10話
「はじめが遊んでくれない……」
「部活忙しそうね」
「うん」
結局あのショッピング以来ほとんど会えてない。せっかく夏休みなのに。
「会いに行けばいいじゃない。学校にいるんだし」
考えたら、その通り。由菜に勉強を教えるのも飽きたし他にする事も無いし。
と、いうわけで、着替えて学校に来ました。
木陰に座って遠くから眺めていると、休憩時間になったのかはじめがこっちに走ってきた。
「菜々花先輩どうし、ちょ、だめです汗かいてるし汚れますからっっ」
抱きつくと慌てたはじめに剥がされてしまう。別に気にしないのに。
「会いたかったんだもん」
「すみません。遊びに行けなくて。わたし、人一倍頑張らないと、みんなの足を引っ張っちゃうから。練習試合も近くなったし」
練習試合、あるんだ。ソフトボールってルールもよく分からないけど、
「それ、見に行ってもいい?」
「良いですよ。わたしがいい所を見せられるかは分かりませんが」
「うん」
私自身、それなりに体力はあると思うんだけど球技はすごく苦手。身長はあるので色々と誘われて体験に行ったものの、コントロールの悪さに驚かれた経験がある。
だから部活に入ってるだけでも凄いと思ってる。それに、はじめを見れたらそれで良いし。
「飲み物、持ってきてますか?」
「ううん」
日除けに麦わら帽子を持ってきた以外は何も持ってこなかった。
「ちゃんと水分とらないと危ないですよ。何か買ってきます、この間のアイスのお礼に。何が良いですか?」
「私も一緒に行く」
「そうしましょう」
麦茶を買ってもらった。自覚してなかったけど、喉が渇いてたみたい。一気に沢山飲んじゃった。
「はじめも飲む?」
「! あ、えっと、はい。一口だけいいですか?」
「うん」
何故かぼーっとしているはじめは慌てたように答えて受けとった。
嚥下した喉元と汗の香りに、そういえば最近夜はご無沙汰だなと思い出す。この間付き合うかって話したけど、由菜のせいで有耶無耶になっちゃったんだよね。本当、邪魔しかしないんだから。
「間接キスだね」
「はい!?」
「どうしたの?」
ますます挙動不審なはじめからお茶を受け取り、歩き出す。
「い、いや、先輩はそういうの気にしないタイプかと思って」
「気にしないよ。はじめだし」
そうやって少し話した後、はじめはコートに向かう。
「はじめ」
「はい、わっ!?」
もう一度抱きついて、今度は唇を重ねた。
はじめとは、こういうこともしたいと思う。なんでだろう。今まではただ、来る者拒まずなだけだった。気持ちはいらないと思ってたんだけど。
「なっ、なっ!?」
「頑張ってね」
◇ ◇ ◇
「ひゅーひゅー! こりゃお熱いねぇ」
「はーじーめー? 彼女がいたなんて聞いてないんだけど?」
あぁ……これは完全に面白がられてる。見られてたやつだ。そりゃ、そうだよね。不意打ちでそこまで気にしてられなかったけど。
菜々花先輩ったらもう!
「すっごい美人じゃん? 目の保養になるよね。特にあの……」
「違います」
「んん?」
「彼女とかじゃ、ないです……」
我ながら、なんて説得力のない言葉かと思うけど。それが事実だ。
「でも、キスしてたじゃん。べったりだったし。それってつまり、そういうことだろ?」
「最初からスキンシップが激しいんですよ。菜々花先輩は」
いちいち気にしてちゃもたないんだから。割り切らないと。
「よく知ってるわけじゃないんだけどさ。そういうタイプじゃないよね、あの人」
「え」
「結構ドライだよ。いつも誰かと一緒にいるけど、付きまとわれてるって感じ? あんな風にはしゃいでるイメージ、今までなかった」
「会ってすぐにハグするのってデフォですよね。やめてくださいよ意識しないようにしてたんですから……」
早口になりながら頬が熱くなるのを感じる。きっと暑さのせいだ。
「キスまでされといて? ま、まだ見てくみたいだし、かっこ悪いとこ見せたくないよな。後半も頑張ろう」
同学年の先輩たちが言うならもしかして本当に?
う〜、練習に集中できなくなりそう。あとで菜々花先輩には文句言わなくちゃ。
◇ ◇ ◇
「先輩のせいで集中出来なかったじゃないですか! なんであんなことしたんですか?」
「あーあー、はじめが人のせいにしてる」
「うっ」
すれ違いざまに先輩にチクリと言われてしまい、当然言い返せるわけもなく。反省の意味をこめてわたしから菜々花先輩の手をとる。
「嫌なこと言ってごめんなさい菜々花先輩。一緒に帰りましょうか」
「! うんっ」
そんなに嬉しそうな顔されたら、もう怒れない……。
ギュッと手を握り返し、足軽に歩く先輩を見てると、なんだかどうでも良くなってしまう。
「はじめ、今日は泊まりに来て?」
「分かりました。明日は休みなので、良いですよ」
「じゃあ、明日はデートできる?」
「はい。どこに行きましょうか。あとで考えましょうね」
「うんっ!」
うちのこかわいい!!