第3章:人と悪魔
悪魔四将軍であるフレアの襲撃から20日ほど過ぎた。
「ユウヤ様治療の時間ですよ・・・って、またいない・・・・・・」
はぁ、とため息を付き部屋にある椅子に腰かけたのは白に水色の混じった尼僧服に身を包んだリサーナだった。
傷が治り、ある程度歩けるようになったユウヤはこの世界の書物に興味をもち城内の書室に行くようになった。
とは言う物の字がまったく読めないらしく、読みたい本を山ほどもって戻ってくるだけなのだが・・・・・・
部屋においてある本の山をちらっと見てまたため息をついた。
一体どれだけの本を持ってくれば気が済むのか・・・・・・ぱっと見ただけでも既に80冊はあろうかという本の山を見れば誰しもため息を吐くだろう、それを読まされる身にもなれば。
そんなときふと目に入ったのがユウヤがこちらの世界に持ってきた鞄だ。
普段だとイサネやユウヤとともに騒いでいるので気にならないが、一人でいるときに未知の物があれば興味を惹かれないことの方が少ない。
部屋の主がいないのをいいことにリサーナはユウヤの鞄をあさり、片っ端から中身を出し始めた。
最初の方は服がメインだったが、そのうちに絵の描いてある本、字ばかりの本、黒く薄い四角いものと色々と出てきた。
とりあえずそれらを全部ベッドの上に出したところで部屋の主が帰ってきた。
「ごめんごめん、本選んでたら遅くなっちゃって・・・・・・って何してるかな人の私物あさって」
今のユウヤは松葉杖を使っている。
一番酷かった右足の怪我がまだ治りきっていないため杖無しでは歩けないのだ。
じゃあ本はどうやって持ってくるのかというと・・・・・・
「は、早く入ってくれ・・・お、重い・・・」
後ろで、前が見えないくらいの本を抱えているイサネがいた。
今回も10冊くらい持ってきたのだろう。
一冊一冊が辞書なみの厚さがあるため10冊でも相当重いだろう。
イサネが居ないときはだいたいリサーナが連れ添うため、何度か本を運ばされたことがある。
「いえ、ただボーと待っているのもあれなので異文化交流ということで」
笑顔でそう返すリサーナはとても同い年には思えなかった。
「まぁいいか」と言ってベッドの空いている場所に腰を下ろすユウヤと、本をテーブルに上に置き「重かった」といいながら肩を回してるイサネを見て、リサーナはやっぱり笑顔のまま「仲がよろしいのですね」と言った。
「仲がいいのは当然だよ、だって仲間なんだしさ。 それに人の好意は素直に受け取らないとね・・・・・・っと、今日はリサーナさんにお願いがあったんだ」
ユウヤの右足の包帯を取り、手をかざしながら「何ですか?」と聞き返した。
「字を教えて欲しいんだよ、いつまでも読んでもらってばかりじゃ迷惑だろうし、何より好きなときに読めないのが苦痛だ」
すこし考えてから分かりましたっと返事をした。
前にゼルに字を教えたときに教え方が下手だと言われたのがショックで今まで誰かに物を教えるということをしてこなかったが今回ばかりはしかたなく引き受けた。
本当ならば「イサネ様に教えてもらってください」と言いたかったのだが、イサネは用があると言って本を置いたらさっさとどこかへ行ってしまったし、ゼルはゼルで朝から見当たらない。
それに、これが終われば特に何かやることがあるわけでもないので引き受けたのだ。
因みに今やっているのは聖職者の基本術である治癒だ。
手をかざした場所の傷や怪我を治すというものなのだが、基本術な上、範囲が狭いため治せる傷というのも限られてくる。
特に骨折などは定期的にやらないと駄目なのだ。
以前使っていた癒しの光は最高聖職者のみが使える上級術で、たとえ剣でばっさりと切られても生きてさえいれば治せる程の効力を持つのだ。
それゆえ気軽に使えるわけではないし、使うにしてもそれ相応のリスクをともなう。
そんな術を持ってしても、ユウヤの傷は完治させることができないほど酷いものだった。
そんなわけで直しきれなかった右足の複雑骨折を今治しているというわけだ。
「じゃあ、なにか簡単な本からやりましょうか」
治癒を終え、立ち上がり手近な本を取りパラパラとめくり文を読んでいく。
「あ〜あ〜ノートパソコンまで引っ張りだして、片付けるの大変だよこれ」
ユウヤはというと、ぶつぶつと文句を言いながらベッドの上に出された物を次々と片付けていく。
一通り片付け終わるとペンと紙を用意して椅子に座っている。
なんとも準備の早いことだ。
「えっとですね、簡単な本がなかったので・・・・・・とりあえずこの本のここを見てもらえますか?」
そう言いながら本のタイトルだろう文字の羅列を指差した。
「これは魔術指南書と書かれているのですよ」
言ったそばからそれを紙に書いていく。
その下に自分の世界の文字であろうものを書いている。
それからしばらくそんな感じで授業をしていった。
リサーナに文字を教えてもらい始めてから2時間くらいが経過した。
「あらかた読めるようにはなってきたしもう大丈夫、ほんとありがとね」
いえいえと言いながら本を閉じるリサーナが何かに気づいたようにつぶやいた。
「そういえば、私たちって普通に話をしていますがなぜユウヤ様は字が読めないのでしょうか?」
確かに、この世界の言葉を話しているリサーナと地球の日本語を話しているユウヤの言葉が通じるのは矛盾がある。
そこでユウヤはちょっとした仮説をたて、それを話した。
「俺が思うに、あの古術に何らかの力があって、たぶん俺の言語を司る場所に変換機能を付け加えたんだと思う。 だから言葉は通じても文字が読めないなんて事になってるんだと思うよ」
ユウヤの仮説を聞いたリサーナはしばらくユウヤの顔を見たあと「ユウヤ様って頭が良いのですね」とか言ってきた。
俺は「そんなことない」と言って否定した。
「そういえばユウヤ様の持ち物って変わっている物が多いですよね、衣類とか・・・どこかへ出かける途中だったのですか?」
「いや、家出の途中だったんだよ」
リサーナはユウヤの表情が一瞬陰ったのを見逃さなかった。
「ユウヤ様、足のリハビリも兼ねて少し城内を回りませんか?」
ユウヤの気分を害してしまったと思い、すぐさま話を切り替えた。
彼女は天才の部類に入るほどの頭の切れる人物なのだ。
でなければこの年で最高聖職者などなれはしない。
「え、いやさっき書室まで言って来たばっかりだけど・・・」
「いいえ、もう杖なしでも歩けるようになっているはずですよ。 私の治癒はそこらの聖職者よりも遥かに強力なんですから!」
胸を張ってガッツポーズをするリサーナは少し可笑しかったが、彼女のことを信頼して恐る恐る右足を地面につけた。
少し違和感はあるものの痛みは殆どなく普通に歩いても問題ないくらいに回復していた。
「奇跡ってすげーんだな、これなら普通に骨折とかしてもなんも問題ないよな」
関心してそういうとリサーナはフルフルと首を振った。
「そう簡単なものではないのですよ、平民では治療を受けることはできないのです。ユウヤ様が特別なのですよ」
「そうだったのか・・・・・・」
なんとなくバツが悪くだまりこんでしまった。
「ユウヤ様が気にすることではないですよ。それに、町にも治療系の魔術を使える者もおりますから不自由はありません」
そんな話をしているとコンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。
露出性をもち、裸を全く気にしないイサネはもちろんのこと、同姓かつ生意気なゼルが部屋をノックするはずがない。そのことを意識しながらドアの向こうの来訪者に「どうぞ」と声をかけた。
すっとドアが開いて白い甲冑の青年が入ってきて。
整った顔立ちにキリっとした目つき、髪はイサネほどではないが濃いめの赤をしていた。
その人物を見るなり、リサーナは目を丸くして驚いた。
「失礼、お初にお目にかかる。 わたしはウォルト王国騎士団長のベリエルという者、今日は勇者殿に折り入って頼みがあり参上仕った」
部屋に入るなりいきなりユウヤの前で片膝をつき頭を下げた。
リサーナから教わっているので王国騎士団長の位の高さは分かっている。
No.2・・・国王の次に権力を持つものだ。
そんなやつがいきなり目の前に現れ膝をついて挨拶をしてくるなど、誰が想像できようか。
膝をつくこと、それは相手に屈することになる。だから軽々しくしてはいけないのだが、目の前の騎士団長はそれを行なっている。
「と、とりあえず立ち上がってくださいベリエル騎士団長」
「かたじけない」
彼はそういうと何事もなかったかのように立ち上がった。
改めて見ると彼は結構背が高い事がわかった。
たぶん185cmくらいはあるだろう。
「で、ベリエル騎士団長は俺にいったいなんの用があるんですか?」
「うむ、これは騎士団長としてではなく、私個人の頼みなのだが・・・聞き入れてくれるか?」
すこし申し訳なさそうにしているベリエルに対してユウヤは笑顔で大丈夫だと返答した。
「勇者殿が炎の悪魔将に決めたあの剣術を、どうか私にも教えて欲しい」
ベリエルは真面目な顔でユウヤのことを見つめている。
しかしユウヤはどう返事をしようか迷っていた。確かにこの世界では抜刀術は珍しいのだろうが、一国の騎士団長に教えられるほどユウヤ自身も抜刀術に自身があるわけではないのだ。
しばらく考えていたが、せっかく自分を頼ってくれたベリエルに抜刀術を教えることにした。
「わかりました、俺が教えられる範囲でお教えしますがたいしたことは教えられませんよ」
「ありがとう勇者殿」
ベリエルは深々と頭を下げて礼を言った。
「とりあえず勇者殿と呼ぶのをやめてもらえませんか?」
「承知したが、ではなんと呼べばよろしいか」
「普通にユウヤと呼んでください」
「承知したユウヤ殿」
「で、話はまとまったのはいいのですが、ベリエル様とユウヤ様はこれからどうなさるおつもりですか?」
今まで会話に入れなかったリサーナがここぞとばかりに会話に入ってきた。
「まずはどういった剣術なのかをこの身で感じたい故、お手合わせ願えるかユウヤ殿」
「いいですよ、ちょうど右足のリハビリもしなければいけなかったので」
「では、私も付き添います。何かあってからでは遅いですからね」
そういうことで話しのまとまった彼等は手合わせをするために中庭へと向かった。
中庭に移動してから1時間ほどが経過した。
今はユウヤがベリエルに抜刀術を教えている真っ最中だ。
抜刀術がどんな物か体感したいと言うことでの手合わせだったのでユウヤは最初から方膝をついた居合いの姿勢だった。
それに対じするベリエルは自分の身長の三分の二はあるだろう剣を片手で持って構えている。
その他にも、もう1本短剣に近い形の剣をベリエルは腰に携えていた。
ベリエルはユウヤからいつでもかかってきてくださいと言われていたが、なかなか踏み込めないでいた。
その理由はベリエルの直感と感覚が踏み込むのを躊躇わせていた。
別段手合わせなので殺気があると言うわけではないが、ユウヤが放つ流れるような静かな気と騎士団長まで登りつめた騎士の感でも見抜けない隙だらけのユウヤの隙をつくことができないのだ。
ベリエルは対じした状態から4分ほど様子を伺っていたが、意を決したかのように唐突に駆け出し、ユウヤに切りかかった。
だがそれを待っていたかのようにユウヤはゆっくりと目を開けベリエルを見定めた。
その瞬間ベリエルは寒気を感じ、切りかかろうとしている体制から一歩引き剣を盾にするように構えた。
それと同時に物凄い衝撃が走り、剣を弾き飛ばされてしまった。
そのことを認識してすぐに腰の短剣を引き抜きユウヤに突きつけた。
これで手合わせはベリエルの勝利に終わったのだが、手合わせが終わったあとに「一瞬でも短剣を突きつけるのが遅ければ確実に負けていた」とこぼしていた。
「やはり騎士団長まで登りつめただけのことはありますね・・・覚えるのが早い、もう俺が教えられることは何もないですよ」
「時間をとらせてしまって申し訳なかったユウヤ殿」
「いやいや、そんなこと全然問題ないですよ。俺もちょうどいい足のリハビリになりましたし」
「あ、居合いのことなんですが、使うのは普段使ってる両刃の剣よりも、方刃の刀の方がいいですよ」
「かたじけない」
俺たちはそういって頭を下げているベリエル騎士団長と分かれて部屋に戻った。
部屋に戻ったあと、俺はいつ魔王討伐に行くのかをリサーナさんに尋ねた。
「ユウヤ様の怪我が治り次第ということになっておりますが?」
「そうか、じゃあ今すぐ行こう」
「え?今すぐですか?それは無理ですよ、少なくても明日になってしまいます、皆様にも準備がございますから」
「わかった、じゃあ明日にでもすぐ出発しよう」
「わかりましたが・・・・なぜそんな急に出発しようと言うのですか?」
「だって、フレアは俺を殺しに来たんだろ? なら殺し損ねたなら別の将が来る可能性もあるだろ。ならここにいたら迷惑がかかるからね」
リサーナはしばらく黙りこんでいたが、うなずいて「わかりました」と言って部屋から出て行った。
それからユウヤも準備に取り掛かった。
何時間かして準備も終わり、窓から外を眺めるととてもきれいな夕日が目に入った。
「そういや、俺がこっちに来た時も夕日に照らされてたっけな」
物思いに更け、夕日を眺めているとどこからか笛の音のような甲高い音が聞こえてきた。
あたりを見回すとすぐ下の木の根元でお姫様が金属で作られた――笛なのだろう――棒のようなものを吹いていた。
練習中なのか笛らしい音が聞こえてこない。
ユウヤはしばらく考えたあと、窓から木に飛び移り姫様に声をかけた。
「姫様、そういうものはもっと優しく吹くものですよ」
突然声をかけられてびっくりしたのか金属の笛を落とし身構えた。
「なにものです! 姿を現しなさい!」
「姫様、上です上」
そう言われ、ゆっくりと視線を上げた姫様に向かいのんきに手をあげて挨拶をした。
「どうもこんばんわ、でよろしいですか?」
「あなたは・・・・・・勇者様、なぜそのようなところに?」
見知った人物とわかり警戒を解いて、落した金属の笛を拾い上げた。
「いえ、部屋から空を眺めていたらなにやら音が聞こえてきたもので様子を見に」
「それはわたくしの演奏が下手だと言いたいのでしょうか?」
少しすねたような物言いでも気品を失わないあたり、やはり王族なのだと思った。
「いえいえ、そういうわけではありませんが姫様は笛を強く吹きすぎているのですよ。 もう少し優しく吹けばもっときれいな音が出ますよ」
「そうですか? やってみますわ」
言われてすぐできるようなら練習はいらないだろう。
姫様の吹く笛からは相変わらず甲高い音が鳴るばかりで、とても奏でるとは程遠い。
「うまく行きませんわ」
笛を手にうなだれる姫様がどことなく弟と被った。
「ちょっとよろしいですか?」
そう言って姫様から笛を取り、少し見まわしてからそっと吹いた。
造りはフルートとあまり変わりがなく、俺でも難なく吹くことができた。
ただ、音階がフルートより若干高いため、周囲にとてもよく響く。
「きれい・・・・・・」
うっとりとしながら見つめてくる姫様を横目に笛を奏でていると
「あれ、ユウヤのやつどこいった?」
部屋からゼルの声が聞こえてきた。
「ゼルー! こっちだ、こっち!」
どうやら俺の声が届いたみたいで、ゼルが窓からひょっこりと顔を見せた。
「そんなところでなにやって・・・・・・セルカ姫様!」
俺の隣にいる人に気づくなり、窓から飛び降りたゼル。
落ちてくる途中で何やらぶつぶつと唱え、着地の瞬間にふわっと風が舞った。
「セルカ姫、そんな野蛮な男の近くに寄ってはいけません」
そう言いながら、俺と姫様の間に割り込むように入り俺を突き飛ばすように距離をとった。
「おいおい、野蛮って酷いじゃないか、俺ほど温和なやつはそうはいないぞ」
「うそつけ、お前は十分血気盛んだ」
そんなやり取りを見ていた姫様は何やら可笑しそうに笑っていた。
「あ、そろそろ夕食の時間ですのでわたくしは戻りますわ。それでは」
ぺこりと頭をあげて小走りに戻って行った、姫様の後姿見ながら俺らは佇んでいた。
「なぁゼル、お前姫様のこと好きだろ?」
「な、なな、なに言ってるんだよ! そ、そんなわけないだろう!」
顔を真っ赤にしながら反論するゼルだがまったく説得力がない。
「同様しすぎだ。まぁ、それより俺に何の用があったんだ?」
「そう! そうだよ、すっかり忘れてた。お前にも魔術を使えるようになってもらおうと思ってね、自分の身くらい自分で守れるようになってもらわないとこっちが困るからね」
「おぉ、そりゃありがたい。俺も一度魔法ってのを使ってみたかったんだ」
「それじゃ、部屋に戻るか」
「戻るって、ここからだと場内に入るのは反対側まで回らないといけないんだよな〜」
「はぁ? 何言ってる。そんな面倒なことしなくても出たところから入ればいいだろう」
何を言ってるのかわからず、?マークを浮かべていると
「穏やかなる風よ、我を運びたまえ・・・フライ!」
ゼルがそう唱えると、ゼルの体がふわりと浮かび上がった。
「なるほど、魔法で窓から戻るってことだったのか・・・ってちょっと待て、それはお前は戻れても俺戻れないじゃないか!」
「ちっ、仕方ないなぁ〜」
ゼルに手を貸してもらい部屋に戻ってから、魔法について教えてもらったのだが・・・・
「だからそうじゃないって言ってるだろ! 空気中のマナを集めるんだよ!」
「そう簡単にできるかぁ! いきなりマナを収集だの放出だの言われたってわかるか!」
俺が魔法を使えるようになるのはまだ先のようだ。
同時刻
世界のどこかに存在する悪魔の巣窟。
薄暗く、灰色が九割がたの色を占めたこの空間の中心に聳え立つ城、滅びの魔城から半円状に広がる町並が見える。
その町に住む者は、人間などではなく、異様な姿をした者どもだ。
体中から突起の生える者や、骨だけの者もいる。
そんな異様な光景の中、魔城の一角で紅蓮の悪魔と蒼色の悪魔の姿があった。
「よぉフレア、お前人間ごときに手傷を負わされるとは無様だねぇ」
「ふん、そういう貴様こそ盾の国を落とせなかったのだろうヒョウ、人のことを言えた立場か?」
「・・・・・・どうやら殺されたいらしいな」
「それはこっちのセリフだ」
それぞれが手から炎の球と氷の矢を作り出し、今にも攻撃そ仕掛けだす瞬間のような一触即発状態の二人を止めに入ったのは、淫妖な姿をした女の悪魔だった。
しかし二人の悪魔とは違い、耳が長く尖っており背中に透明な、羽が4枚ついている。
まるで妖精のような外見だが、赤一色に染まった目と着こなしている十二単があいまって不気味さを引き立たせている。
「おぬしらやめんか! こんなところで暴れられたら、わらわのコレクションまで害が及ぶであろうに、殺しあいなら別の場所でするがよい!」
「ちぃ、邪魔しやがって・・・・・・興醒めだ」
「・・・・・・・」
ヒョウと呼ばれた蒼色の悪魔は悪態をつき飛び去ってしまった。
「まったく、おぬしらは顔をあわせれば所構わず・・・・・・、少しは自重するがよいぞ」
「あぁ、すまない」
「それにしても、興味深いものよ」
「何がだ?」
「おぬしに一太刀浴びせたという異界のものじゃ。 どれ、わらわが一つ様子を見てきてしんぜようぞ。 この風の将、ヒュウカを楽しませてくれればよいがの・・・・・・」
ヒュウカは不適に微笑むと、一陣の風とともに姿を消した。
それを見送ったフレアは興味をなくしたかのようにある場所へと向かった。
一際大きな扉の前まで来たフレアは、軽くノックをして扉を開いた。
「失礼します、魔王様、現段階での各国の動きですが、剣の国と盾の国以外、異界の者は始末いたしました。 そして今風の将が剣の国の異界者を消しに行っております」
淡々と報告するフレアだが、返事は一向に帰ってこない。
それが普段どおりと言わんばかりに報告は終わると謁見の間からでていった。
謁見の間からでると、そこには茶褐色の鎧に覆われた男が立っていた。
「貴殿も律儀な奴だな、我等が4将の中で一番の古株である炎の将よ」
「地将アース・・・・・・何用だ?」
「別に用などないが、強いて言うならば過去の話しを聞きに来た・・・・・・というところか」
「過去の話し?」
「さよう、この城で最初に起こった人族との決戦の時を生きた者は貴殿と王を残すのみとなった。 王には逢えぬのだろう? ならば貴殿に聞くしかあるまい」
「場所を変えよう」
二人は城をでて城下の町にある一軒の酒場に入った。
陽気な雰囲気が漂い、人を襲うような危険性があるようにはトテモじゃないが思えない。
「おぉ、フレアさん! 今日はとびっきりに酒が入ってるよ!」
「あぁマスター、二人っきりで話しがしたいんだ、個室を用意してもらえるか」
「訳ありだね、ちょうど6-4の部屋が空いてるからそこ使ってくれよ、酒は後で持ってくからよ!」
「助かる」
そうして部屋に入った二人は備え付けの椅子に腰掛けて、話しを始めた。
「さて、まずはドコから話したものか・・・・・・」
しばらく考えるそぶりをしてからゆっくりと口を開いた。
あれは、今から4000年ほど昔の話しだ。
我等は平穏に日々を過ごしていた。
そんなある日のことだった、突如人間どもが押しかけてきたのだ。
平原を埋め尽くすほどの数で我等の城を攻めてきた。
もちろん我等も全力で戦ったが、いくら殺しても数が減らず、同胞のほとんどは殺され、残った者と4将と王で城に篭り人間どもと戦った。
その中でも先頭を切って挑んできた4人と戦ったが、特殊な施しを受けた武器らしく我等の高速治癒が完全に封じられてしまうのだ。
そやつらと6日7晩の争いの末、王は封じられてしまったのだ。
そして、生き残った将も俺と風の将シルフだけだったが、シルフも奴らの武器のせいで眠ったまま、二度と目覚めなかった。
「それからは貴様らも知っていよう、王の封印が弱まると異界から生贄を召喚して封印の礎とする」
「これではどちらが悪魔だかわからんな・・・・・・」
「ふん、そんなこと関係ないことだ。俺は今度こそ王の封印を解いてみせる・・・・・・そのためなら俺は世界を全て敵に回そう」
そこまで一気に話し、一息ついたとき部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「フレアさん、三つ首大蛇酒持ってきたぜ」
マスターが持ってきた酒を杯に注いで一気に飲み干した。
「アース、お前もどうだ?」
「頂くとしよう」
「マスター、こんないい酒は滅多に入らないだろう、飲んでゆけ」
「さっすがフレアさん! 太っ腹だね!」
3人の杯に注いで掲げた。
「我等が王の復活を期して、乾杯」
「「乾杯!」」
魔城から数キロ離れた、遥か上空からあちこちを見回すヒュウカの姿がある。
「さて、剣の国は何処だったかえの?」
キョロキョロとあたりを見回した後、そっと目を閉じて耳をすます。
「ふむ、あっちじゃな」
西南の方角を見つめてつぶやいた。
ヒュウカは今、風に運ばれるかすかな音を聞き取り剣の国の場所を割り出した。
これは4将の風の将だからこそ出きる芸当であり、フレアやアースには別の能力がある。
「どのような奴なのか、まっこと楽しみよのう・・・・・・早く逢って見たいものじゃ」
コロコロと笑いながら風に乗り剣の国に向かった。
不穏な風をまとい、ゆっくりゆっくりと。
まるで獲物は追い詰める蛇のように迫っているのであった・・・・・・。
第2章から長らく時間があきましたが、久しく更新親しました。
これからユウヤたちがどうなっていくか気になるところにございますが、それは続きをお待ちください。
m(__)mペコ