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くたばれ学校の七不思議  作者: 門石新
4/13

踊り場のカガミ 1

「っふぅ、確かに狭いね」



 後ろからかかる声は無視する。


 入り口を潜ったここはさっきまでと違う、完全に七不思議の領域だ。


 さんざん体験して知ったハサミの恐怖は当然風化などしてるはずも無く、GBが明らかに圧倒していた記憶も何の慰めにもなっていない。怖いもんは怖いのだ。消化もしてない。克服もしてない。誰かがそれに勝ったところで、僕自身がそれに敵わなかったという事実が消える訳ではない。


 いや、敵わなかったなんて言える状況ではないよな。純粋に相手になり得なかったのだから。


 もし歌が聞こえたら、その瞬間逃げることすらできなくなる。GBはあっさりまた撃退するのかもしれないが、彼女が今潜ってる扉をその歌が閉じないとも限らない。確かに『徘徊するハサミ』は比較的最近追加された七不思議だが、だからといって旧校舎の人喰いの犯人では無いとは言い切れないのだから。



「よっいしょっと。うー……やっぱり普通の入り口から入りたかったかな」


「ここから入るのが様式美だって説明しただろ」



 真後ろに立つ気配に一息つく。


 とりあえず、最低限身を守れる可能性は確保できた。可能性。あくまで可能性だ。GBが何者かは結局よくわからないし、何ができるのかもわからない。あの日はたまたま運が良かっただけかもしれない。まぁあの手際の良さはどう考えても運が良かったで片付くものじゃないと思うけど。



「それで」



 ぱっぱと服を払うような気配がする。随分のんびりだな。


 様子見で肩越しに振り返る。本当は向き直りたいが、いくら僕が松葉杖3級(自称)だとしても体を固定するラインが脇にくる以上振り返るという動作は非常に辛い。すぐに動けるように重心を前に置いていればなおさらだ。



「あんた結局何がしたいんだっけ」


「んー」



 あれ? 服装、前見たときみたいな黒尽くめになってる?


 そんな疑問を吹き飛ばすように眼前に鈍く白く光るものが突きつけられる。



「とりあえずここの七不思議を駆逐しようかな」



 ホームラン宣言のように突き出されたそれは、間違いなくいつだったか眼前に突き刺さった金属バットだった。


 え? どういうこと?



「さて、では七不思議を駆逐しに行こうか」


「い、いやいやいや」


「ん?」



 服装が真っ黒すぎていや、もう服? それ。見ようにも見えないんだけど。前回校舎内で見たときと全く同じ、絶烈で不可侵な黒。スーツっぽくも見えるけど、どっちかっていうと頭に乗ってるフェルトハットっぽいものの方が印象に残る。前回なかったぞそれ。



「あんた、もしかして着が」


「おおっと、質問はよしてくれないか? 今はもう仕事の時間なんでね」



 うつむき気味に帽子で目元をかくしてカッコいいとでも? ああ、カッコいいな。決まってるよ畜生。どうせなら金属バットやめてマシンガンにしてくれない? ただ、つばの影からギラギラしてるの目だよね? なんか黒いものがギラギラしてるみたいですっごい怖いんだけど。


 そんなこっちの心情を知ってか知らずか、GBは右手に握られた金属バットをその手の中で4回転させ、地面に突き立てる。



「とにかく君、一番手っ取り早くあえる七不思議まで案内してもらおうか」



 なんだか段々GBのシルエットがぼやけると同時に大きくなってきた気がする……威圧感が今までの非じゃない。ああ、なんかあれだ。前回遭遇したときと同じ。触れたら悪意無くボッコボコにされる感じ。



「さぁて、何がある? どこにある? ここにはどんな怪談がある?」




「一から十までつきあってもらうよ?」




 その見た目で歯が光るのは逆にダサい。




 さて、当然だが七不思議と言うからにはこの場所には七つ不思議がある。


 さんざんお世話になったハサミを筆頭に、どれも非常に危険度、っていうか意図して集めたみたいに攻撃性? 殺傷力? なんだか良くわからないがそんな感じのものが高い。



 理科室(通称)の『腑抜けの人体模型』。腑抜けって言うとなんだか弱々しい感じがするかもしれないけど、実態は当然聞いた通りのものとは全然違う。腑抜けの『腑』っていうのは臓腑の『腑』、要するに内蔵。内蔵の無い人体模型なんて何の役にも立たない訳で……いや、役に立つかどうかはどうでも良いな。とにかく足りない内蔵を求めているのだ、彼は。理科室に生きた人間が入れば問答無用で襲われ、それを奪われる。



 美術室(通称)にある『粘土細工の手の林』。それらは首の無いミロのヴィーナスのレプリカにふさわしいのが誰かでいつも喧嘩しているそうだ。ちなみに他のに対して優位に立つのに一番有効なものは『お土産』だ。首が無いミロのヴィーナスのレプリカ、その腕の座を争うもの達に取って妥当な『お土産』。まぁ言わずもがな。当然美人で女性であるほど危険。でも割と節操がないらしい。



 音楽室(通称)には『轢き語りのピアノ』。伊達や酔狂で『轢き』とついている訳ではない。音楽室を駆け回り人間を引き潰す。そのとき、まるで運命が扉を叩くような音が響くと言う。それは単にベートーベン交響曲第五番が流れるで良いんじゃないだろうか? っていうか語ってない。



 ……改めて確認するとげんなりするくらい殺しにきてる怪談ばかりだ。しかもこれで半分。勘弁して欲しい。


 いや、勘弁して欲しいって言ってもGBに引きずり回されてそれどころじゃなくなるのだろうけど。


 ていうか勘弁してくださいって言ったときのGBの反応とか絶対考えたくない。そもそも多分言わせてもくれない。



「それで、どこに向かってるんだい?」


「ここの七不思議って、ほとんどが明らかなテリトリーを持ってるんですけど」



 そこに行けさえすれば会えるんだけど、問題が一個あるんだよね。さっきの説明の『(通称)』ってところ。繰り返すけど、ここは旧校舎と呼ばれてるだけで、本来既に学校ではない。要するに、案内図とかも無いし、外に札とかも無い。要するに、一部屋ずつ覗いて見ないとわからない。たぶん、今のGBがそんな言い訳をきいてくれるとは思えない。



「二番目に広いテリトリーを持ってて、にもかかわらず必ず会える。そんなやつのとこです」



 この《旧校舎》には、別館を会わせて全部で4っつの階段がある。そのすべてをテリトリーとして、しかも、どこにでも常にいる。そういうちょっとめんどくさい怪談。目を会わせた瞬間にこちらの命を奪うとも言われているそれ。



「このカーテンのむこうです。『踊り場のカガミ』は」




 なんだかここんとこ説明ばっかりしてるような気もするが。


 とにもかくにも説明しない訳にはいくまい。



 『踊り場のカガミ』



 確か不思議の5番目あたりに登録されていただろうか。内容としては比較的に陳腐でありがちなものだと思う。学校の踊り場にある鏡をのぞき、それに映る虚像の自分と目が合うと鏡の中の世界に連れて行かれると言う。ほんとありがちで陳腐な噂だ。この学区域にも少し前まで五つ六つくらいはあっただろうか。


 この怪談の恐ろしいところは、まずテリトリーの広さだ。


 普通は、『午前二時』とか『深夜零時』とか決まった時間の指定があると思う。わかりやすいところでは『四時四十四分』なんてのもきいたし、わかりにくいのでは『普段より一個多くチャイムがなった日』とか。特に狭いのでは日付指定までされてたりする。卒業式の日とかね。


 この場合はもっとずっと広い。『夜』文字にするとこの一文字だが、換算すれば一日の3分の1程度の広さになる。


 しかも『屋上の手前の踊り場』だとか『時計台の裏の踊り場』だとかなんとかって指定も無い。


 4階建ての4箇所、地下入れると計16枚。



 その上『夜』と言うのは、より正確に言えば踊り場に一切窓から光が入らない時間、と言う条件だ。



 勿論昼間にこんな場所にくる奴はいない。この場所は七不思議に興味を持った命知らずの馬鹿がくる場所だ。そもそも意味が無い『夜』という誓約な訳だが、もし昼間にここにくる機会があれば思い知るだろう。その恐ろしさを。例えば夕日が差し込まない踊り場、あるいは窓が曇っている踊り場。たまたま空が曇っていた。そんな理由だけであっさり、覚悟もしないまま連れ去られる恐怖を。





「以上、ジローのカンペのコピーだった訳ですが」


「それでどこもかしこも踊り場にカーテンがついてるわけだ」


「ええ、まぁ。そんな訳でカーテン開けないで……」



 ああくそ、片腕を松葉杖に引っ掛けてるとメモがポケットにしまいにくいな……ノートのままだったら最悪だった。メモ用紙にしてきて正解だな。さて、きいた感じどうにかできるとは思えないんだけど。GBのことだから鏡を全部割ったりするのかなっと、



「おお、すごいな!」


「はい?」


「鏡の中の自分が勝手に動いてるぜ!?」



「は?」




 それはいったいどういうことでせうか? 等と聞くいとまも無い。


 いや、それどころか振り返るいとますらなかった。



 ぎりぎりと奇妙な音が響く。



 割れる音ならわかる。だって鏡だ。そもそもそうするだろうと思っていた。でも違う。



 擦れるような音、だ。


 削がれるような音、だ。



 GBの金属バットが踊り場のカガミを削っている。


 大きく大きく何かを刻み込み、そして叩き割った。らしい。



 飛び散った鏡のかけらに頬を切り裂かれて、初めて事態を理解した。



「な、なにしてるんですか!?」


「いや、だって腕つかまれて引きずり込まれそうになったからさ」


「嘘だ! だってただ叩き割った音じゃなかった! 絶対大きくGBとか刻んで遊んでたでしょ!」


「知らんなぁ、そんな話は」



 まるでバトンのように両手でバットを振り回し、眼前に突きつける。そろそろこの動作慣れてきたんだけど、もしかしてちょっと麻痺してるかな? 僕。粉になったガラスがキラキラ光って流れる。わーきれい。でもあんた傷一つないし、ガラスのかけらもついてる気配無いしな。僕結構刺さってるんだけど。



「さて、せっかく16枚あるんだし、一個ずつ訪ねて行こうか」

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