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くたばれ学校の七不思議  作者: 門石新
1/13

プロローグ もしくは徘徊するハサミ 1

「参ったな」



 駆け込んだ教室の教卓の裏で座り込む。


 足首がずきずき痛んだ。パンパンにはれている。靴を履いているのも苦痛だ。もう階段を駆け上がったり駆け下りたりするのは無理だろう。廊下を走れるかだって怪しい。


 ああちくしょう。ちゃんとわかっていた。生き残るために最適の手段はなんなのか。


 まさかあいつにそれを実行する勇気があるとは思わなかったけど。





 ありがちな話だが、僕の通ってる中学校の旧校舎には七不思議がある。


 ありがちだと笑い飛ばせないのは、それに関わってるらしい行方不明者と死亡者が合計で12人。けが人が8人。転校生が5人いることだ。それもたった6年間で。


 さらに笑えないことに、今僕はまさにその不思議のうちの一つに関わっている。


 全不思議の中で最も犠牲者が多い不思議。



——不思議ノ死『徘徊するハサミ』——



 名前の通り構内全域をさまよい歩く、鋏を持った人間のような形の『ナニカ』。


 ソレの歌声が響くとその階の窓や扉は閉じてしまい、ソレが望まない限り開くことはできないという。


 その上、理科室にいる『腑抜けの人体模型』とかとは違って特定のテリトリーを持たない。つまり一度目をつけられれば、構内全域どこにいても逃げ切ることはできない。


 捕まるとまず問いかけられ、その質問に正しく答えないとひどい目に遭わされる。らしい。


 問いの内容は「彼のハサミはどこにあるか?」。


 その答えは・・・





「貴方が持っているというと『節穴』と言って目をえぐられ。知らないと言うと『調べる』と言って腹を裂かれ。嘘を言えば『嘘つき』と言って舌をきられる。だっけか。赤マントもそうだけど正解が無い問いってやだよな」



 ちなみに赤マントには答えない、と言う正解があるとされるモノもあるが、こちらは答えないでいると『喋れないなら』と言って口を裂かれるそうだ。逃げれば当然追いかけてきて、あっという間に追いつかれてしまい、再び質問されると言う。どんなに逃げても必ず追いつかれ、三たび追いつかれると殺されるそうだ。もちろん、死人に口無しだし、ソレに関しては噂の域をでないのだが。


 しかし、これだけ凶暴性と危険性を伝えながら、不思議なことに無傷で生還したものが二人いる。どちらも二人でいるときに遭遇し、もう一人は死亡ないし瀕死の重傷を負ったと言う。


 そう、つまりだ。


 生け贄がいればいい。そうすれば無事帰れる。



 この場合の生け贄が、僕のことなのが難点だ。



「ずんずんとぅるるとぅーとぅーずんずんとぅるるとぅーとぅー♪」



 ああ、馬鹿みたいにへたくそな鼻歌が聞こえてきた。そもそも三階の窓から逃げることなんて考えていなかったが、これで絶対に不可能になった。と言うことだ。隠れたままでやり過ごせることを祈るしか無い。



「ずんずんとぅるるとぅーとぅーずんずんとぅるるとぅとぅとぅ♪」



 これがレクイエムとか、無いなぁ。嫌だなぁ。


 ……怖いなぁ。



「ちゃららーらっちゃーらっ♪」



 歌声が近づいて来るのにあわせて足音も近づいてくる。しかもよその扉が開く音は一切しない。僕がどこにいるかということがそれなりに把握されてるわけだ。


 つまりこの足音はそのまま絶望の足音でもあるわけか。いや、そもそも『徘徊するハサミ』が絶望そのものだったな。



「ちゃらちゃらちゃらちゃーらっ♪」



 ああ、なんて能天気な歌だ。とても幽霊が歌うものとは思えない。


 これは眞弓野といい勝負だな。


 それに反比例してんのかなんなのか、足音はやたら固くてつめたいし。



「ちゃららーらっちゃーらっ♪」



 だけどちょっと待てよ、あいつ足なんてあったか?


 どうだろう? 属性は幽霊のたぐいだと聞いてるし、足は無かったような気がする。


 それにいままで気づかなかったけど、さっき聞いた時はもっと別の歌だった気もしてきたし、声の質も別物だろう。


 それってつまり、僕とあいつ以外に犠牲者候補がいるってことで、それはつまり……



 生け贄候補が他にもいるってことじゃないのか?



 冷静でいられたのはその言葉が頭に浮かぶまでだった。。


 次の瞬間、気がつけば僕はそこにいるはずの誰かを助けるつもりになって、ああ、ホント身の程知らずだけどそんな気持ちになって教室を飛び出していた。


 ……というか飛び出そうとしたけど足が動かなくてまるで漫画みたいに転がって教室を飛び出すはめになった。


 つんのめって、両腕をついて、必死に顔を上げて、



「ちゃらららららちゃーらっちゃー♪ ちゃららーらっちゃーらっ♪」



 振り下ろされたバットが目前の床をえぐった。


 ああ、こんなのと立ち向かうつもりだったのか、それとも助けるつもりだったのか。


 どっちにしろなんて勘違いをしてたんだろう。



 そんな考えしか思い浮かばなかった。



 幽霊退治屋の名前を高らかに叫び、三日月のように口端をつり上げるその人影を見て。


 僕は今日で一番この場所にいる事を後悔した。

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