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プロローグ
コツン…
コツン…
コツン…
コツン…
非常灯の緑だけがぼんやりと反射するリノリウムの床を固い靴底が弾く音だけが満たし、白い壁を細く長い指がつうっ、と伝う。
雲が流れ、微かに入った月明かりに音もなく歪む赤い口許だけが照らされ、消えた。
「ぽろん♪」
携帯電話からメッセージの着信を知らせる音が響く。
小説の投稿サイトからのおすすめの新着小説を知らせるメールだった。
画面をスクロールしながら新着情報を流し読む。ふと途中で目が霞み、文字が歪む。昨日遅くまで本を読みすぎたかも、と目をこすり画面を見ると、「悪魔の種」というタイトルが目に入った。
あらすじには「一粒で絶望の物語が、一番近くに」とあるだけだった。タグには「学校の怪談」「ホラー」が並んでいる。
学校の図書館にある学校の怪談シリーズは読み終わったな、と思いながら、軽い気持ちで青く光るリンクに触れた。