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第4章:風の将ヒュウカ

背の高い木々が生い茂り昼間でも薄暗い林の中を、ユウヤは走っていた。


「はぁっ・・・はぁっ・・・何だって、こんなことになってんだぁああああああ!」


少しばかり時間を遡ってみよう。

それはほんの1時間ほど前のことだった。



まだ日も完全に昇りきらない早朝にウォルトを出発した俺たちは北の王国に向けて街道を歩いていた。


「それにしてもなんたってこんな時間に・・・・・・あたしは眠いぞ・・・」


「あぁ、それは日が昇ってからだと人の行き来やなんかがあって迷惑がかかるだろ? あいつらはいつ襲ってくるかわからないから、極力人気の少ない時間帯を選んだって訳だよ」


「へぇ、ずいぶんと回りに気を配るんだね、やっぱ魔法で爆発起こして巻き込まないようにするためかい?」


「ゼル、人の話し聞いてたか?」


「べっつに〜」


そのとき、上空からふわりと一人の女性が舞い降りてきた。

尖った耳に赤い瞳、着こなした十二単と背中に生えた透明な羽がなんとも妖しい風貌である。


「おぬしら、こんな朝っぱらからギャーギャーと傍迷惑ぞ」


「あ、申し訳ない・・・・・・」


ついついいつもの癖で謝ってしまった。


「で、そちらは何様で?」


ゼルが警戒した面持ちでその女性に問いかけた。


「わらわか? わらわは、風の魔将軍ヒュウカ・ヒエ・ヒルフと申す。以後お見知りおきを、勇者ご一行」


その瞬間、即時に武器を構えた。


「こんな時間から早々と!」


「僕らを潰しに来るとはね!」


「ユウヤ様、もう少しお下がりください」


「わかった」


イサネとゼルが先手必勝とばかりに攻撃に移った。

横薙ぎに振るった剣と、詠唱破棄で放たれた火柱が同時にヒュウカを襲った。


「まったく、挨拶がこれとは礼儀知らずよのぅ」


ヒュウカの言葉と同時に火柱が消し飛び、イサネの剣をはじき返した。


「くっ!」


「僕の魔法が・・・さすが魔将軍!」


距離を取って武器を構えなおすイサネとゼル。


「わらわが用があるのはそこのわらしのみ、他は退散してもらうぞ」


手に持つ扇を開きひと振りすると、もの凄い突風が吹き荒れた。


「うわぁ!!」


「ユウヤ様!!」


「リサ姉!!」


「なんっつうか、おさだまりですね・・・・・・」


その猛風に耐え切れず、ユウヤたちはバラバラに吹き飛ばされてしまった。


「しまった、わらしまで吹き飛ばしてしまったわ・・・しょうがないのぅ」


ヒュウカが扇についている鈴を鳴らすと、どこからかカラスくらいの大きさのコウモリがたくさん集まって人の姿になった。


「何ようか、風将よ」


「ヴァラド、おぬしの能力ちからで異界の者を探してもらいたいのじゃ、つい一緒に吹き飛ばしてしまってのぅ」


「・・・・・・しかたがないですね、御身には契約の証があるゆえ逆らえませんし」


「たのむぞ」






「いってぇ〜・・・、ずいぶんと吹き飛ばされたな」


ヒュウカの風に飛ばされ、何やら森の中腹辺りまで来てしまったらしい。


「ふむ、イサネ達は・・・まぁ大丈夫だろういずれも超人ばかりだしな」


辺りを見渡してみると近くに鞄が落ちているのを見つけた。

中のパソコンが壊れてないかを確認して、愛用の手袋をつける。


「さて、問題はこれから俺はどっちに行きゃいいんだ?」


木々に覆われて、空は見えず、突き飛ばされたせいで方角もよくわからなくなっている。


「まぁいいか、とりあえず木に印でもつけながら適当に進んでいきゃどこかに着くだろ」


なんて軽く考えて歩き出した。

歩きだしてしばらくすると人影を見つけた。

木々が邪魔でよくは見えないが暗いながらもしっかりと人の影が地面に映っている。

こんな森の中に一体誰だろうか。

不審に思いながらも声をかけてみることにした。


「あの、こんな森の中で一体なにをしているんですか?」


声を掛けられた人影は立ち止まり、こちらに振り向き動かなくなってしまった。

どうやら警戒されているらしく、なるべく驚かせないように姿の見える位置まで移動した。

俺は相手の姿を見て言葉が出なくなった。

黒いタキシードに黒いマント、いかにもな感じにまるで吸血鬼やドラキュラと行ったイメージだった。

逆に向こうはこちらの姿を確認して警戒を緩めてくれたのか、穏やかな声でさっきの問いに答えてくれた。


「私はとある人に頼まれて人探しをしている真っ最中なのですよ」


「こんな森の中で人探しですか?」


「えぇ、なんでも、今は珍しい黒い髪をした少年だとかで・・・・・・そういえば君も黒い髪をしていますね」


その一言で二人の間に緊張が走った。


「そうですね・・・・・・探し人の名前なんてのわかりますか?もしかしたら心当たりがあるかも知れないんで」


「名前までは流石に、ですがあざなとでもいうのですか、そういうものなら・・・・・・その前に、御膳はなぜこのような森の中に?」


お互いにゆっくりと間合いを取りつつ相手の出方をうかがう。


「もしかして貴方に人探しを頼んだのって“ヒュウカ”って人じゃありませんか?」


「・・・・・・御膳は知る必要のないことだと存じますが?」


しばらく沈黙が続く

木々の葉がすれる音がやたらと大きく感じられるほどの静寂、それは日の出を告げる鳥の声と同時に破られた。

鉄と鉄がぶつかり合うような音が辺りに響き渡った。


「「貴様、何者だ!!」」


ユウヤのメリケンと男の伸びた爪が競合う中、お互いを睨みながら言葉を発した。


「俺はユウヤ、お前が探してるであろう勇者って奴だよ!」


「私はヴァラド、吸血の一族の長だ」


「へ、吸血鬼かよ、なら日の光はまずいんじゃないのか」


「誰が吸血鬼だ! 確かに吸血の一族ではあるが断じて鬼などではないわ!」


飛び退り、間合いを計り、再びぶつかる。


「ふん、どうせ貴様も我らのことを蔑むのであろう! 水の無い、他者の体液を摂取しなければ渇き死んでしまう場所で過ごした我らを! 不潔な者と!吸血鬼と!見下すのであろう!!」


激怒したヴァラドの猛撃に押されつつも言葉を返す。


「なに早とちりしてやがる!! 逢ったばかりで人柄もわかんねぇのに蔑むもくそもあるか!」


「詭弁を! 生かしてつれて来いとのことだったが、不運にも死んでいたことにしてやろう。吸血が一族の長だけに継承されし秘術を、特と味わえ!」


言うやいなや、体がばらけ、カラス位の大きさのコウモリに変わった


「げ! そ、それは反則!!」


「まて! 逃げな! それでも勇者か貴様!」


「肩書き何ぞ知るか! 全ては命あってのものだねだ!」


ヴァラドに背を向け一目散に走り出した・・・・・・・




「はぁっ・・・はぁっ・・・何だって、こんなことになってんだぁああああああ!」


そもそも、あいつはそんなに悪い奴とは思えない、かといって殺意ギラギラのあいつの前に出て行くのは自殺行為だ。

しかしながら、もう走れそうにも無い。

木の幹に寄り掛かりながらどうするか考えていると


「見つけたぞ」


一匹のコウモリが木の枝に逆さにぶら下りながらこちらを見ていた。


「ま、まさか・・・」


そのコウモリの元にわらわらと大量のコウモリが集まり、ヴァラドの元の姿に戻った。


「散々逃げ回りおって、だがここまでのよう・・・・・・ん? なんだその不気味な微笑みは」


「いや、今とってもいいことを思いついたんだ。 コウモリってのはさ、口から出す超音波の反響で物の位置を把握したりしてんだろ? それになれるっつうことはさ、お前自身も超音波と視覚の両方で俺の位置を把握している、ちがうか?」


「・・・・・・お前、まさか!」


「そう、そのまさかさ! ゼルの魔法教えてもらっといて助かったぜ!」


「我、汝らの声を聞かん、我、汝の力を願わん、この想い、届きし時、我に汝らとの契約を交わし、その力の一端を行使することを可する。メロディーフェア!」


呪文を唱え終るとユウヤを中心に甲高い音があたりに響いた。

どうやら人に聞き取れる以上の周波数をも聞き取れるヴァラドには相当堪えたらしく、両耳を押えている。


「ぐぅ! くそ生意気な!」


音波探査を妨害されてバランスを崩しそうになるのを,

木の幹に手をつき支えながらそれでもおれのことを睨む。


「へ、効果は絶大ってやつか・・・・・・お前が俺ならこの好機を逃すかな?」


「く・・・姑息な」


「俺はまだ殺されるわけにも、捕まる訳にもいかないんだ。仲間のために!」


「貴様も・・・・・・」


ユウヤが一気に距離を詰めヴァラドに迫った。

しかし、攻撃が届くことはなく替わりにユウヤを見えない何かが襲った。


「かはっ! な、なにが・・・・・・」


吹き飛ばされ、幹に体を叩きつけられたのか寄り掛かったまま動く気配がない。

どうやら気絶してしまっているらしい。


「お主が苦戦するとは・・・・・・やはり面白い男よ」


声がする方を見るとヒュウカがゆったりとこちらに来るところだった。


「将・・・・・・」


ヒュウカは新しい玩具を買ってもらった子供のような微笑みを浮かべたままユウヤのそばに寄った。


「なにを呆けておる、さっさと城に戻るぞ。はようそいつを連れてまいれ」


相変わらずの微笑みのまだそう言い放つとさっさと飛び去ってしまった。

ヴァラドもユウヤを肩に担ぎ、そのあとを追った。




ユウヤがヴァラドとの戦闘に入る少し前、イサネはゼルと共に二人を捜していた。

ヒュウカの技で飛ばされたあと、ゼルの魔法で助けられたのはイサネだけだった。


「さて、これからどうするかだけど・・・」


「まずはユウヤを探さないと、あいつが狙われてるのは明白だからな」


「でもその前にやらなきゃいけないことがあるみたいだね」


ゼルが草陰に向けて氷の刃を飛ばした。

すると、草陰から緑の皮膚をした小さな鬼が飛び出してきた。


「ゴブリンか・・・たいしたことないな」


「でも数が多いね」


「一人頭ざっと30匹ってところか、1分で片付ける!」


二人はゴブリン達との戦闘に入った。




同刻リサーナ


「くっ・・・油断、しました」


左腕を押さえながら目の前に立ちはだかる相手を見た。


「まさか王国から程近いこの森に、密林の奥地に住むはずのプラントタイラントが居るなんて・・・・・・」


全長3メートル近いタイラントが大きく振りかぶった腕を振り下ろす。

それを左に飛び退き、杖で反撃する。


「せぇい!」


渾身の一撃だった。だが、タイラントは少しバランスを崩しただけでダメージは皆無に等しかった。


「グオォォォォ!」


今の一撃に激怒したタイラントが雄叫びをあげながら突進してきた。

それを待っていたとばかりに杖を構えタイラントを向かえた。

タイラントとの距離が残り五メートルを切ったところで彼女が先手を撃った。


「神の鉄槌をお受けなさい! セントクロス!」


神の加護を受けた杖を横薙ぎに振り抜いたあと、上段からふりおろす二連撃の技で破壊力はかなりのものだ。

流石のタイラントもこの攻撃には耐えられなかったようで、その場に倒れた。


「なんとか一匹は倒せましたが、この数、果たして逃げ切れるでしょうか」


そう呟くのと同時に木の陰から一斉にプラントタイラントが姿を現した。




「なんつ〜か、以外と普通なお城だな」


手枷をされた状態で連れてこられた城を地下牢から応接間らしき場所へ向けて移動している最中だ。


「以外とはどういう意味だ、貴様は一体どんな想像をしていたのだ」


手枷に付いた鎖を引くヴァラドがユウヤの事を睨む。


「いや、もっと崩れたいかにも古城ってな感じの場所を想像してたんだけど」


ユウヤのその言葉にヴァラドはため息をつきながら歩くのをやめ改めてユウヤに向き直った。


「われらは貴様ら人間よりはるかに高いプライドを持っているのだ。貴様が思っているような場所になぞ住めるわけなかろう」


そんなヴァラドに関心半分に考えていたことを尋ねた。


「なぁ、お前らってどういう生態してんだ?どうやら俺が持ってる知識じゃはかりきれないことばっかりだからちと気になった」


「貴様は自分がどういう状態にいるのかわかっているのか?」


「まぁ、大体はわかってるが気になるものは気になんだからしょうがないだろう」


「つくづく変な奴だな貴様は、まあ良かろう教えてやるわれらが種族のことを」


「変な奴はお互い様だ」


「われらは基本貴様ら人間と大して違いはないが、この地に移り住む前にいた場所が有毒な水のせいで食べるものも愚か水さえも使える状態ではなかった。だから他者の体液を摂取するように進化した」


「なるほどな〜・・・・話聞いといてなんだが、いろいろと災難な奴だなお前も」


「うるさい、貴様になど同情される筋合いはない」


お互いに相手を睨むような目で会話をしていると


「ずいぶんと遅いと思ったら貴殿等そんなところで何をしておる」


俺らがいつまでも謁見の間に姿を現さないことに痺れを切らしたヒュウカが様子を見に来たのだ。


「将、申し訳ありません、こやつ目が余計なことを言うものですからつい・・・」


「はぁ!? 俺のせいかよ」


「・・・まぁ良い、はよう連れてまいれ」


「仰せのままに」


そのまま俺は謁見の間に連れて行かれ、手錠をはずされた。


「ヴァラド、おぬしは下がっておれ」


「はっ」


俺を連れてきたヴァラドの奴はそのまま姿を消し、広間に二人取り残された。


「さて、おぬし名前はなんと言ったか」


「緒守勇也だ。なんで俺をさらったのかその辺の理由が聞きたい」


「簡単なこと、面白そうだった。それ以外に何の理由が必要というのか」


「は?今なんて・・・?」


思わず聞き返してしまった。面白そうだから、そんな理由で自分らのボスの復活を阻止する最たる者である勇者の俺を拉致したと言う。にわかに信じられない。


「耳の悪いやつよのう、何度も言わすでない。面白そうだからと言うたであろう」


絶句するしかない。ぶっちゃけ、もっと極悪な理由で絶体絶命みないな状況を想像していた俺としては拍子抜けもいいところで、考えていた逃走方法が一気に無駄になった。

本当ならば、あいつに技使わせて回りの壁でもぶっ壊してそこから逃げる打算をつけていたのだが、拉致の目的が面白そうだったからじゃどうにもならない。


「さて、これからよの実験にしばし付き合ってもらうぞ」


「実験・・・?」


身の危険を感じない状況だとわかったので一気に気の抜けた。

すでに投げやりな状況で言われた言葉を反芻した。




「おいゼル、お前の魔法で何とかならないのか?」


「イサ姉こそ、自慢の剣術で華麗に切り伏せられないの?」


二人がゴブリンと戦闘を始めてから少しして甲高い音が響き渡り、ヒュウカが飛んでいくのが見えた。

それに焦りを覚え、ゴブリンを蹴散らしながらヒュウカを追っていたが、途中で現れた2メートルはあろうかという巨大なゴブリンに行く手を幅まれて立往生していた。


「くそ、噂には聞いてたけど、キングゴブリン、ここまで厄介な相手だったとは・・・」


「早くあいつを追わなきゃユウヤを見失うっていうのに・・・本っ当にあいつは初歩魔法もろくに使えない上に、捕まるとか!」


ゼルの悪態もキングゴブリンの持つ棍棒の一振りで中断せざるえなかった。

周りを囲むゴブリンとキングゴブリンがじりじりと距離を詰めてくる。


「イサ姉、ちょっと賭けになるけど僕の案に乗ってくれない?」


「この状況を打破できるならなんだってするさ」


「じゃあ、あいつの気を一瞬でいいから逸らして。その間に呪文を唱えるから」


「わかった!」


話しが終わるのと同時にイサネがキングゴブリン目掛け走りだした。

それと同じくしてゼルも呪文を唱える。


「大いなる自然を形成する五大元素が一角、水霊に伝へ、我がゼルカーロの名の元に、その力を持ちて立ち塞がりし障害を氷結せよ!」


呪文を唱えるゼルを止めようと周りのゴブリンたちがいっせいに襲い掛かる。

だが、ゴブリンたちの刃がゼルに届く前に詠唱が完成した。


「イサ姉伏せて! フリージング・ハリケーン!!」


ゼルを中心に凍て付く風が吹き荒れ、視界を白く覆っていく。

しばらくすると風が収まり、周りにいたゴブリンたちは凍り付いていた。1匹を除いて。


「キングゴブリン・・・・・・やっぱりこいつだけは無理だったか」


体の半分を凍らせたキングゴブリンが棍棒を振りかぶる。

しかしそれが振り下ろされることなく地面に崩れ落ちた。


「お前・・・・・・あたしまで凍りつくとこだったじゃないか!」


キングゴブリンを切り伏せたイサネが剣をしまいながらゼルに文句を言った。


「だから言ったじゃん、賭けになるけどって」


「その賭けってのはあたしが凍るか凍らないかって意味だったのか!」


「なに? 僕が妨害を受けるか受けないかだと思ってたの? そんなの心配することじゃないよ。なんたって魔術大元帥ウィザードロードなんだから」


得意げに胸を張るゼルをイサネが軽く小突きヒュウカが飛び去った方向を見る。


「たしかあっちの方角って吸血族の住む古城があった気がするんだけど」


「そんなことはどうでもいいから早くユウヤを助けに行くよ」


さっさと歩きだしたイサネに続くようにゼルが歩き始めたときだった。

前方から誰かが走って来るのが見えた。

とっさに武器に手を掛けた二人だが走ってくる人物が見覚えのある大きな十字碑の杖を持っているのが見え、警戒を解いた。


「お〜い、リサーナ!」


声を掛けながら手を振るイサネに向こうも気づいたらしい。それでも走る速度を緩めようとはしない事に懸念の抱いたときだった。

ズシンズシンと言う音がかすかに聞こえる。

リサーナが二人のいるところまで来て一言


「逃げてください!」


最初は意味が分からなかったが、先ほどから聞こえる音がだんだんと大きくなるのと、リサーナが走ってきた方向を指差すのに従いそちらに顔を向ける。

そこには両手の指だけでは数え切れないほどの緑の巨人が木々を蹴散らしながら猛進してくるのが見えた。


「いぃ!?」


「うっわ!」


進もうとしていた方向から回れ右をして走り始めた。


「な、なんなんだあいつら!」


「プラントタイラントだよ! けど、なんであんなにたくさんいるのさ!」


「私にも分かりません、一匹は倒したんですが流石にあの数はどうにもできず逃げているのです」


「あたしが向かいたいのは間逆なのに!」


「どういうことです」


「簡単なことだよ、ユウヤのバカが捕まったんだ。たぶん連れて行かれた先は吸血族の住む古城」


リサーナは驚いた顔をしていたがすぐに真剣な顔に戻った。


「なら、逃げてる場合ではないですね。ゼル、あいつらを倒せる魔法はないのですか」


「ないこともないけど、呪文を唱えるのに時間がかかるんだ。その時間さえ稼いでくれれば」


「わかりました、イサネさんそういうことですので行きますよ!」


走っていた足を止めタイラントを迎え撃つように武器を構えた。


「正直、もう勘弁して欲しいところだよ。キングゴブリンといい、プラントタイラントといい、ユウヤ奪還したらしばらく背負ってもらうことにするわ」


軽口を叩きながらも表情はかなり真剣で、向かってくる相手を見つめている。

タイラントとの距離が50メートルを切ったところでイサネが動いた。


「ゼル! あたしの剣に魔法をぶつけて!」


瞬時にイサネがやろうとしていることを把握してその剣に向けて下級魔法を放った。


「ヒートスネイク!」


ゼルの杖から炎のヘビが飛び出しイサネの持つ剣に絡みついた。


「はああああああああああ!」


剣に魔法がぶつかるのを確認し、剣を思い切り横薙ぎに振った。

その勢いで剣に絡み付いていた炎のヘビは横に真直ぐ伸びた形で飛んでいき、こちらに向かって猛進してくるタイラントの何匹かにぶつかり爆発をおこした。


「これで、勢いは削いだ、あとは何とか食い止めてみせる」


「わかった、僕は呪文を唱えることに専念するよ」


そう言ってすぐ詠唱に入った。


「さて、どんなもんかね・・・・・・」


先ほどの攻撃でどれだけのダメージが出ているか期待しているイサネにリサーナが言う。


「ダメージは皆無と見て置いた方がいいですよ、物凄くタフですから」


「まじで?」


リサーナの言葉どうりにタイラントは何事も無かったかのように起き上がり雄叫びを上げている。


「怯んでる様子もないし、しょうがない攻めるか」


剣を構えたイサネが駆け出し、それに続きリサーナも走り出す。

タイラントとの距離が10メートルを切ったところで剣を前に突き出した。

普通ならばなんらダメージのないだろう攻撃だが、走ってきた勢いも加算されているため、体勢を崩すにはちょうど良かった。

先頭にいる1匹を倒し、その後ろにいた奴も巻き添えにする。

そのままそいつを踏み台に左にいたタイラントの肩に飛び乗る。

肩に乗るイサネを潰そうと他のタイラントが殴りかかってくるのを寸でのところで飛び降りて回避する。

肩を殴られたタイラントは膝をついたが、すぐに立ち上がりイサネを狙って襲い掛かってくる。

飛び降りた衝撃でバランスを崩しているイサネは回避しきれず殴られた衝撃で吹っ飛ばされてしまった。


「イサネ様!」


「いってぇ〜」


タイラントが殴った地面がえぐれている。


「直撃してたらぺしゃんこになるところだった」


立ち上がりながら距離を取る。

それに習ってリサーナもタイラントの足を殴りバランスを崩してから距離を取った。


「まったく、きりがなぞこれ」


「そうですね、先ほど私が倒した一匹も復活してますし、物理攻撃だけではどうしようもないですね」


ちらっとゼルの方を見るがまだ呪文は唱え終わらないらしく、ブツブツと口が動いているのが見て取れる。


「でも、まだ時間は掛かりそうですね」


「時間さえ稼いでくれればっつっても、結構しんどいな〜」


先ほどの一撃がだいぶ堪えているようで剣を支えにしている。


「イサネ様は少し下がっていてください、今度は私が行きます」


イサネが特攻を掛けたとき、リサーナは少し離れたところでゼルに向かうタイラントを相手にしていた。


「悪いね」


言うとイサネは数歩下がった。それを確認してから駆け出す。

姿勢を低くしてタイラントの足を狙って一撃。

よろけたところにもう片方の足に攻撃を加える。

支えをなくしたタイラントは見事に地面に倒れ付した。

そいつに足を取られたもう一匹が倒れる。

後はそれの繰り返しで次々とタイラントを転ばしていく。

4匹目を転ばせたところでリサーナは一端引いた。

杖を持つ手が麻痺しかかっている。

それもそのはず、タイラントの巨体を支える足を払うには生半可な力ではどうしようもない。

したがって一撃一撃はほぼ全力になるのだ。


「これ以上は流石に無理そうですね」


痺れる腕を押さえながらイサネの隣に並ぶ。

そのとき、後ろからゼルの声が聞こえた。


「二人とも下がって!」


ゼルの持つ杖が赤いオーラを纏っている。

二人は言われたとおりにゼルがいる場所まで下がった。


「くらえ! 灼熱のつるぎ! バーストブレード・レイン!!」


ゼルが叫ぶと杖から赤いオーラが空に向けて飛び、剣の形を作った。

数にして軽く三桁はいくだろう。その無数の剣がタイラントがいるところ目掛けていっせいに降り注いだ。

しかもその剣は刺さると燃え上がるというおまけつきだ。

流石のタイラントもこれには耐え切れず、燃え上がる炎に飲まれ動かなくなった。


「ふぅ、やっと一息つけそうですね」


「ほんと、少し休ませて欲しいね。魔法は規模が大きければ大きいほど疲労が大きいんだ」


「あたしも、少し休まないと動けそうにないわ」


三人はその場に座りこんだ。


「まぁ、ユウヤのやつなら自力でどうにかするだろ」


ゼルの言葉に返事こそ無かったが二人ともうんうんとうなずいていた。

この三人がユウヤの捕まっている古城に着くにはまだ少し時間がかかりそうだ。


だいぶ時間が空いてしまいましたね。

次の話からサブタイトルは第○章だけに変えたいと思います。

ぶっちゃけ思いつかなくなってきたし・・・

それでは次話はいつになるか分かりませんがお楽しみに

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