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もふもふの絵

作者: MUMU



趣味の山歩きを満喫していた時、ふと誰かの庭に出てしまった。

小さいながらも手入れのされた美しい庭園。そこにはイーゼルが置いてあり、折りたたみの椅子に座った老人が、膝の上でウサギを撫でている。妙にもふもふしたウサギだ、アンゴラウサギというやつだろうか。


老人は皺だらけの指を動かし、ウサギの毛の隙間を探るように動かしている。ウサギは抵抗もせず、心地よさそうに目を細めている。


僕がこんにちは、と挨拶をすると、老人も柔和に笑って挨拶を返す。


絵を見れば、青空に浮かぶ雲の絵だった。雲だけとは風流なことだ。いや、よく見れば端の方に虹が見えている。まず青空と雲を書き、その上に虹を書き加えるつもりだろうか。


老人はウサギを撫でていた手を止め、指をキツネの形にして絵に触れる。どうも絵の質感が妙だ。二、三歩近づくと、それは実にもふもふした絵だった。

なんと老人は、ウサギの抜け毛を埋め込んで絵を描いていたのだ。

聞いたことがある、触れられる絵というやつだ、様々な素材で絵を描く技法だ。


「すごい技法ですね、でも雲の質感がよく出てて、素敵な絵です」


そう感想を述べると、老人は嬉しそうに眉を歪めて笑う。


「三年かかって、ようやく雲だけ完成です。自然な抜け毛しか使えないもので、時間がかかります」


見れば、青の部分は花びらだ。アジサイにブルーデージー、ネモフィアなどの花びらが敷かれている。これは夏の空だろうか。濃い青の下地の上から水色を散りばめてあり、空からの光線を、鮮烈な夏の空気を感じる。そしてわずかな花の香り。


「では、虹はどうやって」

「犬とか、キツネとか、色々な獣から分けてもらって、少しづつ。まだまだ時間がかかります」


僕は空を見る、都合よく、太陽の周りに虹が出ていた。

僕はふと思う、あの虹は獣の毛のようにもふもふかも知れない。触れると手が沈みこみ、柔らかく暖かいのではないかと。そして七色の芳醇な香りを放ち、僕はそこに寝そべり、次の雨が来るまで長い長い昼寝を楽しむ。



いつか虹に触れる時まで、この想像は大事に覚えておこう、そう思った。




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