八話【初めての依頼を受けてみよう(パーティ編)】
七話で受付嬢の名前がリテラになってたのを修正しました。
誰だよリテラって...そんな名前のキャラが登場する予定もないよ...
自分の今書いてる作品のキャラくらい覚えとけって話ですね、いやはや申し訳ない。
そして八話目にしてついに毎日更新が途絶えましたね。
最初から不定期更新だと宣言してたので問題はないのですがちょっと悔しいです。
でもこの先も多分最初の宣言通り不定期更新に突入します。
白の初めての依頼から数週間が経過した。
あれからも白はギルドで依頼を受けたり、ウィリルから魔法の訓練を、ガンツからは護身的な近接戦の訓練を受けたりする日々を送っており、冒険者ランクもEに上がっている。
そんな白は、今日はウィリルたち三人と共に冒険者ギルドに来ていた。
これまでは一緒にギルドまで来ても白とウィリルたち三人は別々の依頼を受けてそれぞれで依頼を遂行していたが、今日は違う。
今日は白はウィリルたちに誘われ、一緒の依頼を受けに来ていた。
そう、白にとっては初めてとなるパーティでの依頼だ。
ちなみに、ウィリルたち三人の冒険者ランクはウィリルがB、ガンツとルテラがCである。
なお、パーティを組んだ場合、そのパーティが受けられる依頼のランクは、そのパーティーの最大ランクの人のランクが基準となる。
なので、今回のパーティの場合、最大ランクはウィリルのBランクなので、A~Dまでのランクの依頼が受けられるのだ。
この仕組みを使えばたとえFランクの人でもAランクの依頼を受けられるようになるが、余程特殊な事情の人を除き、FランクをAランクの依頼に連れて言っても足でまといになるだけである。
なので、基本的にはパーティはランク差が1程度の近い実力の者同士で組む場合が多い。
「さてと、それじゃあどの依頼にしようか」
ウィリルはBランクの依頼板の前でみんな──正確にはガンツとルテラに尋ねる。
Bランク、白のランクからすると三つも上のランクの依頼だ。
だが、これまでの訓練で白は中級魔法とまた新たな固有魔法を使えるようになっており、更に身体能力も上がっていることもあり、Bランクの依頼でも大丈夫だろうとウィリルたちは判断している。
それで、実際にBランクの魔物と戦ってどれだけ戦えるのかの確認もかねてBランクの依頼にしようというふうに事前に決めていた。
しばらく依頼掲示板を見ながら話し合いをしていたウィリルたちだったが、受ける依頼が決まったようだ。
一枚の依頼書を依頼掲示板から剥がすと、白の元へとやってきて依頼書を見せる。
依頼書には、『[討伐依頼]オーガの討伐』と書かれていた。
依頼内容は、街からそう遠くない場所にある森に出没したオーガ一体の討伐だ。
「オーガって、どんな魔物なの?」
「えっとね、2mくらいの黒い人型で、頭には角が生えてて、金棒を武器にしてる魔物だよ。あとは...基本的には一体で行動してることがほとんどかな」
白の質問にウィリルはオーガに関する基礎知識を答える。
「オーガの野郎はかなり力が強いからよ、下手に攻撃を受けてもぶっ飛ばされちまう」
「動きはそんなに早くないから弓とかは当てやすい」
ウィリルに続き、ガンツとルテラがそれぞれ戦ってる時の感覚を話した。
「黒い人型で角が生えた怪力な魔物...」
その話を聞いて白の頭の中には真っ黒な鬼の姿が思い浮かぶが、実際オーガは日本の伝承にいる鬼を具現化したような姿かたちをしている。
「というわけで、この依頼を受けようと思うんだけどハクくんもそれでいいかな?」
ウィリルの言葉に白が頷き、白たちは受付──すっかり常連みたいになっているシリルのところへと向かう。
「やっほ、シリル。今日は白含めて四人でこれ受けるからお願いね」
「あら、ハクさんがパーティで依頼なんて珍しい...というか初めてですね、分かりました」
シリルはそう言うと、ウィリルたちから依頼書と全員の冒険者カードを受け取り、依頼書に目を向ける。
シリルの言うとおりこれまで白はずっと一人で依頼を受けており、臨時パーティなども組んだことは一度も無い。
たまに誘われることもあるのだが、いつも断って一人で依頼を受けているのだ。
「Bランクのオーガの討伐依頼って...いえ、ハクさんはだいぶ規格外ですし大丈夫そうですね」
ウィリルたちは時々Bランクの依頼を受けているとはいえ、今日はEランクの白も一緒だ。
流石にBは危険ではないかと一瞬考えたシリルだったが、あの白である。
気にするだけ無駄かと思いそのまま依頼滞りなく受注処理を済ませ、依頼書と冒険者カードを返却した。
「ウィリルさんたちにハクさんなら大丈夫だとは思いますが気をつけてくださいね。ではご武運を」
白たちは冒険者カードと依頼書を受け取り、ギルドを出て依頼場所へと向かった。
「ここだね、目的の森は」
白たちが到着した森、そこはまだ白が以前にも何回か依頼で訪れたことのある森だ。
だが、その時に森にいた魔物はそこまで驚異的なものではなく、オーガなどの危険な魔物と遭遇したことは無い。
「この森って、オーガもいたんだ...」
「いや、元々オーガはこの森には住んじゃいない、この森を抜けてもっと奥の荒地にいる魔物のはずだ」
白が自分の入っていた森は思っていたより恐ろしい場所だったのかと認識を改めようとしたところでガンツがそう言う。
「オーガがこの森に来るなんて結構珍しいというか知ってる限りでは初めてだが、こりゃ確かにオーガがいそうだな」
「うん、森がピリピリしてる」
ガンツの言葉にルテラが同意して注意深く森の奥を見ている。
確かに、ルテラの言うとおり白が何回か来た時とは森の雰囲気が違う。
どう違うかというのを言い表すのは難しいが、なんというか妙に静かなのだ。
「よし、それじゃあ気を引き締めてオーガ討伐といこうか。オーガ相手なら不意打ちされることはそうそうないだろうけど油断はしないようにね」
「ああ」
「もちろん」
「分かった」
ウィリルの言葉にガンツ、ルテラ、白は順に頷いて森へと入っていく。
四人は前衛にガンツ、後衛にルテラで間にウィリルと白というふうな隊形で進んでいき、前方をガンツが、後方をルテラが、左右をウィリルと白がそれぞれ警戒しているが、オーガはおろか他の魔物に襲撃されることもない。
オーガがいる影響だろうか、異様なまでに静まり返った森を白たちは進んでいった。
そして、
「いたぞ、オーガだ」
ガンツのその言葉に一度その場で立ち止まる。
ガンツが示す先、少し森の開けた部分に真っ黒な鬼──オーガがいた。
だが、そのオーガは、
「ボロボロ?」
白の後ろでルテラがそう呟く。
そう、そのオーガは遠目でも分かるくらい既に身体中に傷を負っているのだ。
深い切り傷が身体中に刻まれ、ところどころには火傷のような痕もある。
恐らく何かと戦って敗れたオーガがここまで逃げてきたのだろう。
その証拠に、目を凝らせばオーガのいるところから森の奥に向かって血の跡が続いている。
そして、そのオーガは傷が治るのを待っているのだろうか、周りに威圧感を放ちながらその場に座り込んでいた。
「ありゃどういうことだ?オーガ同士で縄張り争いでもして負けたのが来たかと思ったがありゃオーガ同士の争いでできるような怪我じゃないぞ」
「ああ、それに火属性のはずのオーガがあれだけの火傷を負うなんてよほどのことだね」
「オーガに火傷を負わせられる魔物なんてオーガのいる荒地にいた?」
白はオーガの傷を見ても見た以上のことは分からないが、流石ウィリルたちは経験豊富な冒険者なだけあって傷から色々なことを読み取っていく。
白は視線をオーガへと向けてオーガの様子を観察しながらも三人の話を聞いていた。
「ん...?深い切り傷に火傷?まさか!?」
「あ、おい!ウィリル!」
なんらかの推測がついたのだろう、唐突にウィリルは驚愕の声をあげる。
しかし、それが安全な場所でのことなら良かったのだが、今現在ここはオーガの割と近くだ。
慌ててガンツが注意を促したがもう遅い。
「ガァアアアアアアアアア!!」
ガンツが注意を促すのとほぼ同時、森の中にオーガの叫び声が響き渡った。
やはりウィリルの声が聞こえたのだろう、オーガは立ち上がってウィリルたちの方を向いて、完全に戦闘態勢に入っている。
だが、オーガはここまで金棒は持っていなかったようで、特に武器は持っていない。
「ご、ごめん...」
「とりあえず話はあとだ、まずはあの死に損ないをぶっ潰すぞ」
「わかった!」
「ウィリル、どんまい」
予期せぬ戦闘開始となったが、元々オーガは倒す予定の相手である。
白たちも即座に戦闘態勢に入り、オーガとの戦闘が始まった。
「うおぉら!」
まず先陣を切ったのはこのパーティ唯一の近接型であるガンツだ。
雄叫びを上げながら剣を抜き、オーガに大して切りかかる。
「傷口におみまいしてやるぜっと!」
そう言いながらガンツは傷口をなぞるように剣で切りつけた。
剣は易々とオーガの傷口を抉り、オーガは苦悶の叫びをあげる。
「ははっ、オーガに楽々と剣が通るぜ。こんな傷を付けた存在がいるってのは不安だが...っと、今ばかりは感謝だ...なっ!」
見た目からも分かるが、オーガのダメージは深いのだろう。
通常時を知らない白には分からないことではあるが、このオーガは明らかに動きが鈍い。
ガンツはオーガの攻撃を避けながらどんどん傷口を抉っていく。
そして、ガンツがオーガと接近戦をしている中、他の三人はただ眺めているわけではない。
「...............」
ルテラは特に言葉を発することなくひたすら弓を射続け、ガンツの攻撃の合間を縫って的確にオーガの傷口へ矢を当てていく。
そして、白たちはというと、
「現し世にありし雷の理よ、我が言の葉によりて形を成し、轟き猛る雷の龍となれ《雷龍》」
「我が身に眠る魔力よ、雷光となりて敵を撃て《ライトニング》」
白は新しく使えるようになった固有雷魔法を、ウィリルは中級雷魔法を詠唱していた。
二人の詠唱はほぼ同時に完了し、二人の魔法が発動する。
「ガンツさん!」
「ガンツ!」
二人の合図でガンツはその場から退避し、直後に二人の生み出した魔法の雷がオーガへと襲いかかった。
「おお、今日は二人分の魔法なだけあっていつもよりも派手だな」
「相変わらずハクの魔法は面白い」
ガンツはオーガから充分に距離をとっており、二人の魔法を面白そうに眺めていた。
ルテラは弓を射ながらも白の魔法に感心した様子で見ている。
そして、ウィリルと白の二人の魔法が晴れた時、最早死に体となったオーガが膝をついていた。
「さて、そろそろトドメね」
「おう、やっぱ死に損ないが相手なだけあって早いな。んじゃ、トドメ頑張れよ」
「トドメは譲る、ハクに」
ガンツとルテラも白たちの元へと来ると三人が白の肩を叩いてトドメを促す。
「え、僕?」
突然の役目に白はキョトンとした顔で聞き返した。
「こういう時はノリよくやっちゃいなさいって」
「折角のいい機会だしな」
「いいトドメを期待してる」
三人はそう言ってもう観戦モードに入っている。
「え?え?じゃ、じゃあ...」
白は何の魔法でトドメを刺そうか悩みながら自分の右手を見つめる。
「よし、じゃあ折角だから派手にいこうかな」
トドメに使う魔法を決めた白は、右手を天へと掲げた。
白の選んだ魔法、それはまだウィリルたちにも見せたことのない新しい白の固有魔法。
「現し世にありし星の理よ、我が言の葉によりて形を成し、天かける星をここに《落星》」
白の新たな固有魔法、星魔法《落星》の詠唱が完成した。
魔法の発動を待つウィリルたちだが、詠唱が終わったにも関わらず何も起きない。
白の周囲やオーガの周囲を見回すが、何も起きていない。
「失敗...か?」
魔法が発動していないように思える状況にウィリルがそう呟く。
魔法の失敗、特に中級以上の完全に習得していない魔法の行使であることだが、詠唱をきちんと行っても魔法が発動しないことがあり、それを魔法の失敗というのだ。
「ううん、ちゃんと発動してるよ。空で、ね」
ウィリルの呟きにそう返すと、白は掲げていた右手を振り下ろした。
「「「空?」」」
白の言葉にウィリルたちは一斉に空を見上げる。
そして、ウィリルたちは見た。
空から降ってくる星、隕石を。
遥か上空に一つの小さな光が灯った。
空に灯った光は急速にその大きさを増して地上へと近付いてくる。
その光がある程度の大きさになった時、それは光ではなく燃え盛る火の玉のような何か──隕石──だと気づくだろう。
さらに、辺りにはまるで低く唸るような音が響き出す。
その異様な光景に膝をついたまま白たちを睨みつけていたオーガまでもが空を見上げる。
だが、オーガは見ない方が幸せだったかもしれない。
そうすれば絶望を感じることなく死ねたのだから。
空をオーガの目に映るのは自分の元へと迫り来る隕石。
もうあと数秒もしないうちに自分に襲いかかるであろうその隕石を前に、オーガは最後の力を振り絞って立ち上がる。
そして、隕石を受け止めようとするかのように手を伸ばすオーガ。
だが、いくら力自慢のオーガとて隕石を受け止められるわけがない。
隕石がオーガに触れた直後、轟音が響き渡り土ぼこりが舞い上がる。
舞い上がった土ぼこりは周囲に飛び散り白たちの視界を遮った。
「「「..................」」」
魔法で土ぼこりを飛ばすことも忘れてウィリルたちが呆然と立ちすくんでいると、やがて土ぼこりが収まり視界が晴れる。
だが、視界が晴れた時、そこにオーガの姿はない。
オーガのいた場所、つまり隕石の落下地点、そこは地面が抉れ、クレーターになっていた。
そう、あの隕石──《落星》はそこに居たオーガを跡形もなく消し飛ばしたのだ。
流石にやりすぎたかなーと思いながら白がその光景を眺めていると、ウィリルたちが正気に戻ったようだ。
「な、なによこれ...ま、また新しい魔法...よね?」
「こ、これは...ちょいとばかし予想外だったぜ...」
「流石はハク、期待を裏切らない派手なトドメ」
目の前に広がる光景にウィリルとガンツは困惑した様子で呟き、ルテラも平然とした風を装っているが声が明らかに震えていた。
ちなみに、この世界に隕石はないので、ウィリルたちは《落星》で初めて隕石を見ました。
最後、ちょっと、ん?ってなる終わりにしてますが、この後の反応から九話は始まります。
というわけで、次回は九話でお会いしましょう!