残念高校生の生徒会戦記 【1】
女教師の川上美穂は眉をひそめながら、俺が渡したプリントを黙読している。
なぜ眉をひそめているのか?
さては、もう老眼が始まっているのか?
やっぱ、違うよな・・・
「おい、小田。このプリントの題名はなんだったけ?」
「・・・えーと、『進路調査』という題名でしたっけ」
「正解。ではなぜ君は『働かないことの利点』を書いているんだ?脳が働いてないのか?それとも 阿保なのか?」
川上先生は深いため息をつくと、頭をかかえた。
結構美人な教師だが、やはりストレスを感じると老化しているように見える。
ストレスの要因は俺なのだが・・・
そんなことを考えていると、ヒールのとがった部分で足を踏まれた。
「聞いているのか?」
「はっいぃ!」
思わず大きな声が出た。結構痛かったんだが・・・
「小田。この働き疲れた中年サラリーマンが書いたみたいな文はなんだ?一応わけは聞いてやる」
口元をゆがませて、笑みを浮かべてきた。目は血走っているが・・・
つーか怖い。今更だけどマジ怖い。
「いっいや、まぁだっだって働きたくないじゃないですか?クラスにひとりくらいはこう思ってまひゅって!」
嚙み噛みだった。あまり怒られたことがないのに、この顔は反則だろ・・・
「だいたいこういうのには、あたりまえだが自分のなりたいものや行きたい学校を書くものだろう」
「だったらそう言ってくださいよ。一応将来については書いてますし?
それは先生のミスだとお」
空を切る音がした。ヒールが顔のすぐ横にあった。それはそれは見事な回し蹴り。空手家かよ。
「もう一回言ってみろ」
声のトーンがマジだった。
「ひっ。すみませんでしたぁっ」
俺も和の達人のような見事な135度お辞儀をかました。
「私はな、君の将来を心配しているんだぞ。」
うわー。出ました。さっき殺人回し蹴りで俺の人生を途絶えさせようとしてた人が、何言ってんだよ。
だが、意外にも本当に心配しているようだった。さっきより顔が穏やかになっている。
川上先生は、かばんから持参した孫の手を取り出すと、ボリボリと背中をかいた。おっさんかよ。
背中をかく手を止めると、真剣な表情でこっちを見てきた。
「部活は入っているのか?」
「い、いえ」
「友達はいないよな」
俺に友達いないこと前提で聞くなよ。まぁいないけど・・・
俺がだまっているのを見て察したのか、
「やはりな!だと思ったよ。」
くっ、なんか悔しい。
「彼女とかはいるのか?」
「いつかできます!」
「だよな・・・」
俺の少しの強がりを無視しつつ、目を潤ませてきやがった。
「よし!じゃあまずこれ書き直せ。」
「はい・・・」
ですよねー。同情して、帰っていいぞ!的な展開はないですよねー。
「そして、罰として生徒会に入会しろ。分かったな?」
「は、はぁ・・・」
え?