく。ただの鞭ではなく蛇腹剣である。刃が足に食い込み、血が滲み出る。
「ぐぅお!?」
思わず緑鬼は悲鳴を上げる。
―――ドォン、ドォン、ドォン!
そして、続け様に爆音。緑鬼の肩から上辺りを煙が包む。どうやら、準備を終えたらしい千里が弾頭を遠距離から三発打ち込んだらしい。
「いきますよぉ~! 二人とも、吹き飛ばされないでくださいね~!!」
作戦こそ立ててなかったものの、吹き飛ばされないでくれということは、あの奥義しかないことを、狼牙は察知した。
光はその奥義こそしらないものの、その忠告を素直に聞き入れ、再び盾に内蔵してある杭を地面に力一杯突き刺す。勿論、右手は緑鬼の足に巻きついた、蛇腹剣の柄を握ったままである。
「滅せよ、【轟滅砲弾】!!」
千里が今までとは違う弾頭をセットしてある、【滅撃の大筒】の引き金を引いた。
その弾頭は緑鬼に向かって、まっすぐ伸び、着弾。同時に爆発。
緑鬼に一番近い場所にいる光は盾に身を隠し、爆風から身を守っている。右手には伸びたままの蛇腹剣の柄が、やはり握られている。
狼牙は、咄嗟に引き抜いた【双牙の剣[狼]】を地面に突き刺し、飛ばされまいとしがみ付いていた。
千里は遠くからその様子を眺めている。結構な距離を取っている為、吹き飛ばされることは無くても、強力な爆発だったので強風が吹き付ける。
爆発が収まり、光は蛇腹剣を巻き上げ、剣に戻すと、盾に内蔵されているであろう鞘に収める。
狼牙は爆発によって、戦闘服やマントについた土埃を落としている。
千里は残りの弾頭の数を確認し、大筒のチェックを念入りにしている。
「合流地点に急ぐぞ。そろそろ他の皆も集まっていることだろうしな」
土埃を落とし終えた狼牙はそう言うと、二人を残してサッサと歩いていってしまった。
「ったく、なんでこうも、無口な奴は勝手な奴が多いかねぇ・・・・」
光はそう言いながらも途中に落ちている槍を拾い上げ、背負い、盾も背負って狼牙の後に付いて行く。
「あ、ちょっと、二人共待って下さい!」
千里は先に行ってしまった光の後をパタパタと追いかけて行く。その顔はどことなく楽しそうであった。
~第四班~
ここでもやはり、悪霊の殲滅は済んだようで、三人の使い手がゆっくりと合流地点へと歩いていた。
(・・・気まずい)
千は息苦しくてたまらなかった。班員の内、三分の二が無口な二人である。そりゃ息苦しくもなる。
ちなみに、その無口な二人こと由美と影は、辺りを警戒しながら、千の後を歩いていた。
この二人、似たようなキャラであるからだろうか。先程の戦闘では言葉を交わすどころか、アイコンタクトすら取らずに、見事なコンビネーションを見せた。だが、似たようなキャラである為、普段は無口。何も話さないので気まずくもなる。
(この気まずい空気をどうにかしなくては・・・・!)
千はこの空気を打破しようと思考をめぐらせる。・・・・・だが、その願いは嫌な方向で叶ってしまう。
―――バン!
銃声が聞こえたと思うと、千のつま先から数cm先にポッカリと穴が開いていた。
「うわぁ!?」
千は片足を上げ、仰け反りそうになりながらも驚いた。
無口コンビは背負っていた武器を取り出し、構える。遅れて千も、ホルスターから得物を抜き、構える。
銃声がした方向からは上位の悪霊の気配がする。
「・・・作戦を伝える」
急に影が口を開く。由美と千は驚くことなく、その言葉に耳を傾ける。
「攻撃から察するに、敵は遠距離・・・ようするに銃を使っている。私はその銃弾を打ち落とす。君達二人は敵の銃弾を気にせず攻撃。以上だ」
影は感情の無い声で淡々と作戦を伝える。
「了解」
由美も感情のこもっていない声で答える。
「・・・了解したよ」
遅れて千も答える。その直後、銃声が響く。すかさず、影も発砲する。
敵が撃ってきたと思われる弾丸は、誰にも当たることなく、打ち落とされた。
「行くぞ」
影が小さいがはっきりとした声で言う。それを合図に三人は走り出す。
―――バン、バン、バン
見えない敵から再び発砲。
―――チュン、チュン、チュン
それをすかさず影が打ち落とす。走りながら、それもスコープを覗きつつだ。
そう、影はスコープを覗きながら走っているのだ。
まだ敵が見えていない為、由美、千の二人は手出しが出来ない。この場で見えない弾丸を打ち落とせるのは霧の部下であるという影しかいないだろう。使い手であり、開放状態である由美と千ですら見えないのだから。
弾丸を打ち落としながら数十メートル走ったところで、敵が目視できる距離まで来た。茶色の巨大な鬼だ。武器と思われる物は、長身の銃。鬼の体に合わせてあるようで、やはり巨大だ。ご丁寧に狙撃用のスコープまで付いている。
千達が鬼を目視できる距離まで来て、しばらくの間はスコープを覗きながら狙撃してきていたが、目視でも充分撃てる距離まで近づいてきたのがわかったのか、スコープから目を話して撃ってきている。
ある一定の距離まで来たところで、千が立ち止まり、発砲。そして命中。だが、致命的なダメージは無いのか、血を流しながらも鬼は撃ってくる。
鬼は立ち止まった千に気付き、千に向かって発砲する。千はすかさず軽くステップを踏み、その場を離れる。
―――タッタン、タッタン、タッタン・・・・
リズム良く足音が響く。大抵の弾丸は避けているが、たまに当たりそうになる。だが、当たる事は無い。影が敵の弾丸を打ち落とすからである。
由美は千と影茶鬼と戦っている間、茶鬼との距離を縮める。時々弾丸を飛ばしてくるが、由美はそれを軽々と避けるか斧を己の目の前に突き出し、弾く。ただ、弾く場合は一度立ち止まらなければならないが。
ついに茶鬼と由美の距離は由美の得物が届く距離にまで近づいていた。茶鬼は思いの他、千達にてこずり、由美のことを気にしている暇は無かった。
由美は小さな声で魔術を発動させる為に呟く。術を唱え終えると同時に、由美の得物である斧の刃先が凍りつく。
「【氷帝・破斬】・・・・!」
由美はそう呟き、斧を下段切り上げで茶鬼を空中へ放り上げる。
「う・・お・・・!?」
茶鬼は一瞬の出来事に反応できず、目を白黒させている。
「ナイス、由美ちゃん!!」
千がいつの間にか、由美の真横をすれ違いながら由美に言う。
由美とすれ違ってから、ある程度の距離まで達すると、足を止め、ブレーキをかける。
そして、千は両手の得物の上部を互いに合わせ、銃に魔力を込める。
「【チャージ・バースト】!!」
千がそう叫び、引き金を引くと、二つの銃口から一つの太いビームが茶鬼に向かって照射される。
その反対方向では影が自身の得物であるスナイパーライフルを構え、
「チャージショット・・・シュート!」
そう叫ぶと同時に引き金を引く。銃口からは同じく太いビームが照射される。
両者のビームは茶鬼を貫く。そこは、丁度両者のビームが交わるであろう地点であった。
その後、魂を回収し、再び合流地点に先程と同じペースで向かう三人であったが・・・・・
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
(どうにかしてえぇぇぇぇぇ!)
息苦しい時間はまだ続くのであった。
~合流地点付近~
既に第一班以外の全員が合流地点の少し前で合流していた。
「へぇ、お前達も鬼に襲われたのかぁ」
炎人がいつものようにのんびりと言う。
「そうだよ。・・・・・・まぁ、それ以前の問題もあったけど」
疲れたように千が言う。どことなく暗い雰囲気を纏っているのは、気のせいだろうか。
「まぁ、大体予想は付くんだが・・・・・」
何となく察した狼牙は千を気遣うように言葉をかける。そんな狼牙の後ろを由美がくっつくようにして付いて行く。
「それで、後は合流するだけなんですけど・・・・」
千の隣を歩いている千里は、辺りを見回しながら言った。
「明達がまだだねぇ~」
千里の言葉を引き継ぐように、未来が言う。
「御主人がいるから、鬼が出たとしてもあっという間に倒して、すぐに合流するはずだ」
「・・・・といっても、私達より離れた距離を当たってるはず。合流が遅れるのは仕方無いことだと」
光、影がそれぞれ意見を言う。この会話から、どちらの方がどちらの方が賢いか分かるような気がする。
そんな風に会話をしていた時。
「みんな~!」
後ろの方から声がする。この声は・・・・・
「あっ! 明ぃ~!!」
そう、明である。後ろには霧がゆっくりと歩きながら付いて来ている。
明は、皆の姿を見つけると、走った。だが、運動がからっきしな明にとってはたった数十メートルの距離でも息を切らすには充分な距離であった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・みんな、もう集まってたのね・・・・」
「そのようだな」
荒い息をしている明の隣には、いつの間に追いついたのやら、霧が立っていた。
「ん、零牙はどーした?」
殊日が零牙の姿が見えないことに気付き、明に問い掛けた。
「あの馬鹿は、急に持ち場を離れて、どっかに行ったわよ!」
『零牙』という言葉を聞いた瞬間、さっきまで荒い息をしていた筈なのに、いつも通りの口調で怒っているように答えた。
(本当にあの馬鹿、どこに行ったのかしら。悪霊なんかに殺されてないわよね・・・・)
明は不安に駆られる。表情こそは冷静を保っているが、内心は零牙に関することでいっぱいである。
「おぉーい!」
そんな時に零牙の声が聞こえる。あぁ、零牙の事を考え過ぎて、零牙の声まで聞こえてきた・・・・そう思いながらも後ろを振り返ると・・・・・。
零牙が猛スピードでこちらに駆けてくる。明はあっという間にさっき考えていたことを忘れ去り、「良かった、大丈夫だったのね」、と声をかけるつもりであった。
―――ズザアァァァァァァァ・・・・・・
零牙はその場で咄嗟に急ブレーキをかけ、明達の前で止まる。そこで始めて気が付いたが、零牙は何か抱えている。
それは・・・・鎧を身に纏った少女だった・・・・・?
「ねぇ、零牙君。そろそろおろしてくれないかな・・・?」
「あ、そうだな。・・・・んしょ」
零牙が少女を降ろす。その光景を皆は呆けたように見ていた。何が何だかサッパリ分かっていないようだった。いや、分かれという方が難しいか。さて、そんな中、明は怒りに満ちていた。何か分からないが、怒りが込み上げてくるのだった。
「零牙の・・・・・」
「ん?」
「零牙の・・・・・」
「俺がどうした?」
「零牙のバカアァァァァァァァ!!」
「グホアッ!?」
零牙は少女・・・もとい、零を降ろした数秒後には、明の【封印書】で思いっきり殴られたのであった。
「・・・・殺すつもりか」
零牙は頬を擦りながら呟いた。先程までは、タンコブやらアザやらでボロボロだったが、殊日の【治癒術】のお陰ですっかり治っていた。
「ふんっ!」
明は零牙の右隣りを歩きながら、そっぽを向いた。
「大丈夫? 零牙君」
零牙の左隣りには、零が零牙を心配しながら話し掛けていた。ちなみに、彼女も捻った足を治してもらっている。
「アハハハ・・・・」
「こりゃ修羅場だねぇ~」
炎人は苦笑いしながら、未来は何やらニヤニヤしながらその光景を見ていた。
「まったく、緊張感というものが無いな・・・・・」
「・・・・けど、それが派遣部のいいところ、と木戸先生が」
狼牙は呆れたように言い、由美は無表情―――いや、無表情なのは無表情なのだが、微かに頬が赤くそまっている―――で以前、木戸先生が言っていた言葉を言う。・・・・いつの間にそんなことを言っていたのだろうか。
「持って来た弾丸はあとこれだけか・・・」
「転送出来ることは出来るんだけど、結構疲れるから・・・・」
銃雷姉弟は弾丸と弾頭を補充するか相談中である。
「疲れた・・・・」
グッタリとしているのは、殊日である。一、ニ体の悪霊を相手に派遣部でかかっていった経験はあっても、派遣部を上回る数の敵を戦うのは始めてなので仕方が無いといえば仕方が無い。元々、殊日の役割はサポートのみで、戦闘向きではないのである。
「さて、次で最後だろうから、私は見学でもしていようかね」
「御主人、高見の見物でも決め込むのかよ?」
「フム。悪く言えばそういうことだな」
「どうにしろ、私は霧様の御命令に従うのみ」
生徒会役員である三人組は、周りに聞こえないように声をひそめて会話している。どうやら、落下してきた物の周辺で敵に出会っても、手出しする気はないようだ。
さて、こんな派遣部部員達には何が待ち受けているのだろうか。
空は灰色の雲に覆われていた。
しつこいようだが、まだまだ続く。
次回、[覚醒シ、銀ノ雷]に続く。
さて、どうだったでしょうか? ちなみに約一万四千字です。
あ、それと、結構な数が集まったので、味方側、ようするに使い手サイドの投稿キャラは締め切ります。
最初は三人だけって書いてたんですけど、勿体無いので全部採用しちゃいます!!
あ、悪霊の方の投稿キャラは不特定多数募集中なので締め切りはほぼないです! じゃんじゃんどうぞ!!
これでメインが予定では二十人超え・・・・。大変なことになりそうだ。
あと、そろそろ体育祭じゃないので、次回のサブタイは変えます。・・・多分、大体の展開は予想がつくと思います。
それでは、また次回!!