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第2章:仲間と敵と絆の音色

翌日、魔王の住む城に向かう旅の支度を終えて出立式をやるといわれた大広間へ向かう途中、ばったりとゼルカーロと会ってしまった。

俺はどうしてもこいつとは馬が合わないようで、最後に話したのは勇者承認の儀の後にあった顔合わせの時だ。

しかも売り言葉に買い言葉・・・・・・

つまりはなにを言いたいかというと、非常に気まずい雰囲気だということだ。

まぁ、出会いが出会いだからしょうがないというかなんというか・・・・・・。

とりあえずこのまま睨みあっててもしょうがないので俺は大広間へ向かうことにした。

もちろんゼルカーロは置いてである。

目的地が同じだからほおって置いても勝手に来るだろう。

そう思い少し歩いたところでゼルカーロが話しかけてきた。

俺を毛嫌いしているあいつからだ、珍しいこともある物だな。


「おい」


「なんだ?」


極力嫌っていることを悟られないように声色に気をつけて返事をした。


「お前、突然見知らぬ世界につれてこられてその挙句魔王を倒せとか人身御供にされて怖くないのか?」


正直、俺は少し驚いた。

てっきりまたなにか嫌味かなんかを言われると思っていたからだ。


「そうだな・・・・・・怖くないと言えば嘘になるが、俺はもっと怖いことを知っているからな」


俺はそれだけを言うとさっさと歩き始めてしまった。

あいつが後ろで「なんだそれ?」とか言っていたが聞こえないフリをした。

大広間に着くと、国民全員が居るんじゃないかってほど人だらけだった。

俺はこんな大人数の前で行われるなんて思ってなかったからドアを開けたところで立ち止まった。

すると、後ろから「早く入れ」と声がした。

すでにイサネさんとリサーナさんは居るようなので俺たち待ちだったらしい。

俺らが指定された場所まで行くと、王様が狙ったかのように現れた。

その後、白い服の神官が話し始めた。


「それでは、これより魔王討伐に行く勇者とその仲間達に神オーディンの加護があらんことを祈り、勇者様への」


神官がそこまで言ったところでどこからともなく声が聞こえてきた。


「その必要はない!!」


直後、城の一角から爆音が響き紅蓮の髪をなびかせた深紅の肌をした悪魔がこちらへ向かって飛んできた。

城中の兵士が剣を構え臨戦態勢を取るが、紅蓮の悪魔が放った火の玉で吹き飛ばされてしまっている。


「我が名はフレア! 悪魔王四将軍が一人、獄炎のフレア・アシャ・ウィンディだ!」


悪魔の肩書きと名前で慌てふためき逃げ惑う人々の中フレアの名前に強く反応したのが赤い鎧を着た俺の旅の仲間で、この国一の傭兵であるイサネさんだった。


「ほぉ、どうやら知った顔が居るようですね」


フレアと名のった悪魔はイサネさんの前に降りてきて、まるでしぶといゴキブリでも見つけたかのような口調で話し始めた。


「貴女もホトホトしつこいですね、確かに貴女の故郷を滅ぼしたのは悪いと思っていますよ? でもねぇ、たかだか10年ばかり剣の修行をした程度でこの私に勝てるとでも思っていたのですか?」


フレアはどうやらイサネさんとの因縁があるらしい。


「それを言うのは、あたしの剣を受けてからにしな!」


既に剣を構えていつでも切りかかれるようにしているイサネさんに対し、フレアは余裕だと言った感じで構えもしない。


「いいでしょう、そこまで言うのなら相手になって差し上げますよ。 ただし私をがっかりさせないだください・・・・・・・・ね!」


喋り終わると同時にフレアが火の玉をイサネさんに向けて放った。

それを合図にイサネさんとフレアの戦いが始まった。そのとき俺は、王様を安全なところまで逃がすので精一杯だった。

多分リサーナさんやゼルカーロも国民を逃がすので忙しく、イサネさんの加勢をするのは厳しい物があるだろう。

俺は王様を安全と思われるところまで逃がすとすぐに踵を返してイサネさんの元まで走った。

ユウヤが戻ったとき、イサネが吹き飛ばされて壁に叩きつけられたところだった。周りには瓦礫に埋もれているリサーナや倒れているゼルカーロが目に入った。

俺は自分でも驚くほど冷静に怒っていた。


「おやおやヒーローは遅れて登場ですか、かっこいいですね〜」


フレアがおどけたようにユウヤを見据えてそう言った。

ユウヤはフレアを睨みつけ、自分が一番使い慣れているグローブとメリケンをつけた。


「勇者様、お逃げください! そいつの狙いは貴方の命です!」


リサーナさんの苦しそうな顔が目に入った。


「俺の命が目的なら勝手にすればいい・・・だがな、俺の仲間を傷つけた罪は償ってもらうぞ!」


ユウヤはそういいながら走り出しだ。

フレアはニタリと笑い、火の玉をいくつもユウヤに向けて放った。

半分をかわし、半分を殴り潰しながら一気に間合いを詰める。


「ほぉ、なかなか面白い戦い方をしますね」


相手が間合いに入った瞬間、ユウヤは走りこんだ勢いを乗せて拳を突き出した。

だが、その一撃は軽々と止められてしまった。


「ですが、所詮この程度です・・・死になさい!」


ぞわりとした感覚にとっさに身を引くと、今まで俺の頭のあった場所が弾けとんだ

どうやら相手はこの攻撃を避けられるとは思っていなかったらしく、驚き、一瞬隙ができた。

その隙を見逃さず、左手のストレートをフェイントに右手のアッパーを決めた。

けれどそれほどダメージは見られず、逆に相手に火をつけてしまった。


「人間ごときがこの私に一撃を入れるとは・・・・・・敬意を表してなぶり殺してさしあげよう!!」


そう言うと、フレアは背中の羽を使い空中から下降する勢いをつけて、殴ったり蹴ったりと、とことん痛めつけるつもりのようだ。

流石に空中に居られたのでは、弓か魔法でもない限り手は出せない。

フレアはそれをいいことに、空中からのヒットアンウェイでひたすらユウヤのことをいたぶっている。

そして、止めとばかりにユウヤを掴み空中へ持ち上げると、降下しながら地面に投げつけた。


「かはっ!」


「勇者様!」


リサーナさんは悲鳴にも似た声で俺のことを呼んだ。

まずい・・・・・右足の感覚がない。

よろよろと立ち上がったユウヤを見て、フレアは「こうでなくては面白くない」とか言ってユウヤとの距離を取った。


「そろそろ、止めを刺してあげましょう」


ユウヤが動けないのを知ってか、空中から火の玉をこれでもかと打ち込んできた。

その火の玉が右肩やわき腹などをえぐり焼く。

痛みで薄れる意識の中、今は居ない祖父の教えを思い出した。


『いいかい勇也、これから教えるのは本当に大切な人を守るときにだけ使いなさい』


祖父はそういいながら俺に居合いの技をいくつか教えてくれた。

そういえば、忘れてたな・・・・・・

爺ちゃん、あの技使わせてもらうよ!

俺は途切れる寸前の意識をどうにか繋ぎ感覚のない右足の膝をつき、左の膝を立て、腰の刀に手を掛けて目を瞑った。

感じ取れ、あいつの気配を。

気配を探っている間にも火の玉は容赦なく俺を襲うが、既に何も感じない。

やられていた二人も目を覚ましたのか声が聞こえる。


「勇者様逃げて!!!」


「特大の炎球が来るよ!」


「ユウヤ逃げろ!!」


そんなもん知ったことじゃない、来るなら来ればいい俺はそんなものじゃやられない!

その直後、物凄い熱風と全てを焼き尽くすような高温が俺を襲った。


「アレを食らって倒れなかったのは貴方が初めてですよ」


誰かの声が聞こえるが、なにを言っているか分からない。

俺が感じられるのはもうあいつの気配だけだ。

それ以外の感覚は既になく、自分が立っているのか、座っているのか、生きているのかすらも分からない。


「貴方を始末するには直接やらないと駄目なようですね」


だんだんと近づいてくるフレアの気配、俺はあいつが射程距離に入るのをひたすら待ち続けた。


「死ね!」


フレアが射程距離に入った瞬間、目を開きフレアを見据え抜刀した。


「抜刀術奥義、一閃」


音を置き去りにした俺の刀は、フレアの左わき腹から右肩に掛けて深々と切り裂いた。

にもかかわらず、フレアを倒れずに飛び上がると何かを言って去ってしまった。

そして、俺の意識もそこで途切れた。






フレアの攻撃で吹っ飛ばされて、壁に激突して意識を失っていたらしい。

目を開けると、フレアが空中からユウヤ目掛けて巨大な火の玉を放ったところだった。


「ユウヤ逃げろ!!」


助けに行こうとしたが体が言うことを聞かず、立ち上がることができない。

思いのほか、奴にやられたダメージが大きいようだ。

声は届いているはずなのにユウヤは動かず、巨大な火の玉の直撃を受けた。

そのとき、もう駄目だと思った。

また死なせてしまったと己を恨んだ、けど、煙が晴れるとユウヤはそこにいた。

さっきの体制のまま存在していた。


「アレを食らって倒れなかったのは貴方が初めてですよ」


フレアが恨めしげに言った。


「貴方を始末するには直接やらないと駄目なようですね」


そういうと物凄い勢いでユウヤ目掛けて急降下した。


「死ね!」


声とともに手を突き出した瞬間だった。

何かが閃いたと思ったら、フレアの動きが止まった。


「抜刀術奥義、一閃」


それから数秒後、スパーンと言う音とともにフレアが血しぶきをあげてよろめいた。

なにが起こったのかわからなかった。

ユウヤは相変わらずさっきの体制のまま動いていない、いや動いたのだろうが目で捉えきることができなかった。

フレアは傷を抑え、よろよろと飛び上がると


「私にここまでの傷を負わせたのは貴方が始めてだ、それに免じて今日のところは見逃してさし上げましょう。 ですが次あったときが貴方がたの命日です。 それをよくキモに命じておくことですね!!」


そう言って飛び去ってしまった。

その後、ドサと言う音とともにユウヤが倒れた。

あたしは剣を支えにユウヤの元に急いだ。


「おいユウヤ、しっかりしろ!!」


倒れるユウヤを抱え起こした。

抱え起こしたユウヤの傷を見て思わず目を背けそうになった。

ユウヤの傷はそれほどまでに酷かったのだ。

肩や腕はもう炭化していて見るに堪える状態で、右足は肉を突き破って骨が見える。

他にも脇腹や背中も酷い状態で、生きているのも不思議なくらい出血している。

あたしの腕の中で、徐々に冷たくなっていくユウヤに必死に呼び掛けた。


「ユウヤ目を開けろ! このまま死ぬなんてあたしは許さないよ!!」


呼び掛けも虚しくユウヤは動かない。


「イサネ様少しよろしいですか? どこまで回復できるかわかりませんがやれるだけのことはやってみます」


ゼルに肩を借りながらユウヤの所まで来たリサが十字碑の杖をかざし、呪文を唱え始めた。


「勇敢なる彼の者に神々の奇跡と祝福を・・・癒しの光(ヒールライト)!!」


自分の怪我を治すよりもユウヤを助ける事を優先したリサだが、ユウヤの傷はなかなか塞がらない。

ユウヤを覆うように発せられる杖の光が徐々に弱くなって行くのがわかる。

人間が使う魔術や奇跡は術者の精神力の強さに依存する。

つまりは、どれだけ曲がらない意志と信念を持っているかが術に作用するのだ。

こうしている間にもリサは術を使い続けているが、かなり無理しているようで、杖から放たれる光も蛍のそれ程もない。

それでも諦めまいと杖をかざし続けるリサにゼルが言う。


「そんなに無茶したらリサ姉の心の方が壊れちゃうよ!」


それでも、とリサはヒールライトをやめようとはしなかった。

それから数分後、街の教会から駆けつけた聖職者プリスティスにユウヤを任せて、あたし達も手当てを受けた。

リサはヒールライトを止めた後少し放心気味だったが、多分大丈夫だろう。

一番ダメージの少なかったゼルがユウヤの側にいる。

できることならあたしも行きたいが、今はリサをどこか休ませられる所まで連れて行かなければ。

彼女も大事な仲間なのだ。


「すみませんイサネ様、私はもう大丈夫ですので、勇者様の所へ行ってください」


肩に回していたあたしの腕を払い、一人で歩こうとしてよろけた。

慌てて手を伸ばし倒れないように支えた。


「なにが大丈夫なんだ、まだふらついてるじゃないか」


あたしは、再びリサの肩に手を回し歩き始めた。

ユウヤが無事なことを祈りながら。






目を開けると、白い天井が目に入った。

ここは・・・・・・もしや地球に帰ってきたのかと思ったが、どうやら違うようだ。


「やっとお目覚めかい? ・・・・・・まったく、呆れるくらい眠ってたね」


この皮肉めいた喋り方をするのは、言わずと知れたゼルカーロだ。

俺は体を起こそうとしたが、体中に激痛が走り起き上がるどころか腕一本まともに動かせない状態だった。

起き上がることができないので、声のする方に顔だけを向けた。


「俺は・・・・・・そうか、フレアに一撃をいれて、気絶してたのか」


俺の言葉にゼルカーロは声を荒げた。


「気絶?気絶なんて生易しいもんじゃないよ! お前死ぬ直前だったんだぞ、生きてるのが奇跡みたいなもんだ! ちゃんとリサ姉と聖職者の人たちにお礼言っとけよ!」


ゼルカーロはそういうと、出ていってしまった。

それから少しして、ドアをぶち破らんばかりの勢いで開けたイサネさんとリサーナさんが俺のところにやってきた。


「ユウヤ! よかったすごく心配してたんだぞ!」


「ユウヤ様、本当に良かった・・・・・・」


二人の表情から俺はとても申し訳ない気持ちになった。


「心配掛けて悪かった・・・・・・それと、助けてくれて・・・ありがとう」


俺の言葉に、二人は笑顔で答えてくれた。


「ったく、次から自分の命を捨てるようなまねすんじゃねぇぞ」


イサネさんに怒られてしまったが、皆が無事で本当に良かった。


「10日間も目を覚まさなかったので本当に・・・・・・次は無茶をし過ぎないようにしてくださいね」


10日間も寝ていたのか・・・・・・


「まぁ、無茶をしないというのはイサネ様にもいえることですが」


イサネさんの方をちらりと見てそんなことを言った。

その言葉に反抗するようにイサネさんがリサーナさんを睨んだ。


「それを言ったらリサだって無理して奇跡使ってただろうに、人の事言えないだろう!」


イサネさんが一方的にリサーナさんを睨んでいるが、リサーナさんはいつもと変わらぬ調子でいる。

いや、どちらかというの楽しんでいるかのようにも見える。


「私が無理をしたのは、倒れたユウヤ様を抱きしめて涙目で叫んでいたイサネ様に心を打たれたからですよ」


「お、おま!」


「それに、病室に運ばれてからもずっと・・・」


「わー!! それ以上喋るな! 喋ったら斬る!!」


イサネさんが顔を真っ赤にして剣を振り上げた。

それでもなお喋り続けるリサーナさん。

どうやら完全にからかっているようだ。


「20になるイサネ様も純情な乙女心をお持ちなのですね♪」


「斬る!!!!」


逃げるように部屋から出て行ったリサーナさんとそれを追うようにして出て行ったイサネさん達に、少しびっくりした。

俺はこっちに来て日が浅いし、彼女たちのことなんかほとんど知らなかったが、なんとなくどういう性格をしているのかが分かってきた気がする。

そのことが嬉しくて微笑んでいると、開けっ放しのドアの向こうで声が聞こえた。


「普段から病人の部屋ではおとなしくしろって言ってるリサ姉がはしゃいでどうするのさ・・・・・・」


ため息を吐きつつ部屋に入ってきたのはゼルカーロだ。

パタンとドアを閉め、俺の近くにある椅子に腰掛けた。


「ねぇ、前に言ってた死より怖いことってなにさ」


前に聞かれたときに言ったことがずっと気になっていたようだ。


「死より怖いことか、それは人に忘れられることだよ」


意味がよく分からないといった表情をするゼルカーロに、分かりやすく話した。


「人間ってのは誰かの意識の中にあるから存在できるんだ。 そうだな・・・お前は強力な魔法が使えるよな? でも使えたとしてもその存在を忘れてしまったら、それは使えないのと同じなんだ。 俺という人間が存在したとしても、誰にも覚えていてもらえなければ存在しないのと変わらないんだ」


俺の話をまじまじを聞いていたゼルカーロが口を開いた。


「あんたは、忘れらたことがあるのか?」


「どうだろうな・・・今あいつは、俺のことを覚えているのかすら分からないが、俺はしっかりと覚えてるよ」


俺が話し終えると何かを考え込むように腕を組んで黙りこんでしまった。

なんだかよくわからないが、満足してくれたならそれでいい。

自分の世界に入ってるゼルカーロを横目に、この世界のことを考えた。

この世界には5つの国があり、うち4つは人間の国で1つは魔族の国。

この世界の人々が言う魔王とは悪魔の王であり、魔族とは違うもの。

悪魔の中にはそれぞれの属性を最大まで極めた者が居て、四将軍という肩書きを持つやつらがいる。

そしてそれぞれの国に悪魔に対抗するための法具がある。

俺が知っているのはここまでだ。

が、ここで疑問が浮かんだ。

なぜ異世界から勇者を召喚する必要があるのか・・・・・・だ。この世界には腕利きの剣士や勇猛な戦士がいる。

そいつらに法具を使わせれば貧弱な異世界人より、はるかに魔王を倒せる可能性は高いだろう。

じゃあ逆に異世界人を召喚しなければならなかった理由・・・・・・

この世界に召喚されてからの事を思い出した。

そうか、もしそうだとすれは納得が行く・・・が、別の問題が・・・・・・

考えてても仕方ない、聞いてみるか。

いまだに考え事をしているゼルカーロに声をかけた。


「ゼルカーロ、法具ってのは誰でも使えるもんなのか?」


急に話しかけられてびっくりしたのかちょっと裏返った声で話すゼルカーロ、正直笑いをこらえるのがきつかった。


「あ、あぁ法具か、法具は選ばれた勇者しか使えないよ。 まぁそれはいいとして、オレを呼ぶときはゼルって呼べ、親しいやつは皆そう呼ぶからな」


やっぱりこいつ生意気だ。

それでも、嫌いってわけではない。

確かに馬は合わないかもしれないが、俺のことを心配してくれている大切な仲間なのだ。


「わかった、じゃあゼルも俺のことはユウヤって呼んでくれよ。 勇者って呼ばれるのは慣れなくてさ」


「わかった、そう呼んでやるよ」


俺たちはそういって握手を交わして笑いあった。

考えていたことも全て忘れて。

このとき、少し相手のことが分かった気がした。

これからの旅はなにが待っているか分からないが、仲間がいるだけでこんなにも強くなれることを改めて実感した。

地球にいた時は分からなかった、仲間がいる強さ、心を許しあえる友の大切さ、それに気づかせてくれたこいつらが魔王に苦しめられているなんて俺が許さない、なにが何でも魔王ってのを倒してやる!!

俺はそう心に誓った。






場所は変わって、ここはユウヤの元居た世界・・・・・・つまり地球だ。

「兄さんが居ないってどういうことさ!!」大声を上げたのは、少し背の低い幼さの残る顔立ちの少年だった。


「言葉どおりの意味だ、あいつは私に恥を掻かせたから追い出してやったまでだ」


それがまるで当然のように言い放ったのは、背広を着た50歳くらいの男だった。


「最悪だ、兄さんのこと何も知らいくせに・・・・・・僕はお前のことを父親だとは思わない!!!!」


僕はその場を逃げるように二階へあがった。

そのまま二階の一部屋に飛び込んだ。

そこは兄である緒守勇也の使っていた部屋だ。

懐かしい匂い、三年前と変わらない素朴な部屋。

あるのはベッドと机とタンスだけ、十畳分の広さの部屋にたったそれだけの家具しかない。

後は机の上に置かれた数冊の教科書だけだ。

とても学生の部屋だとは思えない。

その部屋にある机に1枚の置き手紙があるのに気づいた。

手紙の宛名には僕の名前が書かれていた。


『拝啓 緒守風宮おがみふみや

やぁ、元気でやってるかい? 俺は不幸ながらもそれなりに元気でやっているよ。

俺の身勝手な理由で今年こそ会おうって約束守れなくてごめん、できることならば成長したお前の姿を見たかったよ。

多分お前のことだから俺がいなくなった理由を父さんから聞いたことだろう。

それでも父さんのことを恨まないでくれ、全部俺の責任だから。

もう合うことはできないけど悲しまないでほしい、無理なこと言ってるのは分かっているつもりだ。

その慰めとは言えないが、俺の写真とペンダントを同封しておいた。

気に食わないようなら捨ててもらっても構わない。

身勝手ながら最後にもう一つ、俺が居なくても強く生きろ。

お前は俺の自慢の弟なのだから    20○○年○月×日 緒守勇也』



「・・・・・・・・・・・・・・・兄さんの馬鹿・・・・・・・・・」


僕はあふれ出る涙を止めることができないまま、しばらくその場に立ち尽くした。

しばらくして兄さんの使っていたベッドに横になって目を瞑った。

いくら中学3年になったとはいえ、体が弱いのは変わっていない。

目を瞑ると、兄さんと過ごしたときの記憶がよみがえる。


『なぁ風宮、トランプやろうぜ!』


外で遊べない僕を気遣ってトランプとかカルタとか持ってきてくれてたな。

いつも僕が勝ってたのは、わざと負けてくれてたんだろうな・・・・・・。


『ほら、嫌いだからってタマネギ残すな。 俺も嫌いなグリーンピース我慢して食べてるんだから』


このときは少しうるさいなって思ったっけ。

でも、グリーンピースを食べた後の兄さんの顔には笑えたな・・・・・・。

おかげで好き嫌いがなくなったよ。


『これがなんだか分かるか? フルートって楽器なんなよ、俺が吹き方教えてやるから吹いてみろよ』


始めて兄さんがフルート吹いて聞かせてくれたときは感動したよ。

少しでも近づきたくて今でも練習してるんだよ?


『あぁ、その問題はこれとこれを先に計算すれば・・・・・・な、簡単だろ?』


勉強で分からないところがあればいつでも教えてくれたんだよね。

中学生の癖に微分積分なんかも普通にできてたのには驚いたな。

・・・・・・いつでも兄さんは俺の目標だったのに、なんで勝手に居なくなるんだよ。

兄さんが居なくなったら僕はなにを目標にすればいいんだよ・・・。

瞑っていた目をあけ、ぼんやりと天井を見つめてると不意にある約束を思い出した。

起き上がって時間を見ると5時10分前だった。

帰りの電車まではまだ時間に余裕はある。

僕は、ペンダントと写真をもって兄さんとの思い出の場所に向かった。

そこに行けば、兄さんに会える気がしたんだ。

雑木林を抜けると、ぽつんと開けた場所に出た。

大きな石がいくつか重なって小さな洞ができている。

ここは、僕と兄さんだけの秘密の場所。

こっそりと家を抜け出して、ここで兄さんのフルートをよく聞いてた覚えがある。

しかしそこに人影はなく、夕日に染められ赤くなった空間があるだけだった。

がっくりと肩を落とし帰ろうとしたとき、石の上に何かがあるのに気づいた。

近寄って見ると、それはフルートだった。

もちろん僕のではない、僕のは今もしっかりと持っている。

誰のかと思い、手にとって見てみると、緒守勇也という名前が彫られていた。

これは・・・兄さんのフルート。

風宮はそのフルートを慈しむように抱きしめた後、たてかけた勇也の写真と向き合うように立ち、ゆっくりとフルートを吹いた。

赤く染まる空間に、高らかに響くフルートの音色。

それはとても神秘的で、到底口で説明できるような物ではなかった。

兄さん、僕は約束をちゃんと果したんだから、兄さんも約束守ってよね・・・

風宮は一筋の涙を流しながらフルートを吹き続けた。


『風宮、お前がしっかりとフルートを吹けるようになったらここで俺に聞かせてくれよ』


『任せてよ! じゃあ兄ちゃんも約束して、いつか一緒にフルートを演奏するって』


『お前が俺より上手くなったらな』






俺が目を覚ましてから数日が経った。

怪我の方は順調に回復している。

毎日のようにお見舞いに来てくれる3人と馬鹿騒ぎをしていると、笛の音のような物が聞こえた気がした。

懐かしく、それでいて暖かい、そんな音色だった気がする。


「どうした、まだ傷が痛むのか?」


急に黙り込んだ俺を心配そうに見つめてくる彼女達になんでもないと答え、窓から空を見上げた。

青く澄み渡った空に、笛の音を思いながら・・・・・・




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